原稿の進捗②「零くん? いるんでしょ?」
薫は数日ぶりに件のマンションにやって来た。今日は女の子を連れてはいない。素直に零に会うためにやって来た。「会いに来るから」と約束をした。今日がようやくその再会の日に相応しいのだ。
部屋の明かりがついていたから零が中にいるのだろうと踏んでいたのだが、リビングルームに彼の姿は見当たらない。薫が様子を伺うように辺りを見渡していると、背後からひたりと静かに人の足音がした。
「わっ、……びっくりした」
気配に振り向いた薫は咄嗟に息を呑む。そこには零が立っていた。濡れた素肌にバスローブを纏わせ、やおら立ち尽くしている。
「なんだ……シャワー浴びてたの?」
バスローブから覗く零の長い脚や白い胸元は、当然ながら彼の素肌そのものを晒していたが、薫は見てはいけないものを前にしているような気持ちになった。初めて零と会った日もこうしてシャワーを終えた零と対峙したことを思い出す。あの時は動揺のあまりに気付いていなかったが、衣服の下に隠されている彼の素肌はなんと清らかな色気に溢れていることか。まるで誰にも踏み荒らされた事のない、積もりたての真雪のようだ。
1679