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    Zero_mikado_

    @Zero_mikado_

    なぎれおonly 相手固定左右固定 のえっちな絵、文字の垂れ流し。

    pixivは本垢に流れます。

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    Zero_mikado_

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    芸能パロのナレです!
    モデルがメインのお話です。
    後日まとめてpixivにあげる予定です。
    1/20のネットプリントのイラストはこの小説を元に描いたものもあります、是非楽しんでください‪♡

    急に俺、御影玲王の前に現れた凪誠士郎という男。彼は俺と会ったことがあり、とある約束をしてるというが……?

    ※能動的な凪がいます。

    君と出会うために、君と出逢ったがために……今日も同じことの繰り返し、着て撮って、着て撮って。
    「御影さん、準備できましたか?」
    今日もいい笑顔だ。うまく笑えてる。

    見事なまでに。

    「はい、大丈夫です。」
    沢山の服を着て、アクセサリー、宝石を身にまとって、望まれたポーズをとって……望まれた顔を作る。簡単な作業。

    俺は今日も人形になる。

    「はい、おっけ、今日もカッコいいね〜玲王君は」
    シャッター音が止む。ふぅ、と一息ついてメイクさんが持ってきてくれた水を一口飲む。

    「ありがとうございます。メイクさんが気合い入れてくれたからですよ。」
    「そんなこと言って、玲王君がモデルだと全部一発OKのくせに」

    こんなことを言われるのももう慣れた。当たり前だ、もう何年この業界にいると思ってんだ 。
    逆に何回も撮りなおすことがあるならば、それは俺自身が写真の出来に満足いかなかったからだ。
    今回担当してくれたカメラマンは超一流、一発で終わったのはこの人の実力もあったからだろう。
    「風間さんのおかげですよ、僕から見ても、まるで俺じゃないような写真ばかりだ。映りが
    良すぎて。」
    嘘はついていない、本当に普段の俺と違う…
    心の底に眠っている虚無感。
    そんなもの存在しないように隠されている。

    宣伝する物の良さを引きだしつつ、御影玲王というモデルの良さも引き立てている。
    「玲王君に言われるとよりうれしいな。」
    そのあとも軽く業界についての話をした。

    「もっと話をしていたいところなんですが、すみません、今日はうちの社長と会食がありまして、失礼します。」

    「そうかそうか。御影社長にもよろしく伝えてくれ。あ、そうだ。御影社長のとこ新人が
    出るって言ってたな。しかも社長のお墨付き。玲王君何か知ってる?」

    新人?俺は何も聞いていない。社長のお墨付き?父さんの?あの人が認めているなんて…
    どんな人間なんだ。

    今日話をするといっていたのはこの事か。
    「いえ、僕も詳しくは…」
    「そうかぁ、まぁ、楽しみにしてるよ。いつか玲王君とその子と仕事ができるといいな」

    「そうですね。では、また。」


    スタジオから出るとばぁやが迎えに来ていた。
    「お疲れ様です。玲王様。」
    「あぁ、ありがとう、ばぁや。」

    リムジンの後ろに乗り込んでこの後のことを考える。
    お墨付き、俺が知らない情報。わざわざ俺に隠していた理由はなんだ。

    俺が所属している事務所は御影グループの子会社の一つ。名目上は俺が経営している会社だ。経営してると言えど結局は親会社、つまり俺の父さんに支配されている。
    幼いころから経営の勉強もしつつ、人脈作りとして芸能界に入らされていた。
    子供でもできる仕事。かつ大人の意見を聞ける、将来役に立つ。
    小さい頃は子役をすることが多かったが、幸い、身長も伸び、顔立ちも世間一般的に良いと言われる部類だったので、中学後半から現在の高校2年生まで、問題なくモデルとしても役者としてもやっていけているし、勉学の方も問題ない。

    たまにバラエティも出て、歌も歌える。まぁ、簡単に言えばなんでもできるってことだ。
    そのせいか、おかげか…目まぐるしい日々を送っている。
    今の日本でモデルLeoを知らない者はいないだろう。
    父さんからも評価をもらっている。
    そんな俺でさえ聞かされていない、親父のお気に入り?いいじゃん、どんな人間か、見定めてやる。

    「玲王様、付きました。お父様がお待ちです。」
    「おう」


    「失礼します、玲王です。」
    「よく来たね。今日は客人がいる。大丈夫か?」
    客人か……もしかしたら新人のことか、もしかしなくても十中八九そうだろうな。

    「大丈夫です。」
    「入りたまえ、凪君」

    「どーも、凪誠士郎です。レオ、やっと会えた。」

    現れたのは俺より身長の高い男だった

    上から下まで眺める。 年は同じくらいだろうか。髪は綺麗な白色?銀色?、少し癖あり。陶器のような、傷一つない肌。 小さい顔、目は大きい、不思議と吸い寄せられるグレー、緑、複雑な色の瞳。ダウナーな雰囲気を醸し出しているが清潔感はある。服、時計、靴は流行りの先取り。安物じゃないな。服の上からでもわかる、体格がいい。
    細すぎず、太過ぎず。爪の先まで見るが、きれいに整えてあって 欠点 が見つからない。

    しいて言うなら、初めて出会う人間にどーもはないだろう。
    まぁ総合して、見た目は100点。どんな女の人を見ても、男の人を見ても100点なんて出したことがなかった。

    「初めまして、凪誠士郎さん、御影玲王です。」
    面白いじゃん、中身はどうか。

    「 ははっ、玲王は初めましてか、残念だったね凪君」
    「大丈夫です、想定内なんで。」

    何か変なこと言ったか、初めましてじゃないのかでもこのビジュアルで俺が覚えていな
    いはずがない。なんだ、なんか違和感が。

    「レオ、俺レオに見つけてもらうために頑張ったんだよ。レオは忘れてると思うけど、会
    ったこともある。」
    俺に見つけてもらうためどこかで、会っている?いつ?全く覚えていない..…

    「玲王、私の方から簡単に説明すると、誠士郎君は玲王に会いたいと直談判してきたんだ
    よ。この私にね。
    最初は取り合っていなかったが何日も何日も待ち伏せされてね、訴えようと思ったんだが
    、凪君がレオのためなら何でもなれる。と言ってきてね。興味が出たよ。
    そして私は賭けたんだ、凪君にね。」

    す、ストーカーか?もしかして。
    俺は凪という男にあってはいないが、こいつは俺の活動をみて勝手に会ったことあると思い込んでいるとか…??
    そういうのはもう何人も経験してる。

    「安心して、レオのめんどくさいファンとかじゃないよ、あぁ、でもほぼやってることス
    トーカーなのかも、俺。どうしよ〜俺、犯罪者になっちゃったかも。レオ〜どうしよう〜」
    「仕方なっ……」

    今俺なんか、勝手に。仕方ないなぁ、って言おうとしたか?なんだ、この既視感。

    「まぁ、今は良いとしよう凪君。凪君は磨けば光ると思ってね。もし玲王と会いたいなら玲王に見合う男になるのが条件として、ばぁやにまかせた。
    そしたら驚くことにね、彼はとても呑み込みが早い。いや、それだけじゃすまないな。才能だ。ある程度プロのモデルとして働けるだろう。」
    プロのモデル?下積みなしで?俺が知らないということは、まだ世に出してはいないんだろう。

    実力はどんなもんだかわからない。けど確かに俺の心が変な動悸がしている。心の空っぽが埋まるような、そんな予感を凪誠士郎から感じるのだ。

    「玲王。凪君はお前の好きにしてよい。どうするかはお前の自由だ。それが彼の望みらしいからな。」

    凪誠士郎、映りは良さそうだ。今まで俺は他のモデルとちゃんと撮影したことがなかった。俺がいるとメインとサブのように映ってしまうらしく、共演NGを出されているから。
    引き立てるために人と撮ったりはしたことがあるが、対等な立場として撮ったことはない。でもこいつとなら、うまくいくかもしれない。

    「まぁ、一度は仕事してくれないと困る。ここまで凪君を育てたかいがないからな。凪君
    には玲王に捨てられても、最低限働いてもらうぞ。」
    「うへ〜、レオのパパさんキビシーね、でもまぁ、レオとの約束のためだし、いいけど。」

