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    ひー@hi_5106

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    ひー@hi_5106

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    【常ホ】弟子三年の体育祭前に不安になった師が、Rをつける程でもない夜の方向で奇行に走る話。

    卒業までのメインディッシュ 記憶の上書きでは生温いとホークスは結論付けた。自分に魅力がないからと奪われるのは納得できる。魅力的な方を選択することは、常闇のよりよい未来への礎となる素晴らしいことだ。だが、ただ傍にいたから、ただ近くにいたからなんていう、そんなくだらない理由で奪われてたまるか。それはホークスの胸に燃え上がった、初めての我欲の炎だった。
     これまでホークスは、極力常闇の学生生活を尊重してきた。卒業したら福岡に就職し、毎日会えるようになるのだから、高校三年間は級友たちとの思い出作りに水を差すことのないようにしてきた。だから常闇が二年生の時、体育祭にも行かなかった。学校行事を経験したことのない自分は知らないが、きっとたくさんの楽しい経験を積み重ねているのだろうと思って。

     春休みのインターンに福岡までやってきた常闇は、ミモザケーキを携えていた。つい先日、電話で食べたかったと溢したホークスの言葉を叶える為にわざわざ福岡のケーキ屋をリサーチしたらしい。昼食後のデザートにミモザケーキをつつきながら、進級したら体育祭の弱点対策の対策をしなければと溢す常闇に、明確な弱点を周知されている不利を思う。深刻な様子はなかった為、雑談の延長としてホークスは昨年の話題を振った。自制して観戦に行かなかった二年時の体育祭の写真に大いに心を乱されることになるとは露程も思わず、保存している写真を見ようと常闇の端末を横から覗き込む。肩が触れることなどないよう気をつけて、それでも近く感じる常闇の息遣いに頬を緩めたホークスの目に入った、華やかな衣装のチアガールたち。久しぶりの逢瀬とケーキの甘さに浮かれていた気分がささくれ、心に風が吹いた。
     ホークスは雄英体育祭をテレビでしか見たことがなく、テレビは当然競技がメインの為チアガールは映らない。一応、未成年であることを理由に配慮も働いている。だからホークスは知らなかった。常闇が美しく、可愛い級友女子のこんなきわどい衣装を目にしていたなど、知らなかったのだ。
    「へーこんなん着るんだ。可愛いね」
     黒影が女子に可愛がられているからか、常闇の人徳か、はたまたA組の仲の良さか。露出の高い服にも関わらず距離が近いように見えてヒクリと口元が引きつる。態とらしくニッコリと笑って、女子に囲まれた写真の一枚を指差した。
    「ホークス?」
    「可愛いね?」
    「あ、……」
     流石にホークスの機嫌が傾いでいることは察したらしい常闇が言葉を選ぶが、可愛くないと嘘もつけず、貴方の方が可愛いとは大人と学生という立場故に口にするのは憚られる。
     大戦が終わる頃には好意を持っていると互いに薄々勘付いていたが、何も告げずに耐え抜いてきた。そして無事にクラス全員の進級が確定したつい先日、名前を言ってはいないという免罪符を掲げて、好きな人の話題を俎上に載せる前例があった。丁度今、ホークスがしているように。
    「これは全く関係ない話なんだけど、好きな人が女の子に囲まれた写真見たらやっぱり不安になったりするんだなって最近気付いたんだよね。今、目の前にある写真は全然関係ないんだけど」
    「すまない、ホークス。これは、その、」
    「謝らないでよ。別に、全く関係ないから」
