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    stupidrgm

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    stupidrgm

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    レイワト書きかけ。昔に貰ったマロのリクエストをベースに書いてる

    頭の中を反響するようなけたたましい声が聞こえて、レネイはソファーから飛び起きた。彼女の元来の浅い眠りを覚ますには充分な声だったが、脳が普段通りの活動を再開するまでにはまだ少し時間がかかりそうで、レネイは目をゆっくりと瞬かせながらソファーの対面に掛けられたウォールクロックを見上げ、状況を確認する。時刻は深夜2時。もう随分と遅い時間だが、声が聞こえたということはこの部屋の主が未だに活動しているに違いなかった。しかし夜が明ければ炎天下のキングスキャニオンでのゲームが待ち受けている為、起きているには望ましい時間ではない。レネイは明日、この部屋の主とデュオを組むことが決まっている。チームメイトとして、また彼女のプライベートにおけるパートナーとして、日付を跨ぐ前に作業をやめさせようと考えていたことを思い出したが、結局うたた寝をして予定は2時間もオーバーしたのであった。自分の身体に掛けられた彼女のオレンジ色のジャケットを見るに、一度作業を中断してレネイの様子を見に来たようだった。これはいい傾向で、彼女が深いトリップ状態にはないことを示した。レネイはソファーから立ち上がると、廊下を抜けたすぐ目の前の作業部屋のドアへ向かい、2度ノックした。


    「ナタリー、まだ起きてる?もう夜も遅いわ。作業はこれくらいにして、一緒に寝ましょう」



    「……あァッ!?」

    この部屋の主……ナタリーが素っ頓狂な声を上げた。レネイは想像よりもはっきりと返事が聞こえた事への安堵と、扉の向こうで何が行われているのかという疑問を抱いた。返事なのかもよく分からない彼女の声が聞こえたあと、何か大量の書類のようなものが落ちる音がしたからだ。
    レネイは咄嗟にドアに体を寄せた。焦りを含む声でナタリーに呼びかけた。

    「大丈夫?私に手伝えることはある?」

    「あっ……えっと、大丈夫よレネイ!すぐに終わるから、えへへ」


    しかしその心配は杞憂に終わったようだ。ドア越しに元気な声が響き、レネイは自分の口角がわずかに上がるのを抑えられなかった。ただ、ナタリーの「すぐに終わる」は最も信用してはいけない言葉だということもしっかりと理解していた。強硬なやり方は好きではないが、明日ゲームに参加する以上仕方の無いことなのだと結論づけ、レネイはドアノブに手をかけた。


    「……入るわよ」

    「あ、ちょっと今は…!」

    何か都合の悪そうな声を敢えて無視して扉を開けると、机の上に覆いかぶさったまま頭だけはこちらに向かせた非常に珍しい様子のナタリーを見つけて、レネイは再び目を瞬かせた。ナタリーは電気技師であるから、部外者であるレネイに対しての諸々の守秘義務などが生じているのかもしれないと思ったが、レネイ自身がこの部屋にそこそこな頻度で出入りしていることを考えると、それも違うような気がした。


    「あ、えっと、レネイ、起きたのね?」

    「ええ、随分と大きな声が聞こえたから。何かあったの?」

    「なんでもないのよ、なんでも。机の上の書類を片付けようとしただけ!」

    「そう。私も手伝おうか?」

    「いいえ、大丈夫!レネイは先にベッドで寝て……あっ、えっと、そうね……」

    ナタリーは不思議なポーズのまま少し考え込んだ後、もう一度レネイに視線を送った。なにかして欲しいことがあるのだろうか。レネイは声には出さず、それでも「何でも聞いて」と受け入れるような優しい眼差しをナタリーに返した。二人の間に沈黙が流れ、そう長くない時間を経て、やがてナタリーが口を開いた。

    「……脈を測ってもいい?」

    「ナタリー、今なんて?」

    「脈よ。脈を測るの」

    「私の?」

    「そ、そうよ!」


    レネイは僅かに眉をひそめた。時々ナタリーが不思議なことを言い出すことには既に慣れたと思っていたが、今しがた聞いた言葉を理解するのに時間がかかっているあたり、実はそうでもないということを実感した。一番に理解を遅らせているのは、目の前のナタリーが異様に焦っている、という点だった。

    「理由を聞いても?」

    「特に意味は無いわ!」

    「意味もないのに脈を測るの?」

    「ええ!でもお願い、私を信じて」

    「……別にいいけれど」

    ナタリーのいつも以上に不可解な言葉の前に首を傾げながら、レネイは彼女の言う通りに行動した。
    こういう場合、差し出すのは右手か左手か。少々迷った後に、レネイは右手をナタリーに向かって差し出した。途端にぱあっと顔を綻ばせた彼女に今までの疑念がどうでもよくなってしまうあたり、我ながら単純だと思う一方、これから起こることへの純粋な興味を抱いてナタリーを見守った。ナタリーは神妙な面持ちでレネイの手を取ると、言葉の通り脈を図った。2人の間に再び沈黙が訪れたが、それはすぐに終わった。