    約束?俺との…?今日は頭がこんがらがる日だな。
    しかもこいつレオのパパさんって言ったか普通親父は親父で、俺のことを御影の息子さんって呼ぶだろ。

    「玲王。三週間後に有名ブランドとのコラボ商品の撮影があるだろう。そこに凪君を出す。それまでには決めるんだ。その依頼が凪君にとって最後の仕事になるか、その先も…
    私からは以上だ。」

    「はい、わかりました。」
    「とりあえず今日二人とも解散だ、玲王には凪君の連絡先を教えておく。」
    「え、玲王と少し話したいんだけど」
    俺もその気持ちだ、わからないことが多すぎる。少し凪と話がしたい。こいつのことを知りたい。

    「いや、今日はもう戻りなさい。玲王から連絡が来なかったらそれまでだ、凪君。
    要望通り、一度玲王には会わせたのだから。」

    俺が連絡しないわけないだろ、もう今だってもう少し話をしたいと思って……って、俺なんでこんなに一生懸命に思ってんだ。
    さっきから凪とのやり取りに既視感がある。 思い出したい。もし凪という存在に出会っていたのであれば、知りたい。忘れてしまった約束ってやつも……。

    「はぁ、疲れた…。」

    どさっとベッドに倒れ込む。
    何が起こったのだろう。
    今日は嘘みたいな出来事が起きて、さすがの御影玲王の脳も少しパンク気味のようだった。

    「夢なのか…?」
    先程出会った男と、話。一瞬の事すぎて…な。
    親父に送られた凪 誠士郎の連絡先を見る。
    サボテンのアイコン。
    このアイコンが親父の連絡先に入っていると思うと笑えるな。

    「連絡かぁ……」
    『玲王から連絡が来なかったらそれまでだ、凪君。
    要望通り、一度玲王には会わせたのだから。』
    俺から連絡したいのは、ある。今日、凪誠士郎が言っていた事に既視感を感じていたからだ。
    会ったことがある…。約束をしたことがある。
    いつだろう、あんなやつ知り合いにいたっけなぁ。

    こんなぐるぐる考えてても仕方ないな、連絡してみよう。

    [凪 誠士郎さん、御影玲王です。
    今日は父が無理を言ってしまったのか、いきなり面談のような形になってしまって申し訳なかったです。
    凪さんは以前私と面識があるそうで、申し上げにくいのですが、私は記憶になく…。
    宜しければ詳細を教えて貰ってもよろしいでしょうか。]

    なんて言い出せばいいかも分からず率直な気持ちを文字にして送ってみる。
    時計はテッペンを回っているし、電話したら迷惑だろうと考慮したからだった。

    予想に反して、すぐに既読がついた。

    [レオ文章硬い〜。
    ちなみに、俺レオと同い年ね、呼び捨てで大丈夫。
    レオが俺を覚えてないのはそれはそれで悲しいけど、覚えてなかったらなかったでやりたいことはあるしね。
    とりあえず、俺頑張れるからレオの好きなように試してみてよ、俺のBOSSはレオだ。]

    ふ〜ん、悪い気はしねぇけどなぁ、基本出来の悪い人間に期待はしない主義なんだよなぁ。特に、1回会ったようなやつ。

    ポン。

    なんだこのよく分からない生物のスタンプ。

    滾る俺!!
    ってなんだよ、
    「かわいーじゃん」
    くすっと笑けてしまう。

    [分かった、じゃあ凪で。
    早速だが、3日後に商品撮影の仕事入れてみるか。少し大きな仕事だな、これからの相手会社と継続契約できるか、みたいな仕事。
    初めてにしては重いか?]

    [ううん、大丈夫。俺頑張るから、レオもいるし]

    なんか子供みてぇだな、凪って。
    まぁ今回の仕事は1人で受けてもらうつもりだけどな。
    [まぁ、俺と撮影って訳じゃないけどな!
    最後に顔だして出来た写真の確認だけするけど…]

    [え、レオいないの??]

    [仕方ねぇだろ?今回は1人で良いらしいし、この御影玲王がデビュー撮影を見守る時間取ってやるんだぞ?]

    冗談半分本気半分。忙しいのは確かだ。ほんとは新人の撮影を見守るなんて事、した事ない。ただの興味だ。

    [そうだね、OK、BOSS。俺頑張るから見ててよ。]

    BOSSって呼ばれると何故か心がうずうずする。今まで呼ばれなかった訳じゃない。学校の友人にふざけて呼ばれたことはあるけど、何か、違う。ワクワクするような、嬉しいような、なんとも言えない引っかかる気持ち。

    [頼んだぞ!凪!]

    頑張る俺!
    のスタンプが返されてやり取りが終わった。

    3日後か…。お手並み拝見だな。

    それにしても、こんなになんにも考えずにやり取りしたの久しぶりだな。
    凪誠士郎、凪誠士郎か。

    いい!!面白い!!
    ベッドの上でゴロゴロと転がる。
    ワクワクするんだ、本当に。何故かやってくれるような気がして。

    俺の空っぽな心を埋めてくれるような、そんな予感がして……。



    「それでは、凪さんはメイク室へ」

    あれから3日後、連絡はたまに取っていた。
    というか、凪が頻繁にレオこれ好きそうとか、練習頑張った、とかいって俺好みの飯だったり、筋トレ頑張った画像だったり、送ってきていただけだが。
    俺は普通に仕事があり、忙しない日々だったが凪からの連絡を見るとちょっと穏やかな気持ちになっていた。
    ほんとだ、俺好きそうだな!美味そう!
    頑張ったな!とかたわいも無いやり取りを続けているのが、何となく楽しかった。

    久しぶりにあった凪はあの日と変わらず、かっこよかった。
    撮影のために色々顔に塗るのめんどくさ〜い。って連絡があったのを思い出す。
    ばあやに毎日のやることリストのひとつに肌の管理があったらしい。

    きめ細かい、白い肌。ほんと顔が良いな。

    「レオ〜、メイク室まで来てよ〜」

    「ん、いや、俺は挨拶回りあるから行ってくるわ」

    えぇ、と言いながら明らかに気落ちしてるのが分かる。計算されている表情ではなく本当にガッカリしている。もし、犬のように耳としっぽが生えていたらしゅん、と下がっていることだろう。
    「大丈夫だろ?凪。ちゃんとここにいっから、な?」
    わしゃわしゃっと髪が崩れない程度に頭を撫でる。

    「っ!?……レオ!?」
    え?頭を撫でたその手を掴まれる。
    「え、あ、ごめん、嫌だったか?」
    距離感を間違えたのかもしれない。今までこんなことなかったのに。ちょっと心がモヤッとする。手が勝手に伸びていたのだから仕方ない。

    「い、嫌じゃない。撫でてて、」
    凪は掴んだ俺の手をもう一度頭の上に置いて頭を擦り付けるようにした。
    「お、おう……」
    撫でて、と言われて撫でていると変に恥ずかしくなって、鼓動が早くなってるのを感じた。

    「あ、あの〜、そろそろ凪さん大丈夫ですか?」
    明らかに気まづいと声色に現れているメイクさんが声をかけてきた。
    「あ、すいません!!凪!ほら、いってこい」
    「ん〜、じゅうでんかんりょー、いってきます」

    メイク室に行く凪を見送る……。

    あぁ!もう!俺何やってんだよ!!
    会って2回目の相手の頭撫でて、ぼーっとして関係者の方に気を使わせるなんて……。一生の不覚すぎるぞ、御影玲王。

    とりあえず気を引き締めろ、という意志を込めて顔をパンと叩く。顔は商売道具なので本当に軽くだが。

    俺は俺の仕事をしなくては。
    とりあえず凪が来るまで挨拶回りをしよう。
    コネを作るためにも大事だ。

    幸い今日のカメラマンは若く、俺も何回か仕事している。腕は確かだ。
    他の方にも挨拶しないと…。






    「凪さん現場入りまーす」
    挨拶回りを終えて、凪が来るのを待っていた。


    俺がそこで見たのは、類まれなる才能の原石だった。
    あれは、化ける。いや、既に化けている。
    本能で察する。


    「まじかよ……。」


    今回の撮影はアクセサリーの撮影。
    服は輝かせなくていい。それなのに、あいつが着ているだけで服がメインだと錯覚する。
    甘く整った顔、完璧な等身、片方をかきあげたヘアスタイル。
    タダでさえ脚が長いのにジョッパーズパンツで脚長効果。男らしい雰囲気の黒のインナー、黒のモッズコート。
    着こなしてる……。

