ラブ・ライク・メイド 絵面も雰囲気も身に纏っている空気も何もかもが異なる龍みたいな変なやつを退け、世界を救ってしまったことりたち一行。
決してその功績を驕ることはなく……というよりも、あれらを壮絶面白体験だったという感想に留めてしまった六人は、学生としての生活と冒険者としての活動を続けていました。
本日の探索場所は宵闇の石牢の閉ざされた扉の先に続くエリア。
とりあえず行ける所まで行ってみよう! という話になり……。
「敵を倒したら宝箱を見つけたよ」
襲いかかってきた魔物たちを軽く退けたことりたち。
魔物は倒した後は魔力や霊力になって消滅し、お金や素材に変化するのですが……それらはたまに宝箱に姿を変え、人々の糧となります。
魔物が生み出した宝箱なので当然、人に牙を向く罠が仕掛けられているのですが、研鑽を積んだ魔法使いがいるこのパーティでは、そのような問題など問題にすらなりません。
「じゃあバムくん、アンロックよろしくね」
「分かった」
ことりはバムに向かってそう指示すれば、彼は宝箱の前で膝をついて魔法の準備に取り掛かるのでした。
その間、魔法を使わないメンバーは暇なので、
「このダンジョンってどこまで続くんだろう……」
明らかに人工物である石でできた天井を眺めながら、トパーズはぼやきました。
不安たっぷりな声に応えてくれるのは面白さと楽しさに無限の可能性を見出しているスイミーでして、
「興味本位だけで来てみたけど、想像以上に奥深い所だよね〜ここ! 面白いから僕はいつまで続いても構わないけど!」
「最奥はあってくれた方がいいよ……」
ため息混じりに返すトパーズ、その顔色には疲労がしっかり見えていました。
「このダンジョン、光属性に耐性を持つ敵が多いのは少し厄介ですね……私の魔法が効きにくくて困ってしまいます」
一呼吸つける間にルンルンは愚痴を溢し、
「私はあのつまようじがいいのです! 倒しやすくて楽しかったのです!」
ネネイが高らかに謎の発言をしたことで、トパーズ二度見。
「爪楊枝って何!? そんなのいたっけ!?」
「次元の果てへと至る道でトパーズちゃんにひたすらデスを使っていた悪魔族の魔物じゃないかな? 言われてみたら爪楊枝に似てるかもね!」
「あれ!? 似てないよ!? 要素どこにもないよ!?」
納得していたスイミーにたったひとりで反論するトパーズなのでした。
彼女の声を背中で聞き届けつつ、バムはアンロックの魔法を使い宝箱を開けました。
「よし、開いた」
そして、中身を確認して……。
「トパーズちゃんも疲れてきてるみたいだし、そろそろ学園に戻った方がいいかも」
ことりが決断を下したところで、スイミーとネネイは二人揃って不満たっぷりな表情。
「えー」
「えぇー」
文句の言葉もほぼ同一。それを嗜めるのはルンルンです。
「お二人とも、ワガママを言ってはいけませんよ? パーティの長であり私と将来を誓った運命の相手でもあることりさんの命には従わなくてはいけません。ことりさんが帰還すると言ったら、素直な気持ちで帰りの支度をしなければ」
若干余計なことを言っているような気がしますが、彼女はいつもこの調子なのでもうツッコミは飛びません。
「闇の世界のダンジョンを攻略していた時みたいに、急いで探索しないといけないってことはないんだから……無理しない程度にゆっくり行こ? ね?」
それを証拠にパーティ内唯一の真の常識人であるトパーズも、ツッコまず便乗するだけ。長い付き合いのせいで毒されてきたかもしれませんが、あまり触れないでおきましょう。
ネネイとスイミーは顔を見合わせて、
「むむ……しょーがないのですね。ダンジョンは逃げないですし今日は我慢するのです」
「まだ面白いモノ見つけてないから消化不良なんだけどなー」
渋々といった様子で納得しかけた、その時でした。
「おい、すごいモノが出たぞ」
アンロック作業が終わったバムが暇を持て余していた五人に声をかけたのは。
「すごいもの?」
「いやいや、闇の世界を冒険してすごい人を倒したアタシたちにとって、すごいものなんてもう早々ない……」
戻ってきたバムの手には可愛らしいメイド服がありました。
