Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 97

    かわい

    ☆quiet follow

    流花の長編連載2回目。🦊に口説かれ根負けする🌸の話。ラブコメ。

    愛の遺言を君に捧ぐ2一年で出場したインターハイの後、一ヶ月半の辛いリハビリを経て、花道はようやく部活に復帰した。

    「待たせたな諸君!天才バスケットマン・桜木花道が戻ったぞ!どうだどうだ恋しかっただろう!」

    体育館中に響く声で華々しく宣言をした。その途端にワッと駆け寄って来る仲間たちを見て、花道は豪快に笑いながらも、本当はこみ上げる涙を堪えていた。嬉しかったからだ。自分が必死で身につけたバスケの技術は、きっとほとんど失われていると分かっていた。それに、復帰といってもまだ制限が多く、しばらくは基礎練しかできないことも分かっていた。それでも、心の底から嬉しかった。大好きなバスケをまたできるのが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだ。

    「待ってたぜ、天才!」
    「頑張ったな、桜木」

    宮城と三井が口々に言い、花道の頭をぐしゃぐしゃにかき回して撫でる。まるで犬みたいに揉みくちゃだ。他の一、二年もそれに続き、花道は大歓迎を受けた。

    温かで幸せな、再会の風景。しかしその空気が凍りついたのは、まさにその直後のことであった。

    「どあほう」

    人ごみを割って、ぬっと花道の目の前に入り込んできたのは流川だった。能面と称される無表情のはずの彼だが、その瞳は妙にキラキラと――いや、どちらかと言えばギラギラと輝いているように見えた。

    「あン?なんだよ、キツネ」
    「好きだ」
    「……は?」

    賑やかだった体育館は、そのよく通るたった一言で静まり返った。

    「好きだ。俺と付き合え、どあほう」
    「……………………は?」

    一体誰が予想できただろうか。犬猿の仲と言われた二人の、片方が。あの流川が――ここから怒涛の求愛行動を、花道に取り続けるなんて。


    ♦︎♢♦︎


    「好きだ」
    「知らねーよだから無理だっつってんだろ」
    「いいから付き合え」
    「日本語通じねーのかなキツネはよオ!?」

    スリーオンスリーの練習に挟んだ休憩時間。流川は今日も花道の隣に陣取り、告白をしていた。初めのうちは告白のたびに部内が凍りついたり、落ち着かない空気が流れたりしたものだが、もうすっかり日常風景の一部となってしまい、誰も咎めないし気にも留めない。

    「はいはい。オアツイのはいーけど、練習再開なー」

    宮城の淡々とした声が響いた。この異常事態に、あまりにも慣れきっている。ひどいぞリョーちん。キャプテンなんだから止めてくれよ。花道は、対応にすっかり困り果てていた。
    そもそも流川とは流血沙汰の喧嘩ばかりしてきた仲であり、そこに色恋のようなトキメキが入り込む余地なんてゼロのはずだった。
    まあ、リハビリ中に少しだけ二人の関係が変わったのは事実だが、そこにも自分が惚れられるような要素が見つけられない花道である。
    それは、辛いリハビリに耐える日々の中のこと。花道はよく座り込んで、ぼうっと海を眺めていた。そうすると心のうちに渦巻く不安が、少しだけ和らぐような気がしていたのだ。だから初め、流川が全日本のユニフォームを見せびらかしてきた時は心底腹が立って、夜もムカムカして一睡もできなかったほどである。しかし流川はその後も、ずっとあの浜辺をランニングコースにしており、二人は結局数日に一回は会うようになったのだ。
    まあ、会うようになった、と言ったって、そんな大したものではない。流川は花道から二、三人分の距離を取ったところにスッと座り、花道と同じようにただ海を眺めていただけだ。交わす言葉なんて、ほんの一言、二言である。それでもどつきあいの喧嘩にならないだけ、二人の仲は以前より穏和になったと言えた。

    流川の告白は、その微妙な関係の変化をくすぐったく思っていた矢先のことであった。復帰した花道に対して、流川は突然、熱烈に、公然と求愛し始めたのだ。キツネの考えることは本当に訳がわからない。

    流川の態度自体も、目に見えて変わった。花道がどんなに憎たらしいことを言って煽っても、決して手を出さなくなった。「怪我人を殴るシュミはねー」と言い、やれやれと去っていくのだ。そうすれば花道は流川を殴ることもできず、拳は宙をかすめた。花道を無駄に煽ったり、ちょっかいをかけてくることもなくなった。少し寂しいくらいである。しかし流川はその代わり、隙あらば花道の隣に来て、「好きだ」と言うようになったのだ。あのギラリと射抜くような、猛禽類の瞳を花道に向けてである。他人の好意に滅法弱い花道はそれだけでヘロヘロになり、何だか参ってしまうのだ。キツネとオツキアイするなんて想像もつかないのに、拒絶するには何故か毎回とても労力が必要で、身体を踏ん張らなければならなかった。
    また、流川はなんと、花道にバスケのアドバイスまでし始めた。他人に興味なんて一ミリもありませんという顔をしているくせに。そもそもパスをきちんと出し始めたのだって、ごく最近のことなのに、である。例えば、運動制限のなくなってきた花道が居残ってシュート練習をしていれば、反対側で練習していたはずの流川がスッと寄ってくるのだ。そして「肘の角度」とか、「膝」だとかのごく簡潔な言葉をぼそりと呟いて、去っていく。最初は「誰がキツネの言うことなんか聞くか」と反抗していた花道だったが、流川のバスケ技術は認めているし、少しでも勘を取り戻したい今、背に腹は変えられない。流川のアドバイスに従って身体の動きを修正すれば、面白いように成果が現れた。花道はそれもまた悔しく、ふぬふぬ言いながらアドバイスを受け入れ続けた。
    さらに、流川の変わりようは、それだけに留まらなかった。「送ってく」と言い、なんとママチャリを持って花道を待ち伏せするようになったのだ。

