我儘 例えばあなたに恋人がいるとして。
その人が自分の我儘をどこまで許してくれるか試してみたい、なんて邪な考えは浮かばないと言い切れるだろうか。
「手伝っていただけますか、ダンテ」
そういった後ろ暗い欲を抱いたことのない人だけが今の私に物申す権利があると思う。
もちろん試された側の人間は、突きつけられた要望の如何によっては拒否したうえで相手を叱責する権利もあるだろう。というか今回に限ってはそうなっていない理由が分からなかった。
<あ……な、何を……?>
こちらに背を向けた男に私の言葉は聞こえていないと分かっていても動揺でつい針を動かしてしまう。
「ファスナーをあげて、ホックも留めてください」
言われた通りに中途半端な位置で止まった銀色のつまみを掴んで引き上げようとしたけれど上手くいかない。ファスナーの作りではなく、服のサイズがぴったり過ぎて肩甲骨周りの布地にほぼ余裕がないことが原因だった。
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