アコレード:TRUMP(モブ+IFソフィ) ソフィ・アンダーソンが死んだ。
その報せは早朝のクランに染み入るように伝搬し、そうして誰もがあの黒髪を――自分たちを見下して、一線を引くあの瞳を想起した。
クランで彼のことを知らない者はいない。
格式が高く、名家の子息が多く在籍するこのクランには、これまでに彼のようなダンピールが入学して来たことなんてなかった。
ソフィは、そんな中に突如として現れた異物だった。
彼はへりくだったりしなかった。
自己を、その血を卑下しなかったし、先がないはずの日々を悲観したりもしなかった。
繭期を越えられないのに。生まれた瞬間から、他の吸血種とは用意された人生が絶対的に異なっているのに。
それなのに――彼とは根本的に異なるはずの誰もが、彼に剣術試合で勝つことはできなかった。
秋空は高く、申し訳程度の弔いの鐘は空へ吸い込まれていく。
この光景の既視感には心当たりがあった。かのデリコ家のご子息、ウル・デリコが、不慮の事故で亡くなってから、まだ数ヶ月と経っていない。
ウル・デリコ。彼は慈悲ゆえにか、ダンピールであるソフィに対して心を傾けていたようだった。だからだろうか――ウルの後を追うように?
なんて、ふと思いついては、思わずせせら笑う。ソフィはそんな殊勝な奴ではなかった。
ああ、どんな形であれ、感傷には目を曇らせる効果があるらしい。
ずっと、排斥に必死だった。
それなのに、実際にいなくなってしまえば、果たしてどうして、と思ってしまう。
それは前触れもなく夢から目醒めたような、奇妙な喪失感だった。
繭期が明けるとはどういうことなのか、と思いを巡らせることがある。それはもしかしたら、こんな感覚なのかもしれない。
剣術の授業で、彼はいつだって、刃を潰した鈍を首に突きつけては、こちらを見下ろして薄く笑った。
お前たちとは違う、と。
そうだ、自分たちとは違う。
勝ったまま死んだ彼は、いつまでも負けることはない――永遠だ。
決して手が届かない場所に行ってしまってから初めて、もっと必死になって彼に膝をつかせるべきだったのだ、と強く後悔した。
今でも記憶の中のソフィは、肩口に剣を突きつけては、薄く笑いながらこちらを見下ろしている。
まるで、仕えるべき主君のように。
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accolade(名):
1. 賞賛、賛美
2. 表彰式
3. ナイトの爵位授与(の儀式)
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項垂れた自分の肩に、地面に対して水平を保った彼の剣が、掠る程度に触れた。
その感覚にぞわりと背中を駆け巡るものがあり、弾けるように顔を上げれば、その形相に驚いたのか、ぎょっとした風情のソフィと目が合う。
「何だよ、剣が触ったのは別にわざとじゃない」
気まずそうに吐き捨てると、謝ることもなく彼はそのまま視線を外す。
そうして次の相手へと振り返る一瞬の横顔、こちらを一切顧みることのないその無関心、無表情――!
「――構え、はじめっ!」
号令が遠く、遠く聞こえた。
【終】
ソフィ・アンダーソンに勝ち逃げしてほしい