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    tobiranomuko

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    HARUコミ吉デン進捗「大人とこどものおもちゃ」(タイトル仮)
    悪魔の力でデにだけ吉が子供の姿に見えるお話。R18です。捏造悪魔が出ます。推敲して加筆修正の予定です。

     ノストラダムスの予言通り恐怖の大王はやってきたがチェンソーマンの活躍のおかげで世界は平和を取り戻せた、のも束の間である。恐怖の大王を倒したとて人間たちが恐怖を忘れない限り悪魔はやってきた。恐怖する人間たちの前に姿を現し惑わし襲い殺していく。そんな人間たちを助けるのがデビルハンターと呼ばれる者たちだ。なかでも公安に所属するデビルハンターはより強い悪魔と契約を交わし人間を襲う悪魔たちと対抗する。死のリスクは高いが給料が高く公安所属を希望する若者たちが後を絶たない。そして死んでいく。死ぬ前に怖気付いて辞職する者も沢山いる。万年人員不足のなかで吉田ヒロフミは変わらず公安デビルハンターを続けていた。民間から公安所属に移行したデビルハンターである。公安は彼が来て歓喜の声を上げた。
     ヒロフミにとっては監獄に入ったようなものである。今まで一人で自由にやってきたが所属することによって自由が制限されるという窮屈感を味わうこととなった。それでも高収入には勝てず公安を続けている。金銭面の他にもヒロフミが公安でデビルハンターを続けるのには理由があった。
     好きな子がいるからである。
     好きな子は公安にはいない。かつて公安にいた子だ。監視という名目で好きな子の傍にいることが出来る。それがヒロフミが公安に残る理由だ。
     名前をデンジという。彼はチェンソーの悪魔を心臓に宿していた。彼こそが世界を救ったチェンソーマンなのである。ヒロフミは彼がチェンソーマンだと知っている数少ない人物だ。彼の平穏を守る為に暗躍していたのにノストラダムスの件で彼に守られてしまった。ヒロフミはそれを別段不甲斐ないとは思っていないがプライドは少し傷ついた。デンジに憎まれても仕方がないことを沢山してきた。それでも未だにデンジはヒロフミの呼びかけに来てくれたり逆にヒロフミを呼ぶこともある。
     世界がひとまず平和になった時のこと。
     ある日の学校の昼休み。屋上で昼食を取っていたときのことだ。ヒロフミは缶コーヒーだけ。デンジはスーパーで安売りしていた惣菜パンを食べていた。
    「俺のこと恨んでないの?」
     ヒロフミが聞けばデンジは平坦な口調で答える。
    「俺のこと邪魔ばっかしてウゼェけど恨んではいねぇよ」
     ヒロフミはデンジの答えを聞いて安心した。デンジは嘘を言わないから。
    「お前さ、まだ俺に付き纏うわけ?」
    「うん。俺がいなかったらチェンソーマンになるでしょ」
    「いてもいなくてもなるけど」
     出会った頃のふてぶてしいデンジに逆戻りだ。心のどこかでヒロフミは出会った頃のデンジに戻ったことを安心した。「普通の幸せ」を噛み締めチェンソーマンになることを諦めさせようとしていたのに。チェンソーマンになり暴れ回っていた彼を見て胸の高鳴りを覚えた。彼が倒れたときに何度も蛸を使役してスターターロープを引いた。ヒロフミ自身満身創痍だったのに自分の力が尽きてもいいからデンジのサポートに回った。その後ヒロフミは全治三ヶ月の怪我を追うが現在は回復してデビルハンターとして復帰している。
    「お前ってデビルハンター辞めようとは思わねぇの?」
    「思わないよ」
     辞めてしまったらデンジと関わる口実が無くなるからである。
    「金が沢山手に入るし今更就職してもすぐに辞めそうだしさ」
     嘘では無い。ヒロフミ自身心底この仕事が向いていると身を持って知っている。