    「レオ〜、ど〜?」
    緩く1周回る。回転軸が残り引き足もできてる。
    回り方で相当ばぁやに訓練されたのが分かる。体に染み付いてんな。

    「い、いいぞ、かっこいい…。」
    「まじ?やった〜」

    本当に、お世辞抜きでかっこいいのだ…。いや、カッコよすぎる。なんだコイツ。輝いてんじゃねぇか。
    今日はもう車で待機しながら勉強して最後だけ顔出してやろうと思っていた。
    しかし、俺の心がそんなことどうでも良いと言っている。こいつの撮影を見たい。心にあるのはただその感情だけだった。

    「凪…」
    「ん〜?どったのレオ」
    「お前の撮影見ててやる。」
    「え?いいの?」
    「お前の撮影、見たくなったから…」

    こんな事人生で言ったことないので少し恥ずかしい…。

    凪の顔が一気に明るくなる。
    しっぽがあったらブンブン振っている感じだ。

    「やった〜、俺、頑張るね、ちゃんと見てて」
    「おう。見せてみろよ、お前の実力」



    凪が撮影するのは、イヤーカフ、ブレスレット、リング、時計…など小物が多い。
    全身は写らない撮影が多いだろう。その代わりポーズ数も限られてくる、その限られた中でどれだけ託された物を魅せられるかが勝負…。

    普段面倒臭いしか言わないが彼はこの事が分かっているのだろうか、素材がいいと言えど、思考力は、やはり場数がものを言う。

    張り詰めた空気の中、カメラマンの声とシャッター音だけが鳴り響く。


    心配なんて、一切要らなかった……。
    凪は完璧に魅せてみた。
    どの小物も良い判断でポージングしている。それだけではなく、彼の視線とオーラが、魅了する所以になっている。
    さっきまできゅるきゅると可愛らしい目をしていたのに、今は射抜く様な…カメラを超えて俺まで届くぐらいじっと見つめている。

    カメラマンに目線を外してと言われると、射抜くような視線を横に流したり、敢えて伏し目で儚い雰囲気を醸し出したり。
    彼は上手い。これが本当に初めての撮影か疑うくらい、何を求められているのか、自分の強みはなんなのか理解している。

    しかも、モデルとして指先まで出来上がっている。ばぁやの毎日のやる事リストにあったのだろうか…男らしい節がありつつ、太すぎない、長い指。細部まで整った爪。
    こんな小さな努力まで、誰が気づけるだろうか。彼は俺に会うために本当に努力したんだな…。

    彼に心を奪われている。そう直感で悟った。
    どのくらいばぁやが鍛えたのかは分からない。だけど、これは才能だ、類稀なる…才能だ。
    この才能が欲しい、こいつとならもっと仕事がふやせる、一緒に仕事ができる。

    そう思いながらカメラマンが良しと言うまで、玲王は凪を見つめていた。



    「おっけー!いい感じで撮れたよ〜!
    1回チェック入ろうね〜!」

    「あ〜疲れた〜、本当に撮られるって精神削るんだね〜」
    凪がブースから出てきた。
    俺は凪に駆け寄る。

    「お前!!!」
    「うわっ、どうしたのレオ?なんか俺やっちゃった?」
    「お前、撮られるの初めてだったのか!?」
    「え?う、うん。」

    まじか…。なんで、どうして、こんなにっ…。

    「お前、ばぁやにどんな鍛錬積まされたんだよ…」
    「レオの隣に立てるように頑張ったんだよ」
    俺の両手を凪が取る。ドキッと胸が驚く。
    凪の目に見つめられると、不思議な気分になる。
    「あ、ありがとう…?」
    なんて言えばいいか分からない。こんな俺は初めてだ。いつもだったらこんなの、簡単に流せるのに…。


    「あの〜、ごめんねナギくん?
    ここの部分なんだけどさ〜」
    カメラマンが俺と凪の間から話しかけてきた。

    「あっ、すみません!ほら!凪!」
    「はーい」

    凪は俺の手を取りながら顔だけカメラマンに向ける。あとで礼儀だけ教えないとな。

    「ここさぁ、めっちゃいいんだけど、もうちょっとなんか足らない感じがするんだよなぁ、どう思う?あ、レオくんの意見も聞いちゃっていい感じ?」

    「え、あ、はい!
    そうですね…………僕だったら…可能だったらもう1人用意しますね。彼、凪が持っている雰囲気的に男性用ブライドですが女性受けのいい雰囲気も作れると思います。」

    「そうなんだよねー!!そー!そー!
    まさにそれ!僕が欲してた物!!ハンドモデルいるかなぁ……手だけ……手だけ…」

    ここのビルの他のスタジオにも今日撮影してる人はいるだろう。探せば誰か……

    「レオ、やればいいじゃん」
    「「え??」」

    ずっと黙って聞いていた凪がふと、言葉を漏らした。
    俺?まぁ、世に出せないような身体の管理はしてないけれど…。

    「んーー、そりゃ出てくれたら嬉しいけどなぁ、僕は。
    ちゃんとギャラは出すよ僕のポケットマネーだけど…」
    彼の良い所は拘りの強い所だ。撮影現場で即クビにするとか、逆に次の撮影まで決まるとか、よくあることだ。
    そんな所を俺はとても気に入っている。

    「もちろん、僕も大丈夫ですよ。
    短い時間になってしまいますが…」
    元々凪の撮影がどれだけ伸びるか分からなかったので、時間は多めに取ってある。
    ただの手、されど手だ。凪の手が手入れされてるのと同様、俺だって日々の手入れは欠かしてない。凪よりは少し柔らかく角張っては無い。
    まぁ、悪くはないだろう。

    「え!いいの!じゃあ早速撮っちゃおっか?
    レオくんなんか最終調整したかったらメイクさんに頼んで〜!ナギくんも調整入って〜」

    「分かりました。」



    まさか凪の初めての撮影で共演するとは…。
    メイクさんにヤスリを借りて軽く磨く。
    大丈夫だ。完璧だ。ちゃんと出来るな。
    「凪くん、玲王くん準備出来ました!」

    メイクさんに言われて、ブースへ送り出される。
    「凪、やるぞ」
    「うん、レオと仕事できる、俺頑張るね」



    ふーっと息を吐いて凪の目の前に立つ。
    カメラの位置を確認。凪が目の前に跪く。
    凪が俺の片手を取る。
    これは……どこかの国の王子様なんじゃないかと思ってしまう。
    いけない、撮影中に関係ない事を考えるなんて…。

    凪の顔がよく見える位置で、手が綺麗に見えるように……。

    よし、いい位置。
    シャッターを切る音が聞こえる。

    「……すみません」
    「ちょっ、凪?」

    凪が急に立ち上がった。
    撮影する物が置いてあるラックまで行くと、何かを手に取って戻ってくる。

    「撮ってください。」
    「りょ〜かい」
    カメラマンさんも気にしてないようだ。
    また、俺の前に跪いて手を取る、一瞬緊張感が抜けてしまった。もう一度集中し直す。

    また、シャッター音が響く。
    凪がおもむろにもう片方の手を引き出す。
    その手には撮影用のリングが握られていた。
    俺が出しているのは左手。その薬指にリングをっ……。
    こ、こいつ!!!何してんだ!?!?
    凪はそっと俺の指にリングを嵌めて満足そうな顔をした。
    良かった、手だけしか写ってなくて、右手で顔を抑える、今の俺の顔……絶対情けない顔してる!

