華村翔真のショートショート キリオちゃんには「ちょうちょさん」だなんて呼ばれてるけど、こんなに蝶々に縁があるとは思わなんだ。アタシが蝶になるわけじゃないが、触れたものが蝶々になっちまう。
まぁ服が蝶々になって飛んでかなかったのは救いだけど、血糊が端から蝶々になっちまうから撮影がロクに進みやしない。
ワガハイがちょうちょさんと呼ぶのが原因でにゃんすか? とボーヤが真剣に悩んじまったからそんなことないよと宥めつつ、とりあえず興奮気味のカメラマンに全然関係ない写真を撮られていたらキリオちゃんが意を決したように呼びかけてきた。
「しょーまクン……」
「……あら、案外照れちまうねぇ」
なんだか照れくさくてもどかしいったらありゃしない。それに、この理論でいったら血糊が全部アタシになりやしないかい? 九郎ちゃんも一緒に三人で笑いあっていたらスタッフが謝りに来た。どうやら問題は血糊の方にあったらしく、新しい血糊に変えたら蝶々現象はぴたりと止んだ。ボーヤ、目に見えてホッとしてたよ。
うちのちびっこたちが喜ぶんじゃないかと引き取った不思議な血糊は甘い苺の香りがした。アタシが持ってると蝶になりそうだから九郎ちゃんに預けたら、苺の香りの入浴剤もいいかもしれないって笑ってた。