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    so_into_jb

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    れめししで、今回(しょくさい展示)のうまくいかない日とは逆にツイてる日の二人の話を!とのリクエストで書きましたー!
    お付き合いはしててもしてなくても、どっちでもOKとのことでしたので、れめ←しし風になってます。

    リクエスト(れめしし)『今日もっとも運勢がいいのはー…乙女座のアナタ!なにをやっても上手くいく日。難しいと諦めていたことにもチャレンジしてみて』

    テレビをつけた瞬間、部屋に大きく響く声に獅子神の身体が小さく跳ねる。どうやら昨日遊びに来た真経津がゲームをするのに上げた音量をそのままにしていったらしい。
    やたら明るい口調で告げられた内容は問答無用で獅子神の頭の中に飛び込んできた。占いなんて根拠の疑わしいものに縋る感覚は持ち合わせていなく、獅子神が普段この手のものを見聞きすることはない。ネガティブな情報は知らず知らずの内に思考を消極的な方へ引っ張るので自然と避けている面もあった。だが耳に入ってしまったものは仕方ない。幸い底抜けにポジティブな内容だったため、まあ良いかと思いつつ音量を少し下げBBCニュースへチャンネルを変えた。

    テレビから流しっぱなしにされている世界情勢に耳を傾けながら、獅子神は手際良く朝食の準備をする。片手に持った玉子を調理台にコッと当て、熱したフライパンに割り入れる。フライパンに落とされた玉子はジュワッと音を立てながら白身のエリアを広げていく、のだが一瞬違和感を覚えた。よく見ると、そこには歪な形の黄身。割り入れる際、殻に引っ掛け破けたかと思ったがよくよく見ればそれは双子だったようで小ぶりの丸が2つくっついていた。ちょっと珍しいそれを前に獅子神はふと先程の占いを思い出し小さく笑う。また随分と小さなところで運を使ったなと思ったが、朝から少し気分が上向いてきた。我ながら現金だな、と思いはしたが、それでも良い日になりそうな予感を抱きつつコーヒーを淹れる。



    今日は事務手続きのため銀行に用があった。担当を自宅に呼びつけても良かったが、自宅の奥にまで手の内の分からない人間を招き入れるのは少し抵抗があり、こうして獅子神自ら足を運んでいた。銀行の応接室で執り行われた手続きはスムーズで、それは獅子神の想定よりもだいぶ早く終わった。
    建物すぐの駐車場に停めておいた愛車のロックを外し、運転席に乗り込みながら考える。さて、どうしたものかと。もちろん、このまま帰宅しても良いし、久々に買い物に時間を使っても良かったが、ふと海が見たくなった。往復の時間を考えても現地で少しゆっくりするくらいの余裕はありそうだ。ここまで頭の中で算段がつけば行かない理由が見つからない。思いつきの行動ではあったが、獅子神は久しぶりにドライブがてら少し車を走らせることにした。

    なんとなく人の話し声が聞きたくて道中のBGMがてらラジオを流し首都高速を進む。この入り組んだ道も最初こそ戸惑ったが今となってはなんの憂いも気負いもなく走れる。初見、トンネル内での分岐を目にした時には内心随分慌てたのが今では少し懐かしいくらいだ。
    道路は事故渋滞が起きることもなく、怖いくらいスムーズに目的地へと近付いていく。都心から1時間も走らせれば車は海岸線沿いの道に出た。
    さてどこに行こうかという段で、そういえば、この辺りにオススメのカフェがあると以前聞いたことを獅子神は思い出した。なんでも、昔、アメリカ西海岸に住んでいた店主がサンタクルーズの雰囲気が忘れられなくて作った店らしい。せっかくだし、と聞いた記憶を頼りに店へと向かってみた。

    地元民も通う人気の店と聞いていたため少し待たされるのを覚悟で行った獅子神だったが、タイミングが良かったのか嘘みたいにするりと案内され、更には図らずも眺めの良いテラス席に案内された。オーダーしたコーヒーもすぐに提供され、目の前に出されたぽってりとした厚手のカップに口をつける。
    雰囲気や見栄えだけで人気が先行しがちな店が多い中、口にしたコーヒーは豆の質も焙煎もブレンドの具合も絶妙で獅子神の好みに合っていた。気まぐれで立ち寄った店での嬉しい出会いに、つい口元が綻んでしまう。帰りに豆を買っていこうと決め、少し気持ちが跳ねる。
    夕方の時間帯。あと30分もしないくらいで日の入りの時間だ。目の前には誂えたように何にも遮られることなく海が広がっていた。

    ああ、こんなの出来過ぎだな、と獅子神は思う。普段は気にも留めないのに、やっぱり浮かんできてしまうのは今朝の占いだ。耳に飛び込んだ内容の通りに何でも上手くいく日、というよりは、占いを見たことで身近に起こる小さな幸せに過敏に反応し拾い上げていることは分かっている。それでも、今日一日いい気分で過ごせたことには変わりない。