    凪が俺の顔を上目遣いで見つめる。
    もう、なんなんだ、その顔!!可愛い!かっこいい!!ダメだ、集中しなきゃ、てかなんだよ急にリング嵌めるとか、もう……。

    「OKー!!!完璧だよナギくん!!」
    「あざまーす」

    凪はまだ俺の手を握っている。

    「…………凪ぃ!なんだよ急に撮影中立ち上がるとか!!」
    「……そこかぁ……。まぁ、上手くいったんだからいいんじゃん?」

    まだ心臓がバクバクしてる。
    俺の左手にはまだ凪に嵌められた指輪が残っている。
    自分で外してラックの上に戻す。
    なんだよ急に、飄々としやがって!

    まだ耳が熱い……。
    時計を確認すると案外時間が過ぎていた。

    「それじゃあ、僕は用事があるので先に失礼します。凪のマネージャーを付けておいたので、修正等はそちらにお願いします。」

    「凪、お前もメイク落としとか、挨拶回りとかしろよ?」
    「うぇ〜、めんどくさぁい、いいじゃん、挨拶回りはレオがやってくれたし……」
    「モデルは基本個人の活動なんだから、俺がいなくても1人で仕事取れるようにすんの!分かった?頑張ったら褒めてやるから」

    ちょっとぐらいだったらいいだろうと、整ってる髪を軽く撫でる。

    「ん〜レオがそう言うなら頑張る……」


    後は凪のマネージャーとして用意していた人に任せて俺はばぁやを呼ぶ。

    車の中で今度務める主演ドラマの台本を読み、もう1つのドラマの原作漫画を読み、一応高校の勉強をしておく。

    やることも終わったし、自室に戻ってスマホを開く。
    お偉いさんからの、メールを返し、スケジュール調整する。
    よし!!今日も終わった!!
    仕事を片付けてる最中でも頭にあるのは凪誠士郎の事だった。


    「かっこよかったな……」
    肩まで湯に浸かりながら今日の撮影を思い出す。
    チャポッ……。
    左手を出してじーっと見つめる。
    俺を見つめる凪の顔を思い出す。
    ぶくぶくぶく。
    普段だったら絶対しないけど、頭まで湯に浸かる。この熱さはきっとお湯のせいだ!、と自分に言い訳をして。




    「ふーっ。逆上せちまったなぁ」
    自分の株の確認をしようと私用のスマホを開くと凪から連絡が来ていた。


    [ねぇ、レオ聞いてよ〜、俺、レオのストーカーだったらしい、ごめん]

    はっ?…………こいつ何言ってんだよ。
    今まで心を支配していたぬるま湯がすーーっと抜けていく感覚がする。

    [どういうことだよ、分かるように説明しろ]

    そう返信すると、即既読が付いて、通話画面が表示された。

    「はい、もしもし」
    「あ、レオ!!
    聞いてよ〜、今日「ストーカーってどういうことだよ」

    声にイラつきが現れているのが自分でも分かる。結局、結局、結局!!!こいつも周りの人間と同じ……でも、でも、それでも俺は通話を切る事が出来ない。

    「あのね、今日撮ってくれた人になんでナギくんはモデルを始めたんだ?って聞かれてレオとの事話したの〜、そしたらそれは大層なストーカーだねって言われて……俺、自分じゃ気づいてなかったから……」
    「それを俺に伝えてどうして欲しいんだよ、警察に突きつけて欲しいのか?」

    「え、レオが嫌だったら……辞める。でも、俺は……レオの隣にいたい、レオがいいなら。レオのパパさんの言う通り2週間後の仕事まで、レオの好きなようにしていいから……」

    俺のストーカーと言えど、努力は確か。才能も確か、冷静に考えてこいつが俺の事務所に入れば、俺と並んで二大巨頭になれるレベルだ。今捨てるには惜しい存在。
    しかも、自分でストーカーだと言ってしまう純粋さ、俺に対して裏表があるようには見えない。

    さらに、俺は……凪 誠士郎という男に落ちている気がする。とにかく外見が良すぎるだろ!!めんどくさいとか言いつつ俺の為に努力してくれてんの可愛いすぎるし!才能があるといえど、身体のメンテナンスは欠かしてねぇし!!

    「俺、レオの為ならなんでも出来るよ。」
    電話越しでも分かる蜂蜜をもっと煮詰めたような甘ったるい声が俺を揺さぶってくる。

    「……分かった、1回俺のストーカーどうとかは置いて考えてやる。お前の実力は確かだからな」
    「良かったぁ、レオに捨てるかと思った」
    「変な言い方すんなよ!
    まぁ、勝負は2週間後だし、それまでは色んな仕事こなしてもらうからな!!分かったか?」
    「YES、ボース」



    こうして俺たちは通話を終えた。




    ついに来た。あの通話から2週間後。
    有名ブランドの撮影だ。

    この2週間で凪には色んな仕事を任せた。ショーモデル、スチールモデル、両方出来るようにさせた。特にあの日の俺の手が入った写真は評判が良かった。凪のポートレートとして持っていくのだが、あの無表情の凪の表情と雰囲気がよく褒められるのだ。
    他の可能性も見るために演技、歌、ダンス、色々やらせた。

    結果、どれをとっても凪はよく出来ていた。天才だった。
    表情筋は課題だが、身体の使い方が上手い。
    特に驚いたのは演技だ、自分に合う役をやれば伸びそうだ、アクションだってできる。
    190cm越えの身長を上手く使ってランウェイも上手く歩く。
    ずっと、ずっと、2週間、俺は凪に驚かされ、心を動かされ続けている……。


    「玲王さん入りますっ!」

    今日のスタジオや撮影陣は皆レベルの高い人達だ。この人達なら凪誠士郎の魅力をもっと引き出してくれるだろう。
    ......……凪 誠士郎のレベルは底なしだ。
    彼をもっと見たい。


    「凪さん入りま〜すっ!」
    さぁ、凪、初めての俺との正式な仕事

    「お疲れ様です。」
    淡々といつも通りのマイペースで入ってきた彼はこの3週間で見たどの凪よりも……。

    「レオ〜......お疲れ〜」
    目の前にヒョコっと現れる。
    目の前に、顔がっ......

    「顔が...いい...............」
    あまりに凪の顔が良すぎてぼーっとしてしまった。近くからは花系ではないがスーっとしつつ甘い匂い。辛めの香水を付けていると勝手に思っていたけど、これはこれで合う。......違う違うそんなこと考えてる暇じゃなくて。

    「凪!今日で全てが決まるだ、気合い入ってるか?」

    「気合いかどうかは分からないけど、レオとお仕事できる機会がこれから無いっていうのは嫌だから、頑張るね。」

    急にぎゅーーっと抱きしめてきた。
    あの通話から凪が撫でて欲しいと言うとか抱きしめるとかはしなかった。
    俺が撫でたいから撫でた事はあったが……。

    「凪くーん!メイクだよっ!!」
    「あ、呼ばれた。行ってくるね」
    メイクさんに呼ばれて離れる。

    ドクドク...聞きなれない音がして息を止めた。
    ドクドク...心臓の音が...する。
    俺、この調子じゃ……。
    もう気づいてるんじゃないのか、うっすらと気づいた自分の心に今は蓋をする。

    「玲王さーん!メイクどうぞ〜!」
    「はい」



    「レオくん珍しいね〜、どうしたの??珍しい...どころじゃないか、初めてか、こんなに肩入れしてるの。業界でも噂されてるよ〜玲王くんが飼ってるスーパードッグ。凪誠士郎。
    心境の変化でもあった??」
    「そうですね、少なくとも俺の中では彼は原石だと思ってます。色んな面で……彼ほどの人、見たことないから。」

    「さすがトップモデルだね〜。いい感♩
    あの子、化けるよ。それもすっごくね。
    今は新人だからかけれるお金にも限界があるだろうけど...。全力でプロデュースすれば最強、トップどころじゃない、伝説並。だからレオくんがここまでお金かけるのも納得」
    「あなたもそう思うなら、さらに自信がつきますね。」

    この人はトップメイクアーティスト。
    俺が小さい頃から大事な仕事の時にお世話になっている。
    海外のモデルなど大手の芸能人を手掛ける、目利きな..…….所謂すごい人だ。
    そんな人にここまで言われる凪 誠士郎。
    やっぱり俺の目に狂いはなかった!!
    彼は世界を目指せる、俺と、一緒に……。
    人と仕事ができる。


    「あら?レオくん、気づいてる?...鏡」
    「え?」

    声をかけられて鏡を見る。
    そこには完璧にメイクされてうっすらと微笑んでる自分。

    と、奥に目を真ん丸にして棒立ちになっている凪。

    「凪くんはレオくんの事変えちゃうかもね、はいできた。」
    くるっと椅子を回されて凪の方に向かされる。

    すると、凪は目の前に来て跪いて...
    「レオ……好き」




    「は??」







    「え、何?急に......」

    頭が混乱する。これは誰でも混乱するだろう...。
    俺の前に跪いた凪は俺をぽーっと見ている。
    そしてはっと気づいたように...

