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    sunflowe_R_ose

    あたたかいふたりとスータ。運命じゃない方がロマンティック🌻🌹キングダム🏰からスタツアへ✈ pixiv//65308614

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    sunflowe_R_ose

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    音也くんの朝。

    幸せ目覚まし代わりにしているスマートフォンから起床時間を知らせる音が鳴っている。起きれば輪郭が曖昧になる夢から現実の朝へ。意識は無情にも引っ張り起こされ、音也は仕方なく瞼を開いた。
    「んん〜」と抵抗するような声を上げながら、音の発生源を手探る。昨晩の自分が適当に放り投げたせいで定位置に目的のものがない事を恨みつつ、何とかスマートフォンを見つけ出した頃には、意識は随分とクリアになっていた。
    リンリンリ…と起きるまで鳴り続けるそれをやっとの事で止める。途端に静かになった部屋。ベッドの上。まだ体温が残っているシーツ、あたたかな空気がわだかまる布団の中、音也の腕に巻き付いていた恋人の肌色の腕。魅力的すぎる全てに負けて、起き上がりかけていた体を再度戻す。温かい、いい匂い、幸せ、と思いながら、うつらううらとしかけた矢先。またリンリンと鳴り始めるスマートフォン。二度寝防止のため5分おきに鳴るように設定したのは自分だというのに、毎度恨めしい気持ちになってしまうのは何故だろう。
    観念したようにはぁ〜と腹の底から息を吐く。隣で眠る男が「んん」と呻いた。彼は電子音から逃げるように音也から離れ、更には布団の底へと沈んでいく。どうあがいても起きないという強い意志を持つ恋人の仕草に唇をゆるゆるとさせつつ、音也は今度こそスマートフォンの目覚まし設定を切り、あたたかいベッドから勢いをつけて降り立った。



    今日1日の仕事の大まかなスケジュールを頭の中で思い出しながら、ふらふらと洗面所まで歩く。その間、ふわぁふわぁと何度か眠気に引きずられたままの脳が酸素を取り込みたがり、欠伸が落ちた。
    上瞼と下瞼が磁石のようにくっついている。目がほぼ開かない状態でも洗面所までたどり着けた音也は、自宅よりずっと広い鏡の前で止まり、慣れた仕草でお湯を出す。顔を洗うのと一緒に眠気も流れる。手繰り寄せたフェイスタオルは音也の部屋にあるのよりずっとふかふかしているし、何より恋人の香りがする。
    すうっといい香りを吸い込んで、ついでに顔を濡らす水滴も拭う。タオルから顔を上げれば、鏡の中にはゆるみきった顔をした男がいる。
    恋人の住むこの部屋は音也の住んでいる部屋より広く綺麗だ。シンプルにまとめられた室内、だけど時々、過去に出したST☆RISHのライブグッズや音也がプレゼントした小物なんかがあって。大切に使い込まれてるそれらは、恋人の生活にしっかり溶け込んでいて、見つけるたびになんだかとっても嬉しくなる。
    音也の自室はこの部屋とは違い物が多くて、彩度が高い。恋人が遊びに来てくれる度に「狭くてごめんね」と思うけれど。彼はその度に「イッキとくっつけていいね」なんて言って笑う。そんな事を言うから、音也は未だに自室の小さなベッドを買い替えることができない。何故なら、いつもは大人びた顔をする年上の恋人が、言い訳せずに音也にくっついて眠ってくれるからだ。ああ、思い出したらたまらない気持ちになってしまった。次に会う約束は、久しぶりに音也の部屋にしようと決意しながら、ふたつ並んだ歯ブラシの赤い方を手に取る。
    歯を磨きながら鏡を覗き込む。ヒゲが少し伸びていたのと、髪がぴょんぴょんと左右に跳ねているのが見えた。鳥の巣のような後頭部をなんとなく撫で回す。歯を磨いて、ヒゲを剃って、爆発してる髪を整えようと試みたけれど、襟足の部分がどうしても跳ねてしまう。跳ね回るそこを直すことは早々に諦めて、キャップを被ればなんとか誤魔化せると結論付けた。それに現場へ行けばへろへろの音也をピカピカにしてくれる人たちがいる。だから今日も、きっと大丈夫。



