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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    転生ショタア(成長する)×不老不死デ

    黄昏時のタイムラプス 2―02――02―
    倒れた青年を助けるため、アキは大人を呼びに行こうとした。そこから何百メートルか歩けば、民家があるはずだった。
    しかしアキが立ち上がった時に、既に人がこちらに近づいて来ていた。近所では見かけたことのない、知らない老人だった。

    「私は『チェンソーマン』を支持する医者です。彼を助けます」

    老人はそう言った。
    『チェンソーマン』?
    アキは耳を疑ったが、彼を助けると言う老人に黙って従った。幼いアキに、彼を助ける術はなかったからだ。

    彼は血塗れの青年を、森の中に運んで行った。その森の中には、アキの知らない小さな家があった。まるで他の住民から隠れ潜むように、その家はひっそりと存在していた。

    「ここは…?」
    「彼の家です。私は彼から助けを求める連絡があった時だけ、出入りを許されています」

    アキが付いていっても、老人は特に何も言わなかった。アキは青年から離れたくないと思っていたので、そのまま一緒に家に入り込んだ。

    そこはうら寂しい、狭い家だった。まともな料理ができるのか怪しいほど小さなキッチンが付いているだけで、家具もほとんどない。生活のための必要最低限のものだけが置いてあり、寝床はハンモックしかないようだった。
    ――彼は、ここに住んでいるというのか?
    幼いアキは、大いにショックを受けた。

    老人は気を失ったままの青年を床に横たえて、治療を施した。老人のリュックサックに入っていた最低限の治療用具を使って、手際よく処置が行われていく。アキはそれを、真横でじっと見つめていた。
    一番驚いたのは、老人が切断された青年の腕を無造作にくっつけたことである。アキは呆気に取られたが、なんと青年の腕は、それで元の通りにくっついたようであった。

    老人は彼の傷口からすっかり異物を取り除き、消毒をし、包帯を巻いた後に去っていこうとした。アキは、慌てて確認した。

    「あの。俺は、ここに残っても良いですか」
    「私は判断しかねますが、彼は良いと言うでしょう。貴方のことは聞いていますから」
    「……?」

    ――アキのことを、聞いている?
    アキは不思議だった。この麦穂色の髪をした青年とは、面識なんてないはずだ。

    しかし、この青年は先ほど自分のことを"アキ"と呼んだ。彼と自分の間に何かしらの事情がありそうなことは、確かである。彼は自分のことを、一方的に知っているのかもしれない。あるいは、アキ自身が知らないうちに、会ったことがあるのかも。
    アキはそのことに対して、恐怖や嫌悪を感じることはなかった。ただ――この青年とはちゃんと話をしなければいけないと、強く思っただけである。だって彼とは何故か、初めて会った気が、全くしなかったから。

    アキはそのまま、青年と一緒に残ることにした。彼が目覚めるまで、じっと待つことに決めたのだ。アキは眠る彼の横に座って、その顔を飽きずに見つめていた。

    年は15、6と言ったところだろうか。先ほどの苛烈な闘い方に反して、眠っている顔は存外幼かった。睫毛が髪と同じ色をしていて、彼の髪色が彼の生来のものであるとわかる。その頬にはまだ少しだけ、子ども特有の丸みがあった。少し開いた口からは、ギザギザの歯が覗いている。

    今日この青年とちゃんと話さないと、彼はここから消えてしまう――幼いアキは何故か、そう直感していた。

    老人はこの青年のことを、『チェンソーマン』と言っていた。
    『チェンソーマン』については知っている。アキが生まれるずっと前に、悪魔を沢山倒して一大ブームとなったヒーローだ。誰だって、一度くらいはその話を聞いたことがあるだろう。
    しかし今現在は、彼の活動の話はとんと聞かない。だからきっと都市伝説的な存在なのだと、アキは今まで思っていた。
    彼がその、くだん の『チェンソーマン』だと言うのだろうか?
    確かに彼はチェンソーを出して闘っていたが、チェンソーマンの正体がこんなに年若い男だったなんて、意外だ。というか、それでは計算が合わない。

    もしかしたら彼は、年を取らないのではないか?アキはそう考えた。
    先ほど腕が元通りにくっついた現象も、普通の人間ではあり得ないことだ。彼はこの世の常識を、超越した存在なのかもしれない。だからこんな小さな家で、世間から隠れるようにして生活をしているのかもしれない……。
    まだ8歳のアキがその頭を一生懸命に働かせていると、青年がゆっくりと瞼を開けた。
    隙間から覗いた黄昏色の瞳が、とても綺麗だった。ぼんやりとした目が、じっとアキを見ている。彼はまだ意識がはっきりとしていないようで、夢と現実のはざま にいる様子だった。