    「っ!...あ、いや、なんでもない……ちょっと...綺麗すぎてびっくりした...……マジで似合ってる」

    気まずそうな、申し訳なさそうな顔で首に手を当てて焦っていて、更に混乱する。
    こんなこと皆に言われてきたのにこの3週間で初めて褒められたから驚いてしまう。

    そしてしゃがんでいたから意識してなかったのだが、凪も準備が終わっていたようで......

    跪いていい人間じゃねぇだろ!
    前回の撮影がフラッシュバックしてっ……。
    俺の凪、かっこよすぎねぇか?

    今回の仕事は、今まで着たことがないであろうスタイリッシュなスーツの宣伝の凪だ...。相乗効果で、容姿が、いつもと比べものにならない。

    「ちょっと...レオくん?」

    メイクさんに名前を呼ばれてはっとする。
    「え、あぁ、ありがとう、?凪……?」
    さも何もなかったかの様に言う。
    「凪も.....」
    かっこいいと言おうとして言葉を飲み込む。この凪に対してあまりも陳腐な言葉だ。でも、
    「……かっこよくて、ビックリした……」
    結局なにが1番当てはまるか分からなくなって酷く陳腐な言葉を投げてしまった...。
    それでも、
    「レオ、俺かっこいい?」と目を輝かしながら聞いてくるから救いようがない...。


    「レオくん!凪くん!もう撮影よ、ニマニマしてないで行ってらっしゃいっ!!」
    そう言われて……
    俺がニマニマ!?と思って、鏡に映った自分を見る。

    っ......ニマニマしている...

    調子狂うな...。と思いつつ、表情を直す。
    水を一口飲んで、撮影場所に向かった。






    今回の仕事はスーツをいかに魅力的に魅せるか。自分をいかに着飾るかではない。自分を使ってスーツを飾る。それが仕事。それがモデル。それがトップ。


    ...そうだと分かっているのに。頭では分かっているのに...。
    なぜ、なぜ、なぜ...。
    なぜ凪誠士郎という男は自分を飾ってここまでの光を放つ?

    自分の番が直ぐにくるにも関わらず、凪を眺めてしまう。
    シャッターが切られる度に変わるポーズ。スーツじゃなくて瞳に視線がいってしまう。あの日と同じだ。
    ハイライトの無い流し目、独特な張り詰めた雰囲気。純白のタキシードのような色をしているスーツと黒い瞳が合わさって、冷徹で上品な様が出来上がる。
    花束をもつ姿は世界的に活躍するトップモデルそのものだった。

    ブレスレットを触る仕草すら色っぽい。後ろを向いて繊細な柄を見せる。服の魅せ方もちゃんと理解している。
    そこにいつもの面倒くさがり屋の面影は一切ない。
    カメラマンも黙って一定の感覚でシャッターを切る。その場にいる全員が凪誠士郎が醸す空気に飲まれている。撮影現場が静かになる事なんて無い。誰かが忙しなく動いている、はずなのに。

    きっちり50枚。
    全てポージングが違う。50枚全部だ。さらに全てスーツの魅力と自分の魅力を引き出している。指示もされてないのに。
    素人でこれは...ありえない。

    「OK...」

    ボソッと、カメラマンの一言。

    「あざます〜」

    さっきの空気が嘘みたいにホンワカする。
    凪が疲れた〜と俺に駆け寄ってきたからだ。
    トップになってカメラマンにお礼をする人は数少ない。普段笑わないカメラマンが驚いて笑う。
    「すごく、上手だったよ。凪くん」
    他の人が唖然とする。
    「頑張りました〜」

    もう何が何だか分からない。
    いや、皆分からないだろう。才能?努力?なんでもいい、何者なんだ。前の撮影も上手かったが、もうひと段階成長してる。

    「レオ〜褒めて〜」
    「よ、よくやったなぁ、凪、偉いぞ〜!」
    俺が近づくと、凪の雰囲気がもっと柔らかくなる。

    なんで凪を先にしてしまったんだろう...。今のこの感情のまま撮影できるのか、
    「次、レオの番、見てもいい?」
    また首をコテンと傾げる。
    どうやら俺はこの顔に弱いらしい。
    「いいぞ、しっかり見てろよ?」
    俺は俺で、完璧にこなせばいいだけだ。
    お願いします。と言ってスーツのジャケットを羽織る。

    いつも通り、服を飾る。1番この服のいい所を魅せる。それが仕事だから。
    ポーズが被らないように...って、凪も意識したのか?...どういう感情でこのまでの仕事を承諾してくれて、どう思いで凪は撮影をしていたんだろう。いつの間にか凪に気がいってしまうので意識して撮影に集中する。


    何も言われないでシャッター音が止む。
    いつもの事ではあるが1発でとれて良かったとほっとする。
    「玲王くんも、OK...」
    カメラマンが言う。
    「ありがとうございます。」
    まだ凪がいるかと思ったけどメイクさんに呼ばれて衣装替えをしているようだ。
    このまま交代で撮って最後に二人...という順番らしい。
    衣装を変えないとっと思って、袖に捌ける。
    衣装を変えた凪とすれ違う。
    また雰囲気が変わってメイクも変えたんだな、と思う。
    そんなことを考えていたら、メイクさんと衣装の人がプルプルと震えているのが目に入った。

    「大丈夫...ですか?」
    一声かけると顔をバッとあげて

    「仕事...たのじぃい!!!!」
    っと同時に脱力している。

    「凪くん新人!?新人さん!?新人さんらしさはあるよね!?初々しいよね!?何あの顔面!身長!.....……何して生きてたの!!はぁ、やばい、仕事が久々に楽しく感じるわ、ピリピリしてないし……しかも、レオくんの事好きすぎ!!ずっとレオくんの事見つめててメイク直すの大変だったんだから〜!!」

    と...。こちらが引く勢いで熱弁する。
    「あ、あはは、それはすみません。
    凪は一応新人なんですけど今は俺が面倒見てて……やっぱ凪、良いと思いますか。」

    「御影さんが!?どうしたんですか!?でも、あの子、やばいよね〜!ほんとに新人?あの撮られ慣れ方ベテランのトップモデルと変わんなーい!あの子が撮られてる時なんか...何も言えなかったもん!」
    そうそうと2人して言う。

    それは自分も思った。
    独特な雰囲気..……天性の才能と、俺のための努力。俺は自分の宝物が褒められた気がして高揚した。

    「とりあえず、俺も直してもらっていいですか?」

    喋っていて気づかなかったがまだ次の準備が出来ていない。
    「あっ!すみません!早急に終わらせます!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    そこから三四着、着替えた。凪は撮影の雰囲気になれてきて、元々感じなかった緊張が完全にゼロになっているようだ。さらにコツを掴んできたようで楽しんでいるようにさえ見える。

    俺もそれに煽られて若干ノってしまっている気がする。いつも心が空っぽになりながらと撮られてるだけなのに……。

    大量に写真を撮って、2人とも一休憩に入る。
    凪がパタパタ近ずいて来た。
    「レオ!お疲れ。俺うまくできてる?大丈夫?レオの撮影見てたけどやっぱレオはかっくいーね、レオがモデルやってるの初めて見たんだけどさ〜」