    「せんとうきょうってやつ?」
    「失礼な男だな君は」
     苦笑いしている様をデンジに見せる。
     あながち間違ってはいないのかもしれない、とヒロフミは自嘲気味に笑う。金も好きだし悪魔を殺すことも好きだ。弱いものイジメではない。強い悪魔と対峙する時が一番興奮する。どちらが先に倒れるかの瀬戸際を味わうことがヒロフミは好きだ。
    「死ぬの怖くねぇの?」
    「うん?」
    「俺よぉ、自分が死ぬのは怖くねぇよ。ただポチタを残すことが嫌だった。俺はもう死ぬってことはねぇのに今死んだらナユタはどうなっちまうんだって思った。でもこれって怖いっていうのか」
     デンジの問いかけに対してヒロフミは直ぐに答えを出すことが出来なかった。
     ヒロフミにも覚えがある感情だからだ。
     自分が死ぬのは怖くない。けれどデンジのことを考えると死にたくはなかった。それは『怖い』という感情とは違うのかもしれない。
    「怖いって感情とは違うと思うよ」
    「ふぅん」
     ヒロフミに答えにデンジはイマイチ納得していなかった。それは彼が死を味わうことがこの先ないからだとヒロフミは考える。
     よく「この戦いが終わったら結婚するんだ」という謳い文句がある。ヒロフミは戦いが終わってもデンジと結婚するわけでもなく告白するわけでもない。以前と同じような距離感である。
    「デンジくんはさ俺が死んだら悲しい?」
    「わかんねぇ」
    「そう」
     ヒロフミはデンジの答えに対して特に不満はなかった。「わからない」という答えは少なくとも完全に否定しているとは言えないからだ。
     デンジはヒロフミのことを嫌っていないことがわかるから。
     フミコから聞いた。入院中、デンジはヒロフミが目覚めない間毎日病室に通っていた、と。デンジからは口止めされているらしい。約束を破った悪い後輩である。退院した後でフミコに回らない寿司を奢った。その後でカラオケオールナイトに付き合った。
     デンジの前では知らないふりをした。
    「でもお前が死んでも泣けねぇと思う」
    「うん」
    「お前が死んで三日くらいしたらお前のこと忘れて俺はナユタと一緒に苺パフェ食ってると思う」
    「忘れちゃうの?」
    「顔くらいならたまに思い出してやるよ」
    「うーん……ありがとうと言っておくよ」
     三日間だけでも覚えててくれるならそれでいい。ヒロフミはデンジに対しての幸せの規模が日に日に小さくなっていった。それは喜んでいいものなのか。デンジの隣にいられるだけで充分。それがヒロフミにとっての幸せである。
    「じゃあ今度の土曜日苺パフェ奢ってあげる」
    「えっ、マジで?」
    「ナユタちゃんも連れてきていいよ」
     苺パフェと聞いて目を輝かせるデンジは可愛らしい。ヒロフミはデンジの頭を撫でたい衝動に駆られる。手を伸ばすがすぐに下ろした。拒絶されることが怖い。臆病になったものだとヒロフミは自嘲する。
    ***
     土曜日。 
     ヒロフミは待ち合わせ場所であるフルーツパーラーへ足を運んだ。食べ終えたら仕事に戻るつもりでいる。なのでヒロフミは公安のスーツでやってきた。このフルーツパーラーはフミコから教えて貰った場所である。『苺パフェならおすすめのお店ありますよ』とヒロフミとデンジに地図を書いたメモを渡した。ヒロフミがデンジに『迎えに行くよ』と言ってみるが断られる。一緒に行った方が迷わなくて済む、と提案してみるも『お前と並んで歩きたくねぇ』と言われた。流石に少し傷ついた。傷ついたことを伝えてみると申し訳なさそうな表情を見せてきたので許した。可愛い、と思ったことは秘密である。
