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    rei

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    rei

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    この前見た夢が面白すぎたから小説にしたら超大作ができた。
    ちなみに多少表現は変えたり付け加えてる部分はあるけど流れは全く見た夢のまま。

    ちょっとというかだいぶグロ表現あるからお気をつけて

    夢の故命を賭けたいと思うほどの出来事なんて人生に1度あるかないか、それが普通だ。
    ましてやそれを他の誰かの為に、なんて決断をできる人はいるのか。

    「果たして君は、自分を犠牲にしてでも世界を救うか?」

    頭に直接響くような声がした。

    ーーーーーーーーーー


    雪が積もっている。息が白く染まり、刺すような冷たい風が時折吹く。けれど彼らのような少年少女には楽しい非日常に映っていた。

    「わ!何するの!」

    目の前を歩いていた少女の顔に雪玉が当たる。少女は雪玉を投げた男子に文句を言いつつ、しゃがんで素手で雪玉を作りそれを投げた。
    避けることが出来なかった男子は当たったことに怒り、再び雪玉を手にする。
    そんなこんなで遊びながら下校する少年少女とは違い、1人でゆっくり歩いている彼は、名を絵空凛斗〈えそら りんと〉という。
    ほんの少し前に転校してこの学校に来た彼はまだ上手くクラスの輪に入れていない。クラスメイトは優しいし、友達もできたが、それは別として馴染むにはどうしたって時間がいる。

    凛斗はある日突然両親にこの学校に転校するよう言われ、その日のうちに学校の寮に入れられてしまった。
    両親は「海外で大きな仕事が入った、凛斗を連れていくのは難しい、申し訳ない、でも半年ぐらいで終わるから、また迎えに行く」と、そう言って去ってしまった。長期の両親の不在には慣れていたが、半年もいないことも、転校させられたのも初めてだ。今更寂しいと思うことは無いが、今回の出来事はさすがに不安が大きかった。転校する必要はないんじゃないか、環境を変える必要はないんじゃないか、なんて訴えかけようとしたが、既に手続きが終わったあとだったし、未成年でまだ保護者が必要な凛斗にはどうすることもできない。

    不幸中の幸いなのが、クラスメイトに恵まれていたことだと思う。
    ここはいいところだ、都会と言えるほど建物や人は密集していないが田舎と言うには少し大きい街。友達にこの街を遊びながら案内してもらう時、ちょうどいい、過ごしやすそうと感じた。

    信号を待つ間も、少年少女の戯れは続いていた。車通りはそこまで多くない道だが凛斗は少しだけヒヤヒヤした気持ちで見ている。
    青色に信号が変わり、駆け出す男子に、呆れたようについて行く女子、その後ろを凛斗が歩く。

    ーーーポツリ

    水滴が顔に当たる。思わず足を止めた。

    「あ!雨が降ってきた!」

    そんな声にみな慌てて走り出す。家に帰る人、凛斗と同じように寮に向かう人、みな道はバラバラだが、誰一人として傘は持っていない。それもそうだ、今日は雨予報ではなかったし、降水確率もゼロだったはず。
    そんな疑問を感じる中、雨はすぐに大きくなり始める。慌てて凛斗も走り出した。

    ザアザア、と激しくなる雨に凛斗は建物の影で雨宿りをする事にした。寮はここからそう遠くはないし、急いで帰る必要も無い。ならば通り雨だと言うことに期待してここで待つ方が得策だろうと思ったのだ。