    「俺の好いた方は年上ですので、同級にそういった目を向けたことはなく」
    「二番煎じ」
    「む」
     冷たく切って捨てられ、呻いた常闇は以前にも同級生へ嫉妬したホークスを年上を好いているで宥めたことを思い出す。あの時は電話だったから声だけだったが、今は目の前で拗ねている表情が見られる。精悍なホークスを可愛いと思うのは欲目だと自覚しながら、それでも常闇は尖る唇に胸を高鳴らせた。波立つ不安を棘へと変える甘え方が、年上の大人であるホークスを幼く見せて、衝動が湧き上がる。頭を撫でたい、可愛いと告げたい、触れたい。決して叶えてはいけない、あと一年の辛抱が必要な欲を堪え、今回は根が深いらしいホークスの不安を取り除くにはどうすればと頭を回す。
    「ちょっと、今度のお休みにお出かけしようか」
    「ホークス?」
    「有能なインターン生が出張についてきてくれたら、仕事に打ち込めて不安も気にならなくなる気がする」
    「それは構いませんが…」
     常闇が欲に振り回される間に、ホークスは自己解決の算段をつけたらしい。待たせすぎたと不甲斐無さを自省し、せめてと口を開く。
    「貴方と共にあれる時間が増えたこと、嬉しく思います」
    「ふふ、ありがと。学校にはちゃんと申請出すから先生から書類渡されたらサインして。当日は寮まで迎えに行くから飛んで行こう。長距離のつもりで準備して来て。飛ぶ前に装備チェックするからね」
    「御意」
    「質問ある?」
    「あの、それで、不安は、よろしいので?」
    「うん、いいこと思いついたからそれで相殺することにした。ちょっと割に合うかは微妙だけど、そこは年上の癖に余裕ないのが悪い」
    「俺はッ貴方が何かを堪えて飲み込むくらいなら…ッ」
    「こーら、何言おうとしてるの。じゃあ割に合わない分は出世払いでね。お仕事終わってから天秤考えてくれたらいいよ。泊まりだし。今から考えたところで皮算用だから」
    「………承知」
     写真を映していた端末を常闇へと返し、ホークスは微笑みながら計画を練る。狙いは体育祭の一週前の週末。そのタイミングで捕物のチームアップに参加できるよう調整して、事前に言い訳の為の仕込みをして、且つ常闇を帯同するに不自然でない状況を作り上げる。想定される四つほどのハードルをちょっと頑張れば可能だと判断して、覚悟するんだねと物騒なことを考えていた。

    ◆◆◆

     体育祭を来週に控えた週末。常闇はホークスのチームアップに同道していた。常闇に任されたのは地下封鎖。事前にホークスが調査した建物内で地下への出入り口を黒影で塞ぐ役目だ。ホークスは常闇の傍で索敵と戦況把握と本部通信をこなし、そしてインターン生である常闇への指導、保護監督とやることが多い。まさかホークスの目的が、作戦終了予定が夜間であり必然泊まりになることだとは思いもよらない。常闇が何かおかしいと気付いたのは、恙無く作戦を完了させて、とっていたホテルの部屋でレポートを仕上げてからだ。部屋で集中してレポートを書き上げ、シャワーを浴びて備え付けのウェアに着替え、言われていた通りにホークスへと就寝を連絡する。そこでレポートの添削という名目でホークスが部屋へと来てくれるのも、泊まりのチームアップではお約束になっていた。勿論、少し雑談を交わすだけの後ろめたいことは一切ない時間だが、なかなか会えない遠距離恋愛をしている二人には大切な時間だ。だから常闇は、自分の元に舞い降りるホークス見たさに、風の強い高層階で窓を開ける。個性発現以前のホテルは、事故防止の為にホテルの窓
    は開けられないことが普通だったが、今は一部のホテルでは予約の際に伝えておけば窓の開閉ができるようになっていた。
