俺っちとメルメルのラブラブ家族計画「なァ、メルメル」
「なんでしょうか」
「井上祐二。これ、誰？　メルメル最近こいつとよく連絡取ってるみたいだけど」
「……ただの仕事相手ですよ」
ああ、まただ。また燐音の悪癖が出た。
同棲したてのリビングルームで各々くつろいでいる時のことだった。
目の前の燐音はにこにこと人の良さそうな笑みをしている。これだけ見れば然程問題はなさそうにも見える。
が、内容が最悪だ。
燐音の声が心なしか温度を持っていないようにも聴こえて、俺は背筋がビリッと嫌な痺れ方をした。
俺が燐音と付き合って、勢いで同棲までして、一ヶ月。
そこで俺は燐音がとんでもなく嫉妬深いことを知った。底なしの独占欲。少しでも関心が他人に向くだけでそれは誰なのか吐くまで終わらない。そうしてメルメルには俺っちがいるっしょとセリフだけは待ち望んでいたような甘い言葉を吐くのだ。

甘くて痛い、毒を帯びた蜜この男、天城燐音を愛することは穴の開いたバケツに水を流し込むような作業なんだろうなってことを、ずっと俺はそれを実感している。
どれだけ水を与えても、入れても、それでも何にも吸収できずにその場で大事なことばかり落とす男に、俺はどうしようもない、やるせない感情を抱いていた。
どんなに何かを注いでも、打って響くような手応えがあっても、この男に吸収されて、その一部になることがない。
わかっていない方がまだ救いようがあったのかもしれない。何もわからない馬鹿であった方がまだ救いようがあったのかもしれない。
燐音は、この男はわかっていて、理解していて、なのに、その注いだ部分が心を満たすことがない。頭ではきっと全ての出来事も理解しているのだろう。だけど認識ができていない。