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    hiehiereitoko

    @hiehie_hiehie

    自由に書きます。人を選ぶやつばっか。多分。

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    hiehiereitoko

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    11/23新刊①成人ジュン要短編集「晴天の中、ぼくたちは相合傘をする」から1作。
    明るくない。(というかこの本、全体的に暗い)
    さざなみって酒ダメですよね。あんな酒瓶に溢れて、ゴミに溢れて過ごしたことってなかなか消えないよね。それどころか思い出すよねって話。

    #ジュン要
    junShaku
    ##ジュン要
    ##精神不良

    またお別れね、次の世界でまた会えるから思い出すのは、夢の残骸からできた腐乱死体だった。
    生成されてしまった哀しき化け物(親)に子供は拒否権を持たない。
    叶えられなかった、そうして押し付けられた夢は色味を失ったままで色濃く悪臭を残していた。
    「さざなみ」
    「…………」
    「ぼくにいばらから連絡が来ました。大丈夫そうなら大丈夫と返してください、と書いてありました」
    「…………あ、ああ、だいじょ」
    オレは扉ごしに会話をしている。便器と部屋を分けるための茶色い狭いドア。狭い、閉じこもった密室から、外にいる要の声を聞いている。
    蒸し暑いのか空気が湿っているわりに、身体の震えは止まらず、ずっと寒いままだった。
    力の抜けた身体は、モノが落ちるように、ぐったりと便座のふたに落ちていた。
    ふかふかの蓋のカバーは水色のチェック模様でここだけ微妙におしゃれではあった。それだけが歪んだ視界の中に入り込む。オレの頬の下に敷いてある、布。
    「う…………」
    身体が冷える。冷たくもないはずなのに、寒くて仕方がない。苦し気に唸った声にはもう覇気などあるはずもない。鳥肌は立ちっぱなしで、掻きむしってしまいたくなる。
    今日は大丈夫だと、このまえはただ調子が悪かったのだとそう言って、言い聞かせて、このざまだ。
    今日も、また、居酒屋に入れなかった。
    どうして、なんて聞くまでもない。それはオレがよく知っていた。
    忘れ去っていたと思う過去が、乗り切れたと思っていた鬱屈が、形を持ってオレに振りかかった。
    もっと言えば、捨てられることなく残された、嗅ぎなれたはずの酒瓶がフラッシュバッグしてオレを壊した。
    ずっと茨は、スキャンダルになりそうなものを排除してきたのだろう。今になってそれを思い知る。だとしたら、芸能界にいて久しくこの臭いを嗅いでいないこともあり得る話かもしれない。
    別にオレの事情からでもなく、ただ未成年飲酒だのいらぬ疑いをかけられないように、スキャンダルにならないように、火のない所に立ちもしない煙を、ずっと消していたのかもしれない。
    そういうとこ、きちっとしてんだよな茨は。
    ぐらぐら揺れる頭で、ふとそんなことを思った。よく知っていることを初めて知ることのようにとらえてしまう。頭は依然、働かない。
    「さざなみ。出られそうですか。ずっとトイレに座り込んでるのは苦しくないですか」
    「…………」
    苦しくないか、苦しいか、で言ったら苦しい。
    床は冷たいし、身体は窮屈に縮められている。空気は湿っていて、その癖、異様な寒気がする。
    良いわけがない。血行の悪くなった身体をさらに虐めるだけだこんなの。だけど、外に出たら全部ぶちまけてそうでそれもできなかった。
    比喩ではなく、文字通りの意味で。
    沸々と中枢神経を混ぜっ返して、ひっくり返して、喉から絶望を吐き出すしかない。
    所謂嘔吐感。
    吐きそう。吐いちまいそう。全部ぶちまけて台無しにしてしまいそう。
    だから動けもしないし、この不衛生寄りの鳥籠から出ることもできない。