    「アキ…………?」

    青年は、再度アキの名前を呼んだ。やはり、聞き間違いではなかった。アキは頷いて見せる。

    「うん。アキだ。俺は、早川アキ。あんたは?」
    「俺ぇ…………?俺は…………デンジ」
    「デンジ」

    アキは宝物みたいにその三文字を口に出して、心に大切にしまい込んだ。とても懐かしくて、泣きたくなるような心地がするのは何故だろう。
    夢うつつだったデンジは、今になってようやく頭が冴えてきたようだった。アキにはっきりと焦点の合った目が、ゆっくりと見開かれていくのがわかった。

    「デンジ」
    「うぇっ!?あ、ああ……えっとお……」
    「ありがとう、助けてくれて」
    「あ、べ、別にぃ?たまたま、通りがかったからよー……」

    デンジは明らかに狼狽し始めた。アキがここにいるのが現実だとわかって、動揺しているようだ。
    やはりこのままでは逃げられて、二度と会えなくなる気がする。いま、事情を聞き出さねばならない。そう感じとったアキは、畳み掛けることにした。

    「なあデンジ、何で俺のことを知ってたんだ?俺たちは、どこかで会ってるのか?」

    デンジはその三白眼を、ひときわ大きく開いた後――顔をサッと俯かせ、唇を震わせた。それは堪えきれない痛みに耐えるような、寂しそうな顔だった。

    「……た、たぶん、言っても信じてもらえねぇ……」
    「信じる」

    アキは迷いなく断言した。デンジの骨ばった大きな手に、自分の小さな丸い手を重ね合わせる。

    「デンジの言うことを信じる。だから、話して欲しい」
    「お前…………」

    デンジはしばらく躊躇した後、まるで参ったと言うように、くしゃりと苦笑した。何かを懐かしむような、そんな優しさがそこにはあった。

    「……わかった。いちおー話すぜ……」


    それからデンジは、『早川アキ』の話をしてくれた。

    覇気がないけれど妙に心地よい声で紡がれるそれは、アキが生まれる前に生きた『早川アキ』の、数奇な人生の一部であった。
    銃の悪魔の襲撃。復讐のための人生。公安で『アキ』とデンジが出会ったこと。同じ屋根の下で、パワーと言う悪魔と3人で暮らしたこと。マキマと言う支配の悪魔に利用されていたこと。魔人となった『アキ』を――デンジが、殺したことも。

    アキは彼の生まれ変わりなのだと、デンジは言いにくそうに話した。同じ魂を持っていると悪魔が話していたから、間違いないのだと。

    「……なぁ?信じられねぇだろ?」
    「信じるって言っただろ」

    世の中を諦め切ったような声を出すデンジに、アキはムッとして答えた。デンジはきょとんとした後、堪えきれないと言った風に、にへらと笑い出した。

    「ふは。……やっぱ、アキはアキなんだな」
    「……俺って、その『アキ』に似てる?」
    「すげ〜似てる。そっくり。つか、本人そのもの、みたいな?せーかくも多分似てるし、顔も成長したら俺の知ってる『アキ』とおんなじになるんじゃね?それによぉ〜……」

    デンジはそっとアキの目元をなぞった。

    「目が……一緒だ…………」

    そう言ったデンジの表情には、アキのまだ知らない感情が滲み出ているようだった。
    細められた黄昏色の瞳に滲むそれが何なのか――――幼いアキには、まだわからなかった。


    ♦︎♢♦︎


    アキはすっかりデンジに懐き、その家に入り浸るようになった。
    二人が出会ってから一年近くが経ち、アキはもう9歳になっていた。
    デンジは一応、アキの前から消えることはなく、森の中の小さな家に変わらず住んでいる。変わったのは、家に物が増えて賑やかになったことくらいだ。

    アキはまだ幼かったが、何故かデンジの世話を焼く羽目になった。二人は出会ってから、大体いつも一緒にいた。デンジには、目を離したら何処かへ消えてしまいそうな危うさがあったのもあるし、単純に一緒にいるのが愉快だったのもある。
    デンジは適当なのに丁寧で、幼稚なのに達観していて、楽観的なのに厭世的という、いびつで変な奴だった。なんだかアキは、こいつと一緒にいれば飽きることはないな、と強く思ったのである。