    徐々に海の中へゆっくりと沈んでいく陽を眺めていると、今日が終わるのが少し名残惜しくて。せっかくだし夕食もどこかで食べてから戻ろうかと考える。陽がすっかりと水平線の向こうで跡形もなく消えるのを眺めたのちに、スマホを取り出し今から予約できる店を探そうとした時だった。
    「相席良い?」
    「ぇ、あ、はい……ぁ?」
    不意に斜め後ろからかけられた言葉に応答しつつも知った声だと頭が認識したのと、振り返った先でその姿を目に入れたのはほぼ同時くらいだった。
    「はぁっえ、なんでオマエここにいんだ?」
    視線の先には毒々しい色の中身が入ったクリアカップを片手にニヤニヤと笑っている男がいた。そうして驚き目を白黒させている獅子神に構うことなく、その隣の椅子を引き腰を下ろす。
    「オレは撮影の下見とか許可取り。今度この辺りでやろうと思ってて。そういう敬一君こそ何してんの?」
    「いや、俺はドライブがてらたまたま」
    「凄い偶然だな。こんなとこでバッタリ会うなんて運良すぎ」
    叶は少し驚いてみせると楽しそうに笑う。自分に会えたことを運良すぎと言う辺り、コイツは…と思わなくもないが、実のところ獅子神の気持ちとしてはまさにその通りだった。このカフェの話を聞いたのは叶からで、だからここを選んだ時点で叶のことを思い出さなかったと言えば嘘になる。
    「確かに偶然にしちゃ出来すぎだな」
    獅子神は思わず笑うと、今日一日に起こった小さな幸せの類を一つ一つ挙げて叶に聞かせてみた。あくまでも世間話の一環として。話しながら改めて、自分にとって虫の良すぎる話に、まとめてどんでん返しになる可能性を少し心配してしまうくらいだ。
    「オマエは?今日はなんか良いことあったか?」
    「そうだな……これから夕食で行く店に誘える相手見つけたからラッキーかも」
    ストローから口を離した叶が目を細めニンマリと笑ってみせる。
    「夕食?」
    「なかなか予約取れない店なんだけど、どうする?」
    言葉では意向を確認してるが、出てくる答えなんて一つしかないと思っている顔だ。
    「ちょうど飯時だし付き合ってやるよ」
    「はいはい、どーも」
    いつの間にか辺りは薄暗くなっていて、頭上のライトがパッと点く。それを合図みたいに二人は各々の空になったカップを片手に席を立ち上がる。
    「なんかさ、初めてじゃない?敬一君と外でちゃんとしたご飯食べるの」
    獅子神がカップを返却し、ついでに先程気に入った珈琲豆を買って戻ってくると、出入口のゴミ箱付近に居た叶が思い出したかのようにそんなことを言う。
    「たしかに、改めて飯食いに行ったりとかねーな」
    「敬一君のご飯美味しいし、ついつい集まちゃうからなー」
    「飯付きの溜まり場だと思ってるだろオマエら」
    獅子神は呆れたように応じるが、褒められ浮かれそうになるのをぐっと堪えた。



    パーキングに向かう道中、店に電話を入れる叶を眺めながら、獅子神は内心小さく溜息をつく。
    これは、流石にやり過ぎだろう、と。
    いくら運勢が良いと言っても、ここまでは流石にやりすぎじゃないかとクレームを入れたいところだが、どこに言えばいいのだか。
    どうしても頭を過ぎってしまうのは、今朝の最後の一言。難しいと諦めていたことにもチャレンジしてみる、という文言だ。

    獅子神にはこのところ、ずっと端から諦めていることがある。それは目の前を歩くこの男に自分の気持ちを伝えるということだ。難しいどころの話じゃなく、そもそも、こんな身勝手な自分の気持ちなど叶は既にお見通しなんじゃないか?と獅子神は疑わしく思っている。
    だが、そうだとしたら、なぜ、こんな風に構ってくるのか。あくまで自分はお友達としてなら仲良くしてやってもいいよという意思表示なのか。いや、もとより自分のことなど叶の眼中にはなくて見る価値の無い思いなど気にも留められていないのかも、とか。時折こうしてぐちゃぐちゃと出口のない考えが獅子神の頭を占拠するのだ。
    だけど、もしもあの占いに乗るのなら。気持ちを伝えるだけ伝えて、あとは笑い飛ばしてもらい今まで通り友達で居ることもできるんじゃないかという気にさせられる。
    叶の迷惑を顧みないのであれば、いい加減、気持ちを伝えてスッキリしたいという自分勝手な望みがずっと燻っていた。

    電話を終えた叶が振り向く。
    「敬一君、明日用事あんの?無いならお酒飲もうよお酒。良いワインが入ってるんだって。まあ、用事あっても敬一君ちの雑用係呼び出して運転代行してもらえばいいし」
    機嫌良く呆れる提案をする叶を見ていると、獅子神はいよいよ口が滑りそうになる。
    「なあ、叶」
    「ん?なに?」
    「あのよ……」

    大衆向けに発信されてるお遊びみたいなテレビの占いに乗っかるなんて馬鹿げてると今でも思ってる。それでも獅子神はなんだかお膳立てされたようにすら思えるこの状況を前に、自分はきっかけを探していたのかもしれないなと気付く。

    願わくば、コイツの世界から追い出されませんように。

    そう思いながらも、その時はその時で。入国させずにはいられなくなるくらいの存在になるしかないのかと腹を括った。
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