    「……っ…………」
    痛い。もう頭まで痛かった。
    頭ががんがんとうるさく鳴る。文字にも言葉にもならない酷い耳鳴りがする。
    全部出しちまえばすっきりするのかもしれないのに、オレはそれすらできなかった。何もできずにただ重い身体を便器に預けている。
    便器を抱きしめるとか、ほんとうに最悪で、それを認識しただけで気分が悪い。
    しがみついていないと崩れてしまう。というかもはや既に崩れかけている。身体が言うことを聞いてくれない。
    それでも、まああまり意識したくはない図だった。
    掃除はまあ男の二人暮らしにしてはしている方だし、要がトイレの中にまで行っても間に合わないこともあるせいで、ついでにしっかり洗う頻度もまあまあ高い。
    だからこの床も蓋もそこまで汚いわけでもない。トイレカバーだってこの前洗った。寧ろキレイすぎる部類であろう。
    前述の通り、とりたてて汚いわけないけど、ここはトイレには変わりがない。アイドルはトイレに行かないとかいう時代なんかではないけど、それでもそう言われるのがわかっちまうくらいに対極の場所だった。
    キラキラした夢と吐瀉物排泄物の掃き溜め。
    それはいくらキレイにしても、べったりと座り込むような場所には決してならない。
    「要……。茨にオレはだいじょうぶだって言っておいてくれ、わかるか、メッセージで……。登録してあんだろ……。それだけ……打てばいいから」
    どういった経緯かはもう覚えていないが、要のスマートフォンには茨の連絡先が入っている。
    数少ない、というか、もともとオレとお兄さんくらいしか入ってない、あとは病院とかそういうものだった。
    要の携帯電話は退院してから新調したものだった。昔の連絡先どころか、データの引継ぎさえされていない。要が以前使っていた携帯電話の行方すらオレは知らない。
    だから、要の携帯電話の中に入れられた繋がりは酷く簡素なものだった。学校にも行っていなければ、アイドルもやっていない。リハビリセンターとその他の病院と家を往復するような生活。その中に繋がりなどそうそう増えやしない。
    多分、その中に書いてある『いばら』の文字はだいぶ浮いている。
    メッセージアプリにも、同じようなものしか入ってない。要が混乱するから、特にほかのものはいれさせていない。SNSも緑のメッセージアプリしか、ない。
    この情報過多な世じゃ、情報の取捨選択をある程度しなければ気分が悪くなるだけだ。
    要が触れる情報なんて、そんなにいらない。
    ソロ時代だの今のHiMERUだのの情報なんかを、無責任な有象無象の発言を、見せるわけにいかなかった。お兄さんとは今でも連絡を取り合っているのだから、聞きたければそこで聞けばいい。お兄さんに聞きづらいことだったら、オレに聞けばいい。噂レベルの悪意の塊を目にしたところで、要が傷付くだけだ。
    そうは言っても別に要を制限しているわけでもなく、ただそれが要の持てる人間関係のすべてだっただけだった。
    見知らぬ誰かなんて要にはいらない。
    これ以上増える必要はない。
    そう思っているのも確かではあったが、加害されるくらいなら何もない方がマシだと己に言い訳する。束縛しているわけではない。よくある、フィルタリングだのそういう制限は特にかけてない。時間制限もさせてない。
    「…………わかりました。さざなみの言う通りに打つので、トイレから出てきてください」
    「え、あ……、ああ」
    なんて言ったっけ……。余計なことばっかり考えては言い訳をして、己が何を言ったのかさえ、忘れている。
    ああ、本当にダメだ。
    「さざなみ、ふとんで寝た方がいいのです。そこにいてもいいことはないのです」
    「わかって……ますけど……」
    「わかっているなら出てきなさい」
    多分、要が正しいのかもしれない。
    少なくとも、今に限っては正しい。
    あんたは嘘を吐くこともあるけど、ひとは傷つけない。
    『いいこ』なんだ、元々。
    だからきっと、これもオレは聞くべきなんだ。生憎、それだけを判断できるだけの思考能力はもう残されてねぇけど。