    上手くできすぎてるぐらいだ。
    と心の中で呟く。
    というか、ストーカーやってる癖に初めて見たのか……俺の事。結構街中で撮影してたりするんだけどな……

    「次は2人で撮るんだよね?
    レオと一緒に仕事が出来るってことだよね?」

    凪が少し、ワクワク?している気がする。
    正直言うと、俺は凄くワクワクしている。

    「そうだな!やるぞ!凪!」
    「……うん」

    そんな会話をして衣装を変えに行った。


    メイクも完璧。衣装も完璧。
    自分に似合うというのか、自分が服に合ってるというのか...。悪くない、似合わないなんて事ありえないが……今日に合わせて絞ってきたかいがあったなぁ。

    凪と2人で写る。最初で最後になってしまうのか……それとも……。
    これで決まるのか、凪の今後が……。
    絶対いいものにする。
    親父からは凪の継続契約の条件は聞いていない。捨てるのは勿体ない才能だと思って、連絡したが、まだ凪くんは条件を満たしていないと一蹴されてしまった。



    「玲王さんと凪さん入りまーす!」

    2人のスーツの色は真逆だった。
    凪は1人の撮影の時に着ていた真っ白いスーツとはイメージが変わって真っ黒なスーツだ。それにアメジストの宝石が入っているボタン、金の刺繍。白い肌と髪から反射された光を吸収して深みが出ている。
    俺のスーツは真逆、真っ白な光沢のある生地に、銀の刺繍、ボタンにはブラックダイアモンドがあしらわれている。まるで俺たち専用の衣装みたいだ。
    そして耳元にはワンポイントでお互いの目の色の宝石が光っていた。

    今回の仕事は俺がやったなかでも割と大きい仕事だ……。
    1人じゃ出来ないこの仕事、最初は断ったのだが、親父は凪がいるからこの仕事を取っておいたんだろう。
    それぐらいの期待を凪に寄せてるということ。それぐらいの能力が凪にあるということ。
    早く完成した写真を見たい。

    この人間は本物なんだと、この人間は輝いていると...それを引き出したのは自分であるということを実感したい。
    あぁ、早く撮りたい。ほんとに調子が狂うな...。
    "楽しい"という感情が自分の心を支配する。
    こんな気持ちは初めてで………。

    「レオ?」

    今日何度目だろうか、整った顔が目の前に現れて、俺を見つめる

    「レオ、なんで笑ったの??」
    「え?」
    「レオ、なんで今笑ったの??……いや、これはずるいか、なんでもない。」
    「え?……ん?おう、なんだよお前、へんなやつ!」

    急に凪がこちらを見つめてブツブツ言い出した。俺の一挙一動に対して反応した凪が面白くて笑ってしまう。

    「…………!!、レオ笑った……」
    凪は目を見開いて俺を見つめた。
    「なんだよ、俺だって面白きゃ笑うぞ?
    ほら!本番!切り替えろ!」
    若干不機嫌な声で言ってしまったと思ったけどしょうがない。そんな幽霊でも見たような顔しなくてもいいだろ、俺笑うぞ?結構。

    「ん、はーい」
    まるで語尾に♡が付く勢いで返事される。
    機嫌いいな
    「何なんだよ、お前、機嫌いいな」
    「レオとここにいること、レオと同じ現場にいることが嬉しいからだよ」
    手を取られ、目線を無理やり合わされて食い気味に答えられる。
    それに返す言葉が無くてとりあえず「お、おう」と一言言って顔を逸らしてしまった。

    「レオ、俺頑張るから」
    凪は手をギュッと握って優しい顔をして言う。
    もう、3週間でよく分かった。
    頑張るから、の前にはレオの為にが付くってこと……。
    クラクラする、目を合わせてなくて良かった。目が合っていたと思うと...少し恐怖を感じた。

    「ほら!顔引き締めろ!行くぞ!」








    2人がブースに入った瞬間空気が変わる。

    カメラが向けられる。

    どうしてくれなんて指示はない、ただ二人が思うままのポーズをとる。

    最初に用意された小物を手に取る。俺はガラスでできたサイコロを手のひらで転がす。それを掬うように凪は指で挟む。ただのガラスがダイヤモンドみたいに輝く。誰も何も喋りはしない。
    雰囲気が全てを飲み込んでいく。俺と凪の空気がこの撮影場所を支配している。
    凪は配置されたソファへ俺の手を引いて俺を座らせる。
    肩口から凪の気配がして首を傾けて目を合わせる。ここで目線だろ、凪も分かっているかのようにカメラに目線を送る。
    凪は俺の手を口元に持っていって口付けする振りをする。多分手から上をワイプするのだろう。
    凪の感覚が手に取るように分かる、なんだこれ、不思議だ。
    俺がどう魅せたいのか、凪がどう魅せたいのか、両者とも心が通じあってるかのように身体を任せる。まじかよ、なんだよこれ。
    2人で立って撮影、後ろに下がるタイミングも首の角度、指の先まで、完璧だ。
    今度は2人でソファに座る。凪の肩口に寄りかかる、この方がアップでもクローズでも収まりがいい……。


    …………。何枚かなんて分からない、50枚?100枚?どうでもいい。一言も喋らなくてもカメラが全てを収めていく。ただ撮っている間は気持ちが良かった。それだけだった。自分が生み出したアイデアを凪が攪拌して広げる。その逆も。
    ただただ気持ちいい、楽しい。それだけ。



    ライトが消える。

    「お疲れ様」

    カメラマンがカメラをそっと下ろす。

    「いいのが撮れたよ。一番...」

    彼が一番という言葉を使う事がどれだけ凄いか。俺はこれでもトップモデルだ。結構の場数も踏んできた。それを捨てても今のが一番だってこと。これが凄いって事は誰にでも分かるだろう。

    「お疲れ〜、レオ、めっちゃ気持ちよかった、レオ、俺、なんかめっちゃ……脳みそに溢れて、それで……」
    「俺も、」

    「え??」

    「俺も、気持ちよくって、楽しかった!!」

    凪は不意をつかれた様な顔をして振り向いた。

    「え...レオ、楽しかったの?撮影...嬉しかったの??」

    ワナワナしながら言う凪が面白い。
    心の底から、本当に、楽しかった。こんなの初めてだ。自分の思う事が相手に伝わってまさに以心伝心!!しかもそれを実現できるポテンシャル!!

    「こんなの、初めてだ……最高だった、楽しかったぞ!凪!!」

    特大の笑顔を凪に見つめて言う。

    「あの、レオ!!話したいことがあるんだ、あの、だから……その、ご飯行かない??……ですか......」

    徐々に勢いが無くなる凪が面白い。
    でも俺の頭の中にはただ1つ、こいつの契約を継続させること。それだけが脳みそにあった。


    「ご飯はいいけど……凪、お前の契約継続の為に親父に直談判してくる。お前の才能は絶対に腐らせない!」

    「っ!!あ、えっと、レオ!その事なんだけど……俺の契約継続についてもレオのパパさんから言われてて、とにかく今日、来れない?」
    「親父から?」
    幸い、今夜は空いている、予定を詰めようと思ったらばぁやが今日は休むことが課題と言っていたから。
    「とにかく……分かった。ばぁやに確認取る。」

    ばぁやに「もちろんです。ご友人とのお時間も大切にしてください」と言われて、それを凪に伝えると、凪はやったぁっと言って抱きついてきた。

    「よし、じゃあ解散作業して、また駐車場集合な?」

    「了解〜」
    そう言って別々に更衣室に戻った。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「ごめんな!待ったか?!」
    「んーん、大丈夫、俺も今出てきたとこだし。」
    なんだこのやり取りむず痒い。


    「えーと、それで行く場所は決まってんのか?行く宛てないなら俺が選ぶけど……」
    「んー、いや、大丈夫。教えてもらった。タクシー呼んどいたからそれで」

    丁度タクシーが着いて凪に手を引かれる。
    え、こいつエスコートとか出来んの!?
    普段ご飯めんどくさーって連絡してくんのに!?ここら辺一帯、結構値段張る店多いし、だ、大丈夫なのか!?