    同じように雨宿りをする人、備えの折り畳み傘を広げて帰宅する人、ぼんやりと眺めているとふと隣に人影が。

    「凛斗も雨宿り?」

    「零央」

    林零央〈はやし れお〉彼は転校してきた凛斗にまっさきに声をかけてくれた男子だ。席が隣同士だから仲良くなるのも早かった。

    「にしても、雨なんて予報になかったのに」

    「ほんとにな」

    不満げに呟く零央に同意を返す。揃って空を見上げる。いつの間にか空は雨雲で覆われていて、先程までの雪で反射したキラキラした世界が嘘みたいに灰色になっていた。

    「...こんなに寒いなら、雪が降りそうなのに」

    先程思考を止めた疑問が飛び出る。ここ1週間はずっと気温が低く、雪が降っていた。しかも雪が溶けるほど気温は上がっていないのに、ついさっき急に雨が降り出したのだ。

    「そう?けど、雪が解けたら過ごしやすくなる」

    零央はこの街で生まれ育った。雪には慣れているのか、あまりはしゃぐことはなく、どちらかといえば面倒そうにしている。そういう凛斗も雪遊びには乗り気ではない。

    「いや、この様子なら夜に凍るでしょ」

    はぁ、と息を吐き出し手を温める。意味は無い。すぐに冷たくなり、慌ててポケットに手を入れる。

    「はは、確かに、明日気をつけてこいよ、慣れてないと転ぶから」

    「うん、気をつける」

    凛斗が今まで住んでた場所は雪こそふるものの積もっても数cmだし、すぐに溶けるような場所だ。明日のことを思い少し憂鬱にる。
    零央は寮ではないが、帰り道は途中まで一緒なのでこのまま駄弁ろうかと思った、その時。

    「ーーー!」

    いきなり地面が揺れた。バランスを崩すほどの激しい揺れ。
    悲鳴がそこら中で上がり、凛斗は倒れた体を起こす。

    「零央!大丈夫?」

    「ああ、うん...何とか」

    同じく転んだ零央がサッと体制を整える。慣れてる、とは言えないが、地震は何度か経験した事がある身として言うが...今までの比じゃないほどの揺れだ。
    揺れは徐々に大きくなる訳でもなく、3秒程激しく揺れた後に、収まる。
    どこかからか何かが落ちる音と、ギイギイと看板やらが立てる音だけが先程の異常を際立たせた。周りで困惑の声が上がる中、零央と凛斗は顔を見合わせる。

    「...ねぇ、これ、地震?」

    「わかん、ねぇ」

    凛斗も零央も僅かに声が震えていた。授業で習った地震の一連の流れとも、今まで経験した地震とも違う。その事実が一層恐怖を引き立てる。

    不意に遠くで爆発音にも似た大きい激しい音が聞こえる。パッとそちらに顔を向けると、大きな煙がいくつも上がっていた。
    けれど、それよりも、いや、ほかの何よりも目を引いたのは...

    巨大な見た事のない“生物”

    「...っは」

    息が詰まるような感覚が襲う。本能的に、あの生物に恐怖を感じている。直接心臓を掴まれるような、息さえするのが怖くなるような、体験したくもないような。

    凛斗がそれを生物だと感じた理由は、それが四足歩行のキリンに似た形をしているからだ。似ている部分は生物の体の比率だけだが。
    薄橙色の体に、赤や青などの原色で気持ちの悪い模様が長い首や背中などにあり、顔と思われる部分には大きなピンと伸びた兎のような耳に、細く長すぎる目、口から覗くのは複数の細い白い触手のようなもの。4本足は細く、体を支えれるのが不思議なぐらいだ。

    細いというのはあくまでもあの生物の大きさに対して、と言うだけで、実際には電柱よりも太いはずだ。
    その生物はゆったりとした動きで、4本足を動かしながらこちらに向かってくる。

    「え、こっちに...来てる?」

    その事実に気づいた途端、ドクンと心臓が鈍く跳ねた。東京タワーと同じかそれ以上ある生物が、こちらに向かっているのだ。

    「っ!逃げるぞ!」

    零央が唖然としている凛斗の腕を掴み走り出す。幸いにも道は除雪がされているため走ることは出来るが、顔にかかる冷たい雨のせいであまり視界は良くない。

    最悪な悲鳴讃歌を聞きながら、時折人とぶつかりながら、一瞬で出来上がった地獄絵図にまた身震いをする。

    何処へ逃げるのか、そんな質問は出来なかった。あんな生物から逃げれる場所なんて存在するのか?そもそもあれは生物なのか?
    色んな疑問が溢れては消える。今は走るのに集中したかったから、無理やり頭から追い出した。



    何分走っただろうか、不意にガッシャン!!という轟音が耳を劈く。思わず振り返った。

    「ひっ!」

    凛斗は小さく悲鳴が上がる。前を走っていた零央も悲鳴につられ振り返ると、目を見開いた。
    先程見た時には5キロ、いや10キロは離れていたはずの生物が既に目の前に迫っていた。正確にはあと数百m離れてはいるが、あの生物の歩幅からして誤差でしかない。
    零央は咄嗟に凛斗の体を建物の影に押しやり、隠れた。走って逃げるのは無謀だと察したからだ。
    2人して震える手で口元を抑えて、息を殺そうとするが、上手くいかない。

