Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    knot_bll

    @knot_bll

    全てが幻覚

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    knot_bll

    ☆quiet follow

    rnisWEBオンリー開催おめでとうございます&itsrnさんお誕生日おめでとうございます記念に配信isg時空でお祝いの展示小説を書き下ろしました。

    【配信isg時空】Joyeux anniversaire Rin!「あ、凛?急だけど俺来季お前のチームに移籍することになりそう!」
     潔から突然すぎる内容の電話を受け取ったのがつい昨日のことのようだった。

     ブルーロック期待の新星として世界に羽ばたき、フランスで数多の賞を受賞し凄まじい勢いで名を上げている凛は、しばらくはフランスに留まりプレーをすると自分で決めていた。
     そしてプロになって数年が経ち二十歳も過ぎた頃、潔から突然着信を受け全く意図していなかった内容を告げられた。
    「は?どーいうことだよ」
    「いや俺だって予想外だよ!ドイツ楽しんだし、やっぱ若い内に凛と競いたくてフランスリーグ行くかと思ってオファーを順番に聞いてたんだけど、お前んとこのオーナーが絶対うちに来てくれってやばい金額提示してくるんだもん…」
    「……」
     凛は黙った。ここからどうやって自然に潔を自分の懐に引き寄せるか、そればかりを考えていた。なにせ凛はもう長らく潔に想いを寄せていたが、国が違い会う回数も少なく全くアピールらしいアピールをできずにいた。それが同じ国どころか同じチームになるのであれば、これまでと比較にならないほどのチャンスを得られる。
    「……まぁ、お前どうせフランス語のレベルカスだろうしな。しばらくは俺のゴールに貢献しつつ言葉を覚えればいい」
    「何でそんな言い方しかできないわけ?でも凛と一緒ならめっちゃ心強いな!やっぱ近くに日本人いるといないのじゃ安心感違うからさ~!」
     凛が潔にどんな想いを向けているかなど想像すらできていない潔は、のんきに今後の展望を凛に話して聞かせた。話し終える頃には潔の中でもかなりフランスへの移籍が具体的なビジョンとして固まったようで、凛に感謝をしながら通話を終えた。
     通話を終えた凛が硬く拳を握り締め「っし!」と小さく声を漏らしていたことなど、潔が知ることは決してないのだった。

     そして潔は話していた通り凛の所属するチームへとやってきた。
     潔が選手寮に住むとしても、凛の住む家もクラブハウスに近く行き来は容易である。潔を家に誘うのは決して不可能ではないと考えていたところ、出来すぎた偶然が2人を襲った。
    「選手寮を全面改修するから、寮にいる選手は一時的に別の場所で寝泊まりしてくれ」
     そんな知らせがあり、潔は入寮前に寮からはじき出されることになった。もちろんクラブハウス側で選手向けに物件の紹介があり大半の選手はそのシェアハウスで過ごす流れになっていたのだが、凛はこの機を逃すまいと潔に声をかけ、ルームシェアを提案し何も知らない潔はまんまとそれを快諾した。
    「えー!ほんとにいいのか!?めっちゃありがたいけど!」
     自炊が苦手でドイツにいた時はクラブハウスの食堂と外食、近隣住民の好意で食事をなんとかしてきたという潔に付け込み、1人分作るのも2人分作るのも同じだと言って食事を作ってやる約束をすれば潔は目を輝かせた。
     結果凛は全く苦労することなく、潔が自発的に凛の家に転がり込んでくる展開を手に入れた。

     実のところ、多少は不安があった。潔に執着している自覚はあったが、それはピッチ上の潔にのみ抱いているもので普段の潔は対象外であるとか、同じ家で暮らす内に潔のことが好きだという気持ちが薄れたり潔に幻滅したりしてしまうのではないかと。結論から言えばそれは全て杞憂であり、凛の潔への感情は日々募り更新されていた。それどころか潔のワガママを聞いてやることに喜びさえ覚え始めており、夕飯のリクエストを受ければ甲斐甲斐しくレシピをチェックし予定がなくともわざわざ買い出しへ出かけるくらいだった。
     潔は炊事こそ下手だがそれで開き直るような性格ではなく、申し訳なさそうに他の家事を手伝おうとした。それがまた「同棲感」を高め凛を喜ばせた。
     もう全部俺がやるから、お前は黙って俺に世話されてろ――本人には言わないが、凛は日々そう思いながら潔の世話をむしろ楽しんでいた。