    「…………」
    オレはトイレのドアに手をかけた。別にわざとつっかかることもせずに、ただただ言われるままにここから出ようとする。
    ぶらりと垂れ下がった腕を無理矢理動かして、倒れ込むようにしてドアをあけた。
    がちゃんと軽い音と共にどさっとした重量感のある音が立てられる。
    ドアが開く瞬間、支えを失ったオレも倒れ込んだ。
    フローリングの床に落ちて、そのまま動かなくなる。眼が、うまくあかない。視界すら確保できない。堕ちて、そして立ち上がることはできない。
    「なんで嘘つくのですか」
    「……な、んの話……」
    「いばらに大丈夫って言えって言ったじゃないですか。それは嘘じゃないですか。全然大丈夫には見えないのですけど」
    「ごめ…………」
    「ぼくに謝らないでほしいのですけど。ぼくはさざなみに謝られるようなことはされていないので」
    「あ、ああ……」
    「…………動けないと言うのなら、ぼくがお姫様抱っこをしてあげないこともないのですけど」
    「むり……だろ……」
    「やってみなければわからないのです。……とは言え、今のさざなみは落としたらそのまま死んでしまいそうなのでやりませんけど。可哀想なので。ぼくにもそのくらいの気遣いはできます」
    あんたに言われたくない。そう言い返したかった。喉奥に言葉がつっかえて、うまく話せないけど。張り付いたように舌が回らないけど。
    今にも死んでしまいそうなのはあんただってそうだし、可哀想だと言われるのもあんただと思うのだけど。
    なんでそれがオレに向けられているのか、意味わかんねぇんだけど。
    軽い反発心で少しだけ調子が戻ってくる。もやがかかったような視界が正常化する。ちょっと、クリアになった。
    オレがあんたを抱えることはできるけど、あんたはオレを抱えられない。相対的不可逆反応。それは必要条件であって十分条件ではない。
    良いか悪いか、というよりやらなくていいことだった
    。持ち上げようと掴まれるだけで多分、動かない。あんた、五キログラムの米袋だって持ち上げられないのに、その十倍以上の質量があるオレなんて持ち上げられるはずがない。
    落とす落とさないの問題ではなく、そもそも持ち上げられないだろ。
    「さざなみ、お水いりますか。持ってきますけど」
    「…………いる」
    「わかりました。そこで待っていなさい。えっと、でもふとんに行けそうだったら行っていいのですよ」
    ああ。わかった。そうする。
    たったそれだけのはずであるその言葉は、外に出ていくことなく喉の中にずっと張り付いている。
    重力に引っ張られるようにして、意識を抉り取られないようにもたれかかっている。床に張り付いて、どうにか生きている。
    それだけだった。
    「…………」
    寒い。肌が、全身が泡立つ。
    ぼんやりと遠ざかってくる現実と反比例して寒気だけが輪郭をなぞる。
    『ジュン、もしかしてお酒、とりわけビールのたぐいがダメなのではないですか』
    一回目倒れた時に茨が放った言葉。それが耳から離れない。
    『たまたまっすよ。そんなわけないじゃないですか。第一飲んだこともないのに種類の判別なんてつかないでしょう。もしかして法律違反したって疑ってます~? 未成年飲酒なんたらって。オレがそんなことできないって知っているでしょぉ?』
    これ以上聞きたくなくて、オレは上書きをするように大丈夫を連ねた。冗談で何とか押し通そうとした。
    だって聞いたら、答えなければならないから。
    大丈夫だなんて嘘は簡単に見破られてしまうから。
    もうふっきれた過去に囚われていると知られるのは、なんとなく、だけど、はっきりと、嫌なことだった。
    酒瓶とブラウン管、捨てられることのない生ゴミの腐った臭いと、輝いていた佐賀美陣。
    全部、全部嘘だった。こんなひとめで虐待されていたとわかる少年なんてものはいなかった。
    だから、大丈夫の上書きをした。
    こんなこと、なかった。
