aoex × hrak月の綺麗な夜。
今日は2年半ぶりの、ブルームーンと呼ばれる月が昇る日だ。
前にこの月を見た日には、まだ雪男たちは現役の祓魔師をしていたっけ。
もうすっかりヨボヨボなくせして、若い祓魔師たちそっちのけで悪魔相手に大立ち回りをしていた。
「じゃあ、行ってくる」
「……兄さん……一緒に行けなくて、ごめん」
「謝んなよ。俺はお前たちに見送ってもらえるから、こんなにも自信たっぷりなんだぜ。青焔魔なんか一撃で沈めてやるさ!」
シワシワになった弟の手を握り、にっと笑って同期たちの顔を順に目に焼き付けていく。
初めて会った15歳のときからもう何十年もの月日が経って、あの頃の面影を残したまますっかりおじいちゃんとおばあちゃんだ。
俺は悪魔として覚醒したその時から一切見た目が変わらず、雪男たちと並べば孫に間違われる始末だった。
でも、それでも、俺にとっては最初で最後の大切な同期で、かけがえのない仲間だった。
青焔魔を倒すという悲願を果たしに行くというのに彼らを伴えないというのは、一抹の不安と心細さがあったものの、危険な目に遭わせなくてもよいという点において都合がよかったともいえる。
……俺がそんな事を考えていると知ればこいつらはカンカンに怒るだろうけどな。
「燐!もう無理だって思ったら、逃げてきてもいいんだからね!」
「逃げねーよ。でも、ありがとな。しえみ。」
「俺の野望、お前に預けたで。絶対、勝ってこい!」
「当然!勝呂がいなけりゃ、今の俺はない。だから、俺が青焔魔に勝てばそれは俺とお前の勝利だ!」
「結局俺は、奥村君に助けられてばっかりやったね……。」
「なーに言ってんだ!俺の方がたっくさんお前に助けられた!志摩!お前はいつだって俺自身を見ててくれたから!」
「奥村君。無事に帰ってきはったら、前に言うてたカフェ一緒に行きましょね。約束ですよ。」
「ああ。子猫丸が勧めてくれるカフェにハズレはねぇからな!楽しみにしてる。」
「……奥村……っ!死んだら、絶対に許さないわよ。」
「おう!……だから、泣くなよ出雲。」
ああ、みんな変わってないなあ。
ちょっとばかし涙脆くなって、年寄りくさいことを言うようになったのは、ここにいる全員に言えることなので敢えては言うまい。
「雪男。行ってくる。」
「うん。行ってらっしゃい、兄さん。」
最後にもう一度雪男の手を握り、月を睨んだ。
次に月を見るのはいつになるだろう。
願わくば、俺が帰る日まで、月がいつまでも雪男たちを明るく照らしますようーー。
……なんて、俺も若くはないんだなあと思いながら、倶利伽羅を振り抜いた。
「開け、虚無界の門」
***
世界人口の約8割が"個性"と呼ばれる超常的な力を持つこの時代。
事故や災害、そして"個性"を悪用する犯罪者、通称敵<ヴィラン>から人々と社会を守る職業・ヒーローを目指す少年、緑谷出久は、今日から通う教室の入り口を前に立ち往生していた。
「ドアでか……」
何せドアが異常にでかい。
いや、それもそうだがめちゃくちゃ緊張する。
この向こうには、自分と同じく本気でヒーローを目指す人たちがいるんだ……!
かっちゃんや入試のときの眼鏡の人みたいな、怖い人たちがいないといいけど……。
出久は入試のときの出来事が軽くトラウマだった。
でもそうも言ってられない。
ヒーローを目指す人間がそんなことでうじうじとしていてどうするんだ!
出久はええい!と覚悟を決めてドアを開く。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!」
うわー!会いたくなかった人2トップ!!!
