オシセト※オシセトが平和に出来上がってる世界です。
その日は、宴そのものにあまり参加しない砂漠と戦争の神セトが、珍しく酒杯を傾けていた。
セトがあまり酒精を好んでいないことは、兄姉たちは皆理解していた。それが、酒の味がどうこう・・・という話ではなく、セトが非常に酒精に弱く、数杯傾けただけで前後不覚になるから・・・・ということを理解していたのは、オシリスだけかもしれないが。
何度か酒を注がれた杯を空けた後、いつものように「気が乗らない」と席を外したセトを視線だけで追い、オシリスは目を閉じた。
何か理由をつけてこの宴を離れたいが、気紛れなセトであればどうということはないが、王であるオシリスが離れれば理由を勘繰られる。
セトが居なくなるまではセトの方を見て薄い笑みを浮かべていた兄の顔が無表情になるのを見て、イシスとネフティスは目くばせをした。
「そういえば、セトに頼まれていたものを持っていかなくちゃ」
「そうね、早くしないとセトが不機嫌になっちゃう」
「でも、お酒が入るとほら、セトってちょっと乱暴になるでしょ? 」
「ええ。前後不覚になっていると、私達のことも分からなかったりするし」
やや棒読みに話される姉妹の会話に、宴に参加していた神々は声を潜めた。
セトは強大な力を持つ砂漠と戦争の神だ。対外的には無慈悲で狂暴で機嫌を損ねたら何をするか分からない乱暴者として見られている。
兄姉たちはセトがそんな神ではないことはよく分かっているけれど、そういう刺々しいイメージがセト自身を守ることにもなるし・・・と、セトも了承の上で心象をコントロールする戦略を取っている。これはセトに限らず、結構天然な所があるオシリスを完璧無比だとしていたりと、他の兄姉も似たような感じで盛っている。
そんな風にして、乱暴だと思われているセトに頼まれていたものを持っていく・・・・しかし、酒が入って狂暴性が増している戦争の神に。
神々は自分なら絶対に嫌だと思い、言付けられる神官は可哀そうに、と不幸な人間を憐れんだ。
それらの様子を見ていたオシリスは嘆息し、妹たちに視線を向けた。
「私が持って行こう」
「いいんですか、オシリス」
イシスの返答は棒読みだったが、気にした神は恐らくはいないだろう。
そうして、自然な形で王であるオシリスも退席し、すぐに自身とセトの居室へと向かったのだった。
寝台に横たわっているわけでもなく、椅子に座るわけでもなく、柱に寄りかかって半分意識を飛ばしているセトを見て、居室に戻ったオシリスはため息を吐いた。
セトが酒精に弱い。一杯程度であれば気分を高揚させるくらいだが、何杯も飲めば意識も怪しくなってくる。それがセト自身分かっているはずなのに、時々、こうして許容量以上の酒を飲もうとする。
「セト、こんな所では休まらない。寝台に行きなさい」
「・・・・・オシリスか」
オシリスが呼びかければ、セトはとろん、とした赤い瞳が見つめ返してくる。
気遣う視線に煩わしそうにセトは顔を顰めて、自分は問題ないとでも言うように起ちあがり・・・バランスを崩しそうになって柱に手をかけた。
あぁ、と嘆息するオシリスの声に、セトは赤らんだ顔で兄を睨みつけた。
「まるで赤子になったようだな」
「赤ン坊だぁ?俺は、酒だって飲めるんだぞ」
「背伸びして酒に飲まれるのは赤子のようなものだろう」
諭されて、セトは面白くなさそうに頬を膨らませる。その仕草がいかにも子供のようで、オシリスが目を眇め・・・それに子ども扱いされたと察したセトは、意趣返しとして自身の腰布に指をかけた。
「・・・・・赤ン坊に、お前はこんなことするのかよ」
セトの腰に巻きつけてある黒い腰布が緩められて、少しだけ腰のラインが露わになる。
毎夜のようにオシリスと行われる、到底子供にするようなことではないことをしている行為を示唆しているのは明らかだ。
「・・・・・・・・・・」
「子供扱いするなら触んじゃねー。ヘンタイ。ばーか。スケベ野郎」
「セト」
べぇ、と舌を出して挑発するセトにオシリスは眉尻を落として、腕を広げた。
「・・・・子ども扱いした俺が悪かった」
「・・・・・俺は大人だから、許してやる」
セトに非があるのであればオシリスも折れないが、これは言葉遊びのようなものだ。先に謝ってしまえばセトの方も折れてくる。
そうして広げたオシリスの腕の中にセトが収まれば、その体温が常よりも高いことが分かる。
「もう今日は休みなさい。身体も辛いだろう?」
「ヤダ」
ふにゃふにゃした身体で何を言っているのかと、抱きしめた弟を見下ろせば、とろんとして半眼になった目でオシリスを見つめている。
「だっこ」
「もう、しているだろう?」
「だっこ。人間がやってるみたいなやつ」
それが横抱きにするのではなく、親が子を抱き上げるような体勢の事を言っているのだと分かり、オシリスは嘆息した。
セトの子供返りしたような言動は可愛らしいが、それを指摘したらまた反発するのも分かるので、心で思うしかない。
弟が可愛すぎて、辛い。
「子供の頃に返ったかのようだな」
「? 俺たちは生まれた時から神だろ。何言ってんだ」
「・・・・たられば、の話だ。人間のように生まれていれば、お前はさぞや美しい子供だっただろうと思っただけだ」
「なら、『お兄様』は、そんな可愛い末っ子に夢中になりそうだな」
「ああ、きっと片時も離さなかっただろう」
「・・・・・・こんな風に?」
ぎゅ、とセトが抱きしめる腕に力を込めれば、オシリスもセトを包むように腕を回す。
慣れ親しんだ体温に包まれて、セトはゆるゆると目を閉じた。酒精で眠気があるが、それよりも、今は別の事がしたい。だから、誘うように兄の首筋に唇を当てて、ちゅ、と音をさせてから離した。
「『お兄様』はムッツリだからなぁ。弟が育ちきる前に『大人』にしちゃうんじゃねぇのか?」
「・・・・・・・・・」
「精通もまだの弟に先に別の快感を教え込んで、『お兄様』じゃないと満足できないような身体に変えて・・・」
セトが見上げると、オシリスは目の当たりを片手で押さえている。
その頬が・・・肌の色が濃いので分かり難いが・・・ほんのりと赤い。
それに気を良くして、セトはいたずらが成功した時のように目を細めて笑った。
「悪い『お兄様』だな」
「・・・・・・お前にだけだ」
「お前じゃないと満足できなくされたんだから、責任取れよ?」
伸びあがって寄せた唇が、合わさる。
目を閉じて深められる口づけを味わい、その余韻が消える前に身体が浮遊感を覚えて、セトは目を見開いた。
オシリスに持ち上げられて寝台に運ばれている。
余裕がない兄の様子に、セトはけらけらと笑い、覆いかぶさってくる身体を受け止めるように腕を伸ばした。
そんなセトから漂ってくる酒精の香に、オシリスは、恐らくセトは覚えていられないだろうな、と思いながらも、セトに言われたように『悪い兄』になってやろう、と弟の肌を隠す装飾品に指をかけた。
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この後は、寝落ちもさせてもらえず、ムッツリな兄が満足するまでやられたと思うよ。