葛藤する弟の話小戸川から兄ちゃんは悪い奴だと教えられてから、1ヶ月近くが経った。
俺らの生活は変わらず、悪を懲らしめるために仕事に行き、仕事のない日はやりたいことをして過ごす日々が続いていた。
しかし、俺の中では大きな変化があった。前よりずっと兄ちゃんの行動が気になるようになった。今までだって、兄ちゃんが何をするのか、今何をしているのか気になることはあった。でも「これからご飯の時間だしなぁ」とか「明日はは非番だもんなぁ」と考えれば気が済んだ。けれども、今は兄ちゃんの一言一句、一挙一動が気になって仕方がない。どこに行くのか、誰と電話するのか、これから何をするのか、考えただけでもやもやする。
もちろん、兄ちゃんがドブと仲間だなんて信じられないし信じたくもない。それに、小戸川は憎きタクシードライバーだ。嘘を言って騙そうとしてるのかもしれない。何より兄ちゃんは「違う」とはっきり否定したのだ。違うに決まってる。
けど、それでも、頭のどこかでは「本当にそうなのではないか」と考えてしまう自分がいる。兄ちゃんを信用出来ないだなんて、俺、どうかしてしまったんじゃないかな…。もし、仮にももし、本当だったら、俺は、どうすればいいのかな…。
そんなことを考えると、胃がキリキリと痛み出す。最近、多いのだ。胃薬はいつも飲んでいるのだが、それでも効いていない気がする。くそう、何が「良薬口に苦し」だ。効かなきゃただ苦いだけじゃねぇか。そんなことを考えながら、規定量より多い量の胃薬を取り出す。苦い薬を大量に飲むのは嫌だが、こうしないと痛みは収まらないし、仕方がないのだ。まぁ、多少多く飲んでも体に害は無いだろう。
胃薬を流し込み、一息つく。スマホを見ると、兄からメッセージが入っていた。そこには「洗濯お前の分もしといたから」と書かれていた。「分かった!ありがとう」と返し、画面を閉じる。
兄ちゃんは本当に俺の事を大切にしてくれている。
その態度が変わったことはない。
だからこそ思う。
兄ちゃんは、本当に悪いやつなのか?
葛藤はまだしばらく続きそうだ。