     ふと窓の外を見ると見覚えのある人影が見えた。高校生くらいの男子と小学生くらいの女児が手を繋いでフルーツパーラーへ近づいてくる。デンジとナユタだ。デンジの方はオレンジと白のスタジアムジャンパーに白いパーカー、下はデニムのパンツ、スニーカーを履いている。ナユタの方は水色の襟付きワンピースに黒のレギンス、スニーカーを履いていた。ナユタと目が合うと指をさされる。デンジとも目が合う。手を振ってみるとデンジは手でブイサインを出した。ナユタが笑っている。なぜ笑っているのかわからなかった。
    ***
     デンジとナユタが店に入ってくる。店員に案内されて二人はヒロフミの向かいの席に座った。
    「なんで笑ってたの」
    「お前がパー出したからチョキ出したんだよ」
     小学生か。
     ヒロフミは口に出しそうになったが耐えた。
    「あとナユタちゃん、人を指さしちゃダメだよ」
    「なんで?」
     ナユタは心底わからないというような目をヒロフミに向ける。ヒロフミはデンジの方を見た。
    「デンジ君、ナユタちゃんにどういう教育してるの」
    「教育テレビ」
     教育テレビ。
     最近の教育テレビはどうなっているんだ。
     ヒロフミは考えるのを止めた。
    「ナユタ、吉田が苺パフェ奢ってやるって言ってんだからお礼言えよ」
    「吉田ありがとうございます。いただきます」
     ナユタはヒロフミに対して軽く頭を下げた。
    「教育テレビ?」
    「いや? これはアキおじさん。なぁナユタ」
    「またアキおじさんの話すんのぉ?」
    「そんなしょっちゅう話してねぇじゃん」
     アキおじさん。
     しばらく考える。頭のなかで早川アキの顔が浮かんできた。デンジの護衛のときに一度会ったきり二度と会うことはなかった彼。今のデンジを育て上げた親のような存在。嫉妬しない、というと嘘になる。それでも彼がいなかったら今のデンジは存在していなかった。そう考えるとヒロフミは複雑な心境となる。
    「おじさんは可哀想でしょ。あの人まだ若かったんだし」
    「いいんだよ。おじさんで」
     ヒロフミは自分で言ってて胸になにか引っかかるようなものを感じた。闇の悪魔との戦いで左腕を失った早川アキ。ヒロフミ自身はクァンシによって闇の悪魔の難を逃れた。あのままデビルハンターを止めて戦線離脱すれば寿命まで長生き出来たのではないか。デンジは兄のような存在だったアキを自らの手で殺した。アキは二度の死を味わった。一度目はマキマに殺され、二度目はデンジに殺された。尊厳破壊もいいところである。それでもアキは幸せだったのではないか。血は繋がってないにしろ家族の手で終わらせられた。
     駄目だ。考えれば考えるほど嫉妬を覚えてしまう。デンジとアキは兄弟のような関係性だ。そこに色恋はない。死者に嫉妬しても意味はない。なのに嫉妬が止まらない。
    「お待たせしました。苺パフェのお客様」
     ウェイトレスがデンジとナユタの前に苺パフェを置いた。二人は目の前におかれた苺パフェを見て目を輝かせる。二人とも似たようなタイミングで向かいの席についているヒロフミを見た。涎を垂らす勢いである。似た者同士だ。血の繋がりはなくても一緒に暮らしていれば似てくるのだろうか。
    「召し上がれ」
     ヒロフミがそう言うとデンジとナユタは手を合わせる。
    「いただきます!」
    「いただきます!」
    「うん。二人とも声大きいからもう少しボリューム落とそうね」
     ヒロフミの話を聞いてる素振りは見せずにデンジとナユタは苺パフェに食いついた。
    「甘い!」
    「美味い!」
    「おかわり!」
    「おかわりも奢るから静かにしようか!」
     ヒロフミが声を上げると店内が一瞬静まりヒロフミたちの席を注視した。「すみません」とヒロフミが周りに頭を下げる。
    「吉田が一番うるせぇよ」
     デンジに指摘される。イラついた。
    「ふざけるなよ」
    「あっ、……ごめんなさい」
    「ごめんなさい」
