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    cygnet_enter

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    cygnet_enter

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    黄金比と抱擁

    誕生日が特別っていうのは抱擁だって知っている。あまりに老いが遅い魔族には誕生日なんてそこまで嬉しさもないけど。
    最悪だし人間だし、あまりいい思い出ない中悪くない思い出もある訳で。
    きっとプレゼントなんて贈ったら調子乗ってくるかもしれないけど、今日くらいなら気を持たれても…いいかな?
    なんて、思ってたのに。
    女の人と楽しそうにしてて悲しくなった。怒りも無意識にこみ上げた。
    何か言ったのことは忘れてしまったが、誕生日はいい気分になりたいものなのにそれにそぐわないのは記憶してる。
    プレゼントを用意するなんて馬鹿みたい。喜んでくれる姿を想像してたなんて恥ずかしい。
    こんなプレゼントなんて捨ててしまえとひとしきり泣いた後に決めたこんだ時、慌てて黄金比はやってきた。
    もう顔も見たくなんてないのに。
    拒絶する暇もなく黄金比は説明した。隣にいるのは妹だったということ。
    理解が追いつくのも、冷静になるのも時間がかかってしまって。
    気付いたら恥ずかしくなって顔を真っ赤にしていた。自分の勘違いに羞恥を煽られる。
    今まで僕は何を、怒って…。
    「抱擁、顔真っ赤だよ?」
    楽しそうに笑う黄金比にますます羞恥が募る。
    「見ないでください…!」
    「可愛いよ?」
    「恥ずかしい場面で恥ずかしいこと言わないでくださいっ」
    本当にこんなの目も当てられない。
    彼の誕生日だからって調子に乗ったことも勘違いして怒ってしまったことも。
    こんなのただの自滅じゃないか。
    目の前の人間に他責するよりもただただ穴に入ってしまいたい。
    うんうんと頭を抱えてしまう程呻っている抱擁をよそに何かを見つけたかのような黄金比が見つけた何かを手に取る。
    「これは?」
    「あぁぁぁ、あっ、あっ…」
    声をあげても混乱のあまり言葉が出てこない。手のひらに収まる小さな箱。
    それが黄金比宛のプレゼント。
    あんなことがあった後にさらっと言える言葉もない。
    しかし、抱擁の考えを読んだかのように黄金比は察しが良かった。
    「これ、僕宛のプレゼント?」
    最早逃げ場もなし。
    「嬉しいな。プレゼントなんて用意してくれるなんて思わなかったから」
    「プレゼントなんて言ってな…」
    「抱擁数日前からそわそわしてたし、妹と一緒にいるとすごく怒ってたし、これを見てもしかしたらと思ってたんだ」
    「……」
    黄金比から見てそんなにそわそわしてたんだろうか。
    「開けてみてもいい?」
    「…捨てる予定だったので、どうぞ」
    金色のリボンを穏やかで目がとても光っているように見える黄金比の表情はまるで子供のようだった。
    そんな高価でもない…いや、抱擁が住む魔界にはないものだ。
    赤や黒やくすんだ色がメインとした物はあるが、黄金比に贈ったのはそれとは反対に眩しいくらい。
    小さな箱の蓋を開けると澄んだ水のような色の宝石のブローチ。
    まるで彼の瞳のような色で、選んだ時もそんな理由だった。
    「綺麗な宝石だね」
    そっとブローチを取った黄金比は嬉しそうに笑っていた。
    「ありがとう、大事にするよ」
    常に身に着けている赤い石の傍につけられたブローチがキラキラと光っていた。
    最低な人間だが、容姿はまるで芸術品のように美しい黄金比。
    彼のために彩られたかのようだ。
    何を飾ってもどんな宝石に負けない黄金比。
    腹が立つくらい美しい。
    宝石と同じ色にずっと見つめられて逃げるように俯く。穴が空くくらいに。
    …いや、いくらなんでも見つめすぎ。
    「な、なんですか…」
    「抱擁が可愛いからキスしたい」
    「何を言うんですかあなた」
    「いいでしょ、ね?」
    身を乗り出して迫られ腕も掴まれた。
    アクアマリンのような瞳に吸い込まれるかのように抵抗も出来ず。
    そのまま唇を奪われてしまった。
    短い触れ合いが終わっても黄金比は離すことがなかった。
    時間が経つごとに嫌な予感はしている。
    「ちょっと、何故腰に手を回してるんですか」
    「離したくないから」
    「…まさかキスだけじゃない、とか言うんじゃないでしょうね」
    「解っちゃった?」
    満面の笑顔の黄金比にさーっと血の気が引く。
    「嬉しくて嬉しくて…僕の誕生日なんだか好きにしても構わないよね」
    「い……良い訳ないじゃないですかっ!!!」
    抱擁の声が空にこだましても、その声に応えてくれるものはいなかった。
    その日は声が枯れるまで抱擁は寵愛されましたとさ。
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