1【始まりは 目で追う】「でねー、その時私が〜ー…」
「あ、ごめんちょっと僕は失礼するよ、じゃ!」
「えー、テルキ帰っちゃうの〜?」
一緒にいた女子達に別れを告げた僕は、対岸の歩道を歩く影山くんを目で追う。横断歩道がある場所まであと少し。
「やぁ、影山くん!」
「あ、花沢くんも今帰り?」
「そうだよ」
偶然に影山くんと出逢えて嬉しい。僕はにこにこしていたんだろうな。影山くんも僕を見て、少し小首を傾けてニコっと微笑んでくれた。
あぁ、可愛いな笑った影山くん。
「さっきね、僕も気付いていたんだ。向こうに花沢くんがいたの。一緒にいた女の子達は今はいないの?」
「あー、うん。彼女達はカラオケに寄るって言ってたから別れたんだ」
「そうなんだ」
影山くん、僕に気づいていたんだ。他の子といたところを見られていた事に何となく緊張する。
僕は、影山くんが遠くにいてもすぐに気がつく自身がある。だって僕は影山くんのことが好きなんだから。
影山くんを見かけると、つい追いかけて声を掛けてしまうんだけど、これが恋なんだと自分の気持ちに気づいて納得した。
こんなことは初めてで、僕でも恋ができるんだと分かって嬉しかった。
影山くんの真っ直ぐな言葉や行動に僕は惹かれたんだ,
横に並んで歩き出す。
「僕もね、部活の友達とカラオケに行ったことがあるんだよ」
「へぇ、そうなんだね。僕も影山くんとカラオケ行きたいな」
「うん。今度一緒に行こうよ」
「ほんと?楽しみにしてる」
好きな人とする約束は、なんて心が明るくなるんだろう。
影山くんとカラオケか。楽しみすぎる。
どんな歌を歌うんだろうな。
影山くんのどんなことでも知りたい。
彼が僕に話してくれる声を聞いていたい。
この初恋を、大切にしていきたいと思っている。
僕の気持ちは、影山くんに気付かれないように。