     潔と暮らし始めて驚いたことがあるとすれば、潔が時折ライブ配信を行うと知った時だった。
    「凛、俺フランス来るちょっと前くらいからライブ配信してて…部屋でしてもいい?うるさくしないから」
     俺は母親か何かかと言いたくなるくらい遠慮がちな物言いには正直ときめきすら感じたが、却下する理由もなかったので了承した。どうやらドイツでチームメイトが配信している姿を見て楽しそうだなと思っていたようで、最近は蜂楽がスペインでゲリラ配信をしているので自分もやってみたいと始めてみたらしい。潔の渡仏前後は間近に潔がいる生活に浮かれ、潔のSNS周辺を掌握できていなかったので凛も初めて知ることだった。
     アーカイブを残していないようなので、凛はどんなものかと同じ家に住んでいながら潔の配信を視聴してみたが、終始穏やかでサッカーやチームの話を一時間ほどしているだけの配信のようだった。時折知り合いの選手が配信のコメント欄に現れることもあったが、それ以外は極めて健全なものだった。
    「配信、別にリビングでしてもいいぞ」
     リビングの方が飲み物を取りに行ったりしやすく便利だろうと思って提案したのだが、潔は激しく首を横に振った。
    「できないって!凛の家で世話になってるなんて知られたら、ファンに殺されちゃうかもしれないだろ!」
     そう言って場所が凛の自宅であることを隠そうとしていた潔だったが、それも数ヶ月しかもたなかった。
     ある日、「その映画俺も見たい!配信終わったらリビング行くから待ってて」と言っていた潔が数時間経ってもリビングに来なかったことがあった。普段潔は長時間の配信をせず一時間前後で配信を終えていたことと、部屋から声も聞こえなかったため配信が終わった後に寝てしまったのだろうと思い凛は潔の部屋をノックした。もしベッド以外で寝てしまっているなら起こす必要があると思ったのだ。返事がなかったのでそのまま入室すると、そこには机に突っ伏して寝てしまっている潔と、切断し損ねてしまっている配信画面があった。凛は潔に代わり配信画面を切断し、ネット上ではすぐに「なぜ潔の配信に糸師凛が現れたのか」と騒がれた。
     潔は何度も凛に謝ったが、凛としてはむしろ潔が自分のすぐ側にいるということを世界に知らしめ潔に近づこうとする愚かな害虫どもを一網打尽にしたかったので全く問題なかった。潔もその内隠すのが面倒になったのか諦めたのか、普通にリビングにて配信を行い凛が映り込むと配信がざわつくという展開が「よくあること」になっていった。