    生物は頭を下に向け、前足で建物を踏み潰していた。まるで遊んでいるような、何かを探しているような。感情の分からない生物の顔を見て何となく凛斗はそう感じる。

    グイ、と袖を引っ張られて視線を向けると、零央が奥の道を指さしていた。また逃げるのだろうか、意味はあるのか、とも思ったが、凛斗は頷いた。
    声は出せなかった。あの生物の兎のような形の耳を見て、そして、サイレンや建物の崩れる音、大きな悲鳴などを集中的に足で踏み潰しているその生物の行動を見てしまったら声なんて出せない。

    タッタッタッという足音と荒い息遣いが響く。時折隠れながら、走りながら、でも振り切れる訳もなく、いつの間にか生物の足は凛斗達が隠れた建物の2件先の住居を踏み潰した。悲鳴が上がる。

    逃げるか、このまま隠れるか。それを考える暇もなく、その生物の足が次は凛斗達がいる建物を狙っているとわかった瞬間、2人は窓から飛び出した。
    そして示し合わせたかのように、落ちている大きなブルーシートに2人して身を潜める。

    先程いた建物が、壊れる音を聞きながら、凛斗は必死に悲鳴を押し殺していた。
    どうかこのまま気付かれずに行ってくれ、そう何度も唱えながら目を瞑って惨状が過ぎるのを待つ。
    隣にいる零央が震えているのが伝わる。雪による寒さか、恐怖か、原因なんて分かりきっている。

    グシャ
    生物がブルーシートを踏んだ。肩が思わず跳ねる。震える零央の手を掴もうとした時。

    「うわぁぁぁ!!!」

    耐えきれないと言わんばかりの大声をあげて、零央は飛び上がり、走り去る。思わず追いかけようとしたが、寒さと恐怖で体は動かなかった。追いかけるのは無理だと即座に判断し、またぎゅっと目を瞑る。
    零央の叫び声と足音が不自然に途絶えたが、原因を確かめることは出来なかった。

    「っ!!」

    背中に何かが触れる。自分で自分を誤魔化しても仕方ない、あの生物の足が、背中に触れた。踏み潰される、と思ったが、一向に圧迫感来ない。それどころか、薄く背中を撫でるようにその足が上下する。
    何もできない。耐えるしかない。なのにこういう時でも体の感覚は正常で...いや、鋭くなっている。異様な擽ったさを背中に感じながら、恐怖と戦う。

    気づかない方がいいこともある。凛斗はそれをヒシヒシと実感した。
    耐えきれず小さく身動ぎした時、気づいた。
    踏み潰されず、足が背中を撫で回している、それはつまりこの生物は凛斗がここにいると知っているという事にほかならないのだから!

    もう手遅れだ。じくじくと背中が鈍く痛む。撫で回されていたのでは無く、傷をつけられていたと気づくが、もう動く気力はなかった。
    なんですぐに殺さなかったのか、そんな現実逃避じみた疑問が出てきた瞬間、背中に別の感触が伝う。
    ぬめりがある、細長い触手のような...あれの舌だ。
    その舌が、傷口を舐め

    ーーー中に入ってくる

    腹の中を撫で回されている、そんな訳の分からない感触に悲鳴が小さく出る。
    内臓を食べられている、何となくそう察した。初めて死を覚悟する、早く死にたい。

    幸いなのは雪のせいで痛覚が鈍っていることだろう。いや、やっぱり不幸だ。冷たさのせいで出血が止まりかけて死がゆっくりになって来ている。

    1度死にたいと考えてしまうと、あとはその考えだけが頭を塗りつぶす。

    早く殺して、早く死なせて、早く終わらせて

    早く、早く早く早く早く

    早く、意識を落としてくれ!!!








    目が覚めた。
    凛斗はぼんやりと見慣れた天井を眺めて、詰まった息を大きく吐き出す。
    変な、怖い夢を見た。死ぬだけならともかく、あんな訳の分からない生物に襲われるなんて。汗はかいていないが、まだ少し心臓がドキドキしている。

    ベッドを起きあがり、まだボーとする頭を無理やり動かし、洗面台へと向かう。顔を洗ってさっぱりしようと、蛇口をひねり、冷たい水をすくう。
    何度か水をかけたあと、タオルで顔を拭いて、鏡を見る。
    夢の中の凛斗は今よりもずっと若かった。あれは中学生ぐらいの背丈だろうな。そんなことを考えていると、不意に鏡にヒビが入っていることに気づいた。

