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    me06hitorigoto

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    me06hitorigoto

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    三馬鹿不思議体験小説を書こうとした。ホラー苦手なのに書けるわけがない。がんばる。

    神奈川にもこんな場所あったんだ、というのが率直な感想だった。木々に囲まれ、腰ほどまで届く草が生い茂り、足元は長いこと放置されたかのようなひび割れた舗装が続いている。辛うじて人が通ることの出来るような一本の山道は何処まで続いているか、終わりが見えない。実際現時点でかなりの距離を進んできたと思う。真夏の真っ盛りらしく辺りは蝉の大合唱で包まれているが、反面、肌をなぞる風は何処かひんやりとしていた。こんなにもやかましい鳴き声が響いているのに汗がスっと引いていくような空気は、どうにもちぐはぐな気がする。マ、涼しいからいっか。
    またひとつ、崩れた地蔵の前を通り過ぎた。これで恐らく五つ目。どの地蔵も顔面のみボロボロに砕けている。特に目の辺りが抉られたかのように陥没していて、奇妙な風化の仕方もあるもんだなと感想を抱いた。随分長いことそこで佇み、そして人間から忘れ去られてしまったのだろう。人の営みの儚さが伺える。


    あ、六つ目。と思ったその先に、ようやく視界が開けた場所がある。やっとこさゴールらしき地点に辿り着けたぞと足を踏み入れた。ぐりん、と見渡すとそこには人っ子一人も居らず、朽ちた家屋が点々と並んでいる。どうやら所謂廃村というものに辿り着いたらしい。成程成程、そりゃここまで来る道もあんなに荒れてしまっているよな、この場所に訪れる人はもう居ないんだから。こんな場所があったんだなと再び感心する。ここで、宮城が一言。

    「で、ここって一体何処なんだよ」

    ザァと強い風が吹き宮城たちのシャツを大きく膨らませた。背後で並ぶ三井と桜木は、さぁ、知らねぇな、と温度のない声で首だけ捻る。それっきり、二人して、うおおすげぇボロボロの家おもしれぇ!と興奮した様子で走っていってしまった。全くもって使えない。せめて赤木か木暮のどちらかがいればもう少し建設的な意見を出してくれるだろうに。寄りにもよってコイツらしかいねーのかよ、とちょっとばかし冷静になった宮城は大きくため息をついた。





    三馬鹿がゆく わくわく廃村探索





    三人してバスの中で爆睡してしまったのがそもそもの失敗だった。
    午前中に他校との練習試合が終了し、珍しく午後からの予定がフリーとなると、遊び盛りの男子高校生としてはたまにはちょっくら遠出して普段とは違う場所で遊んでみたくなる。あまり羽目を外すなよ、と親の小言かのような赤木のセリフを適当に聞き流しつつ、三人は行き当たりばったり精神でとりあえず来たバスに乗り込んだ。これどこいってんの?知らんがどっかしらの駅には着くだろう。とまぁなんとも適当に会話をしていたが、集合時間が朝早くおまけにめいいっぱい身体を動かした後であったもんだから、15分後には全員綺麗に寝落ちした。スヤスヤである。終点ですというアナウンスに奇跡的に気づいた三井が二人を叩き起し、慌ててバスを降りたはいいが、降りた先が何処なのか誰一人として把握していなかった。
    木々に囲まれた場所で立ち尽くしても、位置を示す情報が何一つとして見つからない。そもそも自分たちはつい先程まで海が見えるところにいたはずなのに、気づいたら山の中。多く見積っても精々数十分の移動時間で、こんなに景色が変わることある?バスは無情にも走り去って行き、いよいよもって途方に暮れるしかなくなった。が、しかしここにいるのは恐ろしいほど順応性の高い男たちなので、次の瞬間には夏休みの冒険だ!と騒いでいた。これぞ青春。

