初恋トークで盛り上がろうぜ タケルが酒を飲めるようになって数ヶ月が経った。タケルと漣と自分の三人で酒が飲める日を待ち侘びていたが、三年は経過してみればあっという間だったように思う。
タケルはいろんな種類の酒が飲めるから居酒屋で飲むのが嫌いではなかったが、漣は明らかに宅飲みを好んでいたから、三人で飲むときは自分の家が多い。家に酒の種類は多くないが、つまみは自分で言うのもなんだがうまいと思う。今日も自分がつまみを作り、タケルと漣が持ってきた酒で宅飲みをした。
二人は愛し合って付き合っているのだから自分抜きで飲んでもいいと思うが、こうして来てくれるのは素直に嬉しい。こうやって飲んで、いろいろなことを話して、二人が同じ家に帰るのを見送る。たまに二人を家に泊める。昔と変わらない──いや、それ以上に深くなった関係は変わらずに心地よかった。
で、話は変わるが今日の自分は酔っていたのだと思う。いや自分はあまり酔わない方でいまだって意識もハッキリしているが、なんというか、ちょっと悪ノリしていたんだと思う。ふと胸に青春の風が吹いたというか、甘酸っぱい何かを求めていたというか……早い話、恋バナを始めたのだ。
いくつかの恋バナに二人は照れながら答えたり、黙秘を貫いたりしていた。そうして逆に自分の恋愛遍歴を聞かれたりなんだして、会話はよくある話題に辿り着く。
「なぁ、漣の初恋って誰なんだ?」
漣、と言ったのは話の流れで、別に限定しようと思ったわけじゃない。きっと漣は照れて教えてくれないだろうから、そうして慌てる漣を見た後にタケルにも同じ質問をするつもりだった。
漣は『誰がラーメン屋に教えるかよ』と言うつもりだったんだろう。いや、『誰も好きになんてなってねぇし』かもしれないし、『黙れ』だったのかもしれない。だが、漣が『だ、」まで口にしたところで唐突にタケルが言った。
「俺」
「え?」
「俺だ。コイツの初恋」
「なっ……バカ言ってんじゃねぇぞチビ!」
いつもは「安アパートなんだから音量は控えめにな」と注意するところなのだが、自分はタケルの自信満々の、いや、当たり前のことを当たり前に告げたと言わんばかりの声色に固まっていて大声を出した漣を咎めるのを忘れてしまう。そんなことをしている間に二人の言い争いはヒートアップしていた。
「なんでオレ様の初恋がチビになんだよ!」
「だってオマエ、人のこと好きになるの始めてだからよくわかんねぇって言ってただろ」
「だからってチビのこと好きだなんて言ってねーし!」
「言わなくてもオマエは俺のこと好きだろ」
言い争いと言ったが、これは一方的に漣が捲し立てているだけかもしれない。タケルはしれっと酒を飲み干し、度数の高い酒をおかわりしている。そうだよな、この酒はおいしいから飲み過ぎちゃうよな。でも度数を見ろタケル。お前さんはきっと思ったより酔ってるぞ。
「大体それ言ったらチビの初恋だってオレ様だろうが!」
「別に俺はそれでもいいけどな。残念だろうが俺の初恋は施設にいた頃によく世話を焼いてくれたお姉さんだ」
「ハァ!? なんでオレ様じゃねーんだよバァーカ!」
「仕方ないだろ……」
タケルの口数が減って来ていて、あー、タケルってもしかして酔いすぎると眠くなるタイプなのかなーだなんて思う。こんなに酔っているタケルは珍しいし、寝落ちなんてしたことがないからわからないが、漣はいつも通り酔っている。
「……タケルが酔ってるのは珍しいなぁ」
自分の呟きは二人には届かなかった。まぁ漣は酔ったら大体のことを忘れるから、このやりとりを引きずることはないだろう。ただタケル、お前さんは覚えてるタイプなんだからそろそろ黙ったほうがいい。自分は聞いていて楽しいが、明日になって「忘れてくれ……」と自分に言うタケルの姿が容易に想像できる。
まぁ、いいか。
自分も酒を継ぎ足すが、コップを満たす前に最後の一滴がぽたりと垂れる。
もう少し酒を持ってこようか? と聞く前に、タケルが漣の声を無視して寝落ちした。