     ある日凛は潔を家に残して買い出しに出掛けていた。前日の夜に潔と魚を食べたいと話していたので、良さそうな食材がないか探しに行っていたのだ。潔も一緒に行くと協力を申し出ていたが、フランス語が堪能な凛と違い、潔は現地住民に絡まれる可能性があり危険だったため留守番をさせることにした。
     日本では見ないが、海外では外国人観光客を狙ったスリや犯罪が多種多様に存在しており、潔のような見るからに善良そうな人間は絶好のカモになってしまう。以前も道で困っている演技をしている人間に話しかけられ、真剣に助けようとしている潔の後ろから荷物を盗もうとするグループ犯罪の被害に遭いかけていた。凛が阻止して潔を引き離さなければ潔の荷物は奪われていただろう。しかも潔はそれ以外にも何度もカモにされており、その度に凛が事態の収拾を助けることになった。
     そういった経緯もあり、凛は何かあっても一人で対処できる単身を好んで出かけていた。犯罪がなくとも、潔は凛と出かけていると目を離した隙にふらりと困っている人間を助けたり子供と遊び始めたりするので凛としては面白くない。1人の方がよほど集中できるという重要な理由があった。
     買い出しを終えて帰宅すると、潔が床に座り、ソファを背もたれに配信をしているところだった。
    「凛おかえり!」
     配信中だというのに、潔が凛の方を向いて言った。正直、配信中でも自分を優先されるのは凛にとって悪くない気分だった。
    「また配信してんのか」
    「そう。みんなも凛に会いたがってるよ」
     潔はカメラに視線を戻し、また何やら話し始めた。凛にとって潔の配信は毒にも薬にもならないが、潔が1人で外出をしたり凛の知らない場所で知らない人間と過ごすよりはよっぽどマシだと思っていた。
     買って来た食材を冷蔵庫や棚に収めている間も、潔は時折笑いながら画面の向こうにいるどこの誰かもわからない、凛にとっては有象無象でしかない存在と話している。
    「慣れたと思った時もあったんですけど、なんか凛選手のカッコよさって日々進化してるので、ふとした時にびっくりしますねw」
     話の流れは全くわからないが、どうやら自分のことが話題に出されていると察知した凛はちょうど食材を収め終えたので潔に尋ねた。
    「俺が何だって?」
     潔の隣に腰を下ろし顔を見れば、潔は凛に笑顔を向けた。
    「凛買い出しありがと!今みんなと凛選手のカッコよさについて話してた」
    「んなしょうもない話してたのか」
     そうは言いつつも、潔が自分を意識しているというのはどんな形であれ悪い気はしなかった。
    「しょうもなくないって!俺だって同じチームで同じ家に住んでたって未だにびっくりするもん」
    「へぇ…」
     そんな風に思われていたとは知らず、つい目を細めてさらにじっと潔の顔を眺めてしまった。しかし凛の意図になど気づくはずもない潔は、食材は買えたか、魚はあったのかとのんきに尋ねてきた。
    「良さそうなのがあった。待っとけ今から作る」
     潔の頭に手を置き立ち上がると、潔は「夕飯作ってくれるそうです!今から楽しみにしてます!」と嬉しそうにカメラの前で話していた。
     凛は自分でライブ配信をしようなどとは微塵も思わないが、潔主導の配信に映るくらいなら構わないと思っている。むしろ善良な視聴者を装い潔に近づこうとしている老若男女に、潔の一番近くにいる存在が誰なのかを思い知らせて一網打尽にしてやる必要があると常々感じていた。潔本人があんな調子であるため、相手が勝手に舞い上がり勘違いし仲良くなれたなどと思い上がる事態は後を絶たない。そうした害虫どもを残らず始末する必要があると凛は思っていた。


    「凛あのさ、9月9日お前の誕生日じゃん?だからちょっとだけでいいからお祝い配信出て欲しくて」
     9月になったばかりの日、潔が朝顔を合わすなりそう言い出した。
    「お前、人の誕生日まで配信のネタにする気なのかよ」
    「だって凛ってSNSずっと止まってるし、ファンの人かわいそうじゃん?俺の配信に来てくれてる人だって、半分以上は凛目当てだろうし」
     凛本人のことより視聴者を気にかけるような発言は気に入らなかったが、潔が凛の誕生日を間近で祝う気であるという意思は確認できた。凛の誕生日を祝う潔の姿を世界中に見せてやろうと思い、凛は結局潔の申し出を許可した。
    「当日は準備があるから…凛は俺が連絡するまで外で過ごして」
    「は?ふざけんなそんな面倒なこと…」
     確かにその日は休日であったが、休日だからこそ余計な体力は使いたくない。長身で目立つためファンに囲まれやすいこともあり極力外には出たくない。しかし潔に両手を合わせて「この通り!」と懇願されてしまえばそれ以上は何も言えず、いっそクラブハウスでトレーニングするかと考え直しまたしても潔の要求を飲んでやることにした。

