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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    カイレ(タケ漣)です。レッカの安心毛布の話。嘔吐あり。(2024/8/16)

    ##タケ漣
    ##カイレ

    鉄屑まみれのシャングリラ 部屋は鉄屑とオイルの匂いに満ちていた。
     その部屋の主はきらきらとした銀の髪を闇に沈めて深々と眠っていた。猫のように、あるいは胎児のように体を丸め、はちみつ色の双眸を目蓋の下に隠している。その周囲には鉄屑や解体されたガジェット、そして工具が散乱している。子供が玩具箱をひっくり返して、その全てを自分の手の届く範囲に散らかしてそのまま眠ってしまったようだった。
     部屋の主人はレッカという、アンドロイドに育てられた人間だった。彼の世界には埃とオイルと鉄屑が満ちていた。もっとも人生の大半はこの組織に所属してからのものだから単純な時間にしたらその割合は多くないが、幼少期の記憶というのは在り方を左右するほど大きく離れ難い。だから彼にとって、安眠を呼び込むのはいつだって冷たく鋭利な金属とべたべたとした油の匂いだった。
     彼にとって鉄屑の匂いは安心毛布のようなもので、酷く子供らしく情けない行為だった。だが、彼はこれが己の精神安定に一番いいと知っている。自分の不調を引き摺ることは役職のある彼に取って自分自身の問題だけではなく組織の問題にもなる。だからこうやって、誰にも邪魔をされないテリトリーを鉄屑で埋めていた。
     自分を慰めるためのスクラップを手に入れるために組織の廃棄物が集まるところに赴く時に彼はいっとう惨めになるが、酒にも煙草にも安寧が見つからないのだから仕方がない。あとは恋かと考えたことがあったが、そんなに面倒なことをするくらいならゴミ漁りのほうがマシだった。
     そもそもこんな状態になること自体が稀なのだ。レッカは強かな人間であったから滅多なことがない限りここまで弱ることはない。ただ、弱点がある。彼は拳銃を扱った時には決まって体と心に異常をきたしていた。
     今日の不調の原因もそれだった。不可抗力でトラウマである銃を扱ってしまったから、彼は非常に弱っている。よほどのことがないと銃には関わろうとしないレッカだが、今回ばかりは手に取らねばバディであるカイという青年が死んでいた。いや、死んでいたというのは言い過ぎかもしれないが、確実に大怪我はしていただろう。だから銃を手に取り、撃った。
     彼は戦闘が終わるまでは振る舞いを変えることはなかったが、帰還して身の危険がないと確信した瞬間にうずくまり胃のなかのものを吐き出した。空っぽの胃から胃酸をあらかた吐き出したあとはまっすぐにゴミ捨て場に向かい、生理的な涙で揺れる瞳で鉄屑を漁り、部屋に篭った。そうして擦り減らした心を慰めるように、オイルのベタベタとした感触を撫でながら手慰みのように壊れた機械を分解して、そのあと泥のように眠る。
     こうなったレッカは人の声と、人の匂いと、人の熱を過剰なまでに嫌う。金属の擦れる音と、オイルと鉄の匂いと、ひんやりとした温度しか彼には受け入れることができない。だから人を受け入れず、こうしてたったひとりで眠りに閉じこもる。
     レッカは皮肉めいた言動の多い人間だが、平時はコミニュケーションに難のある人間ではない。だがこうなると声をかけることが憚られる、を通り越して手がつけられなくなる。この男が張り詰めた空気を纏い出したら、普段の調子を取り戻すまで関わろうとする人間は少ない。
     その数少ない人間のひとりがカイという青年だった。
     カイがレッカの部屋に入っていく。鉄屑とオイルの匂いに満ちた部屋に入っていく。電気のスイッチも間取りも勝手知ったるという様子のカイだが、それは通い詰めた経験からではなく、たんに自分とレッカの部屋の間取りが同じだからだ。
     カイは無遠慮に電気をつけた。自分の部屋と同じくらい広く、物の少ない自分の部屋の何倍も物があるレッカの部屋が蛍光灯のそっけない明かりに暴かれた。
     カイは散らかった床の鉄屑を避け、時には蹴飛ばしながらレッカの元に辿り着く。大した距離じゃないのに、ずいぶん遠くに来たような気がする。その一分にも満たない旅路の果てにレッカは眠っていた。
    「レッカ」
     声をかけても反応はない。そっと手を伸ばして髪を撫でても、普段は嫌そうに文句を言う口は閉じたままだ。頬に触れれば鉄ではなく皮膚の感触と血の通う熱を帯びている。
     しばらく頭を撫でていたらレッカが目を覚ました。金属のように鋭利で冷たい視線でカイを射抜き、その手をはたき落とした。
    「出てけ」
     レッカはこういうとき、普段では考えられないほど低い声を出す。ただカイは動じずに「そうか」と言ってレッカのベッドに腰掛けた。
     あとはお互いに無言だ。そのうちにカイは眠ってしまう。着替えもせずに他人のベッドで我が物顔で眠ってしまう。レッカはその呼吸を聞いている。

     カイが目覚めると、カイの腹に耳を当てるようにしてレッカがくっついて眠っていた。
     別に毎回こうなるわけじゃない。ただカイはこうやってレッカが人肌に触れて眠ることを良いことだと思っている。ずっと思っているし、これからも思い続ける。
     憐憫、なのだろうか。カイはそういう感情をレッカに抱くことを悪いとは思っていない。双方が気づいているのだ。カイとレッカはお互いの過去を憐れみ合っている。
     レッカは一晩眠れば回復していつも通りに皮肉めいた笑みを浮かべる。そのために必ずしもカイが必要なわけではない。それでもカイはこの部屋に来て、レッカのベッドで眠る。そうしてレッカより早く目覚め、その寝顔を見つめている。
    「おはよう」
     目覚めたレッカはその声を聞いて舌打ちをした。もうカイはレッカに触れたりはしない。ただ、少しだけ名残惜しそうにきらきらと光る銀の髪を見ていた。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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