    「レオそわそわしすぎ〜……大丈夫、だと思う……多分、予約できた?と思う。」
    俺の方確認して自信なさげな顔していう凪。
    自分の年齢と近い人間にエスコートされて出かける事はほとんどない。芸能学校で出来た友人達も自分が主導権を握っている事が多いからだ。

    「……カラオケとかで良かったのに…」
    「いや、それはまた今度、遊び行こ?
    今日は大事な話があるから、ちゃんとしたとこで……」
    次の約束も取り付けられてしまった……。
    でも、なんか友達みたいでいい!!

    「おう!行こうな?」
    凪から言ってくれたのが嬉しくて、小指を差し出す。
    「ん、約束ね」
    凪も小指を絡ませた。

    そういえば、凪は、約束があるって言ってたな??ほぼ忘れかけてた。
    「あのさ、凪、お前が俺に会いに来た理由って何だったんだ?お前といつ会った?」
    「あーそれも後でちょっと話そーかなって思ってた。」
    「親父に直談判なんて、どんだけ俺の事好きなんだよ〜」
    肘で凪の腕をグリグリ押す。

    「………今は言いませーん。あ、着いた。」
    言わないってことは好きなのかよ……ふざけて言ったのに……。
    慣れない対応に戸惑っていると、目的地に着いたようだ。

    「え、おい、ここ」

    タクシーを降りて着いた場所を見上げるとそこは俺が小さい頃に世話になったホテルだ、少なくとも一般高校生が予約出来るホテルではない。


    「お、お前、なんで、ここっ……」

    「あ〜、ここ、教えてもらったんだよね……ばぁやさんに……」


    そう言って凪はスタスタ歩いていく。
    今日の撮影用で使ったスーツはそのまま買い取った……凪に似合ってたからだ……もちろん俺も……
    良かった、このホテルだったらこのぐらいのスーツが必要だった。あっぶねぇ。


    凪に案内された部屋は最上階のホテル一室、その階にはバー、サウナ、マッサージルーム、トレーニングルーム、様々な施設が設備されていた。自由に使えるようになってる。
    俺は小さい頃ここに来てもなんの感情も抱けなかった。綺麗な夜景を眺めて親父に、お前はこの光全てを手に入れる男になるんだ。と言われて、はい、とだけ答えた記憶がある。
    嫌な記憶だな……。




    「俺、こんなとこ泊まったの初めてだ〜、やべーね……というか、お腹空いたぁ……レオ〜頼んで〜」
    部屋に入った瞬間凪の体の力が一気に抜けたみたいだ。
    「レオ〜俺頑張った〜、撫でて〜」
    ふかふかのソファの上で足をバタバタさせて……。さっきまで俺をエスコートしてたとは思えないな??
    それでも俺といて肩の力をぬいてだらけてる凪を見て可愛いと思ってしまう。

    「ったく、しゃーねーな!どういうの食いてーんだ?頼んでやんよ?」
    「んーー、なんか食べるの簡単なやつ、疲れたから咀嚼するめんどくさぁ……あ、でもレオが食べさせてくれるならなんでもいい〜」
    「じゃあ、蟹でも食う?お前蟹食うのめんどくて嫌だって言ってたよな、今ならこの御影レオが剥いてやんよ?」
    「食べる、蟹、レオ食べさして?」
    ガバッと起き上がった凪の勢いが凄くて驚いてしまう。
    「お、おう、任せろ?」
    まぁ、凪が甘えてくるのは悪くない気分だ。
    バトラーを呼んで食事を申し付けた。

    「あのさ、凪?」
    やっぱり2人きりになると凪がなぜここに来たのか、とか、凪の契約継続についてが頭を過ぎる、
    「さっきも聞いたけど、なんでこの業界に来たんだ?」
    あれだけのポテンシャルがあるなら他になにか目標があって努力していたのかもしれない……

    元々アイドルになりたかったとか。違う事務所にいた、とか、もしかして金がない!?
    彼の身辺調査では、家系は何も問題なく、厄介な恋人関係もなし、更には友人関係だって大して出てこなかった。
    凪が俺の為に来たと言ったが、俺の何がそこまで……...不思議で仕方ない。



    「うーん、まぁ、いっか。もう言っちゃっても……。
    レオ気持ち悪いって言わないでよ?ストーカーっぽいのは自覚してるから。
    レオ……...覚えてないとは思うけど俺、レオと会ったことあるんだよね......」

    「前にも言ってたな?具体的にはどのくらい前だ?」
    「うーんと、確か小学生くらいだったかなぁ」
    小学生か……。微妙だな、こんな白髪の長身、入れば目立つはずだ……。全然思い出せない……。
    「くらいだったかなぁって覚えてないのかよ!俺と会ったならしっかり覚えとけよ!」
    凪のほっぺを掴んでむぎむぎする。
    「うぇ〜しかたないじゃん、俺だって最近思い出したんだもん」
    はぁ?何言ってんだ、思い出したからはい、会いに来ましたって、どういう神経してんだ?

    「……それでなんでめんどくさがり屋のお前がこんなことしちゃってんの?」
    「……レオがつまんなそ〜な顔してたから…」
    「え?」

    「俺、今までドラマとか見てなくて、見ても映画ぐらい?海外のやつ、あとアニメちょっと見たり……人にも興味なくて……このままぼーっと人生過ごすんだなぁって思ってた。
    けど、レオを見つけた。ぼーっと歩いてたらレオの広告を見つけんだ、それで昔のちっちゃいレオを思い出して……」

    「俺と会った時?のこと?」
    「そ、広告のレオがまだ、つまんなそうな顔してたから……」
    つまんなそう、つまんなそうってお前、俺は上手く隠してんのに……。
    「よく思い出したな、結構変わっただろ俺」
    「うーん、昔のレオは生意気な可愛い子供?って感じで今は綺麗で可愛くてかっくいーレオって感じ、てか、嫌でも忘れなくない?この顔」
    凪は優しく両手で俺の顔を包む。

    「嫌でもってなんだよ……てか、忘れてたんだろ?俺のこと」
    「いい意味でだよ、ほんとに……でもレオしか見てないから他の人の顔、認識出来なくなってる気がする……?どうしよう……。」
    な、何言ってんだ?こいつ?
    自分の言ってること分かってんのか??
    凪はなんの恥じらいも無しに俺の顔を掴んで言う。
    「でも、それがこんなに頑張る理由になんの?」
    「……俺にはなっちゃったんだよね、レオに隣にいてくれって言われちゃったから」
    え、俺が?いつそんな弱音を……。
    「……え?、あ、思い出した!!お前、黒髪前髪もじゃもじゃか!?!?」

    「え、なにそのあだ名……」
    そうだ思い出した、いや、でも、合ってんのか?でも俺がビビッときたのはあいつしかいない。
    「あーー、俺、白髪なの怒られて黒染めしてた頃か…………」
    凪がぽわぼわしながら言う。
    いや気づかないだろ!目も見えない、髪黒、身長も、声を違う……。
    「そりゃ、分かんねぇーって……」
    確かに俺の人生で、記憶に残っている子供だ。






    あれは俺が10歳ぐらいの頃か…。
    キッズモデル兼子役をしていた頃だ。

    俺はその歳でも多忙を極めていた。
    ドラマのメインキャスト、レギュラーを片っ端から務め、撮影が終わったらウォーキング練習、中学受験の為の勉強、語学、教養…。
    小さいうちは脳の吸収がいいから、なんて言って毎日毎日寝る間も惜しんで、何かをしていた。



    その日の撮影現場は大人達がバタバタしていた。
    流行病のせいで、共演する子役達がこぞって来れなくなったらしい。幸いメインの子達は体調管理の仕事のうちですよと言って来ていたが。
    監督曰く、画面の人数が足りないらしい。

    急遽、近所の子供で聞き分けがいい子をエキストラとして使うことが決まった。
    聞き分けがいいと言えど、所詮素人、というか、素人とも言えない。
    エキストラだから仕方ないが、玲王からしたら撮影が長引き、いい迷惑だ。

    しかもさっきからコソコソと俺を見ながら話している。そんなのもう慣れているが、本番中は流石に黙って欲しい。目が合って微笑むと悲鳴があがるし……。
    率直に言えば機嫌が悪かった。
    仕方ないと割り切って撮影を再開する。

    …?アイツ……もしかして…??