    それにやはり、デンジは不老不死だった。長く生きてきたから、アキの知らない世界の話を沢山話して聞かせてくれたのだ。閉ざされた世界にいたアキは、何度もデンジの話をねだった。
    勿論『早川アキ』の話は、一等面白い。もう何度も何度も、覚えてしまうくらいに聞かせてもらっていた。


    そんなある日の、ことだった。

    「な〜アキぃ、また何か届いてんだけど」
    「デンジの服、買い足した。寒いんだから、もっと厚着しろよ」

    デンジが困った顔で段ボールを持ってきたので、アキは説教をかました。デンジの生活が適当すぎるので、いつも気が抜けないのである。

    デンジは放っておくと、何もついていない食パンくらいしか食べない。全然厚着せず、いつも同じ服を着て寒そうにしている。もともとこの部屋には、ろくな食器すらなかったのだ。アキはすっかり呆れ果てたものだ。
    だからアキは、デンジのPCを通じて、通販で色々な物を注文してやった。食べるものに、着るもの。食器や家具まで、細々と。「別に自由に注文してい〜ぜ」と、デンジからは最初に許可を取っているから問題ない。デビルハンターは儲かるらしく、彼は金に不自由しているわけではないのだ。

    「俺、風邪とかひかねぇもん。こんなに服いらね〜よ。死んでも生き返るしよお」
    「そういう問題じゃない。ちゃんと温かくしないと、デンジが辛いだろ」

    今日もアキは怒る。デンジは自分自身を、いつもないがしろにしていたからだ。もっと自分を大切にしろと、もう何度も何度も怒っていた。
    しかしその度にデンジはくすぐったそうな、とても懐かしそうな顔で、くふふと小さく笑うのだ。今もまさに、そうだった。

    「『アキ』とおんなじこと言ってらあ」
    「だろうな」

    アキには、自分の前世の『早川アキ』が他人だと思えなかった。だって彼が何を考え、どんな風にデンジに接していたか、何となくわかってしまうのだ。

    ――こいつは危なっかしい。放っておけない。

    日々そう感じるアキは8歳にして、ずっとずっと年上のはずのデンジの面倒を見ずにはいられなかった。『アキ』も、きっとそうだったに違いない。

    「まあ、あんがとな。ココア入れたぜ〜」
    「ん。飲む」

    『アキ』はブラックコーヒーを好んでいたらしいが、今のアキはまだ子どもなのでコーヒーなんか飲めない。デンジはアキのために、ココアの粉と牛乳を常備するようになった。小屋に来るたびに、小鍋で二人分を作って入れてくれるのだ。マグカップはひとつしかなかったので、アキが通販で自分のものを買った。二人でそれを飲みながら適当な話をするのは、もうお決まりの光景である。
    デンジはこう見えて、それなりに丁寧な料理ができた。そういうことは、『アキ』に全部教わったのだと言う。

    「お前さあ、こんなとこに入り浸って。友達いねーのお?」
    「いるよ。学校にはちゃんといる」
    「ふーん?」
    「そ。それに……」

    アキは言葉をそこで区切り、落ち着きなくココアのカップを持ち直した。今から言うことを口にするのは、少し緊張したからだ。

    「デ、デンジは…………俺の、友達、だろ」
    「………………え」

    デンジは、口を開けてぽかんとしている。アキは不安になった。やっぱりこんな子供の自分が、デンジの「友達」だなんて無理があっただろうか。
    でも、アキはもうすっかりデンジのことが好きになっていたし、自分たちは友達になれているのだと思っていた。そう、思いたかった。

    「だ、駄目か……?」
    「い、いや……駄目じゃ、ねえ……」

    アキがデンジを窺っていると、なんとデンジの顔から首は、みるみるうちに真っ赤になっていった。
    アキは瞠目した。窓から差し込む黄昏の光に照らされて、赤く染まった肌はさらに赤みを深めていた。
    柔らかそうなそれに触れてみたいと、アキは衝動的に思った。

    「友達、かぁ…」
    「う、うん」

    デンジは大事そうにその言葉を言った後、アキをまっすぐに見つめ直した。細められた黄昏の瞳がキラキラ輝いて、その頬はすっかり上気したままだった。


    「嬉しい…………アキ」


    そう言って、蕩けるように笑ったデンジは。
    とても――――綺麗だった。

    それを見た、瞬間であった。
    アキの世界が、すっかり変わってしまったのは。


    デンジはアキなんかより、ずっと年上なのに。
    彼はアキを悪魔から助けてくれた、恩人なのに。
    彼はきっとアキじゃなく――『早川アキ』を、特別に思っているのに。


    その瞬間、アキは。
    前途多難な、初恋の泥沼に落ちてしまったのである。
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