    人気といってもらえる知名度がついた。そんなアイドルグループのメンバーのひとりだが、音也は未だに自転車で通勤している。勿論、マネージャーが迎えに来てくれる日もあるけれど、今日は自転車の日。だから、車で出るよりほんの少し早い朝だ。
    寝巻きがわりの襟がへろへろになってきたTシャツを脱いで、洗濯カゴへタオルと一緒にシュート。着古した感が出てきたそれを見るたびに恋人には「そろそろ捨てたら?」と困ったように言われるけれど、彼が赤色のライブグッズを愛用するように、音也だってオレンジ色のTシャツを気に入っている。
    半裸で歩きながらクローゼットルームのある寝室へと戻り、何を着ようかと中を覗く。存在を主張したくて、せっせと運び込んだかいがあり、今や半分ほどのスペースが音也の服で埋まっている場所。先日、翔と買い物に行った際に新しく迎えたお気に入りのジーンズを手に取る。そのまま、自分の服のスペースの反対。細身だったり触り心地がやたら良かったりする恋人の服のゾーンへと手を伸ばし、比較的ゆったりめのシャツを取って羽織る。すると恋人の匂いがして、気分が上がった。多分ハイブランド品だとわかっている。けれど気にせず彼の服を拝借するようになった。
    音也が恋人の服を着ている事に気付いた時の、『あの顔』を思い出す。その度に口元が緩んでしまう。それに彼だって時々音也の服を何食わぬ顔で着ているのだ。それが嬉しくて、最近はお互いが着れるサイズ展開の服もこっそり増やしている。
    袖がやたら余るシャツを折り曲げながらクローゼットルームから出て、寝室へと顔を出す。部屋の中央に置かれたベッド、そこは未だにこんもりと膨れていた。
    今日の仕事は昼からなので、少しゆっくりできる。そう昨晩恋人が話していた。最近お互いに忙しくて、睡眠時間も短い日が続いていたので、できればゆっくりしていて欲しい。そんな気持ちと共に、出る前に顔が見たいという感情が戦って、すぐに勝敗がつく。
    閉めたままのカーテンの隙間、そこから漏れた朝の光が線になって横断する部屋。
    ベッドへと近づいて、端に座る。ギシッと音がして、音也の重みを受けたベッドが少し沈んだ。
    布団の奥に隠れたままの恋人を見たくて、ゆっくりそこをめくる。すると、シーツに散らばる明るい色の髪が見えて、嬉しくなった。
    彼は頰をシーツにくっつけるようにうつ伏せになって眠っている。さらけ出されたままの肌、閉じられた瞼、長い睫毛、高い鼻梁に、綺麗な厚みの唇。カーテンの隙間から続く朝の光が、レンの頰を撫でていた。
    朝、起きて一番最初に見るのが恋人の寝顔だったり、逆に起こしてくれる彼の甘やかな瞳だったり。そういう日は特別にいい気分になれる。
    彼とは友達の友達から、グループのメンバーになって、仲のいい友達のひとりになって、好きな人になって、恋人になった。本当は一緒に住みたいと、今の関係になったばかりの時からずっと思っている。そうしたら、特別にいい気分の日が毎日続くのだ。それはなんていいアイディアだろうと思うけれど。
    それと同時になんとなく、断られる気がして。恋人が時々見せる悲しそうな、それでいて困ったような顔を見たくない。そんな言い訳を胸に抱えて。
    本当は断られて気まずくなりたくなくて、いや、ただ怖くて切り出せていない。意気地なし。わかっている。
    はーと息を吐いてから、寝癖がついたままの己の後頭部を掻き回した。ネガティブな気持ちを飲み込んで、再度レンの顔を覗く。光の粒子が落ちている頰を一度撫でたあと、普段は8センチ上にある彼の頭をゆっくり撫でる。
    「レン」と。気付けば彼の名前を呼んでしまっていた。好きな人の名前は特別な響きを持って音也の喉を通過して、空気を震わせる。
