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    カイヒスがすきです

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    カイヒス現代パロ。クリスマスデート小咄

    光の魔法「わあ……」

    思わず零れた感嘆の声を隠すように慌てて口許を手先で覆うも俺の声は白い息となって空気中へと溶け込んだ。目を見張る程に煌めく世界。色とりどりの光が眩しくて、きゅっと目を瞑った。
    時々通り掛かることはあったけど、イルミネーションを見ることを目的に街に出掛けることなんてなかったからなんだか心が浮き立ってしまう。その相手が太陽みたいに眩しいあいつとだから尚更かもしれない。……まるで光の世界に迷い込んだみたいに、きらきらしている。特に意識したことなんてなかったけど、俺はこの光の世界がなんとなく好きなのかもしれない、と緩む口角を隠すようにマフラーをほんの少し引き上げる。ぱちぱちと瞬く度に視界を彩る煌めきを眺めていれば、行き交う人の合間を縫って俺の元へ慌てて駆けてくる待ち人の姿が見えた。僅かに息を切らして、大きく手を、腕ごと振る。大袈裟な所作に小さく笑ってから、俺は控えめに手を振り返した。


    「っ、はあ、……悪い!待たせたな」
    「そんなに待ってないよ、大丈夫」
    「お、今のいいな!恋人のデートって感じの会話だ。……だが、寒かっただろう、冷えてないか?」

    ……何言ってるんだよ。もう。態々言葉にされると途端に意識してしまい照れ臭くなる。……そうだ、今日はふたりきりのデート。行き交う人々も恋人同士、仲睦まじく歩いている人が多い。余計に意識してしまって、視線をさ迷わせてからカインに向ければ楽しそうに笑いながらもほんの少し申し訳なさそうに肩を竦める様子が目に付いた。それから赤くなった指先をマフラーに埋もれた俺の頬へと伸ばして撫でるように触れる。カインの指や掌の方がよっぽど冷たくて今度は俺が肩を竦める番だった。

    「……カインの方が冷えてる」

    寒ければ身体を動かして温めるタイプのカインはあまり防寒具を身に付けない。流石に半袖半ズボンで過ごすようなことはないけど。
    そんなカインへのプレゼントはだいぶ悩んだものの、これでよかったのかもしれない。きっと当日に使えるだろうと敢えて包装はしなかった。手に持っていた紙袋から黒い手袋を取り出すとカインの手を取り、少々まごつきながらも片方ずつそっと手先を通させる。目を白黒させて俺を見る瞳にやっぱり気恥ずかしさと照れが湧き上がった。

    「……プレゼント。カイン、あんまり防寒対策しないだろ?ちゃんと着けて」
    「……!ありがとう、ヒース。これ、温かいな」

    恋人へのプレゼントを渡すタイミングにしては早すぎたかな、と何事にも不慣れな俺は恐る恐るカインを窺うも当の本人は気に止めた様子もなく、寧ろ飛び切りの笑顔で両手を温める手袋を愛おしそうに見詰めているものだから物凄く照れ臭くなって思わず俯いた。なんて眼で見詰めるんだろう。愛おしくて仕方ないと、煌めく光を反射していつもよりも輝いて見える蜂蜜色を細める姿に心臓が早鐘を打つ。俯いた視界に紙袋に残されたものに気付くとそれも慌てて取り出してカインの首元にぐるぐると巻き付ける。手袋と揃いの色の、黒の落ち着いたチェック柄のマフラー。

    「こ、これも!」
    「わっ、……あはは!ありがとう!今年の冬はこいつのお陰で温かく過ごせそうだ」
    「……どういたしまして」

    屈託なく明るく笑うカインの表情もいつもよりもきらきらしていて見える。どきどきと心臓がうるさくて仕方なくて、さっきカインが触れた頬も今じゃすっかり熱い。恥ずかしくて、愛おしくて、胸がきゅっと締め付けられて堪らなくなって再びマフラーを口許まで覆う。視線を忙しなくあちこちへと彷徨させるも何処を見ても光が煌めいていて、眩しささえ覚えた。ほんの少しだけ目を細めたところで視界に飛び込んできたのは俺を覗き込むカインの表情。思わずびくっと肩を跳ねさせる。

    「わっ、」
    「……ヒースの目、きらきらしていて綺麗だな。イルミネーションも綺麗だが、それを映すおまえの瞳も顔も綺麗だ」
    「へっ!?……な、何言ってるんだよ、ばか……」

    恥ずかしくてどうにかなりそうなのに、輪をかけてまた羞恥が込み上げる。頬だけじゃない、身体全体が熱くて仕方ないのに、胸には言いようのない感情が込み上げる。今、ここでカインとふたりきりの世界だったなら、俺はどうしていただろう。感情に突き動かされるまま、抱き着いていたかもしれない。それくらいカインのことを堪らなく愛おしいと思っていた。でもそれと同じくらい、俺だけが恥ずかしいと思う気持ちや余裕のなさがなんとなく、悔しかった。今だってそうだ、カインは楽しそうに相好を崩している。その面持ちは余裕が滲み出ているようにも見えて、やっぱり少し悔しかった。そんな中、カインは突如思い出したように自らのコートのポケットをごそごそと漁り出した。なにか忘れ物かな、そう尋ねようとした時に取り出されたのは掌にちょんと鎮座する小さな箱。随分と大切そうに持っている。先程俺が渡した手袋を片手だけ外すとその小箱を丁寧に、壊れ物に触れるように開いた。それから、中身を俺へと見せる。そこに収まる銀の指輪に俺は思わず息を呑んだ。

    「……これは俺からヒースに」

    無邪気に笑む表情はなんだかほんの少しだけ照れが滲んでいるようだった。それから緊張も感じられて、普段拝むことは出来ないその表情にきゅんと胸は高鳴る。素手でそれを小箱から取り出すと、小箱をポケットへ片付けてから片手を俺へ差し出した。促されるまま、僅かな逡巡の末に俺もまた手袋を外し、彼の掌へと左手を乗せる。当然のように薬指へと銀の指輪が通されると、それはひんやりと冷たくて熱を持った俺の身体を冷やしてくれる心地だった。……ああ、色々な感情が爆発しそうだ。感極まってしまい、言葉が出てこない。

    「メリークリスマス、ヒース。これからもおまえの傍に居させてくれ」
    「あ、……りがとう。…………えっと、……それってプロポーズ?」
    「ぷ、……!い、いや、プロポーズはもう少し格好付けさせてくれ……」

    薬指に収まった指輪を胸に抱くように、左手を胸元へ添える。ようやく少しだけ落ち着きを取り戻してからかい半分で問い掛けた言葉に目を丸くさせてから慌てるカインはなんだか可愛かった。格好付けなくたって、いつだって格好良いし、それに偶に可愛い。それが狡い。でも、それ以上に好きだなと思うんだ。くすくすと笑みを零してから暫く指輪を眺めると銀のそれもまた光を反射させて煌びやかに光った。いつまでも眺めていたい気分だったけど、隣の恋人のお腹が空腹を抗議するものだから声を出してふたりで笑い合う。
    宝物をしまい込むべく、手袋で指輪を隠してから躊躇いがちに手を差し出すとカインはなんの躊躇いもなく俺の手を握った。今度は俺からも指輪を贈ろう。そう、こっそりと決めて俺達は光の世界へと飛び込むように、足を進めた。
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