決意これは数年前、少なくともまだ自分はヒトの姿になれなくて、近所にミエルがやってきて遊ぶようになった頃の話だ。
この頃は年齢のせいもあるけどまだ身体が少し弱くて、よく熱を出してしまっていた。
この日もミエルと遊んでる途中で体調を崩し、家で休んでいた。
目を覚ますとあたりはすっかり暗くなり、仕切りで隔てられただけのリビングからほんのりとランタンが灯っていることだけわかる。
水をもらおうと思ってゆっくりと身体を起こすと、二人の話し声が聞こえてきた。
「…ほんと、きみはよく面倒みれるよね。いやいいんだけどさ、あの子拾う前言っただろう?バンカラ街に住もうって」
同居人のひとりが半ば呆れた声で言う。
拾われたっていうのは知っていたけど、自分がいなければこのヒトはもっとイイセイカツができてたんだ。
ほどなくしてもうひとりがすぅ、と息を吸う音が聞こえる。
「あのなー、これは自分にしかわからないと思うからいいんだけどよ。自分の夢とか、野望とかそういうのどうでも良くなるくらい、元気に育ってキッカに幸せになってほしいと思ったんだよ。狂ってると思って構わない。…だってこれまで色んな孤児見かけては見捨ててきた。でもキッカだけはなんか違くてさ。今幸せだからいいんだ。」
「…そうかい。」
いつも自分に構う賑やかな声と違って、とても穏やかで優しい声をしていた。いつも被り物をしていて顔がよく見えないけど、この時ばかりはどんな顔をして言っているのか気になってしまった。
「……」
自分はぽすり、とベッドに倒れ込む。
「……キッカ?起きたのか?」
仕切りの向こうからこちらへやってきて自分の様子を見に来てくれた。
「うん、おきた。おみずのみたい」
「わかった。…熱引いてきたみたいだね。飲んだらまたゆっくり休むんだよ」
今起きたことにして、水を貰う。
それはひんやりしてて、あったかくて、心地よかった。
✩☼✩☼
「……あのね!おみせのお手伝いしたいの!」
翌朝、すっかり元気になった自分が考えたのはこうだ。
・自分が今いなくなっても、この人が行きたいところに行けるようになる訳じゃない。
・自分がひとりでも大丈夫なんだよってショウメイできたら、そこへ安心して行けるかもしれない。
・そのためにできること、この人が悲しまないことならなんでもする。おかねもそのためにあつめる。
「おぉ…キッカからそんな言葉が聞けるなんて……!!それじゃあ、お手伝いしてもらうために必要なおべんきょう、しようねぇ」
「う゛…する!」
被り物をしていても想像ができるくらいの満面の笑みでこの人は自分を見ていた。
「…あと、これから自分のことは外で呼ぶ時、店長ってよぶんだよ。」
「うん!」
…この時はこれで良かったんだけどねー。
年月経てば、自分が年を重ねるように店長も年を重ねる。
今だったらひとりで行かせたら職をみつけるのが大変で野垂れ死んじゃうかもしれないもん。
だからうんと頑張って、いつかふたりで行けたらいいな、って
キッカ…アタシ、思うんだー。
でも、セピアの皆に会えなくなっちゃうのは寂しいんだよね…。
どうしたいか、まだ考え中。
だから…アタシができること、やるんだ。