     ヒロフミの怒りが通じたようでデンジとナユタは素直に謝った。
     それからは静かに食べてる二人。声は出さないが二人から幸せのオーラが見えている気がした。ヒロフミは自然と顔が綻ぶ。その事を本人は気づいていない。
    「あっ」
     ナユタがスプーンで掬ったアイスを襟元に落としてしまう。ヒロフミが反応する前にデンジがポケットティッシュを出してアイスを取り除く。おしぼりで汚れた部分をトントンと軽く叩いていた。
    「取れる?」
    「大丈夫だって。帰ったらすぐ洗濯しなきゃだけど」
     泣きそうな顔になっていたナユタだったがデンジの答えを聞いて安堵の表情を浮かべる。
     ひと通り作業を終えるとデンジはティッシュでナユタの口元を拭いてやった。
     家でもああやって甘やかしているのだろう。甘やかしすぎではないか。
     ヒロフミはデンジとナユタのやり取りを見てイラついてしまう。
     子供の特権だ。無条件で甘やかされて甘い言葉やボディタッチが増えていく。こっちは頭を撫でることすら躊躇するのに。
     みっともない。
     子供にまで嫉妬している。
     デンジに気持ちを伝えられない。デンジに触れられない。様々なフラストレーションがヒロフミのなかで膨れ上がっていった。
     それを押し殺すかのようにヒロフミは「お金置いていくからもう出るね」と言い財布から一万円を取り出しテーブルの上に置く。これ以上一緒にいるとナユタに八つ当たりしてしまいそうだ。
     脱いだコートを脇に抱えて立ち上がる。
    「吉田……」
    「お釣りあげるよ。じゃあね」
     ヒロフミは颯爽とフルーツパーラーから出た。
     子供だ。
     好きな子を独占したい。
     その気持ちを強く抱えながらヒロフミは公安に戻った。



    2
     ヒロフミはデンジたちと別れた後で携帯が鳴る。フミコからだ。すぐに出た。
    「応援頼めます?」
    「いいよ。どこ?」
     フミコから場所を聞く。走って行けば十分ほどでたどり着けるが体力をあまり消耗したくはないのでタクシーを探す。運が悪いことにタクシーが見当たらない。タクシーで行く選択肢は捨てることにした。電話に出ている間にヒロフミは左手はコートを抱え右手は携帯電話を耳に当てながら走り出した。
    「どんな悪魔?」
    「あー……怪我人も死者もいないんですが被害が増えてまして」
    「どういうこと?」
    「来てみればわかるッスよ。あ、応援がやられたんで一旦切ります!」
     フミコは自分の言いたいことだけを言って電話を切った。
     怪我人と死者はいないが被害は拡大している。精神を干渉する悪魔か。対処法が見つからない限りは倒せなさそうな悪魔だと推測する。
     物理的に強い悪魔の方が倒しやすい。なぜならば弱点も単純だからだ。こちらの力が強ければゴリ押しで倒せる。精神攻撃主体の悪魔はギミックが分かりづらくやりづらい。
    ***
     ようやく目的地にたどりついた。ヒロフミは徐々に速さを緩めていく。
     目の前に広がる光景を見てすぐに異様さはわかった。
    「あ、吉田隊長!」
    「三船、これどういう状況なの?」
    「子供の悪魔が好き放題して大変ッスよ!」
     子供の悪魔。
     惨状を見て納得した。
     子供が大人の服を着て戸惑っている者が何人かいる。大人だった者が子供になったのだ。
     見た目は大人なのに赤子のように泣き喚く者がいれば地面に座り込んで涎を垂らしながら笑っている者もいる。
     見た目も心も子供に戻っている者もいる。
     人によって被害の内容が違う。
    「本体は?」
    「アレッスよ」
     フミコが指差した先を見る。
     人間の姿に近い悪魔がいた。少年とも少女ともどちらでも捉えられる中性的な見た目をしていた。