「これはすごいものだ!?」
五人絶叫。本当にすごいものを前にしたことにより、非常に単純な言葉しか飛び出しませんでした。
そして、パーティはメイド服を囲んで緊急作戦会議を始めます。
「なんでこんなモノが宝箱から出てくるのです?」
早速発言したネネイ、このなモノと言いつつメイド服を指しますがトパーズは青い顔。
「わ、わかんないよ……たまに変なのは出てくるけど……」
「あれだよ。たまに宝箱からいかがわしい着物とか、ほとんど紐みたいなアレな水着とか出てくるじゃん? これもそういう類のやつじゃないかな?」
これと言いつつメイド服を指すスイミー。その目は面白さを見つけた時のようにキラキラと輝いていましたが、トパーズは嫌な予感しか感じません。
「あ、アダルティなものと同じ括りにしていいのかなこれ……見たところ、普通のメイド服みたいだし……」
そんな中、ことりはメイド服を両手でひょいっと持ちまして。
「んー……ちょっと優秀な防具って感じだね。魔防が高いみたいだよ」
涼しい顔で鑑定していました。真面目な点は評価されますがどうもズレている様子にトパーズは困り顔。
「こ、これが……?」
顔を引き攣らせていると、すかさずルンルンがことりの隣まで来て。
「でしたら! こちらのメイド服はことりさんが着ましょう! 優秀な防具はことりさんが着てこそその真価を発揮するというもの! 貴族という立場上、私は従者の衣服であるメイド服に袖を通すことができませんので! 是非とも私の分までその優秀さを味わってください!」
大興奮を隠そうともせず言っています。欲望を曝け出す様にトパーズが心の底から引いていましたが。
「あんまり頑丈そうじゃないから嫌かな?」
「ぐっ……!」
見え透いた欲望は効率重視の理由によって踏み潰され、ルンルンは膝をつくと悔しそうに地面を殴り始めました。
トパーズはその姿を、どこか冷めた目で見ています。
「いつも着ている鎧より薄いから、竜騎士のことりちゃんが嫌がるのも分かるなぁ……あ。言われる前に言うけどアタシも着ないからね? 防御下がっちゃうから」
「なっ……!?」
静かに驚愕したバム。裁縫箱を持ったまま立ち尽くしてしまっていました。
「サイズ調整する気ぃ満々だったのですね」
「オトコノコめぇ」
それを冷めた目で眺めるネネイとスイミーに、ことりは静かに問いかけます。
「それで、誰が着るの?」
当たり前のような顔でとんでもないことを言っています。持っているものがメイド服だと分かっているのでしょうか。分かっていても意味を理解していないだけかもしれません。
まともに取り合ってくれるのはトパーズでして。
「着ること前提なんだ……んーと、適性がありそうなのはネネイちゃんとルンルンちゃんだけど……」
「僕は?」
突然自身を指すのはスイミーにトパーズ驚愕。
「着たいの!? 男の子が着たら呪われるよ!? やめた方がいいよ!?」
「学園で呪いを解いてもらったらイケルイケル。お金かかるけど軍資金は余裕過ぎるほどあるじゃん、僕ら」
「そっか」
ことり、納得しかけてメイド服をスイミーを渡そうとしますがトパーズは腕を掴んで急いで阻止。
「ダメだって! ことりちゃん納得しないで!? 解呪代だって安くないんだから!?」
「そうかな?」
「そうだよ!? スイミーくんも! なんでそこまでしてメイド服が着たいの!?」
叫びつつ問えば、彼は「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに得意げな顔で腕を組み、
「女装ってさ。男の子しかできない行為の代表格じゃん? つまり、この世で最も男らしい行為ってことになるでしょ? あまりの男らしさに周囲を困惑と混沌の渦に巻き込むことができるっていう、勇ましい姿……」
「メイド服を着ている男の子がいたらみんな驚くね」
ことり冷静。トパーズ無言。
「僕はね! その混沌を見たいんだ! 面白そうだし、誰かを傷つけてるってワケじゃないから何かしらのペナルティが課せられることもない! つまりお手軽面白吟味行為ってこと! それを試さない手はない! ついでに言うと、オズの周りをメチャクチャな混沌で満たしてやってアイツをツッコミ多加に追い込んで胃を壊してやりたいな!」
