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    garigariokoge

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    賢者の島にあるペットグッズ専門店でのとある出来事

    おにくたべるにゃ「は〜い、いらっしゃい」
     
     ここは賢者の島の片隅、ペットグッズ専門店。そして私はその店主。店主一人、男手一つで管理できるほどのこじんまりとした店ではあるが、ワンちゃんネコちゃん・その他家族同然のペットたちに自信を持って与えることができる、質の高い・素敵な品ばかりを揃えている。私の夢と、動物たちへの愛が詰まった店だ。
     今日も今日とて、開店してからまばらに訪れるお客さんとちょっとした会話なんかをしながら、ゆる〜く仕事をしていた。三時のおやつにミルクティーと猫の形のクッキーを嗜んでいたら、ほぼ常連となった、最近猫を飼い始めたという初老の男性がやってきた。名前は“タッちゃん”。奥さんと一緒にこの島に引っ越してきて、第二の人生を送っているそうだ。そしてその右手には、愛猫のチビちゃんが入っているであろうキャリーバックを持っていた。

    「あらあら、タッちゃん! こんにちは。チビちゃんもご一緒で。今日は何をお探しですかね?」
    「こんにちは、店長さん。『何をお探し』というか、『何がいいか探してる』って感じでして。それがねぇ、最近、どうもチビがご飯食べてくれなくて。いいフードありませんかね?」
    「えっ、チビちゃん、ご飯食べないの?」

     お客さんの言葉に、思わず接客を忘れた言葉をこぼしてしまう。タッちゃんがチビちゃんを飼い始める時に、必要なもの一式を取り揃えてあげたこともあり、一際思い入れのあるネコちゃんであった。

    「やだ、チビちゃんどうしちゃったの? 今までご飯食べないなんてなかったわよね?」
    「そうなんです。調子が悪いのかと思って、さっき病院連れで行ったんですけど、特に異常はないって。獣医さんが『もしかしたらゴハンに飽きちゃったのかも』って。それで違う種類のフードを探しにきたんですが……」
    「あらそうなの〜。子猫用のフード、ちょっと持ってくるわね、よかったら試食してみて。チビちゃんが気に入ったのを買うといいわ」
     
     私の店ではペットフードの試食もできる。もちろん、食べるのはペットの皆さんだ。ペットの好みなんてわかるのかと言われそうだが、私の店では高性能動物語翻訳機を駆使してペットの皆んなの反応をしっかり確認して、ベストなフードを選んでもらっている。
     私は手早く何種類かのフードを小皿に盛ると、チビちゃんの入っているキャリーの前に置いた。タッちゃんが静かにキャリーの扉を開ければ、そろりそろりとチビちゃんが顔を出す。クンクンと小皿のフードを嗅いで、チョビチョビと食べて、ミーと鳴いた。私はすかさず、翻訳機に鳴き声を読み取らせる。翻訳機はピコンと音を立て、その画面に翻訳した内容を映し出した。

    《これはわるくない》
    《こっちはシャキシャキがはいってていやだ》
    《これもまぁまぁだな》

    「翻訳機便利ですねぇ。『シャキシャキ』…… 野菜のことかな?」
    「あらあら、チビちゃん。お野菜嫌いなの? 今まで野菜入りのフードもモリモリ食べてたじゃない。どうしちゃったのよ」
    「うーん、好き嫌いできちゃったかぁ。健康のためにも、食物繊維系も食べて欲しいんだけどなぁ」

     男二人でうーんと唸りつつ子猫を見つめる。チビちゃんは元気にミャミャーオと鳴いた。

    「あららなになに? 《らいおん つよい だから、シャキシャキいらない》……? どういうことかしら」
    「ライオンなんてどこで知ったんだろ。でもそれが野菜嫌いの原因っぽいですね」
    「うーん、やっぱり子猫だと喃語が入るから、高性能でも完全な翻訳は難しそうねぇ。どうしたものかしら……」

     やっぱり男二人ウンウン悩んでいると、お店の入り口が開き、これまた見知った顔が入ってきた。

    「あらやだちょうどいい! こんにちは、トレインさん! ちょっと助けてくれないかしら!」
    「……どうも。私でよければ、手を貸しますが」

     来店したダンディーなお客さんはナイトレイブンカレッジで教員をしているトレインさんだ。厳しい見た目に反してとっても愛猫家で、使い魔でもあるルチウスくんをとっても大切にしている。