     吹き荒ぶ風に全身を撫でられ、夜の闇にはしゃぐ半身を宥めながら待つ常闇の元に、出入りの想定されていない大きさの窓から待ち人が器用に滑り込んできた。ふわりと着地するホークスの足が珍しく白い靴下で覆われていて、そして身にまとうロングコートも些か季節外れだと訝しく思う。
    「ホークス?」
    「いいこと、しよっか?」
     そう言ったホークスが羽織っていたコートを脱いで、その下に着ていたのは、チアリーダーのコスチュームだ。オレンジが基調の、雄英体育祭で常闇の級友たちが着ていたあれである。以前去年の写真を共に見ていた時に可愛らしい嫉妬を零していたあれだ。慌てて先程まで開け放っていた窓を振り返れば、いつの間にかきちんとカーテンまで引かれていて、完璧な密室となっていた。
    「ホ、ホークス、その、よくお似合いで」
    「聞かないってことはなんでかは分かってるんだね」
    「経緯は承知しているが意図を汲むは難しく。真意となれば尚更に」
    「まぁそれは追々でいいよ。とりあえず、感想は?」
     その場で爪先を基点にくるりと一回転するホークス。ふわりとスカートが揺れ、ただでさえ短い裾が浮き上がるさまに釘付けになる。露出の少ないヒーロースーツを纏うホークスの太ももは日焼けと無縁の白さで、普段は隠されている生足から常闇は目を逸らすことができなかった。
    「感想……」
    「うん、どう?」
    「白い、ですね」
    「んーそっか。もうちょっと頑張るよ。常闇くん、椅子かベッドに座ってくれる?」
     言いながら、右手で椅子を、左手でベッドを指し示すホークスに促され、絶対にベッドを選んではダメだという理性の元、椅子にしますと答える。この椅子に座ってレポートを書いていたのが遠い昔のようだと何かが始まる予感に胸をざわつかせた。常闇の動揺にホークスの唇は弧を描き、羽を使って机に向かっていた椅子を一八〇度回転させ、背もたれが机側になるよう動かす。
    「さて、来週は体育祭だね」
    「はい」
    「応援したげる」
    「……有り難く」
     絶対に裏があると確信し、真意を見極めようとする常闇の思考は正面に立つホークスの姿に霧散した。腹が出ている。メタボリックな意味ではなく、腹部に布がない。先程まではヒラヒラと揺れる裾に気を取られて足に目がいっていたが、椅子へ腰を下ろして正面を向くと、ちょうど腹が見えるのだ。引き締まった筋肉と、無防備な臍が見ていいものとして晒されている。更衣室を同じタイミングで使うことはあれど、それは目に入ってもジロジロと見るべきではないものであり、自分の気持ちを自覚している常闇は紳士的に目を逸らしていた。しかし今は、嫉妬と不安を起爆剤として誘惑の為にこの衣装を纏っているのなら、許可が出ていると解釈しても許されるはずだと結論を出す。ホークスの真意を探ろうとしていた常闇の思考は、好いた相手を視姦する免罪符を得ただけで終わった。健全な男子高校生などそんなものだ。
    「そういや、チアって見たことないからよく知らないんだよな」
     座る常闇の前に立ち、応援したげると言ったものの学生生活もスポーツ観戦もしたことがないホークスは首を傾げた。どんな視線を向けられているか分かっていて、頓着する様子はない。着ていたコートのポケットから端末を取り出し、検索をかけ始める。いつの間にか剛翼が黄色いポンポンを二つ、用意していてそれが周りをふよふよと漂っている。目で追っていると、動くそれが揶揄うように常闇の顔の真ん前でくるくると回り、離れていく。そのまま見守っているとあろうことか、黄色いふわふわはホークスが軽く開いて立つ足の間を通過し、常闇の視線を再びホークスへと戻した。
    「あの、何をお望みで?」
    「君の為に着たんだよ?ちゃんと目に焼き付けといてくれなきゃやり甲斐がないじゃない」
     適当に再生して目で覚えるつもりなのか、端末からはフレーフレーと健康的なエールが聞こえてくる。そうしている間、黄色はゆっくりとホークスの右足を螺旋を描くようにまとわりつき、上へ上へと登っていく。それを目で追うと、必然常闇の目は、立ったまま画面を見つめるホークスのふくらはぎから太ももをゆっくり辿っていくことになる。あの黄色が辿った軌跡を、俺も、指で撫で上げたいと夢想しハッとする。完全に術中にハマっている。
     スカートの裾は今は真っ直ぐに下りているが、ホークスが動けば裾もひらりと動いて更にきわどいところまで見えるのだ。剛翼に操られたポンポンが太ももの更に上へ進もうとスカートを押し上げ裾が乱れた。期待してしまう浅ましさは、仕方ないことだと己の若さを受け入れる。ホークスが何をもってこの淫猥な光景をセーフ判定したのかは謎だが、絶対に触れ合うことはないし、成人指定の何かが自分の目に入ることもないのは分かっている。ただ好いた相手の露出に釘付けになるのは男の性だ。
    「オッケー、わかった」
     納得したホークスが動画の再生を停止し、悪戯っぽい笑みを浮かべた。手のひらを上に向けるとスカートに潜り込もうとしていたポンポンがホークスの手に収まる。しかしもう一つのポンポンは、残念なような安心したような複雑な気分を抱える常闇の足元にあった。ずっと常闇はホークスと戯れる黄色に視線を奪われていたため、いつもう一つのそれが足元に転がってきたのか全く分からなかった。ごく自然に、拾おうと手を伸ばした常闇からポンポンが逃げるように転がった。先程から意思を持つように動いているが、剛翼による操作なのだから拾うなということだろうと屈んでいた体を起こす。
    「うん、俺が拾うからいいよ」
     そう言ったホークスがゆっくり手を伸ばした。足を軽く曲げただけで前屈姿勢になり床の物を拾うのだ。大きくVの字にカットされた襟ぐりからあらぬ場所が見えそうになる。冷静に考えれば、それは特に隠すような場所ではない。常闇とて水泳の授業では惜しげもなく晒すし、級友の上半身が目に入ろうと気にしたことはない。ホークス相手だとしても、それが海の砂浜で水着姿ならこうまで動揺はしない。ホテルの一室に二人っきりでチア衣装を纏っているという非日常は容易く理性を突き崩す。
     撓んだ襟ぐりの向こうを遠慮なく見つめている常闇の視線は分かりやすい。ましてホークスがそれを把握できないはずがないのに、ゆっくりとした動きでかがみ込み、じわじわと更に見える範囲が広くなっていく。コクリ、と生唾を飲んだのは無意識で、その音にホークスがパッと顔を上げた。体を起こせば見えなくなるものを、屈んだままの姿勢で、そっと胸の辺りに手を添えて布を抑え、如何にも初々しい少女のような恥じらいを見せる。
    「常闇くんの、エッチ」
    「な?!」
     完璧な不意打ちだった。ホークスが恥ずかしさに頬を染め、羞恥を堪えるようにキュッと唇を引き結び、目を逸らしながらも反応が気になるのかちらりと常闇の様子を窺う。見事な猫の被りようだ。
    「ホークス!」
    「本番前のサービスだよ。初々しいバージョン。イマイチだった?」
    「感想は差し控えさせて頂くが、いい加減教えてもらいたい。これは一体何の真似です。危ない橋を渡るは貴方の本意ではないだろう」
    「だって、君は来週、見るんでしょう?」
     コテンと首を傾けるホークスの瞳に宿る不安をいつもなら拾えた。しかし頭が沸騰している常闇は、晒された首に浮かぶ血管を見つめていた。熱い血潮が流れる頸動脈。そこもまた普段襟の詰まったヒーロースーツを纏っている為目にすることはない。今を逃せば次に見ることができるのは卒業してからかと思えば、希少価値の高さも相待って目が離せない。舐めたい、というどろりとした欲の篭った眼差しだ。
    「来週の体育祭で、美人で、可愛くて、明るくて、なんにも後ろめたいことがないすっごく魅力的な顔で笑える女の子のチアガールを見るんでしょう?」