     誕生日当日だというのに、潔は凛に「誕生日おめでとう!じゃあ俺準備あるから!」と言ってさっさと家主を家から追い出した。凛は仕方がなくクラブハウスでフィジカルトレーニングをして適当に昼食を済ませ、潔から連絡があるまで待っていた。
    「準備できた!もう帰ってきてOK!」
     潔のそのメッセージを確認し、凛はシャワーを浴びてクラブハウスを後にした。
    「お帰りー!ごめんな準備のためとはいえ外出てもらって」
     帰宅するや否や潔に出迎えられ、これはこれで悪くないと思っていると潔が凛をテーブルに着くよう誘導した。
    「今日はこういう感じで配信する!最初喋ったらここにカメラ置くから、凛はこっから動かないで」
     潔の脳内にあるであろうプランを軽く説明され、凛はそれに従ってやることにした。どうせコメントもカメラも見ないのだから、適当にするつもりでいた。
    「みなさんこんにちは~!今日は凛選手の誕生日なので、配信にも来てもらってます!」
     潔は普段より少し高いテンションで拍手をしながら言った。
    「凛選手は昨日試合の後にクラブハウスで祝ってもらってたんですけど、僕も祝いたいということで今日は無理言って付き合ってもらってます。なんかプレゼントとかもらった?」
    「後が面倒だから受け取らねぇ」
     それは本当のことで、善意のプレゼントと見せかけて後でCMに出演して欲しいだとか、こういう雑誌に出て欲しいと要求されるということが必ず起こる。誰しもが見返りを求めていると知っている凛は、昨日も仕方なく花束を受け取ったくらいで用意されたケーキにさえ手をつけなかった。
    (別に部屋が変わった様子はねぇが…)
     潔の言葉を信じるなら「準備」はもう済んでいるはずなのだが、見たところ周囲は普段と変わっていない。しかしわざわざ自分を追い出したのなら、何か見られたくない準備があったのではないかと考えていた。
    「ちょっと待って、今大事なの持ってくるから、凛そっち向いてて」
     サプライズをするつもりなのかと思い、凛は言われた通りに逆方向を向いた。潔が一度側を離れていく音が聞こえ、冷蔵庫を開ける音がしたので飲み物でも持ってくるつもりだろうかと待っていた。
    「いいよーお待たせ!」
     凛が向き直ると、そこには小ぶりなホールケーキを持った潔がいた。チョコレートのホイップクリームで覆われたケーキには果物が乗せられ、空いたスペースには白く不揃いな文字で「Joyeux anniversaire Rin」と書かれていた。
    「………」
    「え、なんかもうちょっと反応欲しいんだけど…ケーキ嫌いだった?いや確かにカロリー的には良くないだろうけど、昨日ケーキ全然食べてなかったしこれくらいのサイズならセーフだと思うんだけどダメ?」
     凛は表情や言葉には出なかったが内心驚いていた。包丁さえ満足に使えない、何でも強火で焼けばいいと思っている潔に「調理」に分類されることができるとは思っていなかった。
    「お前料理できたのか」
    「いや、切ったり火を使うやつは正直全然。でもケーキだけは作れる。ドイツって誕生日の人が自分でケーキ作って職場とかに作って持って行って自分主導で誕生日を過ごすんだよ。だからケーキ作れる人多くて俺も教わった!」
     潔はそう言いながらケーキを切り分け、一切れ凛の皿に乗せた。
    「材料ちょっとずつ買い揃えたり部屋換気して匂いこもらないようにしたり地味な努力をして作ったんだよ。味は大丈夫だと思うから、一口だけでも食べてみてくれると嬉しいな~って…」
     凛は潔が作ったというケーキを一瞥し、フォークを受け取り一口分を掬い取って口の中に入れた。元々菓子類を好んで口にしなかったのもあり、かなり甘く感じたがそんなことはどうでもよかった。潔が自分のために、自分のためだけに作った特別なケーキ。配信をしていることも忘れ、凛は無言で自分の分を胃の中に収めていった。
    「ちょ、反応は?まずかったら我慢しなくていいからな?」
    「別にまずくはねぇ」
    「む、無理しなくていいぞ?カロリーコントロールしてるんだろ?計算めちゃくちゃになるし…」
    「別にどうとでもなる」
     潔が止めるのも無視して、凛は一切れを食べ終えた。潔も一切れ食べているが、残りも後で自分が食べるつもりでいた。
    「一切れ食べてくれるとは思わなかったからびっくりした!みなさんおめでとうコメントたくさんありがとうございます!今日はケーキサプライズやりたかっただけなので、配信はこの辺りで終了しますね!」
     潔は視聴者に手を振り、配信を終了させた。
    「ふう終わった!もーコメント拾うくらいすればいいのに」
    「んなことするわけねーだろ」
    「でもケーキ食ってくれたのは嬉しかった!正直カロリーコントロールしてるから無理、で終わるのも覚悟してたし」
     潔は席を立ち、コーヒーを淹れて戻ってきた。そして同じ位置に座ったかと思ったら、「そうだそうだ」と言ってまた立ち上がり部屋に引っ込んだ。
    「これも受け取って」
     潔はクラフト紙の紙袋の中から白い箱を取り出した。
    「こっち来て開けてよ」
     ソファに座り、潔が凛を手招きした。席を離れて潔の隣に座り、差し出された箱を受け取ったが中身の見当はつかないまま上蓋を開けた。
    「これは…」
    「よかった、反応良さそうで」
     ケーキも驚きはしたが、それより更に驚いた。潔が手渡した箱の中には靴が入っていた。それもただの靴ではない。革靴で、凛の推測が間違っていなければ凛がスポンサーとは一切関係なく個人的に贔屓にしている超老舗靴工房のものだった。
    「お前これ……」
    「めっちゃ悩んだけど、凛は好きな物長く使う派だろ?俺が知ってる新しい物より、凛がもう認めてるやつで新しいものの方がいいかなって」
     潔は平然と言っているが、凛はまだ驚いていた。フランスの歴史ある老舗靴工房は余計な営業、広告はせず職人の腕のみで経営する今時珍しいスタイルで、大量生産とは真逆の完全オーダーメイド生産、それも大部分が人の手によって行われている。手間も時間もかかり値段も相当のもので、そもそも何ヶ月も待たなければ自分の番は回ってこない。
    「お前、どんな手使ったんだ。俺の時は2ヶ月待ったんだぞ」
    「俺は3ヶ月。いやでも俺は別に苦労してない。だって凛の足の型があるの知ってたし」
     以前その工房で注文して仕上がった靴を、凛はとても気に入っておりその靴ばかりを履いていた。今でも頻繁に履いているが、潔にその靴を褒められどこで買ったのか聞かれたことがあった。その時に答えたので潔が今回裏で手を回したのだろうと推測はできた。店には凛が注文した時に採寸して起こされた木型があるはずだったので、潔がそれを当てにして話をつけたのだろう。オーソドックスで美しいフォーマルシューズでありながら、色は凛が持っているどの靴とも違う深いターコイズブルーに染められていた。
    「色さー、すっごい迷ったんだよ。俺達試合以外だと結構スーツ着ること多いし、フォーマルな靴の方がいいかなっていうのはすぐ決まったんだけど、でも黒とか茶色じゃ凛のと被ると思って…ちょっと派手かなとか凛の趣味じゃないかもって悩んだんだけど、工房の染色サンプル見てやっぱ凛ならこういう色かなって思って、無理言って既存の色じゃなくてこの色に染めてもらった。…あと凛ならどんな格好してもカッコいいだろうしどうにかなるだろっていう気持ちもあった」
     凛は靴をじっと眺めていた。嬉しい気持ちはもちろん大きかったが、同時に悔しい気持ちもあった。普段凛の気持ちなど何一つ察していないくせに、こういう時は正解を引き当ててくる。周囲が作り上げた糸師凛のイメージなどに引っ張られることなく、本物の凛を見ていることを証明してくる。
    「履いてみてよ。直しが必要だったら困るし」
     潔に言われて、凛は新しい靴を履いてみた。自分のサイズに合わせた型を使っているなら当然かもしれないが、驚くほど上手く足に馴染んだ。
    「よかった大丈夫そうだな!形決めるのも結構悩んでさー、工房で事情話して特別に凛の型使ってくれるって話にはすぐ行き着いたんだけど、職人さんがわらわら出てきてリンに相応しいならこの形だろ!って主張し始めて…結局全部断って自分の案でいったけど」
     潔が誰の意見にも左右されず、凛のためだけを考えてできた靴。他の贈り物とは違う、見返りを全く求めない心からの純粋なプレゼント。凛は足元をじっと見つめ、革靴の美しい光沢に目を奪われていた。
    「こっちは配信しなくてよかったのか」
     凛としては世界中に潔からのプレゼントを見せつけてやっても良かったのだが、潔はそれをしなかった。
    「いや流石にちょっと見せびらかす感じになっちゃうし、これは配信とか関係なしに、俺が凛に贈りたくて準備したものだからさ」
    「……まぁこの靴は…気に入った」
    「お、ほんと!?やった!色々考えた甲斐があった!」
     嬉しそうに笑う潔を見て、凛はため息をつきたくなった。こんなに近くにいるのに、こんなに自分のことを考えてくれているのに、潔は自分の望む意味で凛のことを想ってはいない。それがもどかしくて腹立たしくて仕方がなかった。自分の気持ちばかりが強くなることを悔しく思いながらも、凛は潔からの自分だけに向けられた真心を嬉しく思った。

     その後潔が凛のために作ったケーキはしっかり完食し、後日公の場でしっかり潔から贈られた革靴を履いて世間に見せつけた。更には普段受けない雑誌インタビューの仕事をわざわざ受け、まんまと靴のことを聞いてきた記者に潔からの誕生日プレゼントだと答えて世界に向けて発信することに成功した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👞👞💒💒💒💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💗💗👏💒👏💖👏👏👏😭🍡😭😭😭☺💒💖💖😭🙏😭💖😍💕💯👏👏💞💘💘💖💖👏💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works