    桜木がなんか看板を見つけたと叫ぶので、どれどれと覗き込む。ほぼ黒色といっていいほどくすみ崩れかけている木の板には、▇子村(一文字目は掠れてて読めなかった)の文字と道を示す矢印が書かれていた。
    ほう、この先に村があるとな。俺村とか行ったことねぇ。マジでこの先に人が生きていける場所あんの。ゲーム感覚で盛り上がっている男たちの興味はもっぱらこの▇子村に向いていた。これはもう行くしかない。このメンバーの辞書に「思慮深い」という文字は存在しないので、今いる場所だとか、帰り方はどうするのかだとか、山道に軽率に足を踏み入れるのは危ないのではないかとか、そんなことは一切考えちゃあいなかった。気になるから、進む。だってそこに山があるから。そうと決まれば出発進行だと宮城、三井、桜木の順で進み始める。気分は小学生男子である。カブトムシ捕まえようかな。



    冒頭に戻る。正気を取り戻すのが一足早かった(だとしても割と手遅れかもしれない)宮城は、オイオイそんな暴れちゃ崩れたりとかして危ねぇんじゃないのと騒いでいる二人を至極真っ当な理由で引き止めた。二人とも怪我はしたくないので、リードを付けているかのように大人しく戻ってくる。
    「や、でもマジでこんな古ぼけた村見つかるもんなんだな。テンション上がるわ」
    「ぬははこの天才が見つけた看板のおかげ!良かったなミッチーリョーちん!!」
    どこまでも能天気だこと。この面子の中でリスク管理が出来るのは自分だけかもしれないと宮城の背中に嫌な汗が流れる。
    「あのさ、今いる場所が分からない以上家までどうやって帰るのか検討つかないってこと、把握できている?」
    む、と桜木が唸った。どうやらちょいとばかし危機的状況であるということに気づいたらしい。しかし三井は依然としてあっけらかんとしており、村の情報くらいなんか家屋に残ってんだろー、と楽観的だ。んな上手いこと話が進むんですかね…と呆れたが、確かに現状打破のためには情報を集める必要がある。先ずは行動、考えるのは後からでも出来るもんな。そうと決まれば探索だ、と各々担当する建物を割り振り足を踏み入れていく。再び冒険心が擽られ三者三様わくわくしながら家屋を漁り始めた。ちら、と胸に残ってた不安も消し飛び、気分はさながらRPGの勇者である。全くもって単純な男たちである。

    随分と小さな集落だったらしく、比較的広大な土地が広がる中、建物の数は十にも満たなかった。どれも年月がたち、中に風が吹き込んできてしまっている。が、意外と構造はしっかりと残っており、崩れたりといった心配は無さそうだった。茅葺き屋根の建物は中が薄暗く、まず広い土間が視界に入る。奥はどうやら座敷となっているようで、板張りの間が続いていた。いつから放置されているのか見当もつかないが、それにしては色々な道具が置き去りにされている。昔の人ってこんな木の道具であれやこれややっていたんだと宮城が感心していると、遠方から三井の呼び声が耳に入った。相変わらずデケェ声してんなと思う。どうやら書物を見つけたのこと。どれどれと呼ばれた地点に赴く。あんたそんな役に立つムーブ出来たんですねと考えてたら、どうやら口から出てしまっていたらしい。脛を容赦なく蹴られ悶える羽目になった。地味に嫌なところを攻撃してきて腹が立つ。
    「ほら、なんかこの村の資料っぽい奴」
    「ほう。すっげえ江戸時代みたいな本」
    「大丈夫?俺らコレ読める?」
    「どうせ日本語だろ。俺ら日本人、読めない訳がねぇ」
    「現代文古文赤点とってた奴の発言とは思えねぇ」
    「安心しろ、ここにはこの天才桜木花道がいる」
    「黙れ赤点常習犯」
    「ここにはブーメラン返ってくる奴しかいねえんだよ」
    表紙を開くと墨字で文字が書かれている。灼子村の教え、と読めた。どうやら理解できる方の日本語で書かれているらしい。一安心。
    手書きの文字でなかなか読みづらい場所もあったが、ざっと見るに書かれていた内容はこうであった。

