拝田と時雨(仮) 目が合った瞬間、体が強張った。
「おっ、せんぱい遅かったじゃ〜ん。無駄骨、ご苦労さんっと」
声の主は、生徒会室のソファーの上にどっかりと身体を預けて寝そべっていた。相変わらずマナーなど知らない獣のような振る舞いだ。
「まだいたのか。てっきりとっくに帰ったのかと思った」
「だ〜れもいなかったからぁ、せんぱい達が無駄な仕事で汗かいてる間に、ここで昼寝させてもらってたんすよぉ。フッカフカでちょー気持ち良かった!」
そう言うと、拝田はケタケタ笑いながらソファーの座面に靴底を擦り付けた。
「こら、拝田……」
と言いかけたところで思わず口をつぐんでしまった。そうして次の瞬間、後輩を叱るのを反射的にためらった自分に対して、小さくため息が漏れる。
「叱っても無駄」と思ってしまった。生徒会室に入って不意に目が合った瞬間、自分は彼を恐れた。
拝田丞、最強の超能力者。彼にとってはすべての人間が嘲りの対象。人のことなど全く気にかけない……いや、むしろ他人の神経を逆撫ですることに全身全霊を注いでいるかのような言動。そして生まれながらにして持つ天下無双の超能力、天上天下【テンアゲ×テンサゲ】。人というよりは厄災のような男だ。
「楽しいか、拝田」
「は?」
僕が思わず投げかけた質問に、拝田は冷え切った声色を返して、こちらを睨みつける。これまでに対峙した何もかもを蹂躙してきた男に凄まれるとさすがに迫力があるが、目を逸らしたら負けだ。まるで猫の喧嘩のような意地の張り方だと自分でも思う。それでも、拝田には真正面から向き合い続けなければいけない気がしていた。
睨み返す僕を嘲笑するように、拝田は意地悪く顔を歪めて笑う。
「ヒャハハハ! 何? 毎日楽しいに決まってんだろ? もしかしてぇ、オレの天上天下【テンアゲ×テンサゲ】が羨ましくなっちゃったのかな〜?」
「……それなら良かった」