寝れずの夜――瞼を閉じては駄目。
また見失ってしまうから。
地平線まで敷き詰められた雲の絨毯を眼下に、冷たい空の風を切って船は進んでいた。澄んだ夜空に浮かぶ月明かりが船体を照らし、雲の上に大きな影を落とした。大層な本体を持つ割に派手な装飾の無い、上品な細工に彩られた船は、既に火を落として眠りについていた。船内は壁伝いに響く低音の駆動音と時折鳴り響く風きり音以外は静かなものだった。今は夜間飛行のための最低限の明かりを灯し、自動操縦に任せた低速飛行で目的地へと進路を取っている。
その船の一室で、レオナは眠れない夜を過ごしていた。
窓辺に備えつけられた椅子に、小さな机の上のランタンを灯して腰を下ろしている。部屋はレオナを中心にぼんやりと暖かな色を帯びていた。昼間の武将姿を脱ぎ捨て、過ごしやすい部屋着に身を包んでいるせいか、今の彼女から昼間と変わって穏やかな印象を覚える。レオナは窓の外に広がる海雲を眺め、頬杖をついてひとりごちていた。
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