本日はハロウィン。異国では収穫祭を祝う日だが、別の国では祓いの祭りともいう。
なんでもお化けや魔物の仮装をするのは本当にお化けや魔物が寄り付かない魔除けとも言われている。時代は流れに流れ今や仮装をして街を練り歩いたり、家ではパーティーをするという風習にんなってしまった。
しかし異国での文化は衰えることなく異国は異国での習わしに今日も従ってるに違いない。
ナルキッソスの屋敷も何処か色めき立っている。ハロウィンの仮装なんて実に何年ぶりだろうか。
子供のころにしたことはあるが、ただそれの一回だけ。
年を重ねるにつれて芸術に心血を注ぎ、明け暮れた今までは季節の行事など興味がわかなかった。
だが、この屋敷は養女にし、未だ年端のいかない子を迎えてから自分も童心に還った気分になった。
孤児から楽しい思い出もないのは、ただの虚しい大人になるという長年に仕えている執事の進言を得て実行したハロウィンパーティー。
あまり関心を持たなかったのだが、どうもナルキッソスが仕えている使用人達は大層遊び心がおありのようで屋敷中はハロウィン一色に染まっていた。
ばあやから満悦な様子で仮装衣装を渡されてしまった。バフォメットという羊の角をした悪魔らしい。燕尾服に襟と袖にフリルをあしらい、白のストライプのスラックスに赤地の黒マント。
サイズはピッタリ。流石は幼少から仕えてるだけある。
新しい家族なった愛らしい存在はまだナルキッソスの前に現れていない。
彼女も仮装をする予定なのだが、準備に手間取っているのだろうか。
ナルキッソスが迎えた最愛の相手…ジリリンは幼子であり屋敷の天使だった。その子が悪魔の仮装だからきっと愛らしい悪魔だろうとイメージしている。
色々と想像を膨らませながら暫く、小さく騒がしい足音。
「ナルキッソスさま!」
ぱたぱたとする動作が早く、愛らしい衣装姿を拝む前に飛びつく人影を抱きかかえる。
「ジリリン」
「ハッピーハロウィンです!ナルキッソスさま!」
きゃいきゃいとはしゃぐジリリンを見ていると心がふっと和む。芸術ひと筋に人生をささげたと思ったら楽しみというものが毎日増えていく感じ。
言い寄られる女性にたまにはという感覚で嗜むくらいはしたが、毎日会いたいと思うのはジリリンが初めてだった。
自然と笑ったことに自覚したのはいつ頃か。
「ジリリン、抱きついてくれるのは嬉しいけど君の仮装がみたいな」
「あ!ごめんなさい…ぼくもナルキッソスさまのおようふく、みたいです」
えへへ、とはにかみながら、そそくさと離れた。
スカートを持ち上げて、背中の羽が目につく。悪魔の羽とカボチャを彷彿とさせるオレンジ色。
黒のブーツに露出した肩。愛らしいけど特有の色気がひしひしと感じられる。
まだ幼いのにこうも色気を感じられてしまうのは自分しか知らない彼女を知っているせいか。
ぱちんとジリリンと目が合った。彼女は真っ赤にしている。
耳まで真っ赤。どうしたことだろう。
「ジリリン?」
「あ、あの……」
じっと見つめてきてはすぐに目を逸らしてくる。
ふと悪戯心が騒ぐ。ナルキッソスはワザとらしく眉を下げた。
「……似合わなかったかな?」
「い、いえ!そんなこと、ないです!にあってます!とっても、とっても…!!」
身振り手振りと否定してあまり張ったことのない声を出したジリリン。
必死なのがとても愛らしい。
「ふふ、ありがとう。ジリリンもとっても似合ってるよ」
「ほ、ほんとうですか…?こんなかっこうはじめてだから、ナルキッソスさまには、にあって、ほしい、とおもって…」
口ごもっていくジリリン。普段は大人しくて、最初は人見知りもあった。
けれども今は思っていることを言ってくれるのがとても嬉しい。
「ふふ、可愛いよ。とても似合ってて、可愛い」
「あ、あわわ……」
頭から湯気が上りそうなくらいの反応だった。
誰もいない部屋にジリリンを抱きかかえて椅子に座る。
向かい合わせに座って、暫く見つめ合っていた。
可愛すぎて食べてしまいたいくらい。
「ねぇ、ジリリン。あとで悪戯してあげる。二人で秘密の、ね」
そっと耳よせする唇は彼女の熱を知った。