落とし物、拾ってあげましょ「そういえば秀さんは前に配達員の仕事をしてたよな」
「そうですね。だから届けるってコンセプトの仕事なら経験あります」
タケルと秀はプロデューサーから渡された書類を見ながら他愛のない話をしていた。THE虎牙道とC.FIRSTは次の仕事で郵便局をPRをするので、他のメンバーよりも早めについた二人は書類を先に受け取って目を通していたところだった。
「えっと、ここに土日があるから……この日に郵便ポストに入れれば、この日には届くな」
秀の指がカレンダーをなぞる。タケルが一言「遠いな」と呟いた。
「手紙って思ったよりゆっくり届くんだな」
「そうですね。今はわざわざ手紙を書かなくてもLINKがありますから、LINKと比べちゃうとなおさら」
確かに、とタケルは納得したように呟いたあと、少し悲しそうに、当たり前のことを呟いた。
「LINKも郵便も、宛先を知らないと届かないだろ?」
「え? そうですね」
「声なら、」
秀がなんと返していてもタケルの言葉は変わらなかっただろう。タケルは独り言のように呟いた。
「声なら音速……で、いいんだよな? 相手がどこにいるのかわからなくってもすぐに届けられる。……信じられないくらい大きくなってさ、世界中に届くくらいの大声が出せたらって思ったことがある」
物憂げに、独り言と同じトーンで始まった声も徐々に力強くなり、最後にはある種の清々しささえ纏っていた。秀はそれを好ましく思いながら言葉を返す。
「思ってた……ってことは、今は思ってないんですか?」
「ああ」
タケルは一言、「わかるだろ?」と微笑んだ。
「どこまでだって届くんだ。諦めなければ、絶対に」
「絶対に……」
「歌は郵便と違って、届いても受け取ってもらえるかわからなけどさ」
タケルの言葉は胸をかき乱された経験からきたものだし、秀にもそれは覚えがある。聞こえるまで歌うつもりだった。それが望みだった。でも、望みが叶っても、この声が辿り着いても、聞こえることと受け取ることは違う。
届いた先で何も渡せなかったことがある。それでも自分たちはこうしてメッセージを送り続けることしかできないんだろう。
「だから、えっと……なにが言いたいんだろうな、俺は」
「いえ、なんとなくだけど伝わりました」
「そっか。サンキュ」
タケルは真っ直ぐに秀を見た後、一呼吸ついて視線を書類にやった。意識を完全に割いてないと感じ取った秀は、邪魔にならない程度の声を出す。
「あれですね。地道に頑張りましょう」
「ああ、そうだな」
俺たち、この仕事もうまくできそうですね。秀はいつも通りの自信に満ちた言葉と共に資料をめくる。そうして『届ける』『必ず』という単語を桜色のインクで彩った。