    「ラッキーよ、タッちゃん。トレインさんはね、ナイトレイブンカレッジで先生してらっしゃるのよ。動物言語も教えてるそうで。ちょっとチビちゃんのお話聞いてもらいましょ」
    「えっ、先生なんですか! すごいなぁ。いやぁ、すみません。お願いできませんかね。うちのチビ、なんだか急に野菜嫌いになっちゃって」
    「……子猫ですか。今の翻訳機は確かに精度は高くなりましたが、子猫の言葉となると厳しいようですからね。どれ、少し話を聞いてみましょう」

     そういうと、トレインさんは慣れた感じでチビちゃんに指先の匂いを嗅がせると、そのまま顎下を軽く掻いた。トレインさんの指の動きにチビちゃんは気持ちよさそうにトロンと目を細め、ニャウニャウと鳴いた。トレインさんと、猫語がわからないけれど私とタッちゃんも、耳を澄ませてチビちゃんの話を聞く。

    「ふむ……。《お泊まりしたときにライオンさんに教わった。ライオンはお肉を食べる》と言った内容を話していますね。どこかにお出かけされたのですか?」
    「ああ、この間息子の結婚式に泊まりで出なきゃいけなくて、その間チビを知り合いの人たちに預けたんですよ。それこそ、ナイトレイブンの子たちなんですけど。多分そのことだと思います」
    「あら、前話してた、チビちゃんを拾った子たちに預けたのね」
    「うちの生徒、ライオン…… なるほど…… 思い当たる者がいますね…… すみません」

     トレインさんは何故だか謝って、困ったようにチビちゃんを撫でた。チビちゃんは自分の話が通じて嬉しいのか、しきりにニャウニャウとトレインさんに話しかける。

    「ふむふむ…… 《ライオンさんは一番強い。強いライオンさんは肉をたくさん食べてた》 ……うちの生徒が妙なこと教えたようで、申し訳ございません」
    「あ、いえ、多分間違ったことではないですし」
    「そうそう、お肉食べる分には問題ないものねぇ。でも野菜嫌いはどうしてかしら?」

     トレインさんにすっかり慣れたのか、チビちゃんはトレインさんに飛びついたり頭を擦り付けたりしながら、ミャーミャー話続ける。どこか誇らしげでもあった。

    「《ライオンさんに、お前もデカくなれるから、しっかり肉を食べろと言われた》……まぁ、それはいいが…… えっ、《野菜は食べなくても死なない、だから食べなくてもいいと言ってた》?」
    「おや」
    「あらま」

     チビちゃんの言葉にトレインさんは一瞬言葉を失い、そして深ーく深ーくため息をついた。
     
    「全くキングスカラーめ! 本当にすみません、うちの生徒が。怠惰な者がいまして、本当に申し訳ない。指導し直します」
    「あ、いえそんな、元はと言えばこちらが預かってもらった立場ですし。あ、いえ、野菜のことも、その、あの、大丈夫ですから。ライオンの生徒さん? なんですかね、叱らないであげてください」
     
     トレインさんとタッちゃんは申し訳なさそうに互いにペコペコと頭を下げ合う。いい大人が二人してペコペコ動くのが面白いらしく、チビちゃんも一緒になってピョンピョンと跳ねる。その様がどうにもこうにもおかしくて、私はクスリと笑ってしまった。
     ひとしきりペコペコ、ピョンピョンした後、チビちゃんが一際元気にニャニャニャニャーンと鳴くいた。それを聞いたトレインさんは先ほどから深まっていた眉間の皺がふわっと緩み、いつも以上に柔らかい、愛猫家の顔になった。

    「フフフ、《ボクもたくさんお肉を食べて、大きいライオンさんみたいに強くなって、タッちゃんたちを守るんだ》と、話してますよ。……とっても優しい子ですね」
    「……っ、チビぃ〜!」
     
     感極まったタッちゃんがモギュとチビちゃんに抱きついた。チビちゃんは満更でもなさそうに、スリスリとその額を擦り付ける。私とトレインさんは、それをニコニコ見守った。
     
     結局、チビちゃんよ野菜嫌い?を治すことできなかったけれど、タッちゃんは満足そうに、チビちゃんが気に入ったフードを山盛り買った。チビちゃんも、タッちゃんも、ニコニコして帰って行った。
     野菜嫌い?が治るかはわからないが、きっとチビちゃんは立派な「ライオンさん」になるだろう。
     
     
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