風の如き憧れのヒト 神々が住まう平和で豊かな複合世界「BD121(Battle Dragon 121)」。
暇と力を持て余していた神々は、地上で活動する為に手袋を模したフィギュア制作・操作ツールを兼ねた分身である神の化身「カーソルハンド」を生み出し、高性能なフィギュア開発に夢中になっていた。
彼らのフィギュア開発は、当初馬力や運動性能などの数値レベルでの競い合いを楽しむ高度な人形遊びに過ぎなかった。
しかし、それだけでは飽き足らない彼らのお遊びは、いつしかエスカレートの一途をたどり始めた。
それは彼らのリーダーである創造の欲望そのものたる神の化身マスターハンドが考案した「異世界のヒーローたちを模したフィギュアを開発する」という発想から始まった。
その発想に乗った彼らは自身が思い浮かぶヒーロー像をイメージし、その好みに合致する"俺だけのヒーロー"を見つけるべくイメージ座標設定型テレポート装置「テレポンタルンγ」を開発。
彼らは自身の好みに合致するニンテンドーワールドに存在するヒーローたちの世界に赴き調査し、ヒーローたちの姿や能力を模したフィギュアを開発するようになった。
その結果彼らのお遊びは武器や魔力などを搭載し相手を場外に吹っ飛ばすくにおくんさながらのバトルロイヤルアクションゲームにまで至り、遂には数年ごとにBD121主催のアクションフィギュアバトルグランプリ「大乱闘祭」までもが行われる様になった。
そんな彼らを、人々はいつの日か「スマッシュブラザーズ」と呼ぶようになった。
神の力に物を言わせて開発した彼らのフィギュアは各宇宙の最新鋭ロボット兵器や戦士たちを遙かに凌ぐ戦闘力に達していたのだ。
しかし、そんな中"俺だけのヒーロー"を見つけられずに周囲と馴染めなかったひとりの女神がいた。
彼女はニンテンドーワールドにいるヒーローたちに魅力を見いだせず、"俺だけのヒーロー"とする者を見つけられずにいたのだ。
そんな状況を憂いたマスターハンドは、ひとりの神が従来とは異なるヒーロー像をイメージする事によって生じた「ニンテンドーワールドとは異なるゲーム世界に行けた」という偶然がまた起こる事に賭けて彼女にヒーロー探しを頼む事にした。
これは、複合世界BD121で第三次大乱闘祭(スマブラX)が行われる前の出来事である……。
私の名前はカーソルハンドSTH(Sonic The Hedgehog)。名前が示す通りソニックの操作を担当するセガのゲームとチリドッグが大好きなちょっとすごい神の化身だよ。
これから私が今の推しに出逢ったきっかけについて話していくね。
私は第一次大乱闘祭が始まる前から、周りとはあまり馴染めなかった。
周りはマリオだのリンクだのサムスだの、訳の分からなかったヒーローの事で大盛り上がり。特にマリオについては何故あんなのがみんなのスーパースターとして崇められているのかが本当に分からなかった。
私のヒーロー観は一言で言えば、"他には無い圧倒的な力と親しみやすさが両立した常軌を逸したイケメン"。
マリオはジャンプが取り柄だと言われているが、実際ジャンプなんて他のヒーローでも出来る。リンクはイケメンだけど色々複雑過ぎてイマイチ親しみが持てない。サムスだって圧倒的に強いイケメンだけど、いかんせん謎が多過ぎて親しみが持てない。
彼らがこれまでニンテンドーワールドで出逢ったヒーローたちは皆"プレイヤーと呼ばれる人間の分身となる"事を前提に創られたものばかりだ。故に一緒に冒険するという実感が湧かない。
そんな訳で将来的に自分のパートナーとなる"俺だけのヒーロー"を見つけられなかった私は、第二次大乱闘祭の時までずっと孤独に過ごしていた。
転機が訪れたのは、第三次大乱闘祭が始まる前のある日の事だった。
私たちのリーダーである白くて大きな喋る右手袋という謎存在、マスターハンドが私を自宅に招いてきたのだ。
「よう来たな。長旅疲れたやろ?」
「いいや別に? それより頼みたい事って何なの?」
「よく聞き、実はお前に第三次大乱闘祭の新たなファイターフィギュアの元となる"俺だけのヒーロー"を探してきて欲しいのよ」
マスターハンドが私を招いた理由は、第三次大乱闘祭で参戦するフィギュアの元となる"俺だけのヒーロー"を探してきて欲しいというものだった。
