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    ichiri_72

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    35ヒバ(+15ヒバ)×25ツナのパラレルヒバツナ…
    の、頭と結末だけ書き上げて真ん中穴抜けのトンデモないやつ発掘してしまった…ので供養…?
    でも、ざっくりプロットのようなものあったからもしかしたら続き書けるかもしれないし書けないかもしれない…。
    15000字くらい書いてて、このまま破棄するの普通に勿体ないお化け出てくる。

    1週間の短い休暇その日、何の前触れもなくそれは起きた。暖かな春の陽気に誘われ、万年筆とサイン済みの書類などを片手にうたた寝をしていた沢田綱吉は突然、栗色の眼をパチリと開いた。数秒前の眠たげな様子と打って変わって、臨戦態勢を取った沢田は、懐の武器を手に取り、座り心地のよい椅子を蹴飛ばして、そこから一気に距離をとった。
    一連の動きは全て反射的なものだったが、さすがはドン・ボンゴレの超直感である。
    直後、ぼふん、と実に間抜けな音と、白い煙が室内に立ち込めた。
    珍しく平和だった、昼下がりのボンゴレ本部。その片隅の小部屋で突如発生した煙は、その音の間抜けさに反してとんでもない災厄の訪れを告げた。
    正しくは、『まだ断定はできないが、沢田の直感がこいつはきっと、とんでもないことが起こるだろうと告げている』状態である。直感というよりはむしろ、経験に基づいた瞬間的判断と言った方が良いかもしれない。
    何しろ、たかだか十数年の人生経験の中で、よく聞きなれてしまったこの音は、沢田にとっては災難ばかりを運んで来ていたのだ。警戒するな、という方が無理な話なのである。
     数秒の沈黙。
    ゆっくりと薄らいでいく白煙の向こうに目を凝らすと、痩身の男性が現れた。歳は30前後、という所か。身長は、沢田の頭半分は上だろうか。短めの黒髪、紫のシャツに、自分と同業を思わせるような黒のネクタイと黒のスーツ。まるで品定めするようにこちらを眺める切れ長の目に見つめられて、頬を冷や汗が流れた。
     この人物は強い。それも、かなりの実力者なのだと。纏う空気でわかる。けれど、同時にこちらに対して敵意はないこともわかる。ただ、そこにあるプレッシャーに、沢田は警戒を解くことはできなかった。
    「…久しぶりだね、沢田綱吉」
     先に口を開いたのは向こうだった。久しぶり、と言われた沢田は、はて、と首を傾げる。
    「あの……どちら様、ですか」
     自分はこの人物とどこかで会ったことがあるのだろうか。あまり容量のあるとは言えない脳内メモリーをフル回転させて記憶を辿るも、一向に思い出せる気配が無い。
     すると、男はすたすたと歩み寄り、沢田の首元を掴み上げた。
    「うぁっ…」
    沢田とて、隙を見せたつもりはない。けれど、男は沢田に抵抗させる間もなく、自然な動作でその間合いに入り込んでしまった。
    「僕は久しぶりだけど…そうだね、君にとっては『はじめまして』かな」
    ぐい、とネクタイを引かれ、さらにお互いの距離が縮む。
    「でも、君はもう、僕のことを知ってるはずだ。そうだろう?」
     男の目が、すっと細められ、口は楽しそうに弧を描いた。
     沢田は、締まる首元に喘ぎながら必死に答えを探す。
    この人物は誰だ。考えろ、この人は何処から現れた?あの煙には身に覚えがある。しょっちゅう面倒事を持ち込んでくるあの道具のものに似ている。この人は『久しぶり』と言った。ならば、お互いに顔を合わせたことがあるはずだ。けれど、沢田には『はじめまして』とも。自分たちはお互いを知っていて初対面という矛盾。ならば、この人物は今よりも先の時間を生きる人だ。
    沢田は、過去の記憶から今の記憶へと検索範囲をシフトしていく。
    未だ面白そうにこちらを眺めるその眼には、何か見覚えがあった。向かい合う瞳の奥には、ゆらり、紫炎がちらついている。沢田が知るその人物の目は、目の前の人物よりも幼さを残している。身長も沢田よりまだいくらか低い。けれど、答えはきっと彼なのだろう。
    「もしかして、恭弥く…いだっ!」
    と、そこまで言って、沢田の脳天にとんでもない衝撃が走った。あまりの痛さに、頭を押さえてその場に倒れ込んだ。
    「…君、僕のこと、いくつだと思ってるの?」
    トンファーを片手に見下ろす男、もとい、未来の雲雀恭弥は、子供扱いしないでくれる、と不機嫌そうに発しながらも、やはり楽しそうに笑っていた。

    雲雀恭弥は、つい最近ボンゴレに顔を出すようになった、もとい、沢田の家庭教師、リボーンがどこからともなく誘拐してきた中学生である。
    先生は彼を雲の守護者として迎え入れろと言うが、平凡と平和を愛するボンゴレⅩ世は子供をこんな血生臭いことに巻き込むなどということを許すはずもなく。雲雀少年はボンゴレの客人として数週間をこの地で過ごしている。
    しかし、当の雲雀恭弥本人は沢田の気遣いなど知る由もなく、スリルと戦いを求めて、日々ボンゴレの構成員や守護者に決闘という名の喧嘩を吹っかけて歩いては、目を輝かせて活き活きと暴れている。
    さらに、さすがリボーンが目を付けただけあって、一般の構成員ではなかなか歯が立たず、それもまた沢田の悩みの種の一つとなっているのが現状だった。
    「それで、きょ…ヒバリさんは、一体いつの時代のヒバリさんですか?」
    沢田は午後のおやつに、と戸棚にしまっていたクッキーと来客用の紅茶を注いだカップを差し出した。
     雲雀は応接セットのソファーに腰掛けて、当然のようにそれを受け取る。
    「いつの時代?」
    「いえ、10年バズーカの影響ならたぶん25歳のき…ヒバリさんかな、って思ったんですけど…なんか、オレよりももっと大人びてると言うか、年上に見えるので…」
     そもそも、これは十年バズーカの影響なのだろうかと沢田は首を傾げる。十年バズーカは、弾が当たった人物と10年後の本人が入れ替わる代物であり、この時代の本人が目の前にいないのに未来の人物が現れる事など無いはずである。ただし、非常に珍しく、扱いも難しい品なので、事故発生率も非常に高い。ちょっとしたイレギュラーも実質日常茶飯事と言っても良いくらいなので、100%その限りでないことも確かであるが…。
    ちなみに、この時代の雲雀恭弥は、本日も元気にイタリアの路地裏でチンピラを絶賛風紀指導中であるのは、すでに獄寺隼人に確認済みである。
    「まあ、そうだね。たぶん今の君よりは10は年上かな」
    「10…」
     つまり、今目の前にいる雲雀恭弥は34~35歳、この時代から約20年後の雲雀恭弥と言うことだ。
    「ついでに言うと、これは僕が十年バズーカを改良したもので発生させたタイムスリップだよ」
    「え…っ!?」
     いかにも『大したことではありません』という涼しげな表情の雲雀とは対称に、沢田は目を大きく見開いた。
    「それって…つまり、」
    「お前は、何か目的を持って過去に来たということか」
     不意に割り込んできた声に沢田が振り向けば、そこにはボルサリーノを目深にかぶった家庭教師が立っていた。
    「やあ、リボーン。久しぶりだね」
    「俺は『はじめまして』だがな」
    「リボーン!お前いつの間に…っていうか、ヒバリさん、今なんて…!」
    「だから、彼が言った通りさ。僕は、僕の意思を持ってタイムマシーンを作ってこの時代にきた」
     そして、口元はわずかに弧を描いたまま雲雀の目は二人を見つめる。その奥に再びゆらりと揺らいだ紫炎に、沢田の背筋がぞくりと粟立った。
    「…ヒバリさん、元の時代に帰ってください」
     沢田は再び懐から武器を取り出すと、静かに立ち上がる。
    「なぜ?」
     しかし、雲雀は表情の一切を変えずに沢田を見つめている。リボーンも黙ってそれを見ている。
    「なぜって、貴方、自分の意思でここに来たんでしょう?過去を変えるために」
     いつものように、十年バズーカによる偶発的な事故ではない。雲雀は、自分自身でタイムマシーンを作って、何か確固たる決意を持ってこの場所に来たのだ。
     しかし、過去を変えるなど、許されることではない。それこそ、この雲雀が起こす行動の一つで、全ての未来が消滅することだってあり得るのだ。過去を変える、ということはそういうことなのである。それは、沢田自身が一番よくわかっている事だった。
    「もし、帰らないって言ったら?」
    「貴方を、全力でその気にさせます」
    「いいね、君とは一度、本気で戦ってみたかった」
     雲雀は満面の笑みで立ち上がる。
     リボーンはと言えば、室内でおっぱじめるのかよと溜息を溢すだけで止める素振りはない。この部屋が壊れて被害被るのは部屋の住人である沢田本人のみなので、すでに他人事であった。
    しかし、基本的に温厚で後先のことくらいはきちんと判断できるはずの沢田も、後の事にも気づけないくらいには頭には血が上っていた。沢田は両手のグローブに、雲雀はトンファーに、それぞれ炎を灯した瞬間…

    「沢田綱吉!貴方、いつまでこのクソガキ置いておくつもりなんですか!!」

     バタン!
     と乱暴に開け放たれた扉に放り込まれた簀巻き状態の雲雀少年と、こめかみに青筋を浮かせた六道骸の手によって、ドン・ボンゴレの執務室は崩壊を免れたのだった。


    「別に心配しなくとも、僕は何もしないさ。そうだな…1週間くらいで勝手に消える」
     一触即発の空気は結局、思わぬ来訪者の一言によってどうにか払拭されたが、代わりに、現在本部内に待機している守護者を緊急招集しての会議が行われることになった。
     雲雀を囲んで困惑するのは、ドン・ボンゴレこと沢田綱吉とその守護者である獄寺隼人、山本武、六道骸とクローム髑髏、そして未だ綱吉の家庭教師を名乗るリボーンである。
     ちなみに、あろうことか六道骸に喧嘩を吹っかけて返り討ちになった雲雀少年は、自力で簀巻き状態を抜け出すと、あっという間にどこかへ行ってしまった。
    雲雀を囲む面々は、その一挙手一投足を見守るが、雲雀の言葉の意味については捕らえあぐねていた。
    「勝手に消える、というのは?」
     一瞬後、最初に口を開いたのは沢田だった。
    「僕の目的は…ちょっとしたバカンスのようなものかな。自分の意思ですぐに帰ることはできないけれど、君たちに害をなすことは一切しないと約束しよう」
    「それを、どうやって証明するんだよ」
     それに噛みつくように問いかけたのは獄寺だった。
    「君たちは、僕のことは信用できないだろうね。何しろ、この時代の僕は自分でも笑いたくなるほどのクソガキだ。なら、担保と言ってはなんだけど、君たちに僕の武器を預けようか」
    そう言って、雲雀は自分のトンファーと、見たことの無い形をした雲のリングを目の前に置いた。
    「あとは、信用できる人間でも僕の見張りとして置いておけばいい」
    そう言って、椅子の背もたれに沈み込む雲雀は余裕の笑みを浮かべている。
    その顔に浮かぶ穏やかさは、この時代の雲雀恭弥とは似ても似つかない。
    「これがあの、雲雀恭弥ですか?あのクソガキも、大人になるとずいぶん変わるものなんですね」
    「骸…お前、人の事言えるのかよ。オレからしたらお前だって十分変わったよ」
    とは言いながらも、沢田も違和感を拭えない。二十年という年月は、こうまで人を変えるのか。
    綱吉と六道だけに限らず、他の守護者たちも首を傾げたり、眉を顰めたり、様々な反応を示していた。
    「失礼ですが、ヒバリさん。アナタ、その武器は自分の手足の様なものでしょう?そんな大事なもの手放してしまって、どうやって自分の身を守るっていうんですか」
    なにしろ、ここは戦場のど真ん中なのだ。いつ何時、敵の攻撃が始まるかもわからない状況で、自分の武器を手放すだなんてどうかしている。
    「だから、それは君たちの信用を得るための担保だ。それに、僕は近接での戦い方は君たちよりずっと経験を積んでるからね。その辺の草食動物くらいなら素手でもどうにかできる」
    「いや、でも…」
    「俺は、ヒバリの提示した条件でいいと思うぜ」
    「山本…」
    こちらを見る山本の目は、すうと細められ、先ほどまでわずかに滲んでいた敵意が薄れる。
    「な…っ!お前、こんな得体の知れないヤツを傍において、十代目の身に何かあったらどうするつもりだ!」
     もちろん、それに猛反対をするのは獄寺だ。自身の座席を立ち上がり、山本の胸倉に掴みかかる。
    「ちょっ…!獄寺くん!」
    「まあ、落ち着けって」
     しかし、山本はいつもの調子で獄寺を宥めると、雲雀に向き直った。
    「アンタが何を目的にこの時代に来たのかは知らないが、少なくとも大人しく俺たちに見張られるつもりがあるなら、俺はそれで構わないと思う。何なら、その見張り役、俺が引き受けるぜ」
     な、と視線だけ向ける山本に、ううん、と些か了承しかねる返事をする沢田。
     山本ならこの中にいる誰よりも上手く雲雀の機嫌を取り持てるだろう。彼はそういうのが上手い。実力だって申し分ないと沢田は評価している。
    「そう。君が見張り役になるの、山本武」
    「ああ、それでいいだろ?」
    「僕はそれで構わないよ」
    「うーん…二人が本当にそれでいいなら…」
     しかし、それにすかさず反対の意を唱えるのは六道だった。
    「沢田、貴方どこまで甘ちゃんなんですか?そう言って、この得体の知れない男の言葉が本当に信用できるとでも?僕は反対です」
    「へぇ、じゃあどうするんだい?」
     面白そうに目元が弧を描いた雲雀に対して、六道の顔は不快感を表し歪んでいる。
    「そうですね。僕ならこうしますね。…今すぐお前を殺す」
     いつの間にか六道の手に現れていた三叉槍がひゅんと空を切って雲雀の鼻先を掠めた。
    「おいおい、相変わらず血の気の多いのな」
     寸でのところで攻撃を止めたのは山本だった。刀の切っ先が辛うじて槍の先端を受け止めていた。
    「ちょっ、骸!少し落ち着けよ!」
    「僕はいつだって落ち着いていますよ?」
     ふん、とそっぽを向いた六道は、自身の武器をしまうとすたすたと出口へ向かう。
    「おい、骸!」
    「無駄な時間を過ごしました。こんなもの、集まって話し合うだけ無駄でしょう。僕はここで失礼しますよ」
     パタン、とミーティングルームの扉が閉まると、綱吉と山本は顔を見合わせて苦笑する。
     その間、当の雲雀本人は、その騒動の最中も微動だにせずに座っていた。
    「ボス…」
    「うん、わかってるよ、クローム。だから、そんな心配そうな顔をしないで」
     沢田は、六道の言いたいことは理解していた。クロームの心境も。
     要は、あれで沢田の事を心配しているのだ。マフィアなんか嫌いだと声高々に宣戦布告をしていようとも、沢田の事は多少信頼して、心配もしてくれているのだと知っていた。
     けれど、もし本当に雲雀の言う通りなら、何をどうしようと雲雀は自分の時代に帰ることはできないし、逆に考えれば一週間何事も起こらなければ問題は無いのである。
     それならば、いつまでもグダグダ議論していても時間の無駄だ。
    「獄寺君」
    「はい」
    「ヒバリさんのために、ゲストルームの準備を」
    「しかし、十代目!」
    「いいから。これからの責任はオレが持つ」
    「…っ、かしこまりました。至急用意させます」
     多少の不本意ではあろうとも、基本的に綱吉に従順である獄寺は、言うなり立ち上がると、すぐに会議室を後にした。
    「ヒバリさん。1週間、本当に何もしない…今後の未来を変えるような事は一切しないと約束できますね?」
    「約束なんて必要ない。僕は最初からそのつもりで来ていると言っただろう?」
    「…わかりました。それでは、ボンゴレはこれより、貴方を客人として歓迎いたします。改めまして、ようこそシニョーレ、我がボンゴレの城へ」
    これが、沢田綱吉の長くて短い一週間の始まりだった。


       【1日目】

     ピピピ、チチチッと、小鳥の歌声が軽やかに響いている。なんて爽やかな朝だろう。シーツの隙間から顔を覗かせて、カーテンの隙間から差し込む光を見つめる沢田の顔は、しかし、全く爽やかな朝には似つかわしいとは言えなかった。
    何やら、寝室の隣から人の気配がするのだ。ついでに言えば、コーヒーの香りも。
    沢田は、のそのそとベッドから這い出ると、枕元にかけてあったガウンを羽織る。いくら日中は暖かいと言えども、時刻は早朝。日差しが差し込み始めたばかりの室内は、まだ肌寒かった。
    「おはよう、ようやく起きたの。寝坊助」
     そっと寝室の扉を開けて、気配のする方を伺い見れば、沢田のお気に入りのソファで寛ぐ男が一人。
    「よぉ。おはようツナ!起こしちまってわりぃ…」
     そして、その男から少し離れて扉の脇に佇んでいる、申し訳なさそうな顔をする見張り役の男が一人。
    「おはよう、二人とも…。ずいぶん早いね」
     少年の雲雀もなかなかに自分の好きなように行動する人物だが、大人になってもその辺は変わらないのかと、沢田は少し安心した。
    「それで…どうして二人ともオレの部屋にいるの?」
     壁の時計を見れば、短針はまだ5の上から少し移動しただけである。さすがにこの時間に起きて寝坊助はないだろう、と沢田は苦笑した。
     子供の頃のような惰眠を貪るだけの生活は送っていないにしろ、さすがにいつもの起床時間よりはずいぶんと早い。
    「いや、俺はさすがにやめろって止めたんだけど、一応」
     気まずそうに答えるのは山本である。
    「君、コーヒーの味には結構うるさいだろう」
     先ほどから鼻をくすぐる香ばしい匂いはこれであったか。
    「ヒバリさん、貴方…なんでオレのとっておきのブレンド勝手に飲んでるんですか」
    「さすが家庭教師仕込みのセンスだよね。君のそこだけは褒めるに値するよ」
    「…それはどーも」
    話が通じないのか、あえてのスルーなのか。
    コーヒーの1杯くらいで目くじらを立てるものでもなし、と沢田はもう2組、カップを棚から取り出した。
    「山本は?」
    「わりぃな、ツナ。それじゃあ、俺も遠慮なく」
    そう言って、雲雀の向かいに腰掛けた。
    こういうとき、山本は変に遠慮はしないので、沢田はその距離感がとても心地よいと感じる。
    沢田は部屋の奥にある冷蔵庫から、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、小さなコンロにケトルを置き、コーヒーミルに入れた豆をカラカラと挽く。
    細かく砕かれていく音と引き立つ香りが、寝起きの身体に柔らかく沁みこんでくる。挽いた豆をフィルターに入れてドリップすると、ふわりと香ばしさを含んだ湯気が鼻先を擽った。
    家庭教師から言わせれば、もっといい道具を揃えろだの、サイフォンを使えだの、口うるさく言われるのだが、今までインスタントコーヒーで済ましていたことを考えれば立派な成長だし、豆さえきちんと活かせれば、何で淹れようがいいだろうと思っている。
    「ヒバリさん、よくオレのコーヒーセットの場所知ってましたね」
    ソーサ―に乗せたカップを山本の前に置いて、自分もその隣に着席した。
    少なくとも今現在、雲雀少年は沢田の私室になど足を踏み入れたことはないし、沢田の記憶に間違いがなければ彼はコーヒーよりもお茶をよく好んで飲んでいたはずだ。
    「君は、僕がこの部屋に顔を出すたびに、そこの戸棚から出していたのを見ていたしね」
    「へぇ?ヒバリ、ツナの部屋に出入りしてたのか」
    山本が不思議そうに尋ねる。
    それもそうだ。この時代の雲雀少年はと言えば、よほど沢田の事が嫌いなのか、部屋に入るどころか沢田には全く近寄りもしない。これだけ毎日のように守護者には戦いを挑んではボロボロになっているのに、だ。
    「オレ、てっきり恭弥くんに嫌われてると思ったんですけど」
    「それで合ってるよ。正直に言えば、僕は君の事が嫌いだった」
    そう答える雲雀は、しかし可笑しそうに唇を吊り上げた。
    「何しろ、あの時の君には、僕は一切の太刀打ちは出来ないとわかってたからね」
    その言葉に、山本と沢田はおや、と顔を見合わせた。
    「でも…、たしか、初対面のツナに真っ先に殴りかかってたよな…」
    リボーンが沢田に面通しをした際、こちらからの挨拶もそこそこに殴りかかってきたのだ、この人物は。
    「まあ、君が強いことはすぐわかったから。戦ってみたくなった」
    「じゃあ、その感想、今聞いてみても?」
    「そんなの言うまでもないだろ?」
    どうやら、答えは沢田の想像通りらしい。
    何しろ雲雀少年は、沢田に腕一本でいなされたかと思えば、そのままマウントの体制を取られていたのだから。
    それ以来、雲雀少年はめったなことでは沢田の傍には近寄らない。
    「でも、大人のヒバリがツナと普通にしゃべってるってことは、お互いの蟠りも溶けたんだろ」
    山本の問いかけに、雲雀はしかし肩をすくめて
    「さあね」
    とだけ答えた。
    「それは、この先の未来のことだ。君たちが自分でその結果を見ればいい」
    「まあ、それもそうですね…と、そろそろ」
    空になったカップを置いて沢田は立ち上がる。
    「獄寺くんが呼びに来るね。ちょっと支度してきます。ヒバリさんも、モーニングコーヒーをお楽しみ頂けたなら、下の食堂へどうぞ。一流シェフの朝食が楽しめますよ。そうそう、和食もありますので安心してくださいね」
    そう言い残して、沢田はパタパタと先ほど出て来た寝室へと戻っていった。
    「どうする、ヒバリ?」
    山本も立ち上がって雲雀の様子を伺う。
    「それじゃあ、和食をもらおうか」
    「了解。それじゃあ、下に伝えてくる。それとも、一緒に来るか?」
    「一緒にも何も。君、僕の見張りなんじゃないの?」
    「いや…なんて言うか…まあ、今のヒバリは変な事しなさそうな気がしてさ、大丈夫かなって」
    山本は一瞬だけ雲雀から目を逸らす。
    今、何だか見てはいけない物を見てしまったような気になったのだ。
    この大人の雲雀は、子供の雲雀と全然違う表情をする。特に、沢田を見る時の表情が、まるで別人と見間違うほどに。
    「そう、君にはそう見えるの」
    雲雀は意味深に笑った。
    「なら、お言葉に甘えて後から行く」
    「わかった。場所は…まあ、アンタにはきっと今更のことだよな」
    それじゃあ、と言い残し部屋をあとにする。
    恐らく、あのヒバリは沢田と一緒に来るのだろう。
    勘ではなく、そう思える確信があった。
    「こりゃ、明日にでも見張り役はお役御免かもなあ」
    山本は嬉しそうに呟く。
    なにしろ、あのバトルマニアの子供がすっかり丸くなって、時折愛おしそうに沢田を見る事さえあるのだ。
    つまり、未来での二人はそういう関係なのかもしれない。
    沢田本人は、雲雀の好意に全く気付く様子もないが。
    さて、今日の朝食は何かと廊下を進む山本の足取りは、いつもより軽やかだった。
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    一連の動きは全て反射的なものだったが、さすがはドン・ボンゴレの超直感である。
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    珍しく平和だった、昼下がりのボンゴレ本部。その片隅の小部屋で突如発生した煙は、その音の間抜けさに反してとんでもない災厄の訪れを告げた。
    正しくは、『まだ断定はできないが、沢田の直感がこいつはきっと、とんでもないことが起こるだろうと告げている』状態である。直感というよりはむしろ、経験に基づいた瞬間的判断と言った方が良いかもしれない。
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