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    小林ろみ

    @soramati

    ライレフ

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    小林ろみ

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    ライレフ/双璧10周年おめでとうありがとう

    生まれた時からずっと二人「あ」
     身体がふわりと浮いた感覚に、思わず声が出る。遅れて「まずい」と思うが、すでに手遅れだ。
     烈風刀の体は、重力に従ってゆっくり後ろ向きに落ちていく。やってくるであろう衝撃に備えて、せめてもの抵抗として頭から背中を丸めようとしたその時――
    「おっ、と。大丈夫か?」
     痛みに変わって何かが烈風刀を受け止める。背中に添えられた温度は、雷刀のしなやかな腕だった。影の落ちたまるい瞳が、こちらを覗き込む。その火を移されたみたいに、ぽっと頬が熱を持つ。
     その火を振り払うように頭を振って、俯いたまま姿勢を立て直した。
    「すいません、ありがとうございます」
     遅れてどくどくと音を立て始めた心臓を押さえつけて小さな礼をする。前髪を整える指の隙間から雷刀の顔を伺うと、なぜかその頬が膨れていた。
    「ありがとう、だけでいーんだけど」
     そう言うなり、せっかく整えた前髪もひっくるめて頭の全部をぐちゃりと撫でられた。「ちょっと!」と意義を申し立ててももう遅い。それでも声を上げた。
    「僕の不注意なのですから、謝るのは当然でしょう!」
    「それでもさー、誰だって失敗すんだから。烈風刀が失敗しちゃった時はオニイチャンに任せとけって」
     いつもどおりの言葉とともに、ハの字眉の下の赤い星が瞬いた。落ち着いたはずの心臓がもう一度どくりと高鳴る。いつだってそこにある星はまばゆい。
     かつてはあまりにもまばゆいから目が眩んで見ていられないこともあった。その屈託のない態度が、言葉が、自分にないもの全部が羨ましくて、たくさん間違えてきた。
     それなのに星は、今日も己の手の届くところで瞬いてくれている。思わず吐いたため息のせいで口元が緩んだ。
    (……本当に敵わないな)
     雷刀はひとしきり撫でて満足したのか、にへらと笑う。そして、慈愛に満ちた硬い少年の手は離れていった。ぬくもりは、すぐに溶けてなくなってしまう。
     思わず喉元まで甘さを含んだ何かが出かかって、しかし視界に入ったプリントやら教科書やら服やらが烈風刀の頭を急速に現実へ引き戻した。脳みそが、役目を思い出して急速にかちゃかちゃと動き始める。
     熱の名残を振り落とし、足元に転がっていたテニスボールを拾い上げる。自分はこれに足を引っ掛けたらしい。そもそもなんでこの部屋にテニスボールがあるのだ。すっかり置いてけぼりにされていた文句がようやく追いついて、振り落としたはずの不貞腐れた気持ちと一緒に口から飛び出した。
    「……まあそうですね、そもそも貴方がちゃんも片付けていれば、こんな事にはならなかったんですからね」
    「今それ言うか!? そういう話じゃないんだけど!?」
    「言います。事実でしょう。ほら、片付けますよ」
    「ごめんって!!」
     必死な声をわざと無視して、烈風刀は手にしたテニスボールをひとまず机に避けた。明日は朝からうちにレイシスが来る。夏野菜の収穫を祝うホームパーティをするのだ。もちろん魂や冷音も。
    ――そして、グレイスと始果も一緒に。
     あの日想像もしなかった光景が、当たり前になって続いていく。この先には、一体どんな未来が待っているかは、まだ誰にも分からない。
     しかし、雷刀とは不本意ながら生まれたときから兄弟である。その事実は、どれだけ藻掻いても変わらない。二人の間柄に芽生えた新しい気持ちに名前をつけても、なお。
     だから負けてばかりはいられない。自分の過ちを受け止めてくれる分だけ、彼の足りないところを埋められたら良い、と思う。そのためなら、どんな言葉だって伝えたいと思う。
     烈風刀は小さく息を吸って、そして少しだけ屈んで雷刀を見上げた。
    「がんばってください。できますよね?……頼りになるオニイチャンなら」
     少しだけ素直じゃないのは、どうか許してほしい。賢い烈風刀にも、まだ難しいことだってたくさんあるのだ。
    (それでもきっと、貴方は隣にいてくれるのでしょう?)
     石のように固まってしまった雷刀を見て、烈風刀はいたずらが成功した子どものようにくすくす笑う。
    (昔の僕が聞いたら、目が飛び出してしまいそうですね)
     そう思うと、さらにおかしかった。いつの間にか、胸の内がほかほかと火照っている。
     温かい布団で眠るような、心地の良い充足感があった。確かに僕はどれだけ足掻いても雷刀にはなれなかったけれど、二人だったからこそ、この満ち足りた気持ちを知ることができた。ともに生きて、ともに大切なものを守り、愛して、愛されることができる。
     そんな二人の物語は、まだ終わらない。
     なんて喜ばしいことだろう。だから烈風刀は笑った。なんの憂いもない、心からの素直な笑みだった。
     ひとしきり笑ってようやく、雷刀が瞳をぱちくりさせて動き出す。そして――

     その後、片付けがきちんと進んだかどうかについては、誰も知らない。
     パーティはキッチンとリビングとベランダをめいっぱい使って、それはそれは盛大に行われたという。





    「っていうかオレの部屋片付ける必要ある?」
    「何かがあってレイシスが入ってくるようなこともあるかもしれないでしょう。備えはしておくに越したことはありませんよ」
    「くッ……確かに……。しゃーない、やるか……」

     これは、誰よりも愛おしい者に不甲斐ないところを見せたくない双璧の話。
     互いにならば、一番みっともないところを見せてもいいと思っている”二人”の話。
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