王子と終末と裏切られた心昔々ある国に、強く優しい第一王子がいました。
戦争に赴けば必ず勝利し、その度に国中の人々は王子を讃えます。
優しく博識な王子は信仰深く、国の人々と共に教会へ通っていました。
そんな王子を、誰も彼もが愛しています。
愛する国のため、愛する民のために命を尽くそう
王子はそう思っていました。
しかし、そんな夢物語が続く筈もなく
唯一、第二王子だけは第一王子が大嫌いだったのです。
幼い頃から才能に溢れ、人々から愛される第一王子を、死んでしまえば良いと思うほどに妬んでいました。
そして戦争に赴く仲間や民に、第一王子の有りもしない嘘を吹き込み、騙し、自らの味方につけて王子を殺す計画を立てたのです。
そして、終末は突然訪れました。
ある国との戦いの最中。
敵将を追い詰め、あと一歩で勝利する。
第一王子がそう確信した
その時
王子は後ろから何か強い衝撃を受けました。
それと同時に、左脇腹へ激痛と灼熱の炎のような熱さが襲います。
一瞬止まった世界で後ろを振り向くと、そこには信頼していた仲間の、汚いものを見るような目がありました。
訳も分からず痛む左脇腹を見つめると、仲間の剣が深々と刺さっています。
剣を抜かれ、地面へと蹴り飛ばされる王子。
無様に転がる王子を、仲間だった者たちが取り囲み、罵詈雑言を吐きます。
その内容は王子には身に覚えのない事ばかりでしたが、信頼する仲間に裏切られた悲しみと刺された痛みで何も考えられません。
意識が朦朧とする中、この場にいる筈のない第二王子の顔が見えましたが、どうすることも出来ず、第一王子は気を失いました。
次に王子が目を覚ますと、そこは断頭台の上。
戸惑い言葉を失う王子を他所に、目の前にいる多くの民が、裏切った仲間たち同様に王子へ向けて罵詈雑言を吐いていました。
何故、何故、何故
王子は必死に考えますが、何も分かりません。
そんな中、大層な演説を述べながら第二王子が現れました。意識を失う瞬間に見た嘲笑うような瞳と目が合います。
「この偽善者の数々の非道は、死刑に値する」
第二王子のその言葉で漸く、全てが仕組まれた事だと悟りました。
『可哀想な兄上、信頼だ愛だと戯れ言ばかり吐いているからこうなるんだ』
周りには聞こえないよう、耳元で囁く第二王子。
『愛する者たちに裏切られどう思った?俺は気分が良いぞ、今ここで兄上を殺せるのだから』
第二王子がそう言うと、第一王子の首の位置から鋭い刃が上に上がっていきます。
「さようなら大嫌いな兄上、愛していたよ」
第二王子の合図と同時に、刃が落ちます。
命が途切れる瞬間、王子は愛した全てを憎み、恨み、そして呪いました。
そんな可哀想な王子を、神様が見ていました。
神様は王子が冥界にたどり着く前に、自らの世界へ連れ出します。
そして、王子へ伝えました。
「信仰深い君に、天国へ向かうための最後のチャンスをあげよう」
「しかし、戦争で人々を殺してきた君は残念ながら少なからず罪人だ」
「そこで私は考えた」
王子が言葉を発する前に、神様は喋ります。
「とある場所で、殺してしまった人々へ祈りを捧げ、現世での見た目や振る舞いを一新し、別人として生きていくと誓うなら、君を裏切った全ての人間を地獄に突き落としてあげようじゃないか」
ニコニコと微笑む神様に王子は驚きましたが、自分を裏切り死に追いやった全ての者を地獄へ送れるならばと、一つ返事で神様に誓います。
元々信仰深い王子は、神様の言葉を疑うことなんてしませんでした。
「よい返事が聞けて嬉しいよ、バーヒル」
神様が王子の名前を呼びます。
「バーヒル、君は今日からデネブと名乗れ」
「現世での名を捨て、はくちょう座のデネブとして過ごすんだ」
王子はまた、すぐに返事をします。
すると、強い光が王子を包みました。
「これからよろしく頼むよ、デネブ」
こうして王子は現世での全てを捨て、はくちょう座のデネブとして、
星空に上がりました。
王子を見送った神様は、星を見上げて笑います
「いつの世も馬鹿ばかりだね、私にはそんな権限ないのに一つ返事で誓うなんて」
「まぁ、だからこそ私が助かるんだがね」
気紛れな神様はそう言って、また現世を覗きましたとさ。
めでたし、めでたし。