    「えっと……完璧だわ!きっと役に立つと思う」

    「役に立つの?さっきは意味は無いと言ったのに。できれば、何の役に立つのかお聞かせ願いたい所だけれど」

    「あ、えっと……ごめんなさい。今は言えないの」

    ふうん、とレネイは鼻で唸った。この時点でナタリーが何かを隠していることは明白だった。彼女の行動の意味を知りたくて歯がゆい気持ちにさせられたが、時間を気にしてこれ以上は何も言わないことにした。

    「……分かったわ。じゃあ、部屋に戻るから。おやすみ」

    「ええ、私もすぐ行く。おやすみなさい」


    レネイはごく優しい声色でナタリーと挨拶を交わして、静かに作業部屋を立ち去った。レネイが扉の外へ出ていくのを見届けると、ナタリーは脱力したように椅子に座り直した。

    「こんなの、全然スマートでもクレバーでもないわ。しっかりしなさい、ナタリー・パケット」

    彼女の静かな呟きを、机の上に置かれたネッシーのぬいぐるみだけが聞いていた。


    ※※※


    ナタリーが自室へ籠る為にドアを開けた時。その手にあった大量の本が、一体どんなものだったのかを知る者は誰一人いない。何故なら彼女は天才であるからだった。常に頭の中ではごく限られた分野、主に電気に関する興味でいっぱいで、朝も夜も、彼女は技術と知識を極めるために奔走しているのだと思われていた。ナタリーの恋人であるレネイも、例外なくそう思っていた。だからドアを開けた時に、ナタリーが片付けようとしていたもの。正確には、必死に隠していたものに対して、特に疑問を抱かなかった。ナタリーは基本的に嘘をつくことが下手だった。けれど、皆から持たれている彼女へのイメージのおかげで、ほんの時々ではあるが、隠したいことを上手く隠すことができた。今回はまさにそうだった。レネイは、てっきり彼女が勉強をしていて、その延長で、なにかアイディアを得るために脈を測ったりしたのかと思っていた。本当のことを言えば、勉強をしているという点は合っているが、その内容が違っていた。


    『恋人の気を引く方法』

    ナタリーは一冊の本を机の上に、半ば投げるようにして置いた。沢山の本を取り落としたことや、レネイとの問答を経て、部屋には再び静寂が訪れていた。ここ最近、ナタリーはこのような本を読み漁っている。非科学的な内容ばかりで、ちっとも頭に入らないそれを、どうにか理解しようと務めている。

    ナタリーはレネイの事が好きだった。
    これはナタリーの人生史上、最も驚くべき事態だった。人の気持ちを察したり、自分の感情を理解することが苦手なナタリーの世界は、電気工学を除く全ての事象に対して、1本の線がただひたすら真っ直ぐに延々と続いたように感じられていた。APEXゲームに参加をして、人に怒りをぶつけられても、あるいは好意を向けられても、ナタリーにはその感情がよく分からなかった。分からないから、適切な言葉を返す術も心得ていなかった。そのことはナタリーの中の大きなノイズとなって心に巣食うようになった。その中で出会ったレイス……レネイはただ1人、違ったのだ。

    レネイはAPEXゲームの最初期から参加しているレジェンドの1人だった。筋の通った戦略と、寸分の狂いもない見事な射撃。扱いの難しいウィングマンは、レジェンドの中でレネイが最も正確に射撃することが出来るという。その能力の高さから何度も勝利を収めている彼女を、今なお多くのレジェンドが敬い、恐れていた。

    今までとは違う巨大な衝撃を彼女に与えた。










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    stupidrgm

    MAIKINGレイワト書きかけ。昔に貰ったマロのリクエストをベースに書いてる
    頭の中を反響するようなけたたましい声が聞こえて、レネイはソファーから飛び起きた。彼女の元来の浅い眠りを覚ますには充分な声だったが、脳が普段通りの活動を再開するまでにはまだ少し時間がかかりそうで、レネイは目をゆっくりと瞬かせながらソファーの対面に掛けられたウォールクロックを見上げ、状況を確認する。時刻は深夜2時。もう随分と遅い時間だが、声が聞こえたということはこの部屋の主が未だに活動しているに違いなかった。しかし夜が明ければ炎天下のキングスキャニオンでのゲームが待ち受けている為、起きているには望ましい時間ではない。レネイは明日、この部屋の主とデュオを組むことが決まっている。チームメイトとして、また彼女のプライベートにおけるパートナーとして、日付を跨ぐ前に作業をやめさせようと考えていたことを思い出したが、結局うたた寝をして予定は2時間もオーバーしたのであった。自分の身体に掛けられた彼女のオレンジ色のジャケットを見るに、一度作業を中断してレネイの様子を見に来たようだった。これはいい傾向で、彼女が深いトリップ状態にはないことを示した。レネイはソファーから立ち上がると、廊下を抜けたすぐ目の前の作業部屋のドアへ向かい、2度ノックした。
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