    「あれ...?」

    この鏡、割れていたっけ。
    一本の大きいヒビが鏡を真っ二つに割るように入っている。そして鏡に映る凛斗も割れている。

    ゾワゾワした感覚が背中に走る。鮮明に覚えている夢の中で背中を切られていることを思い出し、何となく気持ち悪くなった。

    「気の所為」

    そう自分に言い聞かせ、洗面台を去る。

    今日は何も予定がない、だからゆっくりと簡単な朝食を作り、食べていた。
    でも、夢が頭から離れない。普段夢をあまり見ないタイプだから、それのせいかもしれない。そう思いたいのに、どうしたって背中が気持ち悪い。
    リアルな夢だったが、その中でもあの生物に背中を撫で回されていた感覚はやけにはっきり覚えている。

    そんなことを考えながら片付けをしていたせいで、手を滑らせて皿を落としてしまった。

    パリン!という鋭い音に、一瞬緊張が走り、その後ため息が出た。やってしまった、と思いながら皿を拾おうとして、動きがとまる。

    皿は綺麗に真っ二つに割れている。
    嫌な気味悪さを感じ、指先が変に震えた。
    ゾワゾワする背中の違和感が酷くなる。凛斗は皿をそのままに慌てて鏡に駆け寄った。

    ぱっと勢いよく上の服を脱いで、鏡に背中を写す。恐る恐る振り返ると...

    背中には真っ直ぐな傷跡が一つ、あった。
    痣ではなく、まるでたった数日前につけられたかのような傷跡。恐ろしいことに、傷口は少しだけ開いていた気がした。





    どうやってここまで来たのか、あまり記憶にない。あの後パニックになった凛斗は現実逃避をするように慌てて着替えて家を飛び出した。
    街の騒々しさとまるで切り離されたような違和感を抱えながら顔を上げる。

    ここは大きな複合商業施設。普段はあまり来ない場所だ。1階は公園や広場、フードコートなどがあり、大きなエスカレーターで2階と3階に繋がっている。上を見ればビルの合間から青い空が見えた。
    凛斗は2階のエスカレーター近くの大きな吹き抜けにあるベンチに座っていた。

    やっぱり、あれはただの夢だ。
    だって西暦2324年の現代にあんな街並みはない。どこもかしこも高いビルばっかり。
    それに雪なんてもうここ200年は降っていないと言われている。凛斗も見た記憶はない。そのはずなのに、どうして夢の中ではあんなにはっきりと冷たさを感じれたのだろうか。

    でも、あれが夢じゃないとして、凛斗は死んだはずだ、あの状況から生き残れるはずがない。だからやっぱり夢だ。

    そこで一度思考を切り、大きく深呼吸をする。

    せっかくここに来たのだ、見て回ろうか。気分転換にもなるだろう。フラフラと立ち上がり、歩き出すが、どうも気分は晴れない。
    そのせいで前方から歩いてくる人とぶつかってしまった。

    「っ!すみません!」

    「いえ、こちらこそ...っ」

    相手の謝罪に慌てて顔をあげると、思わず喉から変な音が出た。

    ーーー零央

    声には出なかったものの、心の中でその名前を呟く。向こうも凛斗の顔を見て少しだけ不自然に顔を強ばらせる。
    ぶつかってしまった男性以外にも2人、男女が足を止めた、その2人にも見覚えがある。夢に出てきたクラスメイトの顔にそっくりなのだ。そっくりというより、そのまま成長させたような。

    あれは現実?

    「...あの、どこかで会ったこと、ありませんか?」

    否定して欲しくて問いかけた質問だが、男性は少しだけ顔色を悪くするだけで、否定も肯定もしない。
    沈黙が何よりの答えだとしても、凛斗は信じたくなかった。

    「どうするの...?」

    隣にいる女性が小さく2人に問いかける。よくよく見れば全員困惑の表情だ。
    気まずい沈黙を破ったのは、第三者の声だ。

    「きゃあああああ!!」

    そんな甲高い悲鳴に、声の方向を向くと、逃げ惑う人々。見覚えのある光景に心臓が鈍く跳ねる。

    バサッ!そんな風を仰ぐような音と共に、大きな影が吹き抜けを覆う。
    上を見ると、そこには何かが飛んでいた。

    真っ黄色な、巨大な鳥

    飛行機程の大きさの鳥が空を飛んでいた。大きな嘴に、綺麗な見惚れるような羽根、大きな尻尾、明らかに異常な大きさだ。

    まるで、夢の続きじゃないか。

    「おい!逃げるぞ!」

    目の前にいた3人がバラバラに逃げる。けれど凛斗は動けなかった。逃げても無駄だと、心のどこかで思っているから。

    滑空を続けていた鳥は、突如旋回し、凛斗のいる施設に向かって一直線に急降下する。
    更に大きくなる悲鳴。
    大きな風と共に、鳥は1階に着地する。グルングルンと頭を回しながら、周りを見渡したあと、その大きな嘴で人をつつき始める。
    かと思えば、エスカレーターに飛び乗り、人を追いかけたり、まるで遊んでいるようだった。そう感じているのは凛斗だけのようで、周りの人々は逃げ惑いながら怒声悲鳴泣き声をあげている。