    大したことじゃない。
    これくらい、普通だ。
    普通の家庭で、よくあることだ。
    そう言い聞かせた。
    だけど現実はどうだろうか。同じ失敗を繰り返すだけで、何ひとつうまくなんていかない。
    抱えていたって何の得にもならないどころか、害でしかないお荷物を延々と抱え続ける。
    古くなったゴミが何故捨てられていなかったのか、その意味が理解できてしまう。いらないのに、邪魔なだけなのに、それどころか異臭すらして、不快なものとわかっているのに残り続ける意味を理解してしまう。
    捨てる力がなければ残り続けるのだ。
    捨てても、捨てても、まだ足りないとばかりに心に置き去りにされる、でっけぇ癌みたいなモン。
    消えるどころか増殖していって、そのうち全身が侵されて潰れてしまう。
    「さざなみ……」
    要はオレを見ていた。
    らしくもなく心配そうな顔でオレを見ていた。
    不安そうな顔は多分、見たことはある。
    不満げな顔はしょっちゅうだ。
    基本的に要は他人に干渉しない。常に要の世界は自分を中心に回っていて、いつも自分のことで手いっぱいだ。
    なのに、ひとに向ける感情としての『心配』を、声が、顔が、全身が要に表れている。
    首を軽く傾けながら、プラスチック製のコップに注がれた水を手に持っている。
    なんだよ。なんでそんな顔するんだよ……ッ。
    なんでそんな、オレを見ながら心配そうにしているんだよ……?
    「水」
    「え」
    「水、飲むから。置いて」
    「……わかりました」
    ああ、怯えさせてしまった。要がどこまで考えているかなんてわからないけど、おどおどと様子を見るようにこちらを伺っている。
    すごい、嫌だった。
    オレが悪いことをしているみたいで、それを責め立てているようで、嫌になってしまう。
    …………。
    ああ、こう思うこと自体も嫌だ。
    その思考回路はオレが忌み嫌うもののひとつではなかったのか。
    それはオレが思い通りに動かないからと、生意気な眼をしているとケチ付けられて、自分勝手に苛立っていたクソ親父そのものだった。
    「さざな」
    「要。今日は茨のとこに泊まれ。無理だったらおひいさんとこでもいい。……おひいさんの登録はなかったよな。茨に聞けばわかるから聞いて。そこ行け」
    「は? なんでですか。そんな状態のさざなみを置いていけるわけないでしょう」
    なんで言うことを聞いてくれねぇんだよ。
    咄嗟に思ったのはマイナス感情だった。
    最悪だ。
    その要の言葉は確かに嬉しさもあった。心配される優しさを全否定して耳を塞ぎたいわけじゃない。
    だけれど、それ以上にオレは限界だった。
    これ以上、口を開けばオレが何するかわからない。
    要のせいじゃない。
    ただただ、オレが限界で、これ以上醜くなんてなりたくないだけだ。
    「さざ」
    「なんで」
    「ひ……っ」
    「なんで言うこと聞いてくれないんだよ!? そんなにオレがうまくいかないところ見て楽しいかよ?」
    「そんなつもりじゃ」
    「じゃあなんのつもりだよ。笑うつもりかよ。要までオレを笑うのかよ。笑えばいいだろ。打ち上げひとつまともにこなせずに、メンバーに心配かけるだけかけて、無様に倒れ込んでいる情けない姿を、笑えばいいでしょうがよ!?」
    ああ、怒鳴ってしまった。感情に任せて、わけのわからないまま怒鳴ってしまった。
    泣くかもしれない。
    あんたは、要は、ひとが怒っているところが苦手だから、震えてそのまま縮こまってしまうから。
    何があんたをそうさせるかまではわからない。こわがりで片付けていい範疇を超えている。
    ああ、もう。
    「……?」
    だけど、予想した泣き声も何も聞こえてこなかった。
    ただ静かな冷たさだけがある。要は何も言わない。それどころか、落ち着きすらあった。
    「さざなみ」
    「……なんだよ」
    きまりが悪くて、ぶっきらぼうに返す。感情のままに怒鳴った罪悪感で要の顔を見ることができない。