    「それは…」
    「最初はね、次の週に上書きすればいいかなって思ってたんだけど、こんな露出の高い服を着た女の子と、今年もまたくっついて写真撮るなんて、そんなの、そんなの、絶対その夜オカズにするでしょ!」
    「しませんが!?!!」
     一気に頭が冷えた。常闇はとんでもない疑惑をかけられていた。先程まで部屋に充満していた淫靡な空気を常闇の叫びが切り裂く。
    「だから、それよりインパクトのあるオカズを用意してみたんだけど、お気に召したかな?」
    「意図は、理解した。ありがたく卒業まで重宝させてもらう。ただいらぬ心配であったことは理解してくれ。俺は貴方以外でヌい……」
    「え」
    「失礼した」
     大真面目にとんでもないことを口走りかけた常闇は慌てて嘴を閉じた。誠実にありたいとは思っているが、そこを開示するのは誠実とは言わない。ポカンと口を開けて目を瞬かせたホークスと無言で見つめ合い、今晩、初めてホークスの素の表情を見たと思った。この部屋に訪れてからずっと、ホークスは仕草も表情も声音も見事なまでに作っていた。
    「へぇ〜そっか、そっか。ふふ、そうなんだ」
     常闇の発言の続きを読み解き、上機嫌でくふくふ笑う。ホークスの不安は解消されたようだと、常闇は安堵した。可愛らしい嫉妬の表情を見て、素晴らしい痴態を堪能し、何やらいい目にしかあっていないが一件落着かと肩の力を抜く。
    「折角だから本番も見といてよ。一応、応援する気もあったのは本当だし」
    「眼福でしかない故拝見するに否やないが、チアダンスでも?」
    「いや?さっき面白い動画見たからその再現」
     そう言ったホークスは、椅子に座る常闇の膝を剛翼で割り、足の間にぺたんと座り込んだ。座り込む瞬間に、一瞬ふわりと空気を孕んでスカートが浮き上がる。近くはない。遠くもないが、常闇が足を閉じる邪魔にはならない位置だ。両手にポンポンを持ち、常闇を見上げるホークスの上目遣いに、トンデモ発言で吹っ飛んでいた煩悩が舞い戻る。
    「それでは、常闇くんの健闘を祈って」
     目尻を下げ、愛おしげに名を呼ばれる。白い太ももが眩しい。背筋を伸ばしている為見えないが、見下ろしている今、少しでもホークスが体を前へと傾ければ、先程見たようにまた、もう一度、あの形のいい鎖骨から下が見られるのではと期待に胸が高鳴る。
    「がんばれ♡がんばれ♡」
     ホークスが囀るエールに合わせて、ポンポンを振る。際どいことは何もない。ホークスの体は離れた位置にあり、手が当たりそうになることは一切ない。ただ、ホークスが腕を振る度に、常闇の膝を僅かにポンポンの先が掠めるだけだ。くすぐったさに足が動きそうになるのを堪える。ぞわ、と腹の内で暴れる衝動を散らして、ホークスの顔を見下ろす。その目がどこを見ているかを認識して、脳が煮えた。床にぺたんと腰を下ろしたホークスが、じっと常闇の股間を見ている。この為に足を開かせたのかと、促されるまま無防備だった自分を悔いる。何を応援しているんだと声を上げそうになり、踏み止まる。中断は、あまりに惜しい。
    「………ハァ……」
     漏れた息に熱が籠もり、常闇の思考が乱れる。これは、なんだ。覚えさせる気があるのか。こんな刺激物を冷静に記憶できると思っているなら、ホークスは男子高校生の性欲を舐めすぎだ。
    「がんばれ♡がんばれ♡」
     常闇の頭をよからぬ想像が埋め尽くす。目の前の現実と、口が裂けても言えない今までの夢想が混じり合う。奥歯をギィと軋むほどの強さで噛み締めた。これは完全に自分の妄想でありホークスにそのような願望はないと理解していて、それでも、常闇にはある一点を見つめるホークスの目が物欲しそうに燻っているように見えた。求められているのではと思えば、余計に堪えるのが辛くなる。僅かに上がる常闇の息に気付いたのだろう。うっそりと目を細めたホークスが唇を笑みへと形造る。
