運命の導き『とんでもなく手強い聖職者二人組がいる』と悪魔の間で持ち切りの噂を確かめるべく、特級階位悪魔であるマリオとドクターがその国その地方へ行ってみてば、同じ顔をした若い髭男二人が修道士と神父の服装に身を包んで、片方は魔物へ片手ずつ握った二丁拳銃をぶっ放し、片方は詠唱無しで防護壁だの守護だのの法術を操っている光景で。
「…………こいつはヤバイ…………」
「噂以上じゃないか」
聖職者と同じく、同じ顔をした悪魔二人は戦々恐々としていた。
魑魅魍魎としていた魔物を討伐し終え、銃の使い手修道士・エルは弾倉を取り替えている。その間、聖書片手の法術使い神父・ルイージは散っていった魔物へ冥福の祈りを捧げていた。リロードを終えたエルはそれに顔をしかめる。
「祈った所で金の為にこいつら狩った俺達が救われる訳じゃねぇだろうに」
「まあそうなんだけどねぇ。長年の癖で」
「ハッ!」
修道士らしからぬエルの発言に、神父であるルイージも神父らしからぬ発言で返した。
それから二人は本部へ連絡し、任務達成の報告とその報酬のやり取りを始める。その光景を悪魔二人は遠くから眺めていた。
「今の発言だけで相当なイレギュラーだってわかっちゃったんだけどあの二人…………」
「魔物討伐を目的に教育された兵士でも無く、ただの一介の、しかも修道士が武装してそれを平然と扱ってる許可が下りている時点でもう色々とおかしいだろうに…………」
今までに無いタイプの聖職者に出会い、長年生きてきたエリート悪魔でも色々と困惑しているようだった。
監視を続けていると、聖職者二人は迎えの車に乗り込んで街から町へ。そこが彼らの拠点のようだ。町の住民から次々にかかる挨拶をルイージは笑って声を掛け返し、エルは片手を上げて挨拶を返していく。
「この様子だと町の者から信頼はされているようだな」
「ええ?武器丸見えなのに?」
ドクターの分析にマリオは疑問を投げかけるが、住民がそれを受け入れているようので問題はないのだろう。多分。
聖職者二人の向かった先は教会。それは都会から外れた町にしてはなかなか立派な作りをしていた。
「…………普通、デキのいい金のかかった教会ほど信仰心の厚い神父やら何やらがいるもんだから、そいつらの放つ濃い聖気のせいで僕らは下手すりゃそれがある土地にも侵入出来ないものなんだけど」
「なのにここは聖気が異常に薄い。この程度なら町どころか教会内へも侵入できるぞ」
「…………う〜〜ん…………ほんとに色々イレギュラー過ぎて…………」
ちぐはぐな状況に頭を悩ませつつも、二人の悪魔は人間に化けて町への侵入を試みる。すればドクターの見立て通り、あっさりと侵入する事が出来た。それはもうあっさりと。
「教会のある土地にここまで無抵抗に侵入出来たのは初めてだよ」
「ボクもだ」
見ず知らずの自分達にニコニコと無防備に挨拶してくる住民に爽やかに挨拶を返しながら教会を目指す。さっさと本丸へ行ってしまおうという考えだ。
ギィ、と教会の扉を開けばちょうど神父が礼拝堂の中を掃き掃除していたところだった。
「あれ?初めてましての人ですね。旅人さんかな?」
「まあそんなところなんですが、路銀が底を尽きてしまって。なので一宿一飯をお願いしたく…………」
「勿論!どうぞ!」
にっこりと笑って神父は二人を教会内へ招き入れた。
それに促されるままに二人は教会内へ一歩二歩と足を踏み入れ、背後の扉が閉まった瞬間にズズン、と突然身体全体にかかった不可視の重圧に目を見開いた。
「「!?」」
「…………体が重てぇか?」
それから背後から聞こえてきた声と、撃鉄を二つ起こす音に二人は戦慄すると同時に飛んできた弾丸を悪魔二人はそれぞれ横に飛び跳ねて躱した。反射的に弾丸の飛んできた方へ顔を向ければ、そこにはもう一人の聖職者である修道士が憤怒の顔で両手に持つ銃の標準をマリオとドクターの眉間にぴったりと合わせていた。
「重てぇだろうなぁこのファッキンクソ悪魔共がよ!!!!」
「どわわわわっ!!?」
「なっ!!」
怒声と共に飛んできた弾丸の嵐を、上手く力が発揮出来なくなった悪魔二人はどうにかこうにか躱していく。代わりに被弾した扉や椅子や壁が砕け、次々と穴が空いていく。
そんな鳴り止まない銃声の中、神父は焦りも怒りもせずに、飛び散る様々な欠片の掃き掃除を呑気に始めていた。
「エル〜窓ガラスだけは割らないでね〜」
「わかってらぁっ!!」
椅子の上に土足で上がり、前列の椅子の背もたれに片足を乗せて銃を撃ち続ける修道士。そのすぐ側でちりとりにゴミを集めている神父。その理解出来ない訳の分からない光景にマリオは混乱しきっていた。
「一旦引くぞ!!想定外が過ぎるッ!!」
ドクターの鋭い声にマリオは従い、二人は窓ガラスを突き破って教会の外へ飛び出す。途端に消失した負荷を感じ、瞬時に人間の擬態を解いた。
「逃がしたかッ…………!」
割れた窓の向こうに空高く飛んでいく悪魔二匹を目撃し、エルは悪態をつく。あれはもう弾丸が届く距離じゃなかった。
「おいルイージ!あの悪魔野郎共にちゃんと抑制法術は効いてたんだろうな!」
「効いてたよ〜」
苛立った声に何やら荷物を抱えてエルの隣へやってきたルイージは柔い声で返す。
「効いてたけどあの二人なかなか強い悪魔だったみたいで、常備発動してるレベルの術じゃ力の抑制が間に合わなかったみたいなんだよね。もしくは筋力のみで動いてたっぽい」
「…………チッ」
ルイージの見解にエルは舌打ち。握っていた二丁拳銃を両腰のホルスターにしまい込んだ。
「それだけ強い、というか賢い奴らならもうここには来ねぇな…………ちっくしょう臨時収入逃しちまったぁ!!」
「まあまあ。それはコツコツ任務をこなしていこ?それよりハイ、いつもの」
がりがりと頭を掻いて唸り上げるエルをルイージは慰めつつ、使い込まれた穴埋めのパテをエルに差し出した。
一方の悪魔二人は命からがら町から逃げ出し、近くの雑木林へ不時着。
「な、な、何だったんだあいつら…………!?色々とおかし、おかしいだろ…………!?」
「噂を遥かに超え過ぎてっ…………!!」
ぜえはあ言いながら二人は口から出るままに感想を述べていく。とりあえず落ち着こうとマリオは一つ大きく深呼吸。
「まあとにかく、これで噂は立証されたという事で、あいつらには金輪際近づかなければ」
「…………悪いが残念なお知らせだ」
「え?」
座り込んでいたマリオは頭を上げる。すればドクターが顰めっ面。その腕にはいつの間にかカラスが止まっていて、それが魔王の使いだということにマリオは瞬時に気が付いた。
そして察しが付いた。
「『あの聖職者二人を堕落させよ』…………我が魔王からの勅令が届いたよ」
ドクターは必死に抑え込んでいただろうが、本当はマリオと同じく悲痛な叫びを上げたかったところだっただろう。