    「?なんでだよ!」
    「背中、負担減らしたほーがいー」

    花道はぐっと声を詰まらせた。

    ――お前、あの洒落たロードバイクはどうしたんだよ。まさか俺を送ってくために、わざわざママチャリに乗ってきたのかよ。

    花道は色々言いたいのをぐっと堪えて、流川のママチャリの後部座席にドカっと座った。流川が一度言い出したら梃子でも動かないのを知っていたし、背中が不安なのも本当だったからである。チャリで送ってもらえば、どんなに練習でヘトヘトでも帰路はあっと言う間だった。そうして、雨の日以外は、毎日自転車で送ってもらうようになってしまったのだ。


    さらに数ヶ月が経ち、冬の選抜も終わった。大黒柱のセンターが抜けた穴はあまりにも大きく、また花道の復調も間に合わず、選抜はとても苦い結果に終わった。三井が引退し、花道はひぐひぐと大泣きをしたものだ。それでもバスケ部の鬼のような練習は、変わらず続いていく。もっと上手くなりたい、どうしても勝ちたいという気持ちで、湘北は皆が一丸となっていた。
    一方で――流川の求愛行動も変わらず続いており、二人はすっかり友だちのような距離感になっていた。

    「……今日寄ってくか」
    「ん」
    「今日カレーな」
    「嬉しい」

    当たり前のように、自転車で送ってもらった帰り道。花道の古びたアパート、その玄関前でのやり取りである。
    そう、この数ヶ月で花道はすっかり絆され、流川を定期的に家に上げたり、泊まらせたりするようにまでなってしまったのである。だって――流川は、正反対の方向の花道の家まで、ガタイの良い男二人が乗ったママチャリを黙々と漕いで送ってくれるのだ。何も言わずとも、いつも額には玉の汗が浮かんでいたし、腹の虫が大きく鳴るのも何度も聞こえていた。だから花道が、「ウチ寄ってくか」と声をかけるまでに、そう時間はかからなかった。花道はこの不器用な男が、なんだか放って置けなくなってしまったのである。夕飯をご馳走になるようになった流川はと言うと、母親から預かった惣菜のタッパー――もう、これでもかと言うくらいみっちり詰められているやつ――を渡してきたり、それがない時は食事代と言って律儀にお金を払ってきた。だからもう、二人で食事を共にしない方が不自然なほどなのだ。

    「今日泊まってい?」
    「……おめー、親御さんにはキチンと連絡したんだろーな」
    「した」
    「じゃあいいけどよ」
    「ありがと。さくらぎ、好き」

    無表情のはずの流川の目尻が少しだけ下がる。これは、心底嬉しい時の顔だ。些細な変化が分かるようになった花道は、この表情にあまりにも弱かった。頬がサッと朱に染まるのを感じる。

    「あらあら、今日も仲良しねぇ」
    「ぬ!ち、ちがう!!ばーちゃん!!」

    花道の家の左隣に住んでいるおばあちゃんが、二人を眺めてニコニコと言った。アパートに少し置いてあるプランターに水をやっていたのだ。昔からいつも「作りすぎたからね」と言っておかずを分けてくれる、優しいおばあちゃんで、花道の母親がわりのような存在だ。

    「あらぁ。またまた照れちゃって。アタシもイケメンから熱烈に愛されたーい」

    錆び付いた階段を降りてきながら、上の階のお姉さんが言った。いわゆる夜の蝶をやっているお姉さんだが、花道が喧嘩で傷を沢山こさえてきた時は手当してくれたりする、優しい人である。

    「ふぬううう!」
    「どあほう。いい加減認めろ」

    そう。何を隠そう、二人の告白劇は花道のご近所さんにまで筒抜けで、もはや恒例行事となっているのである。それもこれも、流川が決まってアパートの前や玄関口で告白をかますためだ。この二人はあまりにも、色んな意味で、目立ちすぎた。ルカワのヤロー、ソトボリをウメルってこういうことか?と、花道はげっそりしている。

    「花ちゃん、楓ちゃん。私も作りすぎちゃった肉じゃががあるから、食べてちょうだい」
    「ばーちゃん!ばーちゃんの肉じゃが美味いから嬉しいぜ。いただきマス!」
    「あざス」

    左隣のおばあちゃんの呼びかけに、二人で一緒に答える。最早流川は、このアパートの住民に馴染みきっていた。

    そんな日々が、しばらく続いた。流川は飽きもせず、さりとて言葉を飾ることもなく、毎日「好きだ」と端的に伝えてきた。花道は告白を断り続けながらも、流川自身の存在は拒絶しきれない。
    周囲に微笑ましく見守られる、じりじりとした宙ぶらりんの関係。花道はそれが、これからも変わらず続いていくのかなと思っていた。

    だけど。――そんなわけ、なかった。人は簡単に死ぬ。あんなに元気でニコニコと話していたのに、突然いなくなるのだ。
    花道はそれをよくよく知っていたはずなのに、どうして忘れていたんだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator