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    yukiamagurisuki

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    yukiamagurisuki

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    いやらしくしよ!と思ったら全然いやらしくならなかったコレグラの短文です
    この前書いたハグしてるやつにちょっとだけ書き足しました

    #コレグラ

    数千年ぶりにハグをするエルダ~ズ 波紋のように肌がさざめていた。互いにそれほど皮膚を露出させてはいないが、触れ合う箇所から布越しにも体温と肉の感触が伝わる。ざわざわと吸い寄せられる感覚がある。生存競争の理から外れた生命体の本能が、同族の気配にひたすら歓喜しているようだった。いっそ同一の個体になりたがろうとしているのかもしれない。つまるところ、脳機能が管理する意識の及ばない核部分は、どうしたって孤独を嫌悪している。単体であれば分裂してでも複数になろうとする。無機が有機となる現象の根幹。そこだけは他の生命達と自分達の根本的な道理は変わらない。不条理なものだ。しかし同時に、酷く腑に落ちる。体内の髄を駆け巡る喜悦が証明だった。
    「よろこんでる……、私の中身が」
     肩口で酷く愉しげな声がする。自分の背に回された腕がぎゅうぎゅうとコレクターの身体を前方へ引き寄せ、密着が強まる。ぞおっと脊椎に快楽信号が迸った。呻き声の代わりに溜め息が鼻腔を抜ける。いっそ首を仰け反らせて喘いでしまいたいのを堪え、歯列を食い縛り眉をしかめる。それでも不自然な吐息が漏れた。
    「私を構成する要素たち……、有機生命体たちで言う……、あれだ、あれが……ふふふ」
    「細胞」
     今ばかりは恍惚と笑い声とろけさせる兄を嗜める気も起きなかった。平静を取り繕いたくて出来得る限り端的に答えるが、抱き締めた存在は全てを見透かしたように笑うばかりだった。
    「そうだ、それ……、それたちが、……ふふふふ、はしゃぎまわってる……、こそばゆいな、あちこちが歌い出しそうだ、ふふふ……、たまらないな、からだが……、崩れてしまう、タニリーア、お前もだろう?」
     耳障りなはずのそれに鼓膜までが嬉しげに震えて、聴覚がそれを悦と変換して脳神経を甘く痺れさせている。いちいちそれを錯覚だと噛み砕くのにも飽きてきたので、コレクターは諦念の境地で、本能に隷属する事にした。首筋の辺りから、本能に訴えかける芳香がする。処理しきれない多幸感の予感にが思考が単純化する、衝動が意識に取って替わる。たまらず鼻先で邪魔な衣を掻き分け、皮膚が露になった顔面を埋めて深く吸い込む。
    「…………、…………、…………」 
     気管から肺腑が、同族の気配で満たされる。息を吐くのが惜しかった。この匂いを永遠に体内に留まらせていたくても、吸う為に吐かざるを得ないのが歯痒かった。低く唸りながら、溺れる寸前のような呼吸をひたすらに反復する。それらが少しでも多く自身の体液に溶け出して欲しかった。
     うふふふ、とくすぐったそうに笑って抱き抱えた身体が身悶えるのが鬱陶しい、それが離れる意図ではないと分かっていながら、僅かな身動ぎすら許せなかった。いつの間にか壁際に追いやっていたらしい、好都合だった、物理的に後退り出来なくなった身体を再度拘束し直す。抵抗の意思を微塵も見せない温度に途方もなく安堵して、享楽に没頭する。
    「なかなか面白いな。少しこうしていよう」
     そうしていると宥めるような手つきに後頭部を擦られた、その感触が頭蓋の内側に飛び散る快楽物質を掻き混ぜる。撹拌されたそれらが薄まることなく身体の端々まで満遍なく離散すると、寿命を迎えた星々が発する閃光のような瞬きが視界を埋め始め、が自分の目蓋が持ち上がっているのか瞠目しているのかすら把握出来なくなった。
    「もしかして、退屈か?とっておきの笑い話がある」
     言葉を発しようともせず、それ以外を知らないように身体を擦りよせてくるばかりの弟に、兄がまるで見当違いの事を言い出した。否定の為の発声すら手間に感じる。致し方なく、うんざりとして声帯を機能させる。
    「黙っててくれ」
     兄が心得たとばかりに大きく頷いた。
    「いいとも、黙ろう。他に希望は?」
     即座に発言を反故にしてくる軽口にこれ以上付き合っていられない。ただでさえ身体中が喧しくてたまらないのだ。無言のまま腕に力を込めると、流石にお喋りが止んだ。満足気にこちらへ傾けられた頭に、無意識に頬を擦り寄せる。その仕草に兄の笑みが深まったのを感じ取ったが、最早気にはならなかった。
     久方ぶりの抱擁は、長く続いた。



     時間の経過という概念すら置き去りにしていたので、どれくらい経ったかは定かでなかった。より触れ合う面積を広くする為に、兄の身体を床に引き倒して久しい頃、ふと、悪戯な指先がコレクターの股座へ伸びた。
    「おお、やはりね。よしよし、素直な子だ」
     膨張して布を押し上げている部分を撫で擦られる。今はそれどころではなかったので、肘を立てて上半身を持ち上げ、その手を薙ぎ払う。すぐさま浮かせた上体を元に戻し、自重で兄の身体へ覆い被さる。
    「生殖したいんだね」
    「したくない」
     一度身体を離した事で、二人の間を空気が通り抜けたのが不愉快だった。ヒト型を模した肉体では、恒常を逸した事態に遭遇した時、雄性器がこれぞ繁殖の好機と誤作動するのはままあった。兄の誤解も理解出来なくはないが、粘膜同士をわざわざ接触させる意義を感じなかった。
    「私はこの子に聞いているんだよ」
    「そこに自我はない」
    「何を言う。思考機能が脳味噌ほど複雑じゃないだけだよ、こんなに健気に訴えているのに」
    「あんたのそれにも意識があると?」
    「少なくとも意思と趣向はあるよ。頭とはまた別の。性機能のある種族の肉体はこの理不尽さが癖になるんだよなァ、そのうちお喋り出来るようになるといいよな、そしたらお前のそれと私のそれでお茶会させよう。きっと面白い話が聞ける」
    「…………、もういい」
     数十秒に渡る逡巡ののち、狂おしい名残惜しさを跳ねのけてコレクターが身体を離した。床に転がったまま、ええ~ッ、と残念そうな声を出している兄を置き去りにして重い腰を上げる。
     高揚が少しずつ冷めていく。本能が充分満足したのかもしれなかった。あれほど騒ぎ立てていた体内の躍動が落ち着いている。ふつふつと沸いていた血液が静けさを取り戻して、淀みなく身体中を循環し始めるのを感じる。
     ちぇっ、と言って上体を起こす兄の動作を見詰めながら、コレクターは数千年ぶりの深い恍惚を静かに反芻した。唇を尖らせた兄の視線が、自身の下半身へ落とされるまで。
    「お前のそれはいじらしくて本当に可愛いな、愛着が湧くよ。肩に乗せて歩きたい、どうだろう、次に会うまでの間、借りていてもいいかな?」
    「いい訳あるか」
     いよいよ気分の萎えた弟が、すっかり元通りのしかめっ面でそう吐き捨てながら、座り込んだままの兄へと手を差し出した。
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