革のにおいこの人、リーグに入る前は族か何かだったのではないだろうか。
人気のない倉庫で壁際に追い詰められ、下から顔を覗き込まれる。深紅の瞳が放つ鋭い視線に晒され、アオキは珍しく焦燥感に駆られていた。自身が知る限り誰よりも長い脚が腰のあたりで壁を蹴り、身動きを封じられている。
「アオキさん、さっきの試合のことで、ちょっと話せますやろか」
数分前の出来事を思い出す。
久しぶりに現れた骨のあるチャレンジャーとのバトルを終えたばかりのアオキに大股で歩み寄ってきたチリは、不機嫌さを顕にそう声をかけた。周囲にいたハッサクやポピーが不安げに見つめるほど有無を言わさぬ口調に大人しく従い、ほとんど使われることのないリーグ地下の倉庫へと連れてこられた。人気のない廊下を彼女について進む間、どこか気に障るような内容があっただろうかと、バトルの流れを思い返したが心当たりはない。倉庫のドアを開けたチリはアオキを中へと促し、後ろ手に鍵をかけた。不審に思う間もなく両腕を捕まれたアオキは、一瞬で壁際に追い詰められたのだった。
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