暗い廊下をひとり進む。
常に控えているはずの者たちは影も形もない。これが夢だということはすぐに知れた。
深く息を吸う。さきほどまでの苦痛は消えていた。宮の中では満足に呼吸もできない。ここでは自由だ。
前を歩く者がいる。広い背中。どれほど焦がれたか。呼びかける。しかし返事はない。それどころか私を置いてどんどん遠くへ行ってしまう。早足で追いかける。
眩しさに目を細める。荒れ狂う波のような轟音に包まれる。竹林だ。相変わらずこちらを振り向きもせずひたすら前を行く男に連れられたあの場所。懐かしい。あれから何年経ったのだろう。ここはなにも変わらない。私は、なにか変わったのだろうか?
湿った砂を踏みしめる。眼前に、遠くどこまでも輝く水面が広がる。ようやく歩みを止めた男の隣に立つ。もう、大丈夫。顔が見たい。
男の姿は消えていた。足元に酒の瓶が転がっている。
振り向くと砂浜には長く続く私の足跡しかなかった。