    「ここに居てほしくないならぼくは先におふとんに行っています。さざなみが寂しいなら来るといいのです。起きて待っていてあげます」
    「…………」
    「ぼくが泣いてもさざなみは置き去りになんてしないのに、ぼくだけいなくなるわけないじゃないですか。さざなみが思うほど、ぼくはずっとさざなみのことが好きなのです。愛しているのですよ」
    「…………」
    「だから、その、待っててあげるのです。寝る時間になっても、夜が明けても、朝になっても、ずっとずっと待ってるのですよ。来たら、ぎゅうっとしてあげます。ぼくがさざなみをぎゅうっと抱きしめてあげます」
    「…………」
    「だから来たいなら来るといいのです。でも、さざなみがぼくに会いたくないとそれでも言うのなら仕方がないのです。さざなみの自由ってやつなのです。ぼくはそれを尊重するので。大人だから。ぼくは大人だから」
    要は言いたいことを言いたいだけ言うと、すたすたと寝室に入っていった。
    ばたん、と大きくもないが、小さくもないような微妙な開閉音がする。
    今くらい慎重に閉めろよ、とは思う。動きが総じて雑なんだ、いつもいつも、不器用で、へたくそで、それで……。
    「…………」
    それで、なんだろうな。優しい、でもないし、なんなんだろうな。
    「わかんねぇ、わかんねぇけど」
    どうしてだか、ほっとした。
    何にも解決しちゃいないし、多分繰り返す。何度やろうが、きっとオレは居酒屋にも打ち上げにも出ることはできない。少なくともすぐにはきっと、無理だ。それでメンバーに迷惑をかけることも、多分、今後もある。
    それでも、今だけは抱きしめられていたかった。
    ゴミが捨てられなくても、ずっと残り続けても、それでもいいと受け入れてくれるなら。
    オレはまた歩けるのかもしれない。丸腰で、武器も何もなしに挑むのはとてつもなく無謀だけど、なかったことにするわけでもなく、ただそれを上回る何かを積み重ねていきたいと思った。
    よろよろと立ち上がると、倒れ込むようにベッドに落ちた。珍しくオレのベッドに座っている要に抱き着いて、ふたりで倒れ込んだ。
    「さざなみ、おかえりなさい」
    「ああ」
    恥ずかしくて仕方がない。けど、今日くらいは素直に甘えさせてもらおう、それだけ。それだけだからな。
    オレをすっぽりと抱え込んで、どこか満足そうな要に、まあいいかとそのまま身を寄せていた。
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    hiehiereitoko

    DONEサンタクロースを知らない要と、そんなことも知らねぇのか……と思いつつ自分にも来たことがないから「いい子にしてるといいらしいっすよ」と曖昧で語気が弱まっていくさざなみのクリスマス話。
     はいはい。あんたはいい子だよ。オレが保証する。
     未来軸。さざなみ、要両方とも19。退院してふたりで過ごしている。Merry Xmas
    過去も想い出も一緒に食っちまおうぜ「さざなみ、この赤いひとよく見るのですけどクリスマスと何か関係あるんですか」

     これを言われたとき、オレは古典的にずっこけそうになった。

     季節はすっかり冬で、気温は一桁台が日常化していき、吐いた息がすっかり白くなった12月。
     リハビリがてら散歩というか。気取った、少しの期待を込めた言い方を許してもらえるのなら、デートしていたときのことだった。
     
     街中はいつのまにか赤や白、または緑に彩られ、あたりには軽快なクリスマスソングのイントロが流れている。夢みたいに平和そのものの世界だった。
     
     そんななか、デフォルメされたサンタクロースを指しながら要は不思議そうな顔をしていた。
     
    「嘘だろ……」
    「今すごく失礼なこと考えましたね。さざなみの考えることくらいぼくにはお見通しなのですよ」
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