    ふと、鳥はある数人だけを追いかけていることに気づいた。先程凛斗が話しかけた3人。その3人を集中的に追いかけ回している。

    何故、と思ったのは凛斗だけではないらしい。

    「誰を追いかけてるんだ!」

    そんな大声か聞こえた。零央に似た男性が叫んだのだ。大きな鳥はそちらを一瞬見たあと、グルンと頭を回し、

    凛斗を見た。

    ようやく恐怖が湧き出て、逃げようとしたがそれよりも早く鳥は凛斗の前に立ち塞がる。
    大きい黄色の宝石のような瞳につい足が止まった。なぜ、自分を狙うのか。

    「果たして君は、自分を犠牲にしてでも世界を救うか?」

    嘴を開けた鳥が喋った。いや、直接頭に響くような声だ。周りの様子からして自分しか聞こえていない。

    黄色い鳥は頭を小さく傾げたあと、その大きな嘴で凛斗の頭をコンコンと弱く啄く。

    そこで凛斗の意識は落ちた。



    倒れた青年を黄色い鳥は一見し、そのまま空へ飛び上がった。
    まだ人々の混乱は治らないが、そんな中凛斗を起こす人がいた。先程凛斗とぶつかった男性だ。彼は意識のない凛斗を肩に担ぐ。バラバラだった2人も合流し、3人で凛斗を担ぎながら施設の出口に向かう。
    出口もパニックになっていたが、その中でも異様に存在感のある黒い高級車が1台止まっていた。男性はそこに凛斗とともに乗り込んだ後、車は発車する。

    車が到着したのは大きな施設だった。表向きは薬品会社をやっているその裏口に車が止まり、凛斗はその施設の中に運ばれた。
    エレベーターをおり、着いたのは医療室のような部屋。
    その部屋には白衣を着た男性がタブレットを片手に待っていた。

    「そちらに」

    男性の指示に、凛斗はベッドに寝かされる。そして男性以外はそそくさと部屋から去って、部屋に残ったのは白衣の男性と意識のない凛斗だけだった。

    白衣の男性はしばらく凛斗の顔を眺めたあと、ベッド横にあるトレイをそっと隣に置き、白衣の前ボタンをしっかりとしめ、マスクをつける。
    トレイには手術道具以外にも、プラス、マイナスドライバーや、精密機器用の器具も置かれていた。白衣の男性は凛斗の服を脱がした後、背中にある傷口を見て眉を顰める。

    傷口からは蛍光色のような黄色い液体が僅かに流れ出ていた。





    ガチャガチャ、と、機械を弄るような音が聞こえる。凛斗は暗闇の中で思い出していた。

    あの日、2024年の冬、唐突に襲ってきた謎の生物に凛斗は殺された。殺されたはずなのに、どうしてか今300年後の今凛斗は生きている。

    声が聞こえる。

    「見つかったか...」

    「今更....」

    「黄色い....生物が...また」

    途切れ途切れで、足音と共に声は去っていく。そんな中はっきりと聞こえた声があった。

    「あんなやつに貴重なパーツを使うんなら、俺らに使って欲しいよな」

    どういう意味だろうか。その言葉が聞こえたあと一瞬だけ機械を弄る音が止まる。

    ああ、そうだ起きなきゃ、と思うが目が開かない。そんなことをしているうちに、ドアの開く音が聞こえた。

    「どうも、ライトくん...彼、本当に見つかったんだ...」

    女性の声だ。商業施設で見たクラスメイトに似た人とは別の、全く知らない声。
    ライト?人の名前?

    「ああ、ほんとに良かったよ」

    優しい男性の声が聞こえる。それと同時に機械を弄る音も止まり、男性が作業を止めたのだと気づく。

    「絵空凛斗くん、数年行方不明だったのによく無事だったね」

    「今日、複合商業施設で見つけたらしい」

    「今まで普通に生活してたってこと?」

    「それは分からない、起きたらまた聞いてみる」

    2人の会話の内容は自分のことだった。数年行方不明、見つかった、普通に生活、そんな単語で思い出す。そうだ、自分は記憶がなくさまよっていたところを大家さんに保護されて、仕事を手伝う代わりに住む場所を提供してもらっていたのだ。なんで今の今まで忘れていたのだろう。
    けれど、それ以前の記憶は、あの生物に襲われて死んだ...死にかけた時の記憶で止まっている。その空白は約300年、ありえない。

    うっすらと目が開き、視界の情報が入る。白い医療室のような部屋はパソコン機器なども置かれており、どちらかといえば診察室のようだった。そして向かい合う男女、男性は来ている白衣に所々インクのような黄色い汚れが着いている。女性は長い黒髪に黒い服を着ていた。
    そんな2人の会話は、ドアをノックする音で途切れる。

    「少し待って」

    白衣の男性はこちらに来ると、何か布のようなものを凛斗の背中にかけてから、白衣を脱いで、その白衣をゴミ箱に捨てた。

    「どうぞ」

    扉が静かに横にスライドし、入ってきたのは黒いスーツを着た褐色の40代ぐらいの男性だ。

    「頼んでいたものは」

    「用意できてる」

    白衣を着ていた男性はパソコンの置いてある机の上から小さな金属のような箱を手に取り、それを褐色肌の男性に渡す。
    褐色肌の男性はそれを即座に開けると、中には青色の液体が入った注射器が2本、丁寧に収められている。

    「これで妻とアンドロイドになることが出来る」

    歓喜に満ちた声で男性は呟いた。

    「感謝するよ、ライト博士」

    「早く行くといい」

    女性と話していた時とは違い、あまり温度の乗らない声で彼は男性に言う。褐色肌の男性は特に気にすることなく、もう一度お礼を言い部屋から出ていく。

    「まだあれを求めるなんて...」

    女性が呆れたようにつぶやく。

    「仕方ない、何せ今や人類の半分はアンドロイドだ」

    男性はそう返すと、また凛斗の方に歩いてくる。その顔はどこか貼り付けたような笑みがあったが、緑色の色彩の瞳はどこまでも優しい、気がする。

    「私はもう行くよ、何かあったらまた言って」

    「わかった」

    それだけ言うと女性はヒールの音を立てながら部屋から出ていった。
    2人きりになった部屋、凛斗は彼に声をかけたくなる。

    整った顔立ちは、まるで精巧な人形にさえ見える。宝石のような瞳と、光が当たると緑がかる黒い髪色。整えているようで実の所ただのくせっ毛のようだ。
    その立ち振る舞いのせいか、それとも勘か、彼は信頼できるとぼんやり思っていた。

    そんなことを考えていると、彼と目が合う。

    「起きた!?」

    驚きと喜び、それが混じった声とともに、先程までの貼り付けたような笑顔とは違い、心底嬉しそうな笑顔だった。
    その笑顔を見て、何となく抱えていた不安が少し薄くなる。

    「ああ、まって、まだ治し終わっていないんだ、もう少しだけ眠ってて」

    治すって、自分を?でも先程まで聞こえていたのは機械を弄るような音だ。それに凛斗はどこも怪我なんて...
    その時背中の傷を思い出した。今凛斗はうつ伏せで寝転がっている。
    気絶したあと病院に運ばれたのか?それにしては何か違うような。

    彼は慌てて戸棚から新しい白衣を取り出し着て、再び凛斗に前に立つ。
    そういえばさっきまで彼が着ていた白衣には蛍光色の黄色い汚れがあったような、赤い血じゃなくて...視線を下に向けると、同じ色でベッドが一部染まっていた。
    どういう事か聞こうとするが上手く声が出ない。視線だけで訴えると彼は察したのか、困ったように笑う。

    「疑問は多いと思う、後でちゃんと答える、でも今は君を治すことを優先させて欲しいな、大丈夫、絶対に治すから、安心して」

    優しい声で、言い聞かせるように、思わず凛斗は頷く。
    彼はその反応を見てまた嬉しそうに笑ってから小さな注射器をトレイから取り出す。

    「麻酔を打つよ、次目覚めた時は、全部治ってるから」

    腕にチクリと針が突き刺さる。痛さは全くない。そして数秒後凛斗の意識は再び暗闇に落ちた。
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