【暗殺者より愛を込めて】 鱗粉が舞う。モスマンが荷を置くや否や逃げるように飛び去っていく。
ヴァルバトーゼ宛に時折届けられる小包み。中身のほとんどは貢ぎ物と銘打った嫌がらせの品──具体的にはニンニクや鏡、ロザリオの類いであるが、中にはごく稀に真なる「貢ぎ物」も紛れている。
「拝啓 ヴァルバトーゼ様」
今回届けられた荷物のひとつには手紙の添えられたワインボトルがあった。フェンリッヒには酒の良さが分からない。アルコール特有の匂いはとかく鼻につくし、何より「気持ち良く酔う」という感覚が理解出来なかった。火照って頭が働かなくなり、じきに気分が悪くなるのが関の山である。
だが、酒の中には極めて価値のあるものがある。この世には酒を好む者がごまんといて、味の良さ、ボトルの装飾、希少性その他次第では目が飛び出るような高値で取引されることもあるのだ。
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