「どうして私が……? 言っておくけど私、いつも飛ばされてるニンテンドーワールドでは"俺だけのヒーロー"というものが見つからないかもしれないからね?」
私の疑問に、マスターハンドが微笑みながら答える。
「ニンテンドーワールドでは見つからないかもしれない……か。成程、お前ならもっとおもろいヒーローを見つけてきそうやな」
「どういう事なの?」
私の疑問が更に深まる中、マスターハンドはヒーローたちを探すテレポート装置である"テレポンタルンγ"の方に目を向ける。
テレポンタルンγは私たちが"俺だけのヒーロー"を見つけるための旅をする為のテレポート装置だ。冒険に出る者が好みのヒーローのイメージを念じ、まるで某ランプの魔人のように特徴と合致するヒーローを特定した後にそのヒーローがいる世界に転送してしまうのだ。
「まだ見ぬヒーローを探そうと念じた結果コナミワールドに飛び出して、ソリッド・スネークというヒーローを見つけて"カーソルハンドSS(Solid Snake)"となったアイツの事は覚えとるか?」
「うん。覚えてるけど……?」
「お前にもその可能性があるって事や」
「私にも……?」
そう、過去に一度だけあったのだ。捻くれたイメージを念じた結果、これまでに行ったことの無い世界に飛び出して今までにないヒーローと出逢ったという例が。
今でこそシモン・ベルモンドやリヒター・ベルモンドというコナミワールドの住民であるヒーローたちを探し当てた者のお陰でコナミワールドはBD121が認識している世界と見なされてはいるものの、当時はまだコナミワールドはニンテンドーワールドとは異なり完全な未開拓領域であり、ソリッド・スネークのようなコナミヒーローの存在は大変貴重だったのだ。
「とりあえず、ものは試しや。一旦そこに立ってみな」
「うん、わかった……」
私はマスターハンドに言われるがまま、テレポンタルンγの前に立つ。
そして私の持つヒーロー観をかの装置が読み込む。
「お前のヒーロー観は"他には無い圧倒的な力と親しみやすさが両立した常軌を逸したイケメン"か。ほほう、コイツに合致するヒーローがこれまた別の世界にいるそうやで!」
「えっ、マジで!?」
これは朗報だ!どうやら私の好みに合致するヒーローがいるとの事だった。
「場所はセガワールドにあるサウスアイランドのグリーンヒルという所らしいで。セガワールドは未だに足を踏み入れた者が一人もおらんからお前が初めてやな!」
「セガワールド……サウスアイランド……グリーンヒル………聞いたこと無い………」
セガワールドも当時は完全なるフロンティアだった。コナミワールドとも異なる場所だ。昔からニンテンドーワールドの住民たちと喧嘩するほど仲が良かったなんて聞くが、そんな事など当時の私にとっては何の興味も無かった。
「そこのヒーローは近隣住民によるとものごっつ速くてカッコいいヒーローらしいで。きっとお前も気にいると思うで!」
「まぁ、とりあえずその目で確かめてみるよ」
私はテレポンタルンγのカプセルの中に入り、マスターハンドがレバーを引くと私は瞬時にまだ見ぬ異世界へとワープした。
私が目を覚ますとそこには緑豊かな景色が広がっていた。
青い球体の付いた中間地点やらチェック柄の土やら色んな大きさの浮遊島に、ジェットコースターのような360°ループの地形と私たちがよく知っているキノコ王国とは似て非なる原色に近いカラーリングで彩っている光景だった。
後から調べ物をしてわかった事がいくつかある。
まず、この世界はセガワールドの神様が人間界でいうところの西暦1991年に創り出した伝承「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の世界であること。
そして、この世界はニンテンドーワールドのマリオ打倒を目指すべくセガワールドの神様が創り上げたヒーローが活躍する舞台であることだ。
「此処がセガワールド……なんか色鮮やかだね」
私がかの世界を歩いてしばらくすると、グリーンヒルのまるでジェットコースターのようなコースを超音速で駆け回る青い何かがいた。
「はっ、速い……! スーパーソニック……!」
私は思わずスーパーソニックなんて言ってしまった。それくらい速かったのだ。
