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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    アキデン♀の現パロ小説。アシンメトリー・メモリーズ(2)
    注)デ先天女体化。
    性暴力(未遂)、虐めの表現あり。
    先生と生徒。保護者と被保護者。転生。

    アシンメトリー・メモリーズ 2デンジの半生は、碌なものではなかった。
    アル中で賭博好き、方々で借金を作る父親に虐待され、母親は物心つく前に亡くなっていた。挙げ句の果てには父親に売られそうになり、命からがら逃げ出してホームレスになったのである。
    この「売られそう」になった時と、ホームレスになって間もない時に、デンジは二度男に襲われかけた。躊躇なく相手の股間を思い切り蹴り上げて、すんでのところで逃げ出したが、幼いデンジにとってそれは尋常でないトラウマとなった。

    酒の匂いのする男の無遠慮な手が、肌をまさぐる感触。デンジの無防備な部分を蹂躙しようとされたその感触は生々しい記憶として残り、彼女は男性全般を嫌悪するようになった。大人の男に性的な目を向けられることに対して、強い恐怖心を抱くようになったのである。

    自分が「女」だから、こんな目に合う。
    それなら――「女」であることは、隠そう。

    デンジは下唇を噛み締め、口から一筋の血を流しながら、道端に落ちていたガラス瓶を割った。そしてその破片で、髪をザクザクと切り落としていった。
    口調もすっかり変え、自分のことを「俺」と呼ぶようにした。彼女は齢8歳にして、男のふりをしながら生きるようになったのである。

    デンジは道端の草を食べたり、パンの切れ端をもらったりして辛抱強く生き延びていた。
    子供のホームレスであるデンジは、治安のあまり良くないこの国でも、一応保護対象である。だから役所の人間を名乗る男に、無理やり連れて行かれそうになったことが何度かあった。その度にデンジは全力で抵抗し、やはり股間を思い切り蹴り上げて逃げ出していた。本当に役所の人間かどうかなんてわからないし、男に高圧的な態度で迫られてとても怖かったのだ。


    転機は11歳の時だった。
    ある日、公園の隅に段ボールで作った住処の前に、優しそうな女性が訪ねてきた。デンジは女なら怖くなかったので、話を聞くだけ聞いてみることにした。
    なんでも、デンジを保護したがっている人物がおり、施設に移すことを希望しているのだと言う。しかしそんな人物に心当たりなんてなく、やはり信じられないとデンジは牙を剥いた。すると女性はまた来ると言い、あっさりと去って行った。一通の手紙だけを、デンジの手に残して。

    その手紙は、青みを帯びた白い封筒に入っていた。
    自分を保護したがっているという、謎の人物が書いたらしい。手紙をもらうのなんて生まれて初めてであったので、デンジは少しだけドキドキした。そっと開いてみると、綺麗なひらがなが几帳面に並んでいる。ひらがななら、義務教育を受けていないデンジでもかろうじて読むことができた。読みやすいようにとの配慮か、文字は大きく書かれていて、行間はきちんと一行ずつ開けられていた。

    「とつぜん、てがみをおくってごめんな。でんじ、よんでくれてありがとう。」

    その言葉から始まった手紙には、次のような内容が書かれていた。

    身に覚えがないかもしれないが、自分は昔デンジに助けられた。だから、デンジがいま危険に晒されているのが辛い。信頼できる養護施設に入れるよう手配したので、どうか信じて一度行ってみてほしい。
    今は事情があって行けないが、あと数年待ってくれたらデンジを迎えに行きたい。もちろんその時も、無理にとは言わない。デンジの意思を尊重する。
    自分はただ、デンジに幸せに生きてほしいと思っている。……………………

    デンジは最後まで手紙を読んだ後、呆然とした。
    幸せに生きてほしいと、思っている?
    自分に……?
    そんなことを言われたのは、生きてきて初めてのことだ。

    手紙からは、悪意を感じなかった。デンジにもわかりやすいようにとやさしく書かれたそれは、デンジのためを思って書いたとわかるものだった。整然と並んだ文字からは、書いた人物の実直さや誠実さが伝わってくるように感じた。
    それに、デンジは何故か……その文字を、懐かしいと感じたのである。ずっと前から恋しく思っていたようにすら、感じたのだ。


    デンジはその手紙から感じ取った優しさを、信じてみることにした。次の日にまたやってきた女性に対して、施設に入ると答えたのである。

    そうして始まった施設での生活は、想像していたよりもずっと居心地が良かった。職員は皆優しかったし、食事も三食ちゃんと出てくる。それに誰も、変わり者のデンジに過干渉してくることがなかった。
    そこでは初めての友達もできた。パワーと名乗る、はちゃめちゃな女の子。彼女は孤児だった。毎日「世界はワシのもんじゃあ!」などと本気で言っている彼女といると、なんだか細かいことがどうでも良くなってしまって、愉快だった。だからデンジは、パワーとくっついて過ごすことが多くなった。