     子供の悪魔は宙に浮いている。
     蛸で締め上げるか。逃げられそうなので蛸を使役することは一旦止める。
     ヒロフミは子供の悪魔に近づく。子供の悪魔はヒロフミに気がつくとにやついた。
    「なぁに? キミもボクのことをやっつけにきたわけ? 何も悪いことしてないのになぁ。かなしいよ。ニンゲンたちって悪魔みたぁい。シクシク……」
     泣き真似をしてみせた。完全に人間を馬鹿にしている体である。 
    「目的はなんだ?」
    「目的ぃ? 人間を使って遊んでるだけ。久々にこちらの方にきたんだ。楽しまなきゃ損でしょ? 」
     快楽主義。悪魔のようなヤツである。悪魔だった。
     ヒロフミは笑ってしまう。
    「今すぐ攻撃を止めてくれないか。今やめれば無傷で済ませてあげるよ」
     ヒロフミは牽制の為に蛸の姿を子供の悪魔に見せつけた。子供の悪魔はキョトンとした表情を見せた後で笑いだした。
    「えー、なにそれ。ボクのこと脅してるわけ? 子供だからぁちょっと脅せば屈服させられると思った? 子供はねぇ無敵なの。怖いもの知らずなんだよぉ」
     煽られている。
     ここで反応してしまったら負けである。
     ヒロフミは蛸が前に出るのを止めた。攻撃を仕掛けるのにはまだ早い。
    「あ、お兄さん。ボクのこと攻撃しようと思ってる? ボクは超ザコ悪魔なんだよねぇ。その蛸さんの足で攻撃されちゃったらすぐ死んじゃうのぉ。ボクが死んだら大変なことになっちゃうんだよぉ」
     会話の最中の声のトーンを何度か変える。イラついてくる喋り方だ。人間に例えるなら『ぶりっ子』である。これは子供の悪魔の挑発だ。ヒロフミは冷静さを保つ。
    「大変なこと?」
    「うん。だからボクを殺すことはおすすめはしないよ。ちなみにボクの弱さはRPGゲームに例えるならMPは無限にあるけどHPは一しかない。でもボクを殺しちゃったら子供になっちゃった人間の大人たちが大変なことになっちゃう」
     子供の悪魔は肝心なことを言わない。問いただしてもはぐらかされるに違いない。子供の悪魔から発せられる情報が全て正しいとは限らない。全て嘘なのかもしれない。
    「術を解除してくれないか」
    「ストレート過ぎません!?」
     フミコからツッコミが入る。ヒロフミも何が正解かわからず混乱している自覚はあった。子供の悪魔は手を叩いて大笑いする。笑いすぎて涙が出ていた。
    「笑い過ぎッスよ!」
     フミコは子供の悪魔にもツッコミを入れた。
    「あー……お腹痛い……。はぁ……嫌に決まってるじゃん。めんどくさい。あのさぁ、ボクは別に命奪ってるんじゃないんだよ。それに時間が経てばちゃんと元通りになるから安心して。まぁ、元通りになるのはボクが生きてたらの話だけど」
    「つまり君が死んだら一生このままってことか。時間っていうのはどのくらいの時間だ」
    「そんな一気に質問しないでよぉ。そのくらい自分で考えてよ。大人でしょ?」
     イチイチ気に触る言い方をする。子供の悪魔はヒロフミを見てニヤついていた。
    「あーあ、ボクもう疲れちゃった。お兄さんが変なことばっか聞くからだよぉ。せっかく楽しんでたのにさ。罰としてお兄さんに悪戯しちゃうんだからね」
     ヒロフミの身体がゆっくりと宙に浮く。そのまま高速移動で子供の悪魔の目の前まで来てしまう。
    「蛸!」
     蛸を呼び出してみるも蛸の足が出てこない。何度も印を結ぶも蛸がいうことを聞かない。
    「蛸!」
    「吉田隊長! コイツに攻撃出来ないんスよ! 引き金が引けないし悪魔呼び出しても攻撃通らないし!」
     フミコは叫ぶ。ヒロフミは閉眼し額に指を当てる。フミコに対して叫びたかった。「それを先に言え」と。だからこの惨状なのか。合点がいった。
    「もうごちゃごちゃうるさぁい。もう始めちゃうからね」