「またオズくんをイジめようとしてる……やめなよ……」
驚きはせずにため息を吐くトパーズ。おおよそ予想通りだったのでこの反応です。
静かに眺めていたことりは、スイミーに問います。
「スイミーくんってオズくんのことが好きなの? 嫌いなの?」
「見たままの通り」
「そっか」
簡潔な会話が終わったところで、トパーズは続けます。
「とにかく、男の子がメイド服を着るのはダメ。呪いは怖いし……装備が脱げなくなるとかの軽い呪いばかりじゃないって授業でも習ったでしょ? 軽い気持ちでそんなことしちゃダメだよ」
「えー、トパーズちゃんのケチ」
「ケチでいいもん」
「じゃあ、誰がメイド服を着るの? 誰も着ないのは能力的にも勿体無い気がするけど」
「ええと」
すぐに答えが出せずに困り果てた時、
「お話はまとまったのです? 先に行くか帰るか早く決めて欲しいのです」
会話に混じる気もなく黙っていたネネイがそう言って、
「…………」
「…………」
「…………」
話し込んでいた三人に目を向けられました。
「なのです?」
モーディアル学園廊下。
すっかりいつもの平和な姿に戻った学園は、今日も生徒たちが学び、戦い、時には破壊もしつつ大人になるまでの時間を有意義に過ごしていました。
今は放課後、教室の内外から生徒たちの楽しげな声や稀に騒がしい音が響く、いつもの学園の姿を背景に、オズとリーヤは廊下を進んでいます。
「最近、ことりたちが宵闇の石牢の閉ざされた扉の先に行ってるって話っすよ」
今日はまだ妖精サイズのオズ、リーヤの目線の高さまで飛んで世間話を振りました。
話を振られたリーヤは心底興味なさそうに、廊下の窓から空を見て、
「あまり興味ないわね」
心境を態度だけでなく言葉にして伝えてくれました。
「さいでっか」
焼きそばパンの話題でなければ興味は引けないな……なんて思って簡潔に返しつつ、他の話題はないかと考え始めた時でした。
「あー、オズにゃんとリーヤちゃんだぁ〜」
目の前に現れたのは同パーティメンバーのノーマ。いつもは当たり前のように一緒にいるトゥカの姿がどこにもありません。
彼女はくのいちらしく、足音をさせずに二人の前まで来たところで。
「あらノーマ。今日は探索日じゃないわよ?」
「知ってるよ? そうじゃなくってね? トゥカちゃん知らないかな? はぐれちゃって〜」
笑顔でのんびり尋ねると、オズとリーヤは顔を見合わせてから。
「へぇ? 普段からニコイチで行動しているお前らが別行動か? 珍しいこともあるな」
「明日は砂嵐かしら」
「クソ変態エルフ夫婦の母性と父性から逃げてた時に二手に別れちゃったんだ。そっから合流できてな〜い」
口調は朗らかですが言葉の中には明らかに怒りが込められています。付き合いがそこそこあるオズやリーヤでなければ気付かないほど、隠れた怒りでした。
ちなみに「クソ変態エルフ夫婦」とはマティルとライムントの二人のことです。言うまでもないかもしれませんが念のため。
「また追いかけっこしてたのかよお前ら……それ、絶対あの二人に捕まったんだと思うぞ?」
「助けに行かないのかしら?」
「巻き込まれたくな〜い」
「切り捨てる時はマジで容赦しないなお前」
女子の友情に理解が及ばないオズがため息まじりで言った時。
「……ん?」
「どうかしたのかしら」
とある教室から楽しげな、それでいて聞き覚えのある声がしたのが気になって、開けっぱなしだった廊下の窓から中を覗いてみました。
するとそこには、
「スカートの丈が短いメイド服は邪道と聞いたことがありますが……本当によろしいのですか?」
「いいのです! だって長いと戦いにくいのです! 短くてもスパッツでどうにでもなるのです!」
「利便性と浪漫って両立しないねえ、僕はそれでもいいと思うけど。そこに面白味をひとつまみ……」
「面白さは特にいらないのです」
「スカートの丈はこれでよかったか」
「はいなのです! さすがバムくん! 良いお仕事をするのです! 完璧なのです!」
「ふん。褒めても金平糖しか出ないぞ」
