熱燗と瑞雪 今夜は冷えるね。
そういって今日は温かくした日本酒を飲むことにした。
最初は宅飲みをする仲だった。あの日の約束を叶えて、その日のうちに「またね」と約束した。
それを繰り返していくうちにいつの間にかこの家にいる時間が伸びていって、最終的には住むようになった。
初めての夜を迎えたのもどれくらい前の話になるのだろうか。お互いがお互いのことをパートナーだと認識している。
誠二郎の苗字が変わるのもそう遠くないかもしれない。
それぐらいに二人の距離は近く、他の関係とはまったく違う特別なものだった。
それでも”ただの親友“のころからずっと晩酌は続けている。
最初はそれこそ約束をして、それの延長線だった。
辛いことがあったから、お酒を交えて話がしたい、映画を見ながら、美味しいって聞いたお酒を買ったから、おつまみを買ってきたから──
そして今日は「今夜は冷えるね」。
きっと最終的には、声が聞きたいから、で晩酌をし始めるのだろう。
こたつに足を入れて、翠雨が作った品を摘まみ、適当にみかんを剥いて、熱燗を飲み。
バライティ番組を点けてはいるが耳に入っていない。二人はお互いの話に夢中になっていた。
「でさ、道路が凍ってるっていうのに革靴履いて出ちゃったんだ。何度か転んだよ」
「それは大変でしたね。お怪我は?」
「お尻の骨が折れたんじゃないかって思うことは何度かあったね」
「……。」
「じょ、冗談だから!」
ほとんどは誠二郎からの「こういう日があって」だ。
初対面では危なっかしい面影はありつつも年相応のしっかりした男性、ではあった。
だが、彼の日常を聞けば聞くほど、心配になるくらいにはおっちょこちょいであることは晩酌をするようになってから気が付いた一面だ。
そんな彼の夢がヒーローになること、だというのも納得はできるのかもしれない。
「誠二郎さん」
そのあとに翠雨ができあがった誠二郎の酒を止めるか、もう深い時間だから寝ましょうか、という話をする。
しかし、その日は庭に繋がる雪見障子のある廊下へと顔を向けた。
「今夜は雪が降るそうです。ご覧になりませんか」
時間を確認して、予報だとそろそろだったはずです、と続ける。
誠二郎は、そんな話を出されて首を横に振る人間ではない。目を輝かせて頷いた。
廊下は暗く、そして寒い。誠二郎に至っては室内だと言うのに真っ白な息を吐いていた。
足音が響く静かな廊下に明かりを点けて、ガラス張りになってあるところから外を覗く。
予報通り、といったところだろうか。真っ白な雪がふわふわと落ちて来ていた。
二人はお互いの顔を見つめ合ってから笑う。
すごいね、と誠二郎が障子に触れればあっという間に指の周りのガラスが真っ白になった。
「体を冷やしてしまいますからそろそろ戻りましょうか」
子どものような横顔が積もるといいなぁ、と零す。
それにそうですね、と幸せそうに微笑んだ。