差し止め 少しばかり、薄暗い部屋だった。
マジフト場を見下ろせるその部屋は、一般的にはVIPがマジフトを観戦する時に使う部屋で、品の良いソファとローテーブルなんか設置してある。オシャレな間接照明がついているが、雰囲気重視のその光は、部屋全体を照らすには少しばかり貧弱であった。
そしてその部屋には二人の男。一人は「オジサン」と表現されるのがピッタリの、なんとも脂の乗ってでっぷりとした男。なぜだかニヤニヤと笑い、ソファにどっかりと座っている。そしてもう一人は彫刻と表現されるような美しい青年で、ひどく嫌そうな顔で、マジフト場が見下ろせる窓のそばに佇んでいた。
でっぷりとした男は、ニヤニヤと、なんともいやらしく話し出した。
「いやね? 別に他の子でもいいんだよ、キングスカラー君。けど、やっぱり君がナイトレイブンカレッジマジフト部のキャプテンなワケだし、是非ともと思っただけなんだ。君が頑張れば、マジフト部全体の利益につながると思うんだけどなぁ。君がそんなに嫌だっていうなら、他の子に相手してもらうよ。あぁ、あのブッチ君、だっけ? 彼もいいよねぇ。『ディスクシーフ』なんて、テクニックありそうだし、楽しませてくれそうじゃないか。あと、あの子。一年生の、エペル君だったかな。あんなに可愛い顔して、ガッツもあって、体力もあって。長く楽しめそうでいいよね。オジサン、ワクワクしちゃうよ。だからね、別に君じゃなくて他の子でも、僕は構わないんだけどさ。ほら、どうも僕、盛り上がってくるとドキついことしちゃうみたいでさ、時々不慣れな若い子は泣いちゃったりするんだよ。いやいや、泣かせたいなんて思ってないんだよ? ちょっと盛り上がって、本性……っていうのかな。そういうのが出てきちゃうみたいなんだ。だからね、それなりに慣れてる……じゃないけど、君ぐらいちゃんとした子のほうが、うまくいくかなって。別にいいんだよ、無理しなくて。他の子連れてきて、置いてけばいいだけだよ。まぁ、君がそんなことしないとはわかってるんだけどね」
でっぷりとした男の、どうも相手の感情を逆撫でするような、ネッチョリとした話し方に、キングスカラーと呼ばれた青年は顔を顰め、隠すことなく舌打ちをする。
「くどい。俺が相手するから、さっさと終わらせろ」
「おっ、ヤル気になってくれて嬉しいよ。オジサン頑張っちゃうぞ〜。ささ、こっちに座りなよ。それとも窓際の方がいい? 外から見えちゃうかもしれないけど、そういうのが好きなのかな?」
青年はまたもや舌打ちすると、でっぷりとした男の正面のソファにどっかりと座った。でっぷりとした男は満足そうに笑う。
「うんうん、立ってやるよりソファのほうが楽だしね。こっちがいいよ。体痛くなっちゃうし。さ、リラックスしてね。いつも通りにしてくれればいいから。あ、これ? レコーダー。せっかくだから記録に残したくってさぁ。いいでしょ? 外には出さないからさ。ほんとほんと。心配しないで。あとはオジサンに任せて。楽しませてあげるからさぁ。
……それじゃ、はじめよっか。インタビューを」
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「改めまして、『月刊マジフト』記者のモブ山です。今回は『高校マジフト特集』ってことで将来有望な学生さんにインタビューさせてもらってるんだ。キングスカラー君は名門ナイトレイブンカレッジマジフト部の部長で『天才司令塔』としても有名だからね。是非インタビューしたくって。それじゃまず、名前と学年、年齢と身長、スリーサイズなんかを教えてくれるかな?」
「レオナ・キングスカラー。ナイトレイブンカレッジ三年。二十歳。百八十五センチ。スリーサイズなんか知るかよ、死ね」
「あっはっは、スリーサイズは冗談だよ、ありがとね。キングスカラー君ハタチなんだ、大人っぽいとは思ってたけど。でも学生なんだよね? 学校では制服着てるのかな?」
「そりゃそうだろ」
「へぇ……。制服着たハタチかぁ。ふぅん……」
「なんか文句あんのか」
「いやいや、学生らしくていいなって思っただけさ。じゃあ、得意科目は何かな? 体力育成とか飛行術は得意だと思うけど、それ以外だと?」
「古代呪文語」