「わーい金平糖なのです〜!」
「本当に出るんだ……でも、似合ってるよネネイちゃん! すごいね!」
「次はこれで探索の続きをしようね」
「はいなのです!」
メイド服を着たネネイを囲んで盛り上がっていることりたちの姿がありまして。
「ギャ――――――――――ッッッッ!! 学校で何やってんだお前らぁぁぁぁぁ!!」
オズ悲鳴。「あ、蝿だ」という声が聞こえたような気がしますが気のせです。
悲鳴に釣られてリーヤとノーマの二人も廊下の窓からその光景を目にします。
「……」
「うわー学校でコンカフェとかする気だ〜」
というご感想を全て無視し、ネネイはにこやかに三人の元へ寄っていきます。ことりと一緒に。
「やっほーなのです! こんなところで何してるのですか?」
「通りすがりデスケド!?」
「なんで驚いているのです?」
「わからないね?」
動揺を隠しきれないオズの声が裏返っていますがネネイはことりと共に首を傾げるばかり。
横ではノーマがメイド服姿のネネイを上から下までじっくり観察しており。
「へぇ〜? みんな揃ってマニアックプレイしてるんだー? 全員でそういう仲だったりするの〜? あ、仲良しだから有り得なくないかぁ〜?」
笑顔いっぱい、嫌味たっぷりで言いましたが、言われている二人はキョトンとするだけ。
悪意のある言い草を聞いても、オズは冷静です。
「コイツらはお前らみたいに爛れてないからそんな言い方しても絶対に理解できないぞ」
彼の指摘通り、ネネイもことりも首を傾げてクエスチョンマークを浮かべたままです。本当に何も理解できていません。
「ホントだ〜つまんない人生だね〜」
「下心が人生の全てみたいな言い方してやんな! 他にもっと生きがいを見つけろっての!」
不純同性愛行為の第一人者にそんなこと言っても無駄ですがオズの怒声は止まりませんでした。
すると、リーヤは教室にづかづかと入り込んでネネイの横に立ちます。腕も組んで。
「……で? いつから誰かの従者になったのよ。アナタ」
明らかに面白くなそうな、不満と苛立ちの入った表情と声色。しかしネネイはどこ吹く風。
「従者にはなってないのですよ? 良い感じの防具だったから装備しただけなのです!」
「防具」
「なのです。ダンジョンで拾ったのですよ!」
「そう」
「なんでリーヤちゃん不機嫌さんなのです? 何かあったのです?」
「別に」
視線を逸らされてしまい、ネネイの疑問は解消されることはなくなってしまったのでした。
状況を心から楽しそうに眺めているノーマはことりに目配せして、
「どんなアダルティなダンジョンに行ってたの? 教えて教えて〜?」
「あだるてぃ? 宵闇の石牢だよ?」
「プレイルームはそこかぁ〜」
「ぷれい?」
ことりの疑問は尽きません。ノーマが答えてくれないからです。
「だからコイツらには分かんないんだから言うなって……全角ひらがなになっちまうぐらいには馴染みがねえんだからよぉ……」
オズは呆れつつ、メイド服を着たネネイを改めて見まして。
「ダンジョンにこれが……ねぇ?」
にわかに信じられないような口ぶりで言った刹那、
「え!? なに!? もしかしてそういうのが好きなタイプ!? ベタだけどスキモノねえ君も!」
まるでテレポルを使ったような速度でスイミーが迫ってきたことで、部屋の中で害虫を見つけてしまったような顔に自然となるわけで。
「うるせぇ帰れクソノーム。土は大地に還れ」
「あ! もしかしてちょっとワクワクした!? ねえねえ! 僕がメイド服着ているの想像してワクワクした!? だってぇ絶対に似合うっていう確信があるからね僕! ねえねえ! ご感想は!? 誰にも言わないから教えてよ〜! ねえねえねえねえ!」
「うるせ――――――――――――――――――――!! さっきからウッゼェよお前よぉ! つーか想像したくもねぇわ!! お前は俺に一生喋りかけんな!!」
「断る」
そこは冷静に拒否しました。
「アナタたちは何があってもどんな題材があってもそれよね。前もぶっかけうどんの話で喧嘩してたし」
いつも行われている醜い争いを見ようともせずに言葉だけ発しておいたリーヤ。いつの間にかネネイの背中で結んでいるエプロンの紐をひらひらしていました。