ここにいるってことはまず間違いなく同じクラスってことだよなあ……うっ、早速自信がなくなってきた……。
どうやらあの眼鏡の人の名前は飯田天哉くんというらしい。しかも聡明中出身!きっと頭がいいんだろう。眼鏡だし。
しかしどうしたものか、めちゃくちゃ入りづらい……と思っていると、飯田くんがこちらに気づいて近づいてきた。
「俺は私立聡明中学の……」
「聞いてたよ!あっ……と、僕は緑谷。よろしく飯田くん……。」
自己紹介もそこそこに、飯田くんは何やら僕を誤解しているらしく、入試の仕組みについてあれこれと語っていた。
その奥からかっちゃんに睨め付けられてる現状が精神的にとてもキツい。
誰でもいいからこの状況を変えてくれ!と思っていると、まるでその願いが届いたかのように後ろのドアががらっと音を立てて開いた。
「あ!そのモサモサ頭は!」
突然背後から響いた女子の声に、ビクッと大袈裟に肩を揺らす。
モサモサ頭……ってやっぱり僕のことかな!?
「地味めの!」
振り返ると、入試の時に転びそうになった僕を助けてくれた女の子がいた。
うわーーーっ!あの時のいい人だーーーっ!!
制服姿やっべええ!!!
何を隠そう、僕はこの人のお陰で雄英に受かったと言っても過言ではない。
麗日お茶子さんという彼女の名前を、僕はきっと一生忘れまい……。
それにしても本当にいい人だ、麗日さん。
女子に耐性がなくてしどろもどろになっていて、控えめに言っても不審者な僕にこんなに声をかけてくれるなんて。
嬉しいやら恥ずかしいやらで麗日さんへの返事に戸惑っている間に、「あー、ゴメン。」と声がかかる。
「中に入れてもらってもイイ?」
「あっ、入り口塞いでてごめん!どうぞどうぞ!」
「いや、こっちこそ話に割って入っちまって悪ぃ。」
新たにドアから入ってきたのは、光を反射してきらきらしているように見えるほど綺麗な白い髪と、澄んだ空のような青い瞳の男の子だった。
うわ……なんというか、キレーな人だなあ……。
「俺、奥村燐っていうんだ。よろしくな!」
奥村くんはにっ、と笑って手を差し出した。
この人も絶対いい人だーー!怖い人ばっかりじゃなくてよかった!
「あっ、えっと、僕は緑谷出久っていいます!よ、よろしく!」
「私は麗日お茶子!よろしくね!」
「ぼ……俺は飯田天哉だ!これから3年間、切磋琢磨して頑張ろう!」
「おう!」と笑顔で返してくれた奥村くんは、ちょっと人間離れした見た目とは裏腹に、案外人懐っこい性格なのかもしれない。
それにしても、背中に背負っている細長いバッグはなんだろう?個性に関係のあるものなんだろうか?
ブツブツ……と初対面の印象から彼の人物像を分析ーーいや想像していると、地を這うような冷たい声が教室に響いた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
「!?」
「ここはヒーロー科だぞ」
な、なんかいるぅ!!!
寝袋にくるまった芋虫のような、清潔感のない男はどうやら僕らの先生であるようだった。
ところで、ここ私立雄英高等学校はヒーローを目指す者にとっては最大最高の学び舎である。
というのも、設備・カリキュラム・教材が最高峰であるのはもちろん、教師全員がヒーロー社会における現役のプロだからだ。
特にヒーロー科においては、教師は漏れなくプロヒーロー。
つまり、一見小汚く見えるこの男も、出久は見たことがなかったが間違いなく今をときめくヒーローのはずだった。
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
えっ担任!?
出久の所属するクラスーー1年A組の担任であるらしい相澤は、入学式やガイダンスをすっとばして個性把握テストを行うと宣言した。
***
あきた
腐向けになるかはまだ分かんないけど最低でも燐ちゃんは愛されになる、嗜好的に。ごめんて。