    「えっちな想像しちゃった?」
    「ホークス、あの、……俺も男ですので…」
    「うん、してくれなきゃ困るよ。じゃ、次が最後ね。撮影禁止なんだから卒業までしっかり覚えといてね」
     軽く俯き、息を吸って、吐く。そして常闇を見上げたホークスの頬は淡く色付いていた。作られたものだと、分かっている。しかし初めて触れる性の気配と、匂い立つ色香にくらりと目が回る。まだ上があるのかと、今日のうちに何度も更新される『最上級に性的なもの』へ伸びそうになる手を握りしめることで抑えた。
    「ホ、ホークス…」
    「ふふ、常闇くん」
     甘ったるい声で名を呼ばれ、それが耳から流し込まれた媚薬のようでドクリと心臓が跳ねた。ホークスの背中にある翼が大きく広がり、この角度が一番美しいという位置でぴたりと静止する。その荘厳なさまに僅かに落ち着きを取り戻し、熱を逃がそうとゆっくり息を吐いた常闇の努力を嘲笑うかのように、甘美な声が響いた。
    「がぁんばれ♡」
    「………っ」
    「がぁんばれ♡」
     掌で転がされていると分かりながら、煽られる。常は太陽のように煌めく瞳が、その高潔さを見る影もなくどろりと溶かし、蜂蜜のように揺蕩っている。口を開く度にちらちらと見える舌の赤さに淫靡な色を見る。ラ行があるからだ。エールの最後の一文字に赤い舌が、ホークスの口の中で跳ねて踊っている。あれを、捕まえて、啜って、己の舌と絡ませられたら。膝にさわさわと触れる黄色のポンポンにまで官能を呼び覚まされる。
    「ホークスッ……すまない、もう、…」
    「くすくす、うん、なぁに?」
    「やめ…、やめてくれ」
     常闇の絞り出すような声に、ホークスは振り撒いていた色香を霧散させた。余りにも見事な切り替えに、本当にこれが接待じみた、演出だったのだと突きつけられる。
    「はい、おしまい」
     いつもの声に、ほっと息をつく。若い常闇にとって、楽園のようであり、拷問のようだった。何があったと言われれば、何もなかった。指一本触れていないし、過度な露出があったわけではない。あの滴るような性の気配は口で説明できるものではない。まだどこか脳が痺れたような心地を残したまま、常闇は疑問を口にした。
    「あの、俺も、何か、した方がいいだろうか」
    「え?」
    「貴方にもオカズが必要では?」
    「ぷっ、くく、あはは!やっさし〜」
     けらけらと笑い声を上げ、床から立ち上がりベッドに腰を下ろす。先程までと打って変わった軽快な振る舞いで、可愛いとは思うものの腹の底を灼くような情欲はかき立てられない。雰囲気ひとつで完璧に印象操作をするホークスに、重要なのは服装ではなくいかに魅せるかなのだと学びを得る。
    「それ一つ目?じゃあ三つ聞いていいよ」
    「はい。一つ目に」
    「俺にもオカズは必要だけど、君がなにかをする必要はないよ。お腹いっぱい」
    「それは、どういう…」
    「あれ二つ目?いいの?」
    「二つ目です。貴方の腹を満たすものは把握しておかねば今後に支障がある」
    「なら君は自覚すべきだね。さっきまでの自分が何を思い浮かべて、何に耐えていたのか思い出してごらん?すっごく色っぽかったよ。いいもの見せてもらいました」
     お得な買い物ができたと笑うような軽さで、歌うように紡がれた礼の言葉にどういたしましてと返したものか常闇は迷った。頭の中はとても見せられない光景が溢れ、ホークスの視線の先が反応しないよう耐えていた顔をなぜかお気に召したようだ。あれがオカズになるとは、よく分からない。共に夜を過ごせるようになったなら、分かる日が来るのだろうか。自分ならホークスが何かに耐えるような顔をしているのは見たくないのだがと常闇は思った。数年後、自覚なく焦らしプレイをして散々ホークスに忍耐を強いることになるとは思ってもいない。
