🐙🦈『初恋』 フロイドが違和感に気づいたのは、VIPルームで依頼人と契約内容を詰めているときだった。
アズールはお馴染みの薄ら寒い笑みを浮かべ、つつがなく黄金の契約書を提示する。互いの認識にトラブルもなく、スムーズに事が進んでいった。
契約者がペンを執る。あまりにも順調な取引だ。支配人は柔和そうな表情を崩さず見守っている。普段であれば〝親切〟な手助けを何かしら追加で売り込んでいくというのに。
顔を近づけ、それとなく手を握り、どこからか出した猫なで声でリップサービスを降り注ぐ。愚者を追い詰めていく手腕はいっそ芸術的ですらあった。そうして悪趣味なとどめを刺した末に口元だけで静かに微笑む。口角につられて品なく引き上がった黒子を見るのがジェイドとフロイドのお気に入りであり、彼らがアズールを特等席に座らせ続ける理由の一つになっていた。
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