    彼の名前を呼ぶのが好きだった。
    「レン」
    胸の中からあふれてくる狂おしいほどの気持ち、これを愛と呼ぶのだろう。だけど、愛してる、という言葉はなんとなく気恥ずかしい。だから代わりに体の中に収まりきれず溢れるこの感情を2文字に変えた。レン。大好きな人の名前は特別。
    しばらく髪を撫で、恋人の寝顔を見つめていた。そろそろ部屋を出なくてはいけない。夕方になれば、ST☆RISH全員での撮影があったはずなので、彼にも会える。わかっているのに名残惜しくて。
    すると、それまで閉ざされていた瞼がピクッと揺れた。「あ」と思って頭を撫でていた指が止まる。
    音也が見守る中、レンの長い睫毛が震え、開き、中から青い空のような瞳がのぞいた。
    ゆらゆらと揺れるようなふたつの球体が、音也に気づき見上げて、色を付ける。薄く開いていた唇が嬉しそうに緩む。長い睫毛が星の煌めきのような瞬きをする。その全てがまるで花が開くほんの一瞬のような感動を音也に与えた。
    「レン、おはよう」
    朝の挨拶。それは恋人の頰に落ちて水滴のように弾ける。
    彼の頭を撫でていた指の動きを再開させた。するとレンは満足げに目を細くすると、普段よりずいぶん気の抜けた音で「おはよ」と返してくれる。
    寝起きの恋人は普段より反応が鈍い。真顔の時もあるけれど、今日はなんだか嬉しそうな顔をしてくれていて、音也の心臓も弾んだ。
    眠そうな顔でシーツに懐いたままのレンの瞳がほんの少し開く。「あ」の形に動いた唇。驚いて、だけどすぐに、嬉しさと困惑と恥ずかしさと独占欲を混ぜたような顔をした男が音也の着ている服の袖を摘んで引っ張る。
    「……きてくの?」
    「だめ?」
    疑問形で聞いたけれど、彼が「ダメ」と言わないことを知っていた。案の定、レンはいつもの顔をして、音也を見つめるだけ。
    彼の瞳の奥にはいつからか恋があって、その中には今日も変わらず音也がいる。それを見つけるたびに、言い知れない気持ちになった。多分、幸せという言葉は今この瞬間のような朝だとか、起きてすぐに見つける恋人の寝顔だとか、そういう一瞬を見つけた時の気持ちを形作るものなんだと、音也は思う。
    「ふっ」
    ふわふわとした気持ちで恋人を見つめていた。するとレンが唐突に「ふふ」と息が抜けるような笑い方をする。彼が幸せそうに笑うものだから、思わず「なに?」と笑い返しながら聞く。見守っていたら、長い指が伸びてきて、音也の髪の端を摘んで優しく引いた。
    「ねぐせ」
    「すごいよ」と言われて「そう?」と答えた。自分の唇が笑っているのがわかる。跳ねた寝癖を弄っていたレンの指が、音也の首元へと落ちてそこを撫でる。その意図に気づいて、惹かれるままゆっくり体を折り曲げた。
    「イッキ」
    レンの声が名前を呼んでくれて嬉しい。その三文字の音を体の中に取り込みたい。そんな気持ちを抱え込んで、恋人の唇に唇を重ねる。
    性的なニュアンスのないこんなキスも好きだ。重なったところが離れて、だけどすぐに物足りなくて、もう一度唇をくっつける。
    触れた場所を優しく震わせて「レン」としあわせな気持ちをいっぱいに詰め込みながら、彼の名前を呼べば。それは彼の唇を伝い、転がって、お腹の中へ。キスをして、名前を呼んだ。ただそれだけのことが、とても大切な一瞬になる。たくさんの音也の落とした幸せで、恋人の体が満ちたらいい。
    そんな事を願う朝。今日みたいないつのも朝を、きっと人は「幸せ」と呼ぶんだと思う。
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