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    気まぐれだけど優しくして

    @325pic

    版権雑多、男女CP置き場

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    POIPOI 82

    『二人の夏』
    梅雨の時期に書いたさねずSS

    もうすぐ、最後の夏がくる

    ##さねねず
    ##ss

    「それにしても、久しく青い空なんてのを見てねぇなァ」

    風柱邸の広縁に並ぶ二つの座布団。家主の好物で小腹を満たした昼下がり。
    片方の座布団を覆い隠すように胡座をかいて、ザーザーと音がする外を眺めていた男が口を開いた。

    「さすがに鬱陶しくなってきたぜェ」

    少しばかり怒りの色を滲ませた声を聞き、隣に並ぶ座布団にちょこんと座っていた禰豆子はくつくつと笑いながら応えた。

    「実弥さん、夏がまだ来ないならそれもいいって言ってたじゃないですか」
    「ここまで続くなんざ思ってねぇだろォ」
    「日差しで暑いよりは雨を見てる方が涼しくていい、のでしょう?」
    「……ああそうだったなァ。雨の方が涼しくていいに決まってんだろォ」

    ばつが悪そうに顔をしかめると、実弥は足を投げ出してごろりと床に転がった。
    禰豆子が放ったそれは、梅雨の季節だというのにしばらく日照りが続き、ようやく雨が降り始めて幾日か経った朝に彼が放った言葉だった。
    雨が続くと洗濯が、買い出しがと気を揉んでいた禰豆子をよそに、余裕綽綽な様子で雨を喜んでいた男の姿はもうそこにはない。

    「まだ暫くは、この雨続くみたいですよ。涼しくて何よりですね」

    冗談まじりの言葉にも返事はない。本当に嫌になってきたのだろう。
    数日前とは全く違う実弥の様子につい口元を綻ばせながら、禰豆子は先程まで甘味が乗っていた小皿を重ねると、ふと思い出したように声を洩らした。

    「あっ……こうも雨が続くと、漬物と干物ばかりの食卓になりそうです」
    「なんだァ、底が尽きそうなのか?」
    「そうですよ。私、毎日漬物や干物ばかりじゃ嫌です」

    寝転ぶ実弥のすぐ横に立ち、小さく頬をふくらませる禰豆子。突然の様子の変化に、何が言いたいんだと実弥は目を瞬かせた。

    「一緒に西瓜やかき氷も食べたいですし、それに花火もしたいって言ったじゃないですか。今年はお祭りの屋台も二人で全部回ろうって、約束しましたし……」

    ひとしきり言い放つと、禰豆子はゆっくりと視線を外へと移した。
    いつの間にか、しとしとと雨脚を弱めた梅雨の空。

    「実弥さんも、やっぱり夏が恋しいでしょう?」

    雨音に溶け込むような声で、禰豆子は問いかけた。

    「……ああ、そうだなァ」

    きっとこれが最後の夏だと、お互いに感じ取っていた。だから沢山の約束事をした。
    去年はみんなと行った夏祭りも、今年は二人きりで行こうと言った。西瓜割りや虫捕りや、今までゆっくりできなかったことを、二人でじっくり楽しもうと、そう言って禰豆子は風柱邸まで押しかけたのだから。
    だから、早く晴れてもらわなきゃ困るのだ。

    「こんな雨、すぐ止むだろォ」

    実弥が身体を起こすと、禰豆子はそれに寄り添うように腰を下ろした。すると外から聞こえる雨音が、再びざーざーと言い出した。
    またか……と呆れたように実弥がため息をこぼした。禰豆子はそんな実弥の姿がたまらなく愛おしく感じて、またくつくつと笑った。

    「夏が、勿体ぶってますね」

    二人の夏は、もうすぐそこに——。
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