義家族パロ👁️🗨️⏰ “文字は読める?”
男が横から差し出してきた紙にはそう書かれていた。頷きを返すとその下に新しく文が付け足される。
“君の名前を教えて”
革張りの手帳に、ひとめで質のいいことが知れる黒手袋と臙脂色のコート。なにより時計を模した義体の頭。彼の纏う何もかもが、この裏路地の寂れた空間で異質な存在感を放っていた。
「……ヴェルギリウス」
時計の短針が三秒分だけ動く。これが子供の名を呼ぶ時の決まった音だと、彼自身が知るのはもう少し後のこと。
“君さえ良ければ、私と一緒に来ると良い”
子供と並んで壁際に座っていた男が手帳を閉じて立ち上がる。コートの裾が視界の端から消えると、子供の目の前にはいつもの風景だけが残った。
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