「それ気になるのです?」
「何も気にするところはないわ」
「とか言いつつスカート捲って確認するなです。下はスパッツなのですよ」
「そう」
あまりにも自然な流れで行われているセクハラ行為は静かに終了したところで、ノーマが問いかけます。
「リーヤちゃんってこういうの好きでしょ〜?」
「全然好きじゃないわ」
「そうなの〜?」
「ええ、時と場所、状況という条件が見事にマッチしていないと見ることができない特殊なのにどこか特別感のある衣服。その物珍しさもさることながら、所々にフリルやリボンといった可愛らしいアクセサリーが散りばめられていることで華やかさを出しているものの、黒と白という目立たない色彩から本来の用途である“主人の陰に立ち支える存在”という前提を崩さないでいることでバランス的にも良いわ。これはスカートの丈がかなり短い機動性に優れたデザインになっているけど、本来のメイド服はロングスカートかつ露出は必要最低限に止めている肌色の少ないものよ。そのちらの方が高潔さがあるのだけれど戦闘も行う冒険者としてはこちらのデザインが正解なのかもしれないわ……最も、メイド服に正解も不正解もない気はするわね」
突然の熱弁に皆が言葉を失う中、オズだけはリーヤの近くに来るため窓から教室に入りまして。
「やっぱ好きだろ姐御。そんな拒否しなくても、熱弁するぐらい語ってる時点で分かってっからさ? 人の性癖なんてその人によって異なるようなもんだろ? べっつに恥ずかしがらなくても――」
そして、オズは羽虫を叩き潰されるようにリーヤに上から叩かれました。ばしん。
「ぐぎゃ」
哀れ小さなフェアリー、床に叩きつけられて動かなくなりました。
「あ〜オズにゃんが死んだ〜」
「オモロ〜」
ノーマもスイミーも白状です。心配する素振りなどミリもない二人は呑気にそんなことを言い、スイミーに至ってはボールペンで動かないフェアリーを突いて遊び始めるのでした。
「それじゃあリーヤちゃん、次の探索場所は宵闇の石牢で決まりだね〜」
「異論はないわ」
チームリーダーであるオズを差し置いて勝手に話が進んで決まりました。このパーティではいつものことです。
迅速に決まった話は、叩き潰されたオズの耳にちゃんと届いています。
「また勝手に……俺がいないところで話を……進めやがって……」
全身の痛みを堪えつつ起き上がり、ボールペンで突いているスイミーと目が合います。
「テメェ……人を、虫の死体みたいに突くな……」
「“ペン先を出さないでくれてありがとうございます”は?」
「言うかクソボケ……アホしか言わない口に木炭詰めるぞ……」
ボロボロのまま文句を飛ばしつつなんとか浮き上がります。セルフでヒールをかけて自分の傷を癒すのも忘れません。
「ぜえ……川の向こうに死んだ婆ちゃんと爺ちゃん見えた……」
「感動の再会しなくてよかったの?」
「それはまだもっと先でいいから!」
「あらそう。じゃあダンジョンに行くわよ」
「え、今から!?」
驚愕するオズを置いてリーヤは教室の外に出てしまい、ノーマもそれに続いてしまいました。
「ちょ姐御!? 俺全身打撲なんすけど!? てかエルフ夫婦とトゥカはどうするんすか!」
「ノーマ、魔法でマティルたちに連絡」
「リーヤちゃんは魔法苦手だもんね〜? いいよ〜」
「話聞いてる!? なあ! ちょっと! 俺の許可なく話を進めないでくれよぉ!?」
オズの叫びは聞き届けてもらえず、廊下の奥へ奥へとずんずん進みまして……やがて見えなくなりました。
消えた方角から「メイドふく♪ メイドふく♪」という上機嫌な歌が聞こえたような気も、しましたが。
「オズくんは見事に振り回されているのですね」
「大変そうだね」
「メイド服を着て奴に迫る日が今日から楽しみになってきたよ、僕は」
「まだ諦めてなかったのです? トパーズちゃんに叱られても知らないのですよ?」
「あれ? トパーズちゃんたちは?」
話に寄らなかったトパーズと言えば、これから彼女と一緒に出かけたいバムと、恋愛相談に乗って欲しいルンルンの二人の間で板挟みになっていたそうな。