    この村はシャクシャク様によって守られている。
    シャクシャク様は恵を与えてくださる。
    シャクシャク様は豊を与えてくださる。
    シャクシャク様は和を与えてくださる。
    シャクシャク様は命を与えてくださる。
    シャクシャク様は火を与えてくださる。


    我々はその恩恵に報い、捧げねばならぬ。
    捧げ物は厳重に囲い用意をしなければならぬ。
    以下、その教えである。
    一、決して忘れてはならぬ。
    一、決して恐れてはならぬ。
    一、決して悟られてはならぬ。
    一、決して逃してはならぬ。
    一、決して絶やしてはならぬ。

    ……
    「ふむ?ここは灼子村と言うのだね」
    「シャクシャク様美味そうな名前」
    「あんたマジかその思考回路罰当たるんじゃない?」
    取り敢えず地名は分かったので一歩前進と行ったところか。しかし文面から漂う不穏さで状況は三歩くらいマイナスに下がった気がする。第一どこだよ灼子村。神奈川に村はねぇだろ。(一応あります)
    もうサッサと立ち去り、地道に歩いて山を下るしかないのかと諦めの空気が流れる。ものすごく面倒くさい。まぁ調子に乗って後先考えず動くと痛い目に遭うってことで。一つ、社会勉強になった。

    家までの距離が分からない以上、とっとと動いた方が良さそうである。数刻前と打って変わって御葬式のようなムードを漂わせた男たちは、よっこらせと立ち上がった。街まで出るのにどれくらいの歩くことになるのだろう。途中コンビニあるかな。バス降りたところ、マジで文明が一つも感じられないくらい何もなかったからなぁ。俺いま人を見かけたら嬉しくて泣いちゃうかも。ボソボソしゃべりながら家屋から出ようとする。


    瞬間、宮城が2人のシャツを強く引っ張った。


    何をするんだと桜木が口を大きく開けたところで、宮城がしっ、と人差し指を自身の口に当てる。その強張った顔を見、唯ならぬ雰囲気を感じとって桜木も押し黙った。一気に緊張が走る。三井が、おい一体どうした、と囁いた。
    「…見間違え、かもしれないんすけど、」
    「おう」
    「ヒト……がいました」
    「本当か、リョーちん。じゃあここが何処か教えて貰えるかもしれないぞ!」
    桜木がこれ幸いと駆け出そうとする。反射神経に脳味噌がついてるのだろう、本当に行動が早いしこういう時の考えが浅い。しかしその動きは見抜かれていたので、今度は首根っこ掴んで止められる。進む力と引く力の拮抗でかなり首が締まったらしく、グェと潰れた声が漏れ出た。
    「赤木みたく桜木のこと制御できるようになってきてるな。やるじゃねーか」
    「んなこと言ってる場合じゃないっスよ。や、そう、あれは確かにヒトだと思うんですけど」
    「なんだ煮えきらねーな」
    ここで三井は宮城の顔が青いのに気づく。ここまで動揺を顕にしているのは珍しい、と片眉をあげた。どうやら中々にマズい状況なのかもしれない。混乱しているらしい宮城は、なんて説明しようかと、アーだとかウーだとか唸っている。
    「ああもう信じてもらえねーかもしれないすけど、言いますよ!確かにヒトだったんだけど、なんだかものすごくぐちゃぐちゃだったんです。爛れているみたいな。あれ、人間だとは到底思えない。
    俺ら、もしかしたらヤバい場所に紛れ込んじまったのかも」
    頭をグシャとかき混ぜながら吐き捨てるように宮城は言った。桜木も宮城と同様にサ、と青白くし、三井はうぇ、と呟いて顔を歪める。荒れ果てた聞いたこともない名前の村、シャクシャク様、教え、ヒトではない何か。家までの道のりのハードルが一気に跳ね上がってしまったようだ。随分な社会勉強である。
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