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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
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    かがり

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    (2025.9.2)
    本編のあれこれが起こらず勝ち逃げしたソフィのIFをモブ視点から
    はじめての繭期2025にはそこまで関係はないんだけど、TRUMPシリーズに触れるとソフィ・アンダーソン……という気持ちになるので……

    #小説
    novel
    #TRUMPシリーズ
    trumpSeries
    #ソフィ・アンダーソン

    アコレード:TRUMP(モブ+IFソフィ) ソフィ・アンダーソンが死んだ。

     その報せは早朝のクランに染み入るように伝搬し、そうして誰もがあの黒髪を――自分たちを見下して、一線を引くあの瞳を想起した。

     クランで彼のことを知らない者はいない。
     格式が高く、名家の子息が多く在籍するこのクランには、これまでに彼のようなダンピールが入学して来たことなんてなかった。
     ソフィは、そんな中に突如として現れた異物だった。

     彼はへりくだったりしなかった。
     自己を、その血を卑下しなかったし、先がないはずの日々を悲観したりもしなかった。
     繭期を越えられないのに。生まれた瞬間から、他の吸血種とは用意された人生が絶対的に異なっているのに。
     それなのに――彼とは根本的に異なるはずの誰もが、彼に剣術試合で勝つことはできなかった。

     秋空は高く、申し訳程度の弔いの鐘は空へ吸い込まれていく。
     この光景の既視感には心当たりがあった。かのデリコ家のご子息、ウル・デリコが、不慮の事故で亡くなってから、まだ数ヶ月と経っていない。

     ウル・デリコ。彼は慈悲ゆえにか――それとも、繭期ゆえにか――ダンピールであるソフィに対して心を傾けていたようだった。だからだろうか。ウルの後を追うように?
     なんて、ふと思いついては、思わずせせら笑う。ソフィはそんな殊勝な奴ではない。
     ああ、どんな形であれ、感傷には目を曇らせる効果があるらしい。

     ずっと、排斥に必死だった。
     それなのに、実際にいなくなってしまえば、果たしてどうして、と思ってしまう。
     それは前触れもなく夢から目醒めたような、奇妙な喪失感だった。
     繭期が明けるとはどういうことなのか、と思いを巡らせることがある。それはもしかしたら、こんな感覚なのかもしれない。

     剣術の授業で、彼はいつだって、刃を潰したなまくらを首に突きつけては、こちらを見下ろして薄く笑った。 
     お前たちとは違う、と。

     そうだ、自分たちとは違う。
     勝ったまま死んだ彼は、いつまでも負けることはない――永遠だ。

     決して手が届かない場所に行ってしまってから初めて、もっと必死になって彼に膝をつかせるべきだったのだ、と強く後悔した。
     今でも記憶の中のソフィは、肩口に剣を突きつけては、薄く笑いながらこちらを見下ろしている。
     まるで、仕えるべき主君のように。







    accolade(名):
    1. 賞賛、賛美
    2. 表彰式
    3. ナイトの爵位授与(の儀式)







     項垂れた自分の肩に、地面に対して水平を保った彼の剣が、掠る程度に触れた。
     その感覚にぞわりと背中を駆け巡るものがあり、弾けるように顔を上げれば、その形相に驚いたのか、ぎょっとした風情のソフィと目が合う。

    「何だよ、剣が触ったのは別にわざとじゃない」

     気まずそうに吐き捨てると、謝ることもなく彼はそのまま視線を外す。
     そうして次の相手へと振り返る一瞬の横顔、こちらを一切顧みることのないその無関心、無表情――!

    「――構え、はじめっ!」

     号令が遠く、遠く聞こえた。









    【終】





    ソフィ・アンダーソンに勝ち逃げしてほしい
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