溺夜の海…いや、かなり日が傾いた夜になる数秒前の海。暗い蒼に、僅かな光が反射してキラキラと光る。その冷たい水面にそっと手を浸して…………
「髪の毛、気になります?」
突然海が動き、その水に触れることは叶わなかった。海のように深い、青。夜のように暗い、紫。
「別に。髪にゴミがあるように見えただけだ。気のせいだった」
適当な嘘をついたが、それくらいで誤魔化せるような相手ではない。案の定本当ですか?とにやにや笑いながらこちらの顔を覗き混んでくる。
「この長い髪、どうして伸ばしているかわかります?」
「知らん。興味もない。」
「またまた。気になって、触れてみたいと思ったんでしょう?」
「違うといっているだろう。というかさりげなく首に手を回してくるな。」
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