    「三つ目はどうする?」
    「これはセーフですか。密室でのこと、漏れることはないかと思うが、貴方らしくない綱渡りでは」
    「やだなー。何言ってるの?インターン生に女装姿見せるって罰ゲーム受けた上司に巻き込まれて、来週の体育祭頑張ってねのエール受けただけじゃん。なーんにも疾しいことなどありませんがー?」
     堂々と言い切る肝の太さが凄いと、常闇は感嘆した。アレはそんな健全なものではなかったが、笑い話に出来る種類の戯れなのだと言えることしか起こっていないのも事実だ。欲を孕んだ流し目も、名を呼ぶ甘ったるい声も、脳を犯す淫蕩な囀りも、理性を揺るがす夜の気配も、今や常闇の記憶に残るだけだ。
    「わざわざ罰ゲームを仕込んだのか」
    「お酒の席での悪ノリって便利だね。このチームアップも仕込みだよ。君の力が必要だったのは本当。まぁそもそも俺が指名されたのはインターン生に会わなかったって言い訳させないように泊まりのチームアップをお膳立てされたからだけど」
    「貴方に女装させるためにか」
    「君にしか見せてないんだから怒らないでよ。俺が必要だったのも本当なんだから。誘導かけただけで横車押したわけじゃないし」
    「分かりました。聞かれたらお巫山戯があったことは認めてもいいのですね」
    「うん、まぁ俺は揶揄われるだろうけど、君のとこに話がくることはないんじゃない?」
     三つの質問が終わり、ホークスはロングコートを羽織ってしっかりと前を閉めた。窓際へと歩み寄り、カーテンに手をかけると常闇を振り返る。
    「卒業まで、ちゃんと覚えておいてね?おやすみ、常闇くん」
     一瞬だけ浮かべた笑みが再び夜の色を振り撒き、落ち着いていた常闇の官能を呼び覚ました。息を詰める常闇を振り返ることなく窓から飛び立ち、風に翻るカーテンが逢瀬の終わりを告げる。窓を閉めた常闇は心中で吐き捨てた。
     こうまで煽られて、このまま寝られるわけないだろう!
     これもまた、ホークスの掌の上だと理解しながら、常闇はホテルに備え付けられたティッシュを引き寄せた。



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    ひー@hi_5106

    DONE「いつかは恋人」千空×司
    アメリカへ向かうペルセウス号での一幕。
    千司webオンリーイベント『賢者と旗手を結ぶ糸』展示作。
    いつかは恋人 アメリカへと向かう船で、司の定位置といえば甲板だった。バトルチームへ稽古をつけたり、荷物を運んだり、筋トレをしたり。何をしているかは様々だったが、とりあえず司を探している時は甲板に向かえばそのうち会うことができた。忙しい筈の千空と日に何度も顔を合わせることができるのも、司が動線の途中である甲板をうろうろしているからに他ならない。そう、司は考えていた。
     無事に航路が決定し、航海は順調に進んでいる。心地よく吹く風がペルセウスを押し進め、帆は絵画のように美しく膨らんでいた。真水が満タンに入った樽を両手に抱えた司がキッチンへと向かう途中、何やらガチャガチャとガラスがぶつかる音を響かせながら歩く千空と行き合った。樽を抱えて幅をとる司がすれ違う為に横を向いて立ち止まると、千空はそのまますれ違うのではなく足を止めた。ビーカーが詰まった木箱が重いのなら運ぶのを代わろうと、司はすぐそこだった目的地へ足早に入った。フランソワに一声かけてから両手に持っていた樽を置いて、これで進行中のタスクがなくなったとキッチンへの往復を待っていた千空に声をかける。
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