     子供の悪魔が指を鳴らす。目の前に巨大なガチャが現れた。何が起きるか想像がつかない。
    「はぁい回しまぁす」
     子供の悪魔はそう言うとガチャハンドルがひとりでにゆっくりと回る。金色の丸いケースが出てきた。
    「凄っ! お兄さんレアじゃん! あー、でもこれって人間によってはつまんないんだよねぇ……まぁいいや」
     子供の悪魔がそう言うとヒロフミの身体全体が金色に輝く。輝き終わるとゆっくりと地面に足が着いた。
    何が起きたかがわからない。何も変化がないのだ。悪魔の術がかかっていることは間違いないはずなのに。
    「ほんっと消化不良なんだけどぉ……あーあ……。あ、お姉さんのことも」
     子供の悪魔がフミコに狙いを定める。ヒロフミはフミコの所まで走っていくが間に合わない。
     反対側から走る足音が聞こえてくる。徐々に近づいてくる。
     聞き慣れた音だ。
     ヴヴヴヴ……
     音が段々と喧しくなっていく。
    「へっ?」
     子供の悪魔が目の前にやってきたそれを確認する前に振り落とされたチェンソーで身体が真っ二つになった。
    「あっ」
    「あっ」
     ヒロフミとフミコは声が出てしまう。
     身体が真っ二つになった子供の悪魔は地面に倒れ込んだ。人の姿をしている為内臓も人のものだった。色んなものが飛び出てきており地面に散らばっている。
     秒単位の差でチェンソーマンもといデンジしゃがむような体勢で地面に着地した。両手のチェンソーは子供の悪魔の血で汚れている。
    「あぁ? なんだよ……もう終わりかぁ? やり返してこいよぉ……」
     ゆっくりと腰をあげたデンジは倒れている子供の悪魔を見下ろす。
     フミコは開いた口が塞がらない。
     ヒロフミは閉眼し額に手を当てていた。
     何も見たくなかった。
    ***
     子供の悪魔は真っ二つになったもののまだ生きていた。
     すぐに死ぬ、と言ったのに普通に生きている。
     生きているとわかるとデンジは愉快そうに笑い「続きしようぜぇ!」なんて言って子供の悪魔に迫るもフミコに止められた。
     子供の悪魔は声を上げて泣いた。ギャン泣き、という表現がよく似合うような泣き方である。
    「みんなちゃんと元に戻すからぁ! だからもうこれ以上痛いことしないでぇっ!」
     デンジの攻撃が余程痛かったのだろう。
     術にかかった人間たちが次々と元の姿に戻っていった。 
    「すぐに死ぬんじゃなかったのか」
    「死なない! 嘘ついてごめんなさぁい!」
     ヒロフミの問いかけに子供の悪魔はすぐに嘘だと吐いた。
    「なんで私たちは攻撃出来ないでデンジ先輩の攻撃だけ通ったんスか?」
    「うぅ……ボクは子供の悪魔だから……子供の攻撃しか効かないんだ……でもデビルハンターはみんな大人だし誰もボクの邪魔できないって思ってたのにぃ……」
     フミコの問いかけに対して子供の悪魔は種明かしをした。
     デンジは未成年である。子供の悪魔の弱点は子供。だから終始ヒロフミたちに舐めた態度をとっていたのか。わざわざつかなくてもいい嘘までついていたことがわかり手間をかけさせられてイラついてしまう。
     ヒロフミはデンジの方を見る。ナユタはどこかに隠れていたのか。周囲が安全だとわかるとデンジの傍にきて手を繋いだ。デンジもナユタの手を握り返す。
     デンジがナユタを甘やかしている光景を見るのが嫌だから早く喫茶店から出たのに再びみる羽目になってしまう。ヒロフミは余計にイラついた。子供の悪魔の件と重なりこの怒りをどう抑えようかと考えている。
     それと同時にヒロフミは気づいたことがあった。
     デンジの行動が先程から不自然である。周りを見渡している。なにかを探しているような体だ。
    「デンジどうしたの? ウンコ?」
    「いや……」
