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    Enousa_2

    @Enousa_2

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    診断メーカー様のお題が良すぎたので1本したためました
    噛腹です

    いっそ首輪をつけてしまいたい「田噛ー!ただいま!!お土産!!」

    バンッ!と大きな音を立てて自室の扉が開かれたかと思った次には、片手になにやら木の枝を持った平腹が満面の笑みで部屋の真ん中、田噛の目の前に立っていた。だらだら休みを貪ると言う至福の時間を邪魔されたことに苛立った田噛は拳を握り、眼前の脛を殴る。ゴツ、と鈍い音を立てて骨と骨が当たり、弁慶の泣き所とも言われる弱点を攻撃された平腹は、いでー!!と叫んでしゃがみ込んだ。その姿を見て溜飲が下がる。

    「で、土産ってなんだよ」
    「これ!ほい!」
    「あ?…金木犀か」

    痛みは既にどこかへ消え去ったのか、それとも田噛に気を取られて忘れたのか、満面の笑みを浮かべながら平腹が手を突き出す。手のひらに握らされたのは、橙の小さな花を咲かし青々とした葉をつけた木の枝。ほのかに金木犀特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。その先はまるで折られたかのようにぽっきりと無くなってしまっていた。

    「お前木折ったのかよ」
    「ちげーし!貰った!!」
    「誰から」

    貰い物だと理解した瞬間、食い気味に漏れた声は湿度を持って部屋に霧散した。どろりと歪んだ感情が田噛の胎内に燻り始めていることなど露知らず、平腹は呑気に誰だったかなーと足りない頭で記憶を追う。
    館に来る家政婦含む特務室の面々や、リコリス総合病院関係者(あからさまに怪しい物ばかり贈ってくる看護婦長は除く)等自分の知り得る人物から平腹がものを貰うのは気にならないが、自分の知らない誰かから貰うのはあまりいい気はしない。
    貰ったものが例えば抹本の作り出すような毒だったならまだ、良い。死んでも生き返るので。けれど、その貰い物が例えば呪術具や催眠道具で、平腹の視線を奪い取るようなものだとしたら。自分以外の誰かにその好奇心旺盛な黄色の閃光を向けるとしたら。想像するだけで腸が煮えくり返りそうになる。

    「んー…んんー?…あ!そう!そうそう!獄都商店の木切ってたおっちゃんだ!!センテイしたからくれるって!」
    「…そうか」

    平腹のそのたった一言で、ずるりと田噛の身体から黒いものが抜け出ていくのを感じる。
    平腹の言う植木職人なら田噛も知っている。毎年時期になると商店街中の街路樹を剪定して回っているのだ。気のいい老紳士と形容出来る彼は、愛する妻が家で待っているらしい。
    はぁあ、とさっきまで蟠っていた重苦しい気持ちを全て息として吐き尽くして、ごろりとそのまま絨毯の上に寝転がる。金木犀は握ったまま。平腹も田噛に倣って隣に横たわる。

    「な、田噛。後でこれ入れるヤツ探そーぜ。おばちゃんなら何処にあるか知ってっかなー」
    「物置行けば大抵なんでもあるだろ」
    「ん、そだな!」

    田噛、とぐずぐずに溶かした砂糖のように甘ったるく自分の名を呼ぶ平腹の丸い目がきゅう、と細められて弧を描く。
    その黄色の目が、いつも楽しそうにはしゃぐ声が、すぐ遠くへ駆けて行ってしまう身体が全て自分にだけ向いていればいいと思ったのはこれで何度目だろう。肋角に拾われる前から獄卒として生を受けている今までの何百年。数えることさえ億劫になるほどの回数を重ねてきた。
    平腹が例え何処へ行こうと忠犬よろしく自分の元へちゃんと帰って来る、ということを田噛はその聡明な頭で正しく理解している。田噛とて今更離すつもりなどさらさらないが。
    ただ、今こうしているように平腹が自分の傍から離れず、自分だけを見ていればいいと田噛が勝手に思っているだけで。いつかそんな日が来たなら、きっと、ようやく心の底から安堵して過ごせるのだろう、と。
    にへらと頬を緩ませて笑う平腹の、制服に囲われた首へと手を伸ばす。襟のボタンを外して、晒された生っ白い首にするりと指を滑らせた。

    いっそ首輪をつけてしまえたのなら。

    遠くへ行けないよう部屋の中に繋いでおいて、ただそこにいるだけでいい。出来もしない空想も幾度繰り返したか。
    首輪を用意して閉じ込めておくことなぞ、お得意の口八丁と叡智によって丸め込んでしまえば簡単に達成出来る。けれど、それでも、太陽の光を浴びてあちらこちらへと駆け回っては、田噛の元へ帰ってきて見たもの聞いたもの口にしたもの全てを嬉しそうに楽しそうに報告してくる平腹の姿をどうしようもなく愛おしいと思ってしまっているから、どうにも出来やしない。
    平腹、と彼の名を呼んでから片手全体で名を呼んだ彼の首を掴んで自身の顔の近くへ引き寄せ、張り出した喉仏を親指で軽く擽る。首が締まったのかぐぇ、と間抜けた声が頭上から聞こえてきたが、無視をして田噛は口を開く。

    そうして、綺麗に生え揃った歯を平腹の喉元へと突き立てた。
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