ただ、あの青いのは半分どころか三分の一の本気を出して走っていないらしく、ハイパーソニック、ましてや亜光速の速さも夢では無い……なんて妄想をしていた。
そして私の気配を察知したのか、かのアオハヤテハリネズミが猛スピードでやって来て、両足でブレーキをかけて止まり私に歩み寄って話しかけてきた。
「Hey 見慣れない顔だな。お前もここを走りに来たのか?」
「アンタは……?」
「オレは冒険好きのただのハリネズミ……ソニック・ザ・ヘッジホッグさ」
「そんなに速く走れてただのハリネズミなの!?」
私は思わず驚いてしまったが、どうやらこの世界の動物たちは音速の速さで走れるのが常識らしい。
「折角ここに来たんだ。ついて来な! オレが案内してやるよ!」
彼は私の右手を掴んで「つべこべ考えず前を向くんだ」と言わんばかりな様子で笑いながら走り出した。
そして、彼のような冒険好きのハリネズミにとって走り回るのに最適な環境を持つこの世界で起こった出来事を体験することとなった。
リトルプラネット、ウエストサイドアイランド、エンジェルアイランドなど色々な所を冒険した。
マイルス"テイルス"パウアー、ナックルズ・ザ・エキドゥナ、エミー・ローズをはじめとした個性豊かな友人たちと交流した。
マスターエメラルドを抱えて宇宙に逃亡する悪の天才科学者をハイパーソニックが圧倒したり、またある時にはソニックと瓜二つの究極生命体が激突したりとバトルも沢山観戦した。
そして、ソラリスと呼ばれるなんかすごいのを倒したソニックは、私と共にサウスアイランドに戻りふたりで中野バーガーとチリドッグを食べながら語らっていた。
「これまでの旅を通じてアンタの事を見てきたけど、とてもカッコよかったけど正直ちょっと生意気な感じがするね。正義の為に動いてる訳でも無さそうだし」
「生意気でゴメン。」
ソニックがそう言うと、こう続けたんだ。
「口ばっかの奴、サイテー。正義のためなんて、やなこった。好きだから、やってるだけさ」
そして私の方を向いて微笑みながら言ったんだ。
「だけど、絶対裏切らねーよ」
私は確信した。
彼こそが、私の"俺だけのヒーロー"に相応しいと。
こんなに胸がキュンキュンしたのは初めてだ。幼い頃に人間界にいるハリネズミと呼ばれた空軍パイロットを興味本位で観察した時のような感覚を思い出した。私の胸から失われて久しいオタクの光が溢れ出るようだ。
「ソニック、私はもう帰るよ。今日は最高に楽しかった! また一緒に冒険しよう!」
「ああ、勿論さ!」
私はかの世界に別れを告げる。
別れ際に光の速さでBD121に戻っていく中彼が手を振っていたのは鮮明に覚えている。
「アディオス、ソニック・ザ・ヘッジホッグ………。」
私はBD121に帰還しこれまでの事を、そして"俺だけのヒーロー"をあの世界で出逢ったソニックにするとマスターハンドに報告した。
「ようやった! まさかあんなに魅力的なヒーローがおったとはな!」
「Thank you 私こんなに心がキュンキュンしちゃったの久しぶりだよ!」
「ていうかお前、青いソニックパーカーなんて着ちゃってすっかり夢中みたいやな」
「えへへ♪」
こうして第三次大乱闘祭にソニックの参戦が決定し、それに伴い私が"カーソルハンドSTH"となりスマッシュブラザーズの仲間入りを果たした。
私はその後も亜空の使者襲来でみんなを助けたり、灯火戦争でキーラを相手に大活躍したり、そして複合世界S.U.N.への遠征で卑猥な天使の大群を率いるふたりの卑猥な神サマと戦っているベヨネッタとダークサムスの助太刀をしたりと色々活動の幅を広げていった。
内気な私をここまで変えてくれたのは、紛れもなくソニックのお陰だ。言わせて欲しい。本当にありがとう。
正直言って大多数派なヒーロー像を持っていなかったら彼には出逢って無かったと思う。
……えっ? 普通にしなきゃダメ? みんなと同じようにしたり流行に乗ったりしなきゃダメだって?
YA-DA-YO。そんな事願い下げだよ。
普通なんて大っきらい。でも大切なことはちゃんと知ってる。だから、とにかく。
大丈夫。けっこう自信はあるよ。
See you again next game. Thank you