    撮影中ある1人の男の子に目がいった。
    黒髪で、目にかかるぐらいまで伸びた前髪。
    ただぼーっと立ってるだけ、監督に言われたことだ。エキストラってそういうもんだし。
    ただ、アイツ…


    「…君さ、わざとそこ立ってる?」
    「……?そうだけど、楽じゃんここ」

    やっぱり!!ここは全カメラの死角だ、今回のカメラは4つ。死角はほぼない。ここがエキストラが立っててもおかしくない尚且つ死角、唯一の場所っていってもいい。
    空間把握能力か…。

    「なんで、写らない?」
    「え、普通にめんどくさいじゃん…?別にドラマとかきょーみないし」
    「は?お前じゃあなんでここに…」
    「これに出たらゲーム買ってくれるっていうから」

    俺と話していてもこの落ち着きようなのに、子供らしい理由だ。

    「お前、才能あるんじゃね?子役」

    なんでこんな事言ったのか分からない、演技なんてこいつしてないのに、ただ立っていただけだ。

    「え〜めんどくさ〜、興味ない〜、まだ小学生だし」
    「俺は、お前みたいなやつと仕事したいよ」

    さっきから口が勝手に動く、本心から出てるんだ。聞き分けが良くて、空間把握能力があって、俺といても動じない余裕。
    なんかビビッと来たんだ。

    「………君は仕事好きなの?」
    「え?………」
    「さっきから楽しそーじゃないし、俺と同じ面倒くさそーな顔してる。」

    いや、そんなことは…ないとは言いきれない。でも、普通に大人が騙されてくれる程度には態度に出して無いはずだ。
    なんで分かったんだ…。

    「仕事……嫌いなんて言えない…」
    「俺は絶対働きたくな〜い、めんどくさいじゃん?ずっとぐたぐたして生きてた〜い」
    「…俺はつまんないことが嫌いなんだ、だからこれからも仕事は続ける。何もしないよりはましだからな。」
    「へー、大変なんだねぇ君、俺だったら絶対無理〜」
    「さっきから君、君、ってお前、俺の事知らねぇの?」
    「え、あ、ごめん。あんまテレビ見ないから…」

    まじか、こいつ俺の事知らねぇの??
    御影玲王を?
    「なんだよ、それ!」
    俺に擦り寄ってくる事も無い凪が珍しくて、笑ってしまう。だめだ、集中しなきゃ!


    「レオくーん!!準備出来たので次のシーンお願いしていい〜?」

    「っ!!はいっ!今行きます!」
    つい、喋りすぎてしまった。
    撮影はまだ半分も残ってる。

    「じゃあな、お前と仕事できれば、少しは俺も楽しめるのかな……」
    玲王はそういって黒髪前髪くんの名前を聞くことなくメインのシーンに移ったのだった。

    「レオっていうんだ…」

    そんな一言は玲王には聞こえてなかった。








    「あんな……一瞬じゃん……」
    「そーだよ、でも、俺の人生を動かすには十分だった……あの寂しそうなレオ見て大人になってもまだ、隣に立てる人がいない、そんなレオの隣に立って、もっかい笑って欲しいって思った……。
    小さい頃からなんでも出来たけど、もしかしたらこれってレオの隣にいるため何じゃないのかなって……簡単に言うと運命なんじゃないかって……気づいたらレオのパパさんのとこ行ってた。
    …………引いた?」



    一生懸命に紡ぐ言葉はたどたどしいけど、俺の事を好いてくれていることが伝わる。
    ただ、なんて言い返せばいいか分からない。
    俺は、俺自身に問いかける。
    初めて凪誠士郎という存在を目にした時抱いた感覚は?この人だったら、という感覚は...?
    興味?関心?好意?

    「俺は、お前を見た時、ゾワっとした……俺の空白を埋めてくれる気がして……退屈が変わる気がしたんだ。ワクワクしてたんだ。お前がストーカーだって聞いても、不思議と怖くなかった。」
    いつもだったら社会的に懲らしめてやると嫌悪感を抱き、潰していたはず……。
    それをしなかったのは、凪からの気持ちが純粋なものだと気づいていたからだったのかもしれない。この3週間同級生の同性の友達にするような態度ではなかったのも明らか。
    なんて言えばいいか分からなくて思いついた言葉を打算無しで紡いでいく。
    「ねぇ、レオ今日の仕事楽しかった?」

    「お、おう、楽しかった。」
    これはほんとの気持ちだった。
    「じゃあ、良かった。レオもワクワクしたんだよね、俺もだ。レオの隣にいてレオがしたいことが分かって俺のしたい事も分かって通じあっている感じがして……すっごく良かった…。
    ねぇ、レオ、俺と仕事、続けてくれる?」

    凪は俺の手を取って真剣な眼差しで言う。
    元々契約継続をこっちから頼もうとしていた。
    しかも、もう自分の気持ちに蓋はできない。
    こいつとする仕事が楽しいんだ、知らなかった頃にはもう、戻れない。
    俺の直感がこいつの隣にいたいって言ってるんだ。

    「 凪、お前は今日から俺のパートナーだ!」

    俺は俺の直感を信じてる。
    こいつとなら世界を取れる、取りたい。
    こいつの可能性をもっとみたい、俺が引き出したい。俺は強欲だ。全部叶えてみせる。










    「ここまでが昔の話だよ」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「へー!2人ともそんな馴れ初めあったの!?今じゃその見る影もなく……玲王くんがベタ惚れって話題なのに……」
    「失礼だね、俺は今でもレオに一途ですよ〜」
    「凪!♡お前……またそういうこと言って!浮気したら許さねぇーからな!!相手を潰す!」

    そう、今までの話は昔の話。
    結局凪契約継続の条件は俺に楽しいと言わせることだったらしい。

    あれから沢山話をして、仕事もして、喧嘩もして…………早い段階から凪には「俺はレオの特別な人になりたい」と言われ、そこから紆余曲折あり……というか、あの顔で猛アタックされ……俺は凪を恋愛的意味で好きになってしまった。
    自覚しても2年ぐらいは相棒として一緒にいて、世間でも仲良いと認知されたぐらいで俺から

    「凪、俺、お前のパートナーになりたい」
    って言ったんだ。
    最初凪はハテナを沢山浮かべてたけど凪のために分かりやすく

    「好きだ。凪、待っててくれてありがとう」
    って伝えたら凪は俺に好きって言ってくれた日より顔を真っ赤にして、若干泣いてた。

    「レオが思わせぶりな態度するのが悪い、俺偉いよね、大人しくずっと待ってたもん。」

    凪が首に手を当てて言う。
    恥ずかしい時にやる彼の癖だ。
    「だって凪も仕事が軌道に乗ってきたところだったし、俺でいいのかって思ったりもしたし……第一に男同士だし……」
    「そーだよねー、レオは色々考えて怖くなっちゃったんだよね〜、大丈夫、俺たちならなんでも乗り越えられる」
    後ろから抱きしめられて後頭部にキスの雨が降る。


    「ちょっ、凪!!人前!!」

    凪はこの調子で毎日俺への好きを振りまいてる。というか、俺も漏れているらしい……。
    世間へも完全にバレてる。
    凪が外堀を埋めた事件があったからだ。
    うぅ、この事件はまた今度。

    「いやぁ、俺がレオくんと遊ぼうとした時の凪くんの顔やばいもんね、愛だねぇ」
    恥ずかしい事この上ないが、今は名実共にパートナーであり、俺たち2人は世界的なモデルになった。仕事も好きになれた。凪のおかげだ。

    俺が凪を好きなんだからそれでいい。
    凪も俺が好きなんだからそれでいい。


    「凪、俺と出逢ってくれてありがとな!」

    「っ……俺も……」

    この赤くなる顔が日々見続けられるならこれでいい。そんなふわふわした事を思ってしまって
    いる時点でもうダメだ。

    これからもずっとお互いが好きなんだからそれでいい。















    『出逢ったあの時から彼に堕ちていたんだから。』

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