    しかし何といっても、デンジの一番の楽しみは手紙だった。例の送り主から週に一度、手紙が届くのである。青みを帯びた白い封筒に入っているそれが来るのを、デンジは待ち侘びていた。
    手紙にはいつもデンジのことを気遣う言葉と、日々のなんてことない出来事や小さな発見が綴られていた。河原でカワセミという珍しい鳥を見たとか、すれ違ったおじさんの禿げ方が面白かったとか。読んで面白かった物語の概要が綴られていることもあった。
    手紙には変わらず優しさが滲み出ていたが、これを書いている人物が実直すぎて不器用なことも十分に伝わってきた。おそらく彼はデンジを喜ばせようと、試行錯誤して手紙を書いている。しかしそういうところも、デンジは好ましいと感じていた。
    施設の職員にひらがなの書き方を教わって、デンジは一言ずつだが返事を書くようになった。「おれもかわせみみたい」とか「そうぞうでもおもしれー」とか、「そのほん、よんでみたい」とかである。

    パワーが手紙の送り主のことを『あしながおじさん』と呼び出したので、デンジもそれに倣った。彼女が自慢げに教えてくれた物語の中のあしながおじさんと、手紙の送り主は似ていると思ったのだ。まあデンジのあしながおじさんは、足が長いのか短いのかすらわからないのだが。手紙の口調からは、恐らく男だと思っているが、それすら定かではなかった。
    物語のように、自分もあしながおじさんに会いたい、とデンジは思った。だから、"迎えに行く"と最初の手紙で言われた言葉を、信じて待つようになった。
    彼がどんな姿形をしていても、デンジはひとめで好きになる自信があったのだ。


    そんな日々を重ねて15歳になると、デンジは高校に進学した。施設にはデンジよりも小さいのが溢れかえっているし、さっさと自立して働こうかと思ったのだけれど、あしながおじさんに止められたのだ。「高校はちゃんと出た方が良い」と手紙で説得され、デンジは素直に従った。
    しかし、パワーとも離れて入った学校で、異質なデンジは浮きに浮いてしまった。だってデンジは育ちも口もとびきりに悪い、まるで男みたいな女であったから。
    そのうちデンジは、壮絶な虐めに遭うようになった。小さな暴力は、日常茶飯事。水を浴びせられたり、タバコを押し付けられたり、酷い時には縛りつけられて放置されたりもした。しかも間の悪いことに、デンジは自分の父親にまで居場所を嗅ぎつけられ、付きまとわれた。彼はあろうことか、施設の目を盗んで、デンジにたびたび金を無心してくるようになったのだ。
    だんだんと傷跡が残ることも増え、施設の職員に心配されたが、デンジは結局誰にも助けを求めなかった。彼女は幼い頃から暴力や不幸に慣れすぎていて、自分の苦しみにはあまりにも無関心だったのである。

    パワーは既に寮制の高校に入ってしまい、一緒に居られなくなっていた。
    だから――相変わらず几帳面に届く手紙だけが、デンジの生きる楽しみだった。


    ♦︎♢♦︎


    「あ"〰︎〰︎、ゴミ山に人突っ込むとか、正気かよ。ダリィ……女の虐めって、マジでコワ〰︎〰︎……」

    既に16歳になったデンジはその日、路地裏のゴミ溜めに沈まされたまま、うんざりした声で呟いた。
    胸元には虐めのリーダー格にタバコの吸い殻を投げつけられ、今さっき唾を吐きかけられたところだ。もう周囲には誰もいなかったが、そこから僅かに動くのすら億劫であった。

    このくらいは、別にどうってことない。けれどデンジは、思ってしまった。このクソみてえな人生にも、もう飽きてきたな、と。
    "あしながおじさん"が迎えに来てくれるまで待ってみようと思ったけれど、それがいつになるのか……そもそも本当に迎えに来てもらえるのかすら、何もわからない。

    ――なんか、もー、疲れたな……。

    デンジの瞳が明確に翳った、その瞬間である。
    ふっと、上から大きな影がかかった。


    「どうして、助けを求めなかった」


    落ち着いたテノールが、静かに耳に響いた。デンジが見上げると、そこにはいつの間にか男が立っていた。
    大柄な人物だ。けれど、いかついわけではない。すらりとした長い手足をしている。逆光で顔がよく見えないが、その瞳は暗闇でもギラギラと光っていた。

    「ひどい怪我だ。それも、一回じゃないな?……どうして、今まで黙ってた」

    その瞳と声が宿していたのは――苛烈な"怒り"であった。

    だから、その瞬間。
    デンジには、はっきりとわかった。


    ――俺の"あしながおじさん"だ。


    だって、デンジが傷付くことだけでここまで怒ってくれる存在は、きっとこの世でたった一人しかいない。一番仲の良いパワーだって、ここまで怒りはしないのだから。

    呆気に取られたデンジが口を開けて見つめていると、男がそっと近づいてきた。すっと手を差し伸べられる。
    男性が苦手なはずのデンジは一切の躊躇いなく、その手を取った。

    ゆっくりと、身体を助け起こされる。お互いの身体の向きが変わって、彼に陽の光が差しこんだ。その容貌が顕になる。

    彼は、デンジが今まで見てきたどんな人間よりも――綺麗、だった。
    何よりその、タンザナイトみたいな青い瞳が。
    実直で誠実なその双眸が、一際美しかった。

    「すぐには信じてもらえないだろうが、俺はお前にずっと手紙を出していた者だ。遅くなったが、迎えに来た。……デンジ」

    彼はその青い目を細め、そこで初めて名乗った。


    「俺は、早川アキ。俺のところに、来るか?」


    それが、二人の初めての出会いであった。
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