「おっ、解析系が得意なのかな? 君は結構緻密な戦略を立てるタイプだからね、やっぱり勉学のほうでも優秀なんだろうなぁ。文武両道、才色兼備の優等生かぁ。ふぅん」
「ハッ、優等生? 俺が? 残念だがそんなお上品なモンじゃないさ」
「おや? もしかして悪ガキちゃんなのかな? 優秀なのに悪ガキねぇ…… ふぅん……。まぁナイトレイブンのマジフト部もどちらかというとヤンチャな感じだしね。じゃあ次、最近特に鍛えてる筋肉とかある?」
「は? 筋肉? 特にねぇけど。強いて言うなら腹筋じゃね? バルガスの奴、最近は腹筋にこだわってるらしくて、クランチとかしつこくやらされんだよ」
「へぇ、腹筋かぁ。いいね、シックスパックバキバキなのかな? ちょっと見せてよ。触っていい?」
「ふざけんな」
「あっはっは、そんなに照れないでよ。睨まないでってば。冗談だよ。キングスカラー君は体格もしっかりしてるけど、柔軟性もあるよね。臨機応変に動き回れるしなやかさと言うか……。柔軟とかもしてるのかな?」
「別に。元から」
「元からかぁ。そういえばライオンの獣人だったよね? ネコ科由来の柔軟性なのかな? ま、柔軟性があるのはいいことさ。怪我もしにくいし、いろんな体位できるからね」
「は?」
「じゃ、次の質問。さっきも話に出たけどさ、ナイトレイブンは結構ヤンチャ……というか、ラフプレー多いよね。それってチーム全体のプレイスタイル? 個々のやり方?」
「強いて言うならチーム全体のスタイル」
「ほほぅ、チーム全体ねぇ。そういうとこからかなぁ、正直さ、ナイトレイブンは他のチームからちょーっと嫌われてるじゃん? なんとなくヒール役っぽいかんじ。商業でもない、高校生のマジフトなのに。そういうの、どう思ってる?」
「別に。どうも思ってない。ヒール役だろうが嫌われようが、勝てればいいだろ」
「へぇ。気にしてないんだ。たしかに勝利することが第一かもしれないけどさ、部員皆んな、それで納得してるの? 後輩の子たちはさ、やっぱり他のチームとも仲良くしたいとか思ってるかもよ? キャプテンとしてその方針はどうなのよ?」
「ハッ。嫌ならやめればいいだけだろ。そんな甘っちょろいヤツ、うちにはいらねぇんだよ」
「ははは。そういう『若い考え』もいいけどさ、社会にでてからはそういうの、案外通用しないよ? なんだかんだ、コミュニケーションとか周りと上手くられるかとかが評価される時代だからね。『成果出せばいい』なんて、そっちのほうが『甘っちょろい』んじゃないかな? 君は部長なんだよね? 後輩たちのこれからを指導すべきなんじゃないかな?」
「は? 俺のやり方に文句あんのかよ。テメェ何様だ」
「あっはっは。ごめんごめん。どうにも盛り上がってくると、どぎついこと言っていじめちゃうんだよね。若いのが羨ましくなっちゃうんだよ。ごめんごめん」
「チッ」
「ごめんってば。怒らないでよぉ。せっかくの男前が台無し……ってわけでもないけど、笑ってたほうが可愛いんだからさぁ」
「キモ」
「そんなこと言わないでよぉ。それにしてもさ、そんなにイケメンだとモテるでしょ〜? 女の子にも男の子にも。恋人とかいないの? なんか青春エピソード聞かせてよ」
「気持ちが悪い」
「オジサン甘酸っぱい話に飢えてるんだよぉ〜。なんかないの? 彼女? 彼氏? デートとかするの?」
「極めて不快。言葉を慎め」
「そう言わずに〜。初チューした? エッチは? 寮生活なんでしょ、連れ込むの難しくない? それとも相手のとこ行くの? 君なら色々あるんじゃないの?」
「不敬」
「あはは、ごめんごめん。冗談冗談。うーん、謎多きナイトレイブンの天才司令塔の私生活に近づけた気がするよ。色々話してくれてありがとね。面白い記事にするから、楽しみにしててよ!」
「ろくなことインタビューしてねぇじゃねえか。記事にできるもんならしてみろよ。ま、できたとしても、日の目を見ることはないだろうけどな」
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【月刊マジフト】
〈お詫び〉
今月の「高校マジフト特集」は、社会的な問題や国際情勢への配慮により、休載となりました。謹んでお詫び申し上げます。
また夕焼けの草原王国の関係者の皆様におかれましては、多大なるご迷惑とご心労おかけしましたこと、再度お詫び申し上げます。