     デンジはヒロフミを見るも顔を見なかった。目線が下を向いている。
    「なぁフミコォ」
     ヒロフミの方が位置的にはデンジに近い。なのにデンジはフミコを呼んだ。ナユタと目が合う。ナユタはデンジとヒロフミの顔を交互に見たあとでまたヒロフミを見る。
    「ねぇデンジ。すぐそばに吉田がいるんだから吉田に聞けばいいじゃん。悪魔のこと聞きたいんでしょ?」
     ナユタはデンジの服の裾を引っ張りデンジを振り向かせる。デンジはナユタが指差す方を見る。目線が下を向いていた。
    「吉田……? どこにいんだよ?」
    「えっ、いるじゃん……」
    「は? ナユタ何言ってんだよ……コイツは吉田に似てるけどガキじゃんか……」
     デンジが何を言っているか理解が追いつかなかった。悪魔であるナユタもデンジの言動に戸惑いを隠せていない様子が見られる。
    「似てるんじゃなくてコイツは吉田だよ。何言ってんの?」
     ヒロフミは冷や汗が出てきた。さっきからずっとデンジと目が合わない。
    「デンジ君。俺がわかる?」
     ヒロフミはデンジに話しかけてみる。下を向いたままデンジの目線は変わらない。
    「えっ……わからねぇ……なんで俺の名前知ってんだよ……?」
    「俺は吉田ヒロフミだよ。デンジ君……」
    「えっ、だって……吉田は大人だろ?」
     目線が一向に変わらないデンジに焦燥感を募らせる。ずっと目が合わない。
    「いい加減俺の目見て話してよ……」
    「目ぇ見て話してるけど……お前ほんと誰だよ……」
    「……デンジ君には俺がどんな風に見えてるの?」
     何が起こっているんだ。
     ヒロフミはデンジに聞いてみた。
     明らかにデンジだけ様子が違う。
     デンジに自分こそが吉田ヒロフミだと認識されない。
    「ナユタと同じくらいの年のガキ……」
     ナユタの顔とヒロフミの身体を交互に見る。
     デンジはヒロフミの目を見て話しているようだった。デンジの目にはヒロフミの姿が子供に見えている。
     これが子供の悪魔にかけられた術だとすぐに理解した。レアだと言っていた。術をかけられた対象はヒロフミである。なぜデンジに影響しているのか。
     ヒロフミは息絶えそうになっている子供の悪魔のところへ向かう。
    「俺にかけた術はなんだ。早く解除しろ」
     ヒロフミはそう言うと子供の悪魔は高笑いし始めた。不快な声だ。殴ってやりたい。攻撃が通らないから殴れない。余計に腹が立つ。
    「教えないもーん! まさかかかるなんて思わなかったぁっ! やったぁっ! ざまぁみろ!」
    「……術の解除をしろ」
    「できないもん」
    「は?」
    「レアって言ったでしょ? これにかかったら条件を満たさない限りずぅっとこのままだよ! あははははは!」
     殴りたい。
     たこ殴りにしてやりたい。
     ヒロフミは下唇を噛み締めた。
     子供の悪魔の身体が徐々に薄く消えていく。消滅する前になんとか聞き出さなければ。
    「しょうがないからヒントあげるよ」
    「ヒント?」
    「なぁんて……教えるわけねぇだろぉっ! ばーか!」
     捨て台詞を言い残し子供の悪魔は消滅した。
     ヒロフミは消滅した跡を思い切り踏み潰す。それを見ていたフミコの身体が震え上がった。
    「すみません……」
    「どうして三船が謝るの?」
    「いやだって……」
     フミコは申し訳なさそうにヒロフミを見つめる。フミコは手を尽くした。それがわかるからヒロフミはフミコを責めるという選択肢を思いつかない。
    「ありがとう。伝えてくれて」
     フミコの頭を撫でる。
     
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