Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    eva1957autobahn

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    eva1957autobahn

    ☆quiet follow

    ふぁるる卓 庭師二陣 HO1のお話
    庭師げんみ✖

    事件解決から一年後の報告 相模原涼が死んで4年、事件が終わってから1年が経過した。薊班はなんとか継続していて、現在も事件を追っている。
     事件の報告書を提出した帰り道、私は相模原の愛したタバコと酒を持って彼女の墓参りに向かっていた。
    「アメスピとワイルドターキー…もう何回買ったかも分からないな。」
     墓参りをするたびに墓前へ供えているが、回数など忘れてしまった。しかし、事件解決前と今とでは墓参りの頻度は減っているように感じる。
     ここに来るといつも相模原との日々がよみがえってくるのだが、その光景は日か経つにつれて少しずつ遠くなっているように思う。いつか忘れてしまうのだろうか。そんな弱気な考えを頭から追いやり、とりあえず墓石を洗うことにした。その間何を考えるでもなく、何度か墓石に水をかけては丁寧に拭き取っていく。私はこの時間が好きだった。
     一通り綺麗になったことを確認した私は墓前で手を合わせて祈る。
    「今でも見ていてくれているだろうか。」
     思わず呟いてしまった一言がどこか空虚に感じられる。ネガティブな思考に陥っている自分を忘れたくてタバコに火をつけることにした。
     タバコを吸いながら相模原について少しずつ思い出していく。

     彼女は優しい人だった。
     笑顔の綺麗な人だった。
     支えになってくれた人だった。
     信念を持った人だった。

     彼女の作ってくれた炒飯が好きだった。
     タバコを一緒に吸う時間が好きだった。
     苦手な酒を強がって飲んでいるのが好きだった。
     自分にだけ弱音を吐いてくれるのが好きだった。

     ずっと傍にいると誓ってくれた人だった。
     …失いたくない人だった。
     
     彼女の笑顔を思い出すたびに胸が痛む。軋む。あの日々はもう帰ってこないのだと胸の痛みによって実感する。
     
     気が付くとタバコの火が口元まで近づいてきていた。6分くらい経っただろうか。気持ちを切り替えたくて、彼女に語り掛ける。

    「俺は上手くやれていると思うか。部下に何度も逃げられそうになったが、なんとか班は残しているよ。全員が前を向けているわけではないが、今は辛抱するしかないんだろうな。」

    「霧江が俺の真似をしてタバコを吸うようになったんだ。君がいた頃には彼は吸っていなかっただろう。今ではいい相談相手になってくれているよ。圓次は少し変わったかな。前よりも遠慮が無くなったように感じる。嫌なことは素直に嫌だと言うようになった。前は少し無理に明るく振舞っていたようだから、いい傾向かもしれない。松本は筋トレを続けているね。拳銃へのトラウマは解消されていないだろうが、射撃訓練は続けているようだし、いつか解消されるといいな。」

    「君が居なくなってから部屋が広くなったように感じてね。引っ越しも考えたんだけれど、なかなか踏ん切りがつかないでいるよ。まだしばらく部屋はこのままになりそうだ。少しずつ前に進んでいるような感覚はあるんだけれど、どうしたって君を引きずってしまうんだ。俺はこのままずっと君を想い続けるんだろうなって最近吹っ切れてきたよ。」

    「どこかで俺を見ていてくれ。そっちに行くのはもう少し先になるだろうけど、許してほしい。いつでも君のことを想っているよ、涼。」

     涙は流さない。君に事件の報告をしたときにすべて流し切ってしまったから。

     空を見る。太陽が水平線に沈み、夕空と夜空が混ざったようにグラデーションになってこちらを見下ろしている。あの空のどこかに君が居るような気がして手を伸ばしてみるが、何かが起こるわけもない。そんな自分の行動が馬鹿らしく思えた。しかし、どこかに居てほしいと願ってしまう自分を否定はできなかった。私はこの光景を目に焼き付けるようにして、しばらく立ち尽くしていたのだった。


    ◆◆◆◆◆

    ◆◆◆◆

    ◆◆◆

    ◆◆


     15分程経っただろうか。来た時よりも暗くなった気がする。
    「そろそろ帰るよ。」
     そう言って酒の瓶を開けると、それを墓石にかける。アメスピの箱から一本取り出し、瓶と箱に添えるようにして墓前へ供えた。
    「また来るよ。」
     その言葉の直後、どこかから彼女が見てくれているような気がして振り返る。目の前には雑木林が広がっているだけで、彼女の姿などあるはずもなかった。しかし、私は彼女が来てくれたのだと信じることにした。「君は優しい人だから、今でも心配してくれているのかもしれない。」そう思うとさっきまでの感傷的な気分はどこかへと消えてしまった。彼女に短く感謝の言葉を呟いた私は